法人破産と個人破産の違い。会社が倒産すると代表者も同時に自己破産になる?
法人の経営状況が悪化した場合、破産という選択を検討せざるを得ないことがあります。法人と個人である代表者は別人格ですが、代表者が法人の連帯保証人となっているような場合、法人破産することで、代表者個人の財産や生活に影響が及ぶケースもあります。
今回の記事では、法人破産と個人の自己破産の違いを中心に、法人破産すると代表者も同時に破産になるのかなど、法人の継続や代表者の生活への影響について詳しく解説していきます。
目次[非表示]
法人破産と個人の自己破産の違い
まず法人破産と個人の自己破産の違いについて、
以上4つの観点で比較してみましょう。
法人破産 | 個人破産 | |
---|---|---|
免責許可 | 法人が消滅し債務も事実上消滅する | 非免責債権の支払い義務は残る |
処分対象となる財産 | すべての財産が処分対象になる | 自由財産は残る (99万円以下の現金、生活必需品など) |
税金の取り扱い | 法人が消滅し税金も事実上消滅する | 税金の支払い義務は残る |
破産管財人の有無 | 管財事件として破砕管財人が選出される | 同時廃止の場合、破産管財人は選出されない |
免責許可
破産において重要な要素の一つが「免責許可」です。
法人が破産した場合、法人そのものが消滅するため、残った債務も事実上消滅します。そのため法人破産の場合「免責」が適用されるわけではありません。法人自体が消滅するため、免除する対象がなくなってしまうためです。
一方、個人の自己破産においては、「免責許可」を得ることで、法律的に債務が免除されます。しかし、免責が認められるのはすべての債務ではありません。
例えば税金や損害賠償金、養育費などの「非免責債権」については支払義務が残ります。また免責許可を得るためには裁判所の審査を通過しなければなりません。
処分対象となる財産
法人破産では、法人名義の財産がすべて処分の対象となり、その財産は破産管財人によって債権者に分配されます。法人が所有する不動産、動産、債権、特許権などすべてが処分されることになります。
一方で、個人破産の場合、一定の財産は「自由財産」として保護されます。具体的には99万円以下の現金や生活必需品などが含まれ、これらの財産は処分されることなく個人の手元に残ります。この自由財産は、破産後の生活再建のために必要不可欠なものであり、社会的に保護されるべきであると考えられています。
税金の取り扱い
法人破産において、法人が滞納していた税金は、法人そのものの消滅により事実上消滅します。しかし、税金の支払いを避けるために意図的に法人破産を選択することは、法律や社会的な信義に反する行為とみなされる可能性があります。
一方で、個人の自己破産では、税金は「非免責債権」に該当するため、破産しても支払い義務は免除されません。これは、税金が公共の利益に関連するものであり、その支払い義務が強く求められているためです。
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破産管財人の有無
破産管財人とは破産手続きにおいて財産の管理や処分をする者のことを言いますが、法人破産の場合には、多くの場合「管財事件」として扱われ、破産管財人が選出されます。
個人破産においても同様に管財事件として扱われる場合には破産管財人が選出されますが、「同時廃止事件」として扱われ破産管財人は選出されないケースの方が多くなります。
法人破産すると代表者も同時に破産になる?
法人が破産した場合には、法人の代表者はどのように扱われるのでしょうか。
基本的に法人と個人は別人格ですので、法人が破産したからといって個人も必ず破産するわけではありません。
しかし、法人の破産が個人にも影響するケースがあります。
代表者が法人の連帯保証人かどうかが影響
法人破産が個人に与える影響については、代表者が法人の連帯保証人であるかどうかが大きなポイントとなります。
法人と個人は法律上別の人格であるため、基本的には法人が破産しても個人に直接的な影響はありません。
しかし、代表者が法人の借り入れに対して連帯保証人として署名している場合、法人が破産しても、金融機関はその債務を代表者個人に求めることができます。
そのため連帯保証人としての責任を負っている場合には、法人の破産が個人の自己破産を引き起こす可能性もあります。
法人破産と個人破産、同時と別々どちらが良い?
法人破産と個人破産を同時に行うか、別々に行うかは、個々の状況を見て判断するのが良いでしょう。
同時に破産を申し立てることで、予納金の節約や手続きの簡素化が図れる一方、並行しての対応となることから準備にかかる労力が増す可能性もあります。
一方、法人破産と個人破産を別々に行うことで、手続きを順序立てて進めることができます。法人での対応を決めてから、個人の債務への対応を決めるなど、状況に合わせた対応も可能です。
しかし、事業的に法人資産と個人資産の切り分けが曖昧で、法人破産と個人破産の関連性が高い場合、同時の申し立てが推奨されることも多々あり、裁判所や破産管財人から別々での破産は認められないと拒否されるケースもあります。
同時に破産するメリット
まず、法人破産と個人破産を同時に行うメリットについて詳しく解説していきます。
法人破産と個人破産の手続きを同時に行う場合、通常は同じ裁判所で同じ手続き内で処理されるため、比較的効率良く手続きを進めることができます。以下に、その具体的なメリットを挙げます。
予納金を節約できる
予納金とは、破産手続きに際して裁判所に支払う費用のことです。破産管財人の報酬やその他の手続きに必要な費用は、裁判所が受け取った予納金の中から支払われます。
法人と個人で別々に破産を申し立てる場合、法人の手続きと個人の手続きそれぞれに予納金が発生します。
法人と個人の破産手続きを同時に申し立てを行い、まとめて進めることで、結果として予納金を節約することが可能です。
手続きがまとめて1回で済む
法人と代表者個人は法律上、別個の存在ですが、お金の流れが密接に関連しているケースも多々あります。
通常、法人が破産する際、多くのケースで代表者個人が法人の連帯保証人となっているため、同時に個人破産を申し立てることも一般的です。
法人と個人の破産手続きを同時に進めれば、双方まとめて1回の手続きで進めていけるため、二度手間なく法人・個人の債務問題全体を解決していくことができます。
法人・個人をまたいだ破産手続きの透明性・正確性も向上
また、法人と個人の破産を同時に進めることで、全体の状況を一元的に把握することができます。
法人の資産がどの程度個人資産と関係しているのか一度に確認することができるため、破産手続きの透明性が高まり、手続きの正確性も向上します。
同時に破産するデメリット
一方で、法人破産と個人破産を同時に行う場合、デメリットも存在します。その主なデメリットについても詳しく説明します。
ひとつのスケジュール内で多くの準備が必要
法人破産と個人破産を同時に行う場合、すべての準備を一括で進めていきます。
破産手続きの準備には、多くの書類準備や債権者との協議、財産の整理など対応は多岐に渡ります。迅速な手続きを進める中、これらの準備を法人・個人と併走して同時に行うことは、対応の忙しさからスケジュール管理も難しくなり、心身への負担も重くなります。
特に、法人と個人の財産が密接に絡んでいる場合は、財産の切り分け判断が難しく、状況整理に多くの時間と労力が必要となる場合があります。
別々で破産するメリット
次に、法人破産と個人破産を別々に行う場合のメリットについて解説します。法人破産と個人破産を別々に行うことで、それぞれの手続きを順序立てて進めることが可能になり、状況に応じた柔軟な対応が可能となります。
予納金や手続きを順序付けて進められる
法人破産と個人破産を別々に行う場合、法人と個人それぞれの手続きを順序立てて進めることができます。
例えば、まず法人破産、その後個人破産を進める形であれば、まずは事業の範囲の債務確認・手続きに集中した後、事業以外の支出も含めた個人の財務状況について破産手続きを進めます。
法人は法人の、個人は個人の手続きのタイミングで必要な資金・書類の準備を進めていけば良いので、準備しないといけないタスクを広げすぎることなく、手続き全体のスムーズな進行が期待できます。
また、予納金の支払いについても、法人と個人で分けて収める形となるため、資金繰りの調整はしやすくなります。
代表者が個人破産しても法人そのものは残せる
代表者が個人で自己破産を申請した場合でも、法人そのものを存続させることは可能です。
例えば、法人が健全な事業を行っているが、代表者個人の債務が重くのしかかっている場合、法人破産を避けるためにこの方法が有効です。
法人破産を回避できれば、従業員の雇用を守り、顧客との信頼関係も維持し、従来からの影響少なく事業を継続することができます。
別々で破産するデメリット
一方で、法人破産と個人破産を別々に行う場合にもデメリットがあります。その主な点についても解説します。
代表者が個人破産すると、代表者を続けられない
法人の代表者が個人で破産を申請した場合、法人との委任契約が終了するため、代表取締役としての地位を失うことになります。
代表者が退任することで、法人の経営に影響を及ぼす可能性があります。
ただし、会社法において、自己破産は取締役の欠格事由に含まれていないため、破産後に改めて取締役に再選任されることは可能です。
ともあれ、破産による委任契約終了は民法第653条2項の規定によって決まっています。
法人側への影響を最小限に抑えるためにも、代表者が破産手続きを行う際は、法人の経営状況や将来の見通しを十分に考慮し、個人破産のタイミングを慎重に決める必要があります
別々での破産が認められないケースも多い
法人と個人で資金や債務の動きが密接に入り組んでいる場合、そもそも法人・個人別々での破産が認められないこともあります。
両方の手続きを同時に進める必要があると判断した場合、破産管財人や裁判所が同時の申し立てを推奨・指示するケースがあります。
こうして推奨・指示を受けるケースは大半が債務関係が複雑な状況であるため、破産を申し立てる側も裁判所や破産管財人と緊密な連携、対応が必要となります。
法人破産すると代表者の生活に問題は出る?
法人破産を行うと、代表者の生活にどのような影響が出るのでしょうか。法人破産だけを行う場合と、法人破産・個人破産を同時に行う場合では、代表者に対する影響が異なります。それぞれのケースで考えられる影響について詳しく説明します。
法人破産だけを行った場合
代表者個人の生活には大きな影響なし
まず、法人破産だけを行った場合では、法人と代表者個人は別人格であるため、法人破産が直接的に代表者個人の生活に大きな影響を与えることは少ないです。
法人破産によって直接代表者個人の財産が没収されることはなく、代表者はそのまま通常の生活を続けることができます。
ただし、代表者が法人の抱える債務の連帯保証人になっている場合、代表者は連帯保証人として法人債務を負うことになります。
特に中小法人で代表者が法人債務の連帯保証人になっているケースは多く、万一法人の債務を個人の財産で返済できない場合は、法人破産と合わせて個人破産も進める必要があります。
代表者も個人破産する場合は生活で不便になる部分も
次に、法人破産と同時に代表者が個人破産をする場合について考えてみましょう。
個人破産することで、代表者の生活にはいくつかの不便が生じることがあります。具体的には、以下のような制限や影響が考えられます。
- 信用情報への影響
- クレジットカードの利用制限・新規発行不可
- ローンや借入の制限
これら制限・影響は永続的なものではなく、一定期間を経て回復します。
自己破産の個人の生活への影響については以下の記事も合わせてご参照ください。
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まとめ
今回は法人破産と個人破産の違い、法人破産した場合の代表者個人への影響について解説しました。
法人代表者が債務問題に悩んだ場合、法人破産と個人破産、双方の手続きの違いをよく理解し、債務の状況をふまえ適切な対応を取ることが重要です。
法人破産・自己破産の進め方に悩んだら弁護士に相談を
法人破産と個人破産の手続きを進める際には、それぞれのメリット・デメリットを十分に理解することが大切です。
法人破産だけであれば、個人の生活に大きな影響を与えることは少ないですが、個人破産を同時に行うと、日常生活にさまざまな制約が生じます。
法人破産、個人破産の進め方に不安がある場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。
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