妊娠中の交通事故~妊婦が被害者に…流産した場合の損害賠償・補償は?

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妊婦が交通事故に遭うと、流産・中絶の危険がある

妊婦が交通事故に遭うと、事故の衝撃によって流産してしまう可能性があります。また、そのときには流産しなくても、妊婦が治療を受ける際に「中絶」を余儀なくされることがあります。妊婦の状態ではレントゲン撮影や投薬などの治療方法が制限されるためです。

妊婦が交通事故で流産、中絶した場合、生まれてくるはずだった子どもは生まれてこられなくなりますし、妊婦自身も大きな精神的苦痛を受けるので、適切な賠償を受ける必要性が高くなります。

胎児の損害賠償請求権について

交通事故で流産・中絶すると、子どもは生まれてくることができません。いわば胎児の状態で死んでしまうことになります。そのような場合、胎児は加害者に自分が死亡したことについての損害賠償請求をできるのでしょうか?

生まれてこなかった胎児は損害賠償請求できない

法律上、損害賠償請求権が認められるのは「人」です。そして「人」となるのは、胎児の身体の一部が母胎から外に出た瞬間としての「出生時」からと考えられています。

流産や中絶の場合には、胎児は生まれることができなかったので「人」となることができません。そこで、胎児自身が損害賠償請求することは不可能です。

その後無事に生まれてきたケースでは損害賠償請求できる

ただし、交通事故当時に胎児の状態であっても、その後に無事に生まれてきたケースでは、子どもに損害賠償請求権が認められます。民法では、不法行為にもとづく損害賠償請求については、不法行為時に胎児であっても「既に生まれたものとみなす」(民法721条)からです。

母親が妊娠中に交通事故に遭っても、流産も中絶もせずに子どもが無事に生まれたのであれば、子どもが被った損害について子どもが賠償請求することが可能です。

中絶、流産の場合の補償について

それでは妊婦が交通事故に遭って胎児の命が失われた場合、何の補償も受けられないのでしょうか?

母親や父親の慰謝料が認められる

実はこのような場合、被害者である母親の慰謝料を増額することによって賠償金額を調整することが多いです。

流産や中絶をすると、子どもを失った母親は大変な精神的苦痛を受けることは明らかなので、通常の被害者のケースよりも、全体的に慰謝料が高額になります。具体的な慰謝料の金額は、胎児の成長過程や状態、妊娠期間、初産かどうか、家族構成などによって変わります。特に重視されるのが妊娠期間です。妊娠期間が長くなると、胎児が無事に生まれてくる可能性が高まりますし、親としても子どもが生まれてくる期待感が高まるためです。

金額の目安として、妊娠2~3か月で100万円程度、10か月になると600万やそれ以上になります。場合によっては父親の慰謝料が認められる可能性もあり、その場合、母親の2分の1程度となるケースが多いです。

妊婦の慰謝料が高額になるケース

交通事故の慰謝料は個別のケースによって大きく異なりますが、以下のような事情があると、流産や中絶をした妊婦の慰謝料が特に高額になりやすいです。

  • 妊娠期間が長い
  • 初産
  • 長年の不妊治療の末に妊娠した子どもだった
  • 流産、中絶により、二度と妊娠できない身体になった
  • 他に子どもがいない
  • 夫婦や周囲に望まれた子どもであった
  • 加害者の救護義務違反(ひき逃げ)

逸失利益は認められない

一般に「子ども」が交通事故に遭って死亡すると「逸失利益」を請求できます。逸失利益とは、交通事故で死亡したことによって得られなくなった将来の収入です。もしも子どもが交通事故に遭わず死ななかったら、普通に働いて収入を得ることができたはずです。しかし交通事故によって収入を一切得られなくなるので、その減収分を失われた利益として加害者に請求できるのです。逸失利益の金額は、数千万円単位になります。

しかし母親の流産、中絶によって胎児が生まれてくることがなかった場合、胎児自身の損害賠償請求が認められないので、逸失利益の請求はできません。

流産、中絶の場合の補償は子どもが生まれてきた場合に比べて低くなる

このように妊婦が流産や中絶した場合には、母親や父親の慰謝料増額が認められるとしても、実際に子どもが生まれてきたケースと比べるとその補償は非常に小さくなります。

生まれてきた子供が死亡した場合には、子どもの慰謝料として2000万円以上、逸失利益として数千万円以上の損害賠償ができることも多々ありますが、胎児のまま死亡すると、数百万円程度の増額しか認められないからです。

このような取扱いは、子どもを失った親にしてみると理不尽にも感じるものでしょう。しかし、胎児が生まれることなく死亡した場合、法律的には「人」扱いしてもらえないので、ある程度仕方のないものとして受け入れざるを得ません。親としては、せめて自分の慰謝料を増額させることにより、胎児の無念を晴らすしか方法がないのです。

慰謝料の弁護士基準と任意保険基準について

妊婦が流産、中絶して加害者に慰謝料請求をするとき「弁護士基準」と「任意保険基準」の違いについても把握しておく必要があります。

弁護士基準と任意保険基準

弁護士基準とは、弁護士が加害者の保険会社と示談交渉をするときや、裁判所が損害賠償金の算定を行うときに利用する賠償金計算基準です。裁判所でも利用されている法的な基準であり、金額的には任意保険基準より大幅に高額になります。

これに対して任意保険基準は、任意保険会社が被害者本人と示談交渉をするときのために独自に定めている賠償金計算基準です。これは任意保険会社が被害者相手に賠償金を安めに抑えるため、独自に作り出した低額な基準です。

妊婦が自分で示談交渉をすると、慰謝料が低くなる

被害者が任意保険会社と示談交渉をすると、低額な任意保険基準をあてはめられてしまうので、慰謝料が低く抑えられてしまいます。

弁護士基準が適用されると、妊娠3か月で100万円程度、10か月で600万円程度、出産直前なら800万円などの、比較的高い慰謝料増額を認めてもらえます。これに対し、被害者が自分で示談交渉を進めて任意保険基準を適用されると、妊娠3か月以内であれば30万円、4~6か月以内であれば50万円、7か月以上になると80万円などの、低額な金額になってしまいます。また、任意保険基準の場合、通常は父親の慰謝料は支払ってもらうこともできません(裁判基準なら認められる余地があります)。

このように、被害者本人が任意保険会社と直接交渉をすると、慰謝料を大きく減らされて大変な損をしてしまいますし、これではとても亡くなった子どもの無念を晴らすことはできません。交通事故で妊婦が流産、中絶してしまった場合には、弁護士に依頼してなるべく高額な慰謝料を獲得すべきです。

流産、中絶したときの「因果関係」について

交通事故に遭った妊婦が流産、中絶したときに、相手に慰謝料の増額を請求すると、相手から「因果関係」を争われるケースがあります。

流産、中絶によって慰謝料を増額できるのは、交通事故によって流産、中絶を余儀なくされたという因果関係が存在するからです。もしも交通事故とは無関係に流産、中絶したのであれば、慰謝料は増額されません。

事故直後に流産したり、妊婦の命を救うためにやむなく中絶したりした場合などには比較的因果関係の立証が容易です。しかし交通事故から時間が経ってから流産したり、治療に必須とは言えないけれど万全を期するために中絶したりした場合には、「流産や中絶は交通事故とは関係がない」と言われてしまうおそれがあるのです。このように、因果関係を否定されると、慰謝料を増額する理由がないので、母親の慰謝料増額すら認めてもらえなくなります。

交通事故で流産、中絶したときには、どうしてそのようなことが起こったのか、当時の状況を示す資料や医師の診断書、カルテ記録などをもとに明らかにして、交通事故との因果関係を立証する必要があります。

「早産」の場合の慰謝料について

早産で請求できる賠償金

妊婦が交通事故に遭うと「早産」してしまうケースもあります。早産とは、通常の妊娠期間よりも早く、未熟な状態で子供が生まれてしまうことです。交通事故によるショックで早産し、子どもが未熟児として生まれると、子どもは新生児の集中治療室に入れられて保育器内の厳重な管理の下、育てられることになります。あまりに早い早産だと、子どもが母胎の外に出て自力で生きることができず、死産になったり後遺症が残ってしまったりするケースもあります。

交通事故で早産になった場合、子どもが生まれているので「人」として加害者に損害賠償請求することができます。治療関係費や慰謝料などを請求できますし、子どもに後遺症が残って後遺障害認定基準に当てはまっていると、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料も請求できます。

また母親自身も早産によって精神的苦痛を受けるので、その分の慰謝料を請求できます。帝王切開などの特別な処置が必要になって余分な費用が発生した場合には、その費用も損害として賠償請求可能です。

早産との因果関係について

ただし早産の場合にも、交通事故との因果関係が問題になりやすいです。
特に交通事故直後に流産や早産せず、一定期間子どもが母体内で育った後に早産した場合には、交通事故との因果関係立証が相当難しくなります。このような場合、医学的にも交通事故と早産との関係を証明しにくいケースが多いでしょう。

主治医としっかりコミュニケーションをとって、早産の原因として、どのような原因が考えられるのか、交通事故後の経過などもみながら慎重に検討することが大切です。

子どもに障害が残った場合の慰謝料について

妊娠時に交通事故に遭うと、その後子どもが生まれてきたとしても「後遺症」が残ってしまう可能性もあります。この場合も、子どもは生まれてきているので、子ども自身が加害者に賠償請求することが可能です。

子どもに後遺症が残った場合、まずは後遺障害認定を受ける必要があります。認定を受けられたら、認められた等級に応じて後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。

後遺障害慰謝料の金額は、認定された等級によって異なり、低ければ110万円程度、高ければ2800万円程度にもなります。後遺障害逸失利益の金額も認定された等級によって異なり、低ければ数百万円、高ければ数千万円単位になります。

ただし生まれてきた子どもに後遺症があっても、必ずしも後遺障害認定を受けられるとは限らないので、注意が必要です。交通事故の後遺障害認定を受けるためには、事故と後遺症の因果関係を証明する必要があるからです。何らかの障害があったとしても、それが交通事故によるものと言い切れない場合、加害者から補償を受けることは不可能です。

そこで、良い主治医を探し、交通事故に詳しい弁護士に後遺障害認定の手続きを任せて、医師や弁護士と連携を取りながら手続きを進めていく必要があります。

妊婦が交通事故に遭ったときの治療方法について

妊婦が交通事故に遭ったときには、自分の治療方法の選択で重要な決断を迫られることがあります。妊婦の場合、治療方法が制限されるからです。たとえばX線が胎児に奇形などの影響を及ぼす可能性があるのでレントゲンを実施することができませんし、CTも放射線をあてるので、胎児への影響を心配される方がおられます。薬については、かなり限定された範囲のものしか用いることができないので、痛み止めなども自由に使えないケースが多々あります。

どうしても赤ちゃんを優先したいのであれば、妊婦さんは治療の際に痛みや不便を伴うことになってしまう可能性があるのです。

「治療をとるか赤ちゃんをとるか」という決断を迫られるケースも考えられます。一人では抱えきれない場合も多いでしょうから、夫や家族などとよく相談をして、無理をしないように、そしてなるべく後悔をせずにすむような解決を目指して下さい。

このような難しい決断をするときには、交通事故に詳しい弁護士に相談するのも大変参考になるので、困ったら一度法律事務所の門を叩いてみて下さい。

交通事故に遭った妊婦が弁護士に依頼するメリットについて

妊婦が交通事故に遭って流産、中絶した場合や早産したり子どもに障害が残ったりした場合、弁護士に依頼すると以下のようなメリットがあります。

慰謝料が増額される

弁護士に示談交渉を依頼すると、法的な賠償金計算基準である弁護士基準が適用されます。すると、流産・中絶した場合の妊婦の慰謝料が増額されることはもちろんのこと、妊婦に残った後遺障害の慰謝料や子どもに残った障害についての慰謝料も大きく増額されます。

また、交通事故の「過失割合」も適正になるので、加害者から不当に高い過失割合を当てはめられて、本来よりも賠償金が減額される結果も避けられます。

ストレスが軽減される

妊婦は、ただでさえマタニティブルーなどの影響で、ストレスを抱えてしまいがちです。そこに交通事故トラブルが発生して、相手の保険会社との示談交渉をすることになると、負担が大きすぎるでしょう。妊娠と毎日の生活、示談交渉に追い込まれてすべて投げ出したくなってしまっても当然です。

そのようなとき、弁護士に示談交渉を依頼すると、保険会社との交渉を弁護士がすべて行ってくれるので、示談交渉によるストレスから解放されます。妊婦でなくても弁護士に示談交渉を依頼すると気持ちが楽になって明るくなる被害者の方も多いので、交通事故トラブルが重荷になっているならば、一度弁護士に相談してみることをお勧めします。

迷ったときに適切なアドバイスを受けられる

交通事故への対応では、どのようにするのが良いのか迷ってしまうケースが多々あります。そのようなとき、素人が自己判断で動くと、後に思ってもみなかったような不利益を受けてしまう可能性があります。

弁護士に相談すると、法的な観点から適切なアドバイスを受けられるので、そうした不利益を避けられます。治療方針や後遺障害認定のこと、示談交渉を成立させるか訴訟に踏み切るかなど、迷ったときには遠慮なく相談してみましょう。

後遺障害認定を受けやすい

交通事故で適正な金額の賠償金を受けとるには、後遺障害認定を受けるべきケースがあります。認定されないと、後遺障害の慰謝料や逸失利益が支払われないからです。

弁護士に依頼すると、後遺障害認定の手続きを適切に進めてくれるので、高い等級の認定を受けて、高額な賠償金を獲得しやすくなります。

妊婦が交通事故に遭った場合には、早めに弁護士に相談しましょう

妊婦の方は、ただでさえ日常生活を大変な思いで送っておられるものです。そこへ交通事故に遭ってしまったら、かかる負担が大きくなりすぎます。少しでも楽に生活を送り、適正な金額の賠償金を受けとるため、事故に遭ったらなるべく早めに弁護士に相談しましょう。

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