交通事故によって退職・解雇になってしまった場合は休業損害を請求できる
- 監修記事
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佐藤 學(元裁判官、元公証人、元法科大学院教授)
交通事故で退職したり解雇されたりした場合、退職までの分だけではなく退職後の休業損害を請求できるケースもあります。雇用保険を受け取れる可能性もありますし、休業損害が認められないケースでも、退職や解雇の事情が慰謝料の増額事由として斟酌されています。交通事故で適正な賠償金を受け取るためには弁護士に依頼する必要性が高いので、一人で悩んでおられるなら、お早めに弁護士に相談してみてください。
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交通事故が原因で解雇されるのか?
交通事故に遭って身体が不自由になると、それまでと同じようには働けなくなる人が多くいます。会社勤めをしている人などの場合、怪我を理由として解雇されたりしないか、心配になるケースがあるでしょう。
交通事故の怪我が原因ですぐには解雇できない
まず、法律上、交通事故の怪我が原因ですぐに解雇することはできません。労働基準法、労働契約法は労働者の権利を守るための法律ですが、これらの法律によって会社が労働者を解雇できる場合は極めて限定されているからです。労働者が怪我をして、これまでとは同じ仕事ができなくなったとしても、会社としては別の仕事を用意して、できるかどうかを試してみたり、適切な異動・配置転換を行ったりして、なるべく雇用を継続する努力をしなければなりません。
このような工夫をせずにいきなり解雇をすると、解雇の合理性や解雇方法の相当性がないとして、解雇が無効になってしまいます。雇用継続のためのどのような努力をしても、継続できる余地が全くない場合にのみ、解雇を検討することができます。
業務に起因する事故の解雇制限について
また、交通事故で入院期間が長すぎるからと言って解雇できるとは限りません。事故が業務中に発生したものである場合には、治療中や治療後30日間における解雇が認められないからです。その後解雇するとしても、いきなり解雇するのではなく、軽めの仕事を与えるなどして雇用を継続する努力をしてからでないと解雇できません。
事故を原因として解雇できるケース
怪我を理由として解雇できるのは、怪我の治療見通しが立たず、復職の見込みがないケースに限られます。交通事故後に会社からプレッシャーを与えられても焦る必要はないので、困ったら弁護士に相談しましょう。
退職勧奨に注意
交通事故で怪我が長引いたとき、会社からの「退職勧奨」に注意が必要です。退職勧奨とは、会社が従業員に対して自主退職を促すことです。法律上は解雇制限があって自由に解雇できないので、労働者の方が自発的に退職する意思を形成するように働きかけるのです。労働者が自分の都合で辞めたのであれば、労働基準法違反になることもありません。
労働者が交通事故に遭って使い勝手が悪くなり、会社が労働者を辞めさせたいと考えると、企業側から辞めるように迫ってくるケースが多々あります。労働者としては、会社に迫られると「辞めざるを得ないのか」と考えて応じてしまうことも多いのですが、本当は退職勧奨に応じる「義務」はありません。
労働者が退職しなければ、会社は労働契約法における解雇の合理性と解雇の相当性の要件を満たさないと解雇できません。労働者としては、会社から「辞めてはどうか?」「今のうちにやめた方が得ではないか?」などと言われても、応じないことです。退職勧奨が、社会通念上相当と認められる限度を超えて、強制にわたる場合には違法行為となり、たとえ退職合意書にサインしてしまったとしても、無効にできるケースもあります。もしも交通事故後、不当な退職勧奨の働きかけを受けて困っていたり、退職届を提出してしまったりしても、あきらめずに弁護士に相談すると良いでしょう。
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退職後の休業損害を請求できる?
退職せざるを得ないケースもある
そうは言っても、どうしても会社での仕事を続けられないケースもあります。例えば、腕や脚が麻痺してしまったり、高次脳機能障害になったり植物状態になったりして、全面的な介護が必要な状態になったりすると、退職を避けることは難しいでしょう。仕事を続けられなくなるのは、自営業の場合でも同じです。自営業の場合には、会社員のように給料が補償されるわけでもないので、怪我をして入院のため働けない期間が長期化すると、廃業を余儀なくされることも多いのです。
休業損害とは
仕事をしている人が交通事故によって休業した場合には、休業損害を請求することができます。休業損害とは、被害者が交通事故による受傷により、治療又は療養のために休業あるいは不十分な就業を余儀なくされたことにより、得べかりし収入を得ることができなかったことによる損害です。例えば、会社員の場合、入通院しているときには会社に行けないので、損害が発生すると考えられます。有給休暇をとると減給はありませんが、その場合でも休業期間に含まれて休業損害を請求できます。
自営業の場合には、仕事を休むとその日の収入がなくなるので、日数分の休業損害を請求できます。
退職後の休業損害について
休業損害は、通常、仕事を辞める前に発生する損害です。仕事を続けているからこそ、仕事を休むことによって損害が発生するからです。仕事を辞めてしまったら、その後は収入がゼロになります。そうすると、入通院による治療を受け、辞めて働けなければ、「そもそも収入を得られない」状態なので、損害が発生しないとも思えます。
しかし、実際には退職後にも休業損害が認められるケースがあります。そもそも、交通事故に遭わなければ退職する必要がなかったのですから、退職によって収入がゼロになったことは交通事故に基づく損害と言えるからです。このことは、解雇によって収入が失われたときも同じです。交通事故がなかったら解雇されなかったのですから、解雇によって失われた収入は交通事故と因果関係のある損害と考えられます。
ただし、退職や解雇による収入の喪失が休業損害として認められるかについては、本当に「交通事故と退職・解雇に因果関係があると言えるのか」という観点から厳しく判断されます。交通事故が起こったとしても必ずしも解雇・退職するとは限りませんし、中には交通事故以外の理由で解雇されたり退職したりする人もいるからです。
退職後の休業損害を請求できるかできないかの判断基準
それでは、退職や解雇後の休業損害を請求できるかできないかは、どのような基準で判断されることになるのでしょうか?
怪我の程度
まずは、怪我の程度が問題となります。怪我の程度が重大で、仕事を続けられる見込みのないようなものであれば、交通事故によって失職を余儀なくされたと考えられるので、退職後の休業損害が認められやすいと言えます。例えば、歩けなくなったり、目が見えなくなったりすると、仕事を続けられなくなることも多いでしょう。反対に、むち打ち症になって背中や肩の痛みがあるからというだけで仕事を辞めてしまったら、退職後の休業損害は認められにくいでしょう。
業務の内容
次に、業務内容も問題となります。例えば、建築関係などの肉体労働をしている場合、腕や足が不自由になったら仕事に直結するので仕事を辞めざるを得なくなるのも当然です。そのようなときには退職後の休業損害も認められやすいでしょう。
これに対し、たとえ腕や脚の一部を動かせなくなっても、室内の事務職であれば続けられるケースが多くあります。その場合には、退職後の休業損害は認められにくいと言えます。
解雇されたかどうか
次に、会社によって解雇されたのか自主的に辞めてしまったのかによっても休業損害が認められるかどうかが異なります。交通事故後の怪我が原因で解雇された場合には、労働者に非がないので仕事が失われたこともやむを得ないと考えられます。これに対し、自分から辞めてしまった場合には、交通事故によって仕事を失ったとは言いにくいので、休業損害が認められにくい方向に働きます。
そこで、休業損害を受け取りたければ、交通事故後、なるべく自分から退職すべきではありません。
自己都合退職か会社都合退職か
退職するとしても、会社都合退職か自己都合退職かという問題があります。会社都合退職の場合には、労働者に非がないので、退職を余儀なくされたと言いやすく、休業損害が認められやすいでしょう。これに対し、自己都合退職してしまうと、辞めなくても良いのに労働者が自ら望んで辞めたと思われてしまい、休業損害が認められにくくなります。
また、自己都合退職にすると、後に紹介する「失業保険」も受け取りにくくなってしまうので要注意です。交通事故後、体調が悪くなって仕事を辞めようと思ったとしても、自己都合退職ではなく会社都合退職にしてもらいましょう。
退職の理由
退職理由も重要です。例えば、身体が不自由になり通勤も困難になったことから、やむなく退職したという場合であれば、休業損害が認められやすいと言えます。これに対し、交通事故がきっかけであったとしても、上司や同僚とのそりが合わなくなったからやめたということでは、休業損害は認められないでしょう。
再就職の可能性
再就職の可能性も、休業損害算定の際に考慮されます。怪我の程度が痛ましく、再就職が難しい状況であれば、比較的休業損害が認められる可能性が高くなります。怪我が治るまでの収入の喪失は、交通事故によって発生したと考えられるからです。
また、年齢や職種、職務経験などの事情により、怪我が治ったとしても、すぐに就職できるわけではないケースでも、休業損害が認められやすいと言えます。
これに対し、怪我が治ったらすぐに再就職できる場合には、休業損害が認められにくく、休業損害が認められるとしても、現実に就職先を得られるときまでの期間か転職先を得るための相当期間のいずれか短期の期間になります。再就職可能であるにもかかわらず、本人の都合で再就職していない場合や就職活動を行っていない場合などにも、休業損害は認められません。
以上のように、ひと言で「退職後の休業損害」と言っても、認められるケースとそうでないケースがあります。状況によって判断が異なるので、自分ではよくわからない場合、弁護士に相談に行くと良いでしょう。
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退職後、休業損害を払ってもらえる期間
交通事故後、退職した場合、休業損害はいつまで支払ってもらえるのでしょうか?
通常の場合の休業損害は、「完治または症状固定するまで」の分が認められます。完治は怪我が完全に治って元の状態に戻ることです。完治してしまったら、またどこででも働くことができるのですから、休業する必要がなくなり、休業損害は支払われません。
症状固定とは、交通事故による怪我の状態が落ち着き、治療を継続してもそれ以上の症状の改善が望めない状態をいいます。症状固定後は、治療をしても効果が上がらないので、治療を受ける必要がありません。そこで、治療を受けることによって発生する休業損害も、症状固定までの分しか認められないのです。
ただし、退職後の休業損害については、必ずしも症状固定までのすべての期間分が認められるとは限りません。退職後の休業損害は、事故後働けないことが前提となっていますが、完治するまでの間であっても働こうと思えば働けるケースがあるからです。実際に休業損害が認められる期間としては「退職後、転職できるまでの相当期間」に限定されて、退職後数か月分のみの休業損害が認められる場合などがあります。
退職後の休業損害の金額
退職後に休業損害を請求する場合、金額的にはどのくらいになるのでしょうか?
会社員の休業損害
一般的に休業損害は、交通事故前の基礎収入を基準として計算します。会社員の場合には、事故前3か月分の平均収入を日数で割り算して求めます。例えば、交通事故前の3か月の月収が、それぞれ40万円、42万円、41万円だったとしましょう。日数は91日とします。そうすると、1日当たりの基礎収入は13,516円です。
これを、退職後症状固定までの日数分で計算すると、休業損害の金額を算出できます。例えば、退職してから医師が症状固定したと判断するまで100日かかったら、1,351,600円の休業損害を請求できることになります。
自営業者の休業損害
自営業の場合には、事故の前年度の確定申告書の所得を基礎に休業損害を計算します。このとき、所得の金額に固定経費(地代家賃、リース料、損害保険料、従業員給与、減価償却費、租税公課、利子割引料等)や専従者控除、青色申告控除などは足して計算することができます。例えば、前年度の所得が500万円で、1年の日数が365日の年であれば、1日当たりの基礎収入が13,699円となります。症状固定するまでの日数が100日なら、1,369,900円の休業損害を請求できます。
満額認められないケースも多い
ただ、退職後の休業損害の場合、基礎収入が満額認められるとは限らないので、注意が必要です。退職後も事故前と同等の仕事をして同水準の収入を得られたという蓋然性が認められないこともあるからです。そこで、事故前の基礎収入を8割や7割など、割合的に減額されたり平均賃金を用いたりして、休業損害を算定するケースもあります。
雇用保険について
交通事故後、解雇されたり退職したりすると「雇用保険」を受け取れるケースがあります。雇用保険とは、会社やその他の事業所で勤務している労働者が入っている保険で、失業した場合に一定の給付金を受け取れるものです。ハローワークで手続きをして、受け取ります。
雇用保険を利用できるケース
雇用保険は、1年以上雇用期間がある人が申請できます。ただし会社都合退職(解雇も含みます)の場合には、半年以上雇用期間があれば申請可能です。また、雇用保険を受け取るには「再就職の能力と意欲」が必要です。再就職の可能性が全くないのであれば、雇用保険を受け取ることができません。
雇用保険で受け取れる金額と期間
雇用保険で受け取れる金額は、失業前の賃金の額や勤続年数によって異なります。会社都合退職の場合には最長330日間分を受け取れますが、自己都合退職の場合には最長150日となります。また、会社都合退職の場合には、ハローワークへの申請を経て、最低7日間の待機期間のみで失業給付金を受け取れます。しかし、自己都合退職の場合には、失業給付金の支給を受けるまで3か月の「給付制限」があり、ハローワークへの申請を経て、最低でも待機期間として7日間は待つ必要があり、どんなに早くても、「3か月と7日後」からの支給となります。
以上のように、雇用保険を適用するときには自己都合退職よりも会社都合退職が圧倒的に有利になるので、退職するときには「会社都合退職」若しくは「解雇」とすることが重要です。
また、失業保険は交通事故の損害とは別の福祉的な給付と考えられているので、休業損害とは別に受け取ることができます。
労災保険の休業補償について
交通事故が業務中や通退勤の途中で交通事故に遭った場合には、所轄の労働基準監督署に「第三者行為災害届」を提出すれば、労災保険を利用できますが、労災保険からも休業(補償)給付を受けられます。
ただし、自賠責保険・任意保険の損害賠償金と、労災保険の給付金の間には、同一の事由の関係にある損害の限度で控除(損益相殺)されるという、費目拘束があり、損害賠償の費目(休業損害)に対応する労災保険の休業(補償)給付は、同一の事由の関係にあることになりますから、両方を受け取ることができず、一方を受け取ると一方が減額されます。また、労災保険の休業特別支給金は、労災保険から給付を受けていても、これは損害の填補を目的とするものでもないため、加害者に対する請求では控除(損益相殺)されません(最判平8.2.23民集50・2・249等)。
そして、労災保険では、休業期間中、賃金を受けない4日目から、休業1日につき、平均賃金の60%を支給されます。併せて、休業特別支給金が、休業1日につき、平均賃金の20%を支給されます。
労災保険を使った場合、例えば、被害者に過失がなければ、休業(補償)給付から60%の額、加害者から40%の額、休業特別支給金から20%の額を受け取ることで、休業損害額と比較すると120%の額を獲得することができます。
労災保険の給付を申請したいときには、所轄の労働基準監督署で手続きをしましょう。弁護士は労災申請も代行しているので、申請の方法が分からなければ相談してみることをおすすめします。
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交通事故による退職・解雇と慰謝料
交通事故が原因で退職した(解雇された)ときには、被害者は通常のケース以上に大きな精神的苦痛を受けるものです。そこで、失職しなかったケースと比べて慰謝料が増額される可能性があります。会社から解雇された場合や自営業者が廃業した場合などでも同じです。
交通事故による退職・解雇の場合には、退職・解雇により社会的不利益(もっとも、事故との相当因果関係が争われることも少なくありません)を受けたという事情も、慰謝料の増額事由として斟酌されているので、あきらめる必要はありません。自分ひとりで保険会社に請求しても慰謝料増額に応じてもらえない場合には、弁護士に相談をして示談交渉や訴訟を依頼しましょう。
弁護士に相談して、退職後の休業損害や慰謝料請求をしよう
今回は、交通事故で退職・解雇になった場合の休業損害について解説しました。退職後や解雇後の休業損害も請求できる可能性がありますし、失職した場合には、慰謝料を増額してもらえるケースも多いのです。被害者が自分で示談交渉をするよりも弁護士に依頼する方が、賠償金がアップしやすいので、困ったときには一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
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