離婚時に財産分与しない方法は?したくない場合に取るべき対処法
離婚する際、夫婦の婚姻期間中に築いた共有財産は財産分与の対象となります。
とはいえ、離婚するときに「なぜ財産を分け与えなければならないんだ?」と不満に思う方は少なくありません。よくあるケースが、夫婦の収入に大きな差がある場合です。収入の多い方が不満を持ちやすいです。また「自分が築き上げた財産なのに、なぜあの人に財産を分け与えなければならないんだ」と不満を抱く方や、さらには「あの人の浮気が原因で離婚するんだから財産は渡したくない」と考える方もいます。
本記事では、離婚の財産分与を拒否することは可能か、財産分与を拒否した場合どうなるか、などを解説します。
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離婚の財産分与を拒否することは可能?
基本的には、離婚する相手から財産分与を請求された場合、拒否することはできません。
民法で以下のとおり定められているからです。
民法第768条(財産分与)
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
参考:e-GOV法令検索 民法
もっとも、夫婦間で合意すれば財産分与を拒否することは可能です。以下、くわしく解説します。
共有財産と特有財産
その前に、財産分与の対象となる財産について押さえておきましょう。
夫婦の財産には、共有財産と特有財産があります。
共有財産
共有財産とは、夫婦が婚姻中に協力して形成した財産のことで、財産分与の対象となります。
たとえば、以下のようなものが共有財産にあたることが多いです。
- 現金、預貯金
- 家具、家電
- 不動産
- 宝石、時計
- 株、有価証券
- 生命保険、学資保険
- 自動車、自転車 …etc
また、プラス資産だけでなく借金(住宅ローンなどの債務)も共有財産として、財産分与の対象になり得ます。
特有財産
特有財産とは【夫婦の一方が婚姻前から有する財産】と【婚姻中自己の名で得た財産】のことをいい(民法第762条第1項)、財産分与の対象になりません。
たとえば、以下のようなものが特有財産にあたります。
- 婚姻前の預貯金
- 婚姻前に購入した自動車、自転車
- 婚姻前に購入した家具、家電
- 婚姻前に購入した不動産
- 婚姻前に購入した宝石、時計
「結婚前に取得した財産はその人に」が基本的な考え方です。
【婚姻中自己の名で得た財産】の例としては、両親からの生前贈与を受けた財産などがあります。
離婚相手に財産分与を請求されたら拒否できない
上述したとおり、財産分与請求権は民法で認められた権利なので、「あの人に財産を渡したくない」と思ったとしても、原則として配偶者からの財産分与請求を拒否することはできません。
残念ながら「あの人の浮気が原因で離婚するんだから財産は渡したくない」という主張も通りません(ただ、別途、慰謝料請求できる可能性はあります)。
もっとも、財産分与請求権には2年という時効のようなものがあります(正しくは「除斥期間」(民法第768条第2項但し書き))。
すなわち、離婚から2年の間に財産分与請求しなければ権利は消滅します。
したがって、離婚から2年経過した後であれば、財産分与を拒否することが可能です。
財産分与の割合は共有財産の2分の1が基本
財産分与の割合は、基本的に2分の1ずつです。
これは「夫婦が協力して財産を築き上げた」との考えが根底にあるからです。一方が主婦(主夫)であるなど、定期的な収入を得ていないような場合であっても、原則として割合は2分の1です。
もっとも、財産分与の割合は、夫婦の話し合いによって変更することも可能です。
きっちり2分の1ずつ分られないケースが多く、夫婦が合意したのであれば、たとえば「家電・家具は妻に、車は夫に」など、金額にとらわれない分与方法も可能です。
離婚協議で合意があれば分与財産の放棄は認められる
夫婦の話し合いによって財産分与の割合を変更することは可能なので、離婚協議の際に「財産分与の請求をしない」という合意を得られれば、財産分与をする必要はありません。
財産分与しないとどうなる?
合意なく財産分与を怠ると差し押さえの可能性
夫婦間で財産分与についての話し合いがまとまらず、財産分与を拒んでいた場合、最悪の場合、財産を差し押さえられるおそれがあります。
以下、財産分与を拒む時期に焦点をあてて解説します。
離婚「前に」財産分与を拒否した場合
この場合は、いつまで経っても離婚することができないでしょう。
夫婦間の協議や離婚調停では、夫婦の合意がなければ離婚を成立させることができなからです。配偶者が財産分与を強く求めている場合、合意に達することはないと考えられます。
調停が不成立となった場合、配偶者が離婚裁判を申し立てる可能性があります。
裁判では、最終的には裁判官の判断で財産分与の割合が決められます。
離婚「後に」財産分与を拒否した場合
離婚から2年以内であれば、元配偶者が財産分与請求調停を起こしてくる可能性があります。
調停で合意に至れば、財産分与をするかしないか、どのように分けるかが決定します。
調停で合意することができず不成立になった場合は、審判という手続きに移行します。
審判になれば、上記の裁判と同じく裁判官が財産分与の割合などを決定します。
判決などを無視した場合
調停や審判、裁判で財産分与が決まったにもかかわらず無視していると、強制執行によって財産を差し押さえられてしまうおそれがあります。
差し押さえされるおそれのある財産としては、給与の一部、預貯金口座、不動産などが挙げられます。
財産分与したくない場合の対処法
財産分与をしたくない場合は、以下の方法を実践しましょう。
- 財産分与をしない旨を含む離婚協議書を作成する
- 財産分与の放棄を離婚の条件にする
- 婚姻前に夫婦財産契約(婚前契約・プレナップ)を結ぶ
- そもそも共有財産が少ない
- 借金が財産を上回る場合、財産分与しないことも
財産分与をしない旨を含む離婚協議書を作成する
これは、粘り強く夫婦間で話し合う方法です。
上述したとおり、夫婦の話し合いによって財産分与の割合を変更することは可能なので、離婚協議書に「財産分与の請求をしない」との文言を入れられれば、財産分与しなくても構いません。
離婚協議書を作成する際には「公正証書」にすることをオススメします。公正証書とは、公証人が作成する文書で、記載された内容について高い証明力があるからです。
財産分与の放棄を離婚の条件にする
この方法も、離婚する際の夫婦間の話し合いです。
配偶者が離婚を強く希望している場合は、「分かった。離婚に応じるので財産分与はナシで構わないか」など条件交渉を行いましょう。
離婚トラブルは、調停や裁判になると長ければ2年ほどかかるので、多少期間がかかってでも粘り強く話し合いすることをオススメします。
交渉には専門的知識も必要なため、弁護士への依頼もご検討ください。
婚姻前に夫婦財産契約(婚前契約・プレナップ)を結ぶ
この方法は、結婚する前の対策です。夫婦の財産について「プレナップ」(婚前契約・夫婦財産契約)を締結しておくのです。
プレナップに「離婚時に財産分与請求はしない」と定めておけば、財産分与をせずに済みます。
ただし、婚姻届を提出する前にプレナップを締結する必要があることにご注意ください。
なお、プレナップには、離婚時の財産分与の方法に関する規定のほかに生活費の分担など、夫婦間のお金に関する取り決めを記載することが多いです。
そもそも共有財産が少ない
これは、財産分与したくともできないケースです。
たとえば、婚姻期間が短い夫婦や持っている財産が少ない夫婦は、財産分与を行わないことが多いです。
財産分与の対象となるのは、共有財産(婚姻中に協力して形成した財産)なので、婚姻期間が短ければ、財産分与を行うべき財産も少なくなります。
借金が財産を上回る場合、財産分与しないことも
また、すべての共有財産よりも借金の方が多い場合も、財産分与できないケースといえます。
財産分与をしたくない場合、財産隠しは有効?
財産分与をしたくないと考えている場合、配偶者にバレていない財産であれば「隠しておきたい…」とお考えの方も少なくありません。
たとえば、夫婦の共有財産を使って下記の財産隠しをする方がいらっしゃいます。
- 預貯金を自分名義の隠し口座に移す
- 黙って自分名義の不動産を購入する
- 自分の貴金属を購入する
しかし、財産隠しには下記のリスクがあることに留意しましょう。
調査嘱託・弁護士照会による開示請求でバレる可能性
財産分与したくないことを理由に、財産分与の対象である共有財産を隠したとしても、配偶者が下記の手段を使って財産のありかを突き止めてくる可能性があります。
調査嘱託(家事事件手続法第258条第1項、第62条)
財産分与請求調停となった場合、配偶者が申立てて、裁判所が金融機関等に対して、財産分与義務者の所有する財産について照会を行う場合があります。
弁護士会照会(弁護士法第23条の2)
弁護士が、弁護士会に対して、金融機関等に財産分与義務者の所有する財産について照会し、報告するよう求めることができます。
どちらの開示請求についても、請求を受けた金融機関等は原則として開示義務を負います。したがって、財産を隠したとしても突き止められる可能性があることに留意しておきましょう。
財産隠しがバレると損害賠償のおそれも
財産を突き止められるだけであれば問題ないと考える方もいらっしゃいますが、財産隠しが民法上の「不法行為」にあたる可能性もあります。
その場合、配偶者から損害賠償請求されるおそれがあります(民法第709条)
以上の理由から、たとえ「財産分与したくない」と考えたととしても、財産隠しを実行に移すことは避けておきましょう。
財産分与の割合を巡る判例
財産分与の割合は原則として2分の1ずつです。裁判になった場合でも2分の1になるケースが多いのですが、2分の1ルールが修正されたケースもあります。以下、3つの裁判例をご紹介します。
夫の特有財産で財産を築いた
この事案では、財産分与の割合を夫64%、妻36%と定められました。2分の1ルールが修正された理由は、夫婦名義のゴルフ会員権の購入代金の大部分が夫の特有財産から支出されたからです(東京高裁平成7年4月27日)
このように、婚姻期間中の取得財産について、夫婦の独身時代からの特有財産と夫婦生活で築いた共有財産が混在している場合があります。
その場合には、特有財産が含まれていることを考慮して財産分与の割合が修正されることがあるのです。
夫婦の他方にスキルがあった
この事案では、夫60%・妻40%と定められました。2分の1ルールが修正された理由は、夫が開業医として医療法人を経営していたからです(大阪高裁平成26年3月13日)
裁判所は、高額な収入の基礎である特殊な才能が結婚前の個人的努力による場合は、そのような事情を航路することが個人の尊厳確保に繋がる旨判断しました。
夫婦の他方が高度な貢献をした
この事案では、財産分与の割合を夫95%・妻5%と定められました。(東京地裁平成15年9月26日)
2分の1ルールが修正された理由は、夫が一部上場企業の代表取締役であり、夫の貢献で約220億円の共有財産があったからです。
財産分与を多く勝ち取るためには?
最後に、財産分与を多く勝ち取るためのアドバイスをお伝えします。
共有財産を正しく把握する
財産分与の対象となるのは、夫婦が婚姻中に協力して形成した財産(共有財産)です。
逆にいうと、特有財産以外は共有財産といえるのです。
【夫婦の一方が婚姻前から有する財産】と【婚姻中自己の名で得た財産】は財産分与の対象になりませんが、それ以外の財産は、たとえあなたが専業主婦(主夫)であっても分与の請求ができます。
離婚をお考えの方は、配偶者が財産隠しをする可能性も念頭において、共有財産を正しく把握することに努めましょう。
特有財産を主張する
財産分与をしたくない方としては「これは私の特有財産だ」と主張立証することで、渡す財産を少なくできる可能性があります。
【姻前から有する財産】または【婚姻中自己の名で得た財産】であることを立証できるようにしておきましょう。
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まとめ
配偶者から財産分与を請求された場合、基本的には拒むことはできませんが、金額を抑えられる可能性があります。共有財産、特有財産が何か?で争われることがあり、さらに夫婦の事情によっては2分の1ルールが修正されることもあるからです。
財産分与の額を抑えたい、財産分与の交渉を有利に進めたい方は、弁護士にご相談ください。
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