宗教は離婚の理由になる?離婚が認められる条件・ケースと解決のポイント

宗教は離婚の理由になる?

結婚後、「妻が宗教にハマってしまった…」「夫が宗教活動を優先しすぎて家庭が崩壊しそうだ…」として、離婚を考えるケースが少なくありません。「自分や子ども強制的に入信させられるのではないか…」と不安になる方も多いようです。本記事では、

  • 宗教を理由に離婚できるのか
  • 慰謝料は請求できるのか
  • 親権を獲得できるのか

などについて詳しく解説します。

夫や妻の宗教を理由に離婚はできる?

「配偶者が宗教にハマったから離婚したい」と考える方は多いのですが、宗教を理由にすぐさま離婚が認められるわけではありません。
なぜなら、下記のとおり配偶者には「信教の自由」が保障されているからです。

憲法 第20条1項

信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。(以下略)

まずはこれを押さえる必要があります。

上記を前提として、離婚できるケースとしては以下の2つが考えられます。

夫婦で合意できれば離婚は可能

まずは夫婦で話し合いをしてみましょう。調停や裁判などを起こすのは、その後です。調停や裁判を起こすと、弁護士費用がかかり、数年の期間がかかることが通常で、精神的にも疲弊してしまうからです。

まずは、夫婦でじっくりと話し合ってみることをオススメします。夫婦で合意できれば、宗教が理由であれ、離婚できます。

裁判離婚でも離婚が認められる可能性あり

問題は、感情的に対立して夫婦間で話がまとまらなかった場合です。その場合、まずは離婚調停を起こし、それでも話がまとまらなければ裁判に進むことになります(調停前置主義)。

裁判で離婚が認められるケースは、民法で限定されており、以下のとおりです(民法第770条1項)

  1. 1号 配偶者に不貞な行為があったとき
  2. 2号 配偶者から悪意で遺棄されたとき
  3. 3号 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
  4. 4号 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

宗教を理由に離婚したい場合は、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法第770条1項4号)があるのかどうかが審理されることになります。

先ほども述べたとおり、配偶者には「信教の自由」が保障されているので、宗教への傾倒レベルが低い場合は、いまだ婚姻継続が可能と判断されることがあります。

宗教で「婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断されるケース

宗教に関して「婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断される事例としては、以下のようなケースが想定されます。

  • 夫が宗教にのめり込みすぎて、仕事をほぼせず、生活費を入れない
  • 妻が宗教にのめり込みすぎて、家事をほぼしない
  • 相談なく、宗教に多額の資金を投入している
  • 配偶者が反対しているにも関わらず、子どもに宗教を押し付けている
  • 宗教的な理由を述べてて、一般的な夫婦関係が築けない

宗教を理由とした離婚で慰謝料は請求できる?

祈る男性

配偶者が宗教にのめり込んでいるを理由に離婚を考えている方の中には、配偶者に対して慰謝料請求したいと考えている方もおられるでしょう。

宗教や信仰そのものへの慰謝料は認められづらい

結論から申しますと、「配偶者の信仰している宗教が気に食わない」などの理由で慰謝料請求が認められることはありません。
なぜなら、配偶者には「信教の自由」があるからです。

たとえば、以下のケースでは慰謝料は認められないと考えられます。

  • 休日に宗教活動をしていたが、家には帰宅していた
  • 宗教団体へ献金をしていたが、生活費も家に入れていた
  • 入信を勧誘されたことはあったが、一度拒否したらそれ以降はしつこく勧誘してこなかった

この程度であれば「信教の自由」の範囲内での活動といえ、慰謝料請求のために必要な「故意または過失」「損害」がないと判断されるのです。

宗教にともなう慰謝料が認められるケース

もっとも、先ほど述べたように、たとえば、夫が宗教にのめり込みすぎて仕事をほぼせず、生活費を入れないなど、配偶者が「信教の自由」の範囲【外】の活動を行い、婚姻関係が破綻に追い込まれた場合には、慰謝料が認められることがあります。

宗教を理由とした離婚の場合、親権はどうなる?

子どもがいらっしゃる方にとっては、「親権はどちらが持てるのか?」は重大な関心事でしょう。

宗教で親権の有利・不利が決まることはない

結論から申しますと、宗教が理由で親権者が決定されることはありません。
親御さんの中には「相手が宗教に加入しているんだから、無宗教である自分のほうが親権獲得に有利なのではないか?」考えている方もいらっしゃるのですが、そうではありません。

なぜなら、配偶者には「信教の自由」が認められていますし、たとえ離婚の原因が宗教であったとしても、宗教が子供を育てることにあたってただちに有害とは認定されないからです。

「夫婦のどちらに親権を認めるか?」については、裁判所はさまざまな要素を考慮して決定しますが、おもな考慮要素は以下のとおりです。

継続性

子どもの養育環境をできる限り変えないようとの判断が働く傾向にあります

兄弟姉妹不分離

複数の子どもがいる場合は、兄弟姉妹を一緒に育てた方が養育上好ましいとの考え方の下、全員の子どもについて同じ親を親権者とする傾向にあります

子どもの意思尊重

およそ高校生程度の子どもの場合には、子どもの意思を尊重して親権者を決定する傾向にあります

母親優先

子どもの年齢が低い場合には、母性を重視する観点から、母親に親権を認める傾向にあります

宗教への過度な傾倒は親権者の決定に影響することも

上述のとおり基本的には、宗教に入っている親が不利になることはないのですが、宗教へ過度にのめりこんでいることは、裁判所は不利な事実として考慮することがあります。

宗教へ過度にのめりこんでいる場合、裁判所は「子どもを養育する環境が整えられないのではないか?」「養育に十分な時間をあてられないのではないか」と危惧するからです。

昨今、「二世信者」が不幸な環境の下で育てられていることなどがクローズアップされました。
もちろん、すべての二世信者が不幸なわけではありませんが、親があまりにも宗教にのめりこみ過ぎている場合には、子どもにとって好ましくない養育環境であるといえ、裁判所は、親権の決定を慎重に判断すると考えられます。

宗教を理由に離婚が認められた事例

続いて、宗教を理由に離婚が認められた事例をいくつかご紹介します。

結婚後に妻が入信、別居期間が長期間に及んだケース

結婚後に妻が宗教に入信したことなどが原因で夫婦関係が悪化。別居することとなり期間は7年以上にも及びました。裁判所は「妻は夫婦関係を修復するために宗教活動を自粛しておらず、別居が長期間に及んでおり、家事や子どもの養育に相当支障が出る」として離婚を認めました(大阪高判平成2年12月14日)

話し合いによる夫婦関係修復が難しいことを裁判所が認めたケース

夫が、宗教活動に熱心な妻に対して離婚と慰謝料を求めたケースです。妻は未成年の子ども引き連れ宗教団体が主催する集会に参加していました。夫は妻に対して「そういった活動をやめるよう」説得しましたが、妻が拒否し信仰を貫き続けたため、別居するに至りました。裁判所は「妻は宗教活動を自粛するつもりが一切なく夫と考え方が相容れない、お互いが自分の意見を譲らず、話し合いを重ねても夫婦関係を修復できる見込みがない」などとして夫からの離婚請求を認めました。

宗教にのめり込んだ妻が家出し、夫の離婚請求が認められたケース

妻が子供の世話や家事を放棄して宗教にのめりこんだケースです。妻は子どもが病気にかかったことで宗教にのめり込むようになりました。妻が態度を改めたため夫婦関係が改善にむかっていたのですが、病気の子どもがなくなったことで、再び宗教にのめり込むようになり、妻は育児を夫の両親に任せで家を出て行きました。裁判所は「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして、夫からの離婚請求を認めました。

宗教による離婚が認められないケース

反対に、裁判所が「まだ夫婦としてやり直せる可能性がある」旨判断して、離婚が認められなかったケースもあります。

別居は妻の信仰に対する夫の無理解が原因であると判断されたケース

妻の宗教活動が原因で別居することになりました。2年の別居期間を経て夫が離婚訴訟を起こしました。しかし裁判所は「夫が妻の信仰に寛容になって夫婦関係の改善に努めれば婚姻生活を回復できた」旨述べて離婚を認めませんでした(名古屋地裁豊橋支部判決昭和62年3月27日)

別居期間の短さから離婚には不十分とみなされたケース

妻が宗教にのめり込んだことなどを理由に別居状態となっていました。2年の別居期間を経て夫が離婚訴訟を起こしましたが、裁判所は「別居期間が2年未満と短く、夫が妻の信仰に対してもう少し歩み寄る姿勢を見せればまだ夫婦関係を改善できる余地がある」などとして、離婚を認めませんでした(東京地方裁判所判決平成5年9月17日)

家庭生活の実態をふまえ、夫の寛容さを求め離婚を認めなかったケース

妻が子どもに対しても宗教活動をしていたケースです。2年の別居期間を経て夫が離婚訴訟を起こしましたが、裁判所は「家事をおろそかにしていたわけでもないこと、夫が妻の宗教活動に対していま少し寛容になれば別居することはなかった」などとし離婚を認めませんでした(名古屋高判平成3年11月27日)

宗教活動による生活への影響が軽微な場合、離婚は認められにくい

上記3つのケースから想像するに、家庭生活や家事に影響が出ていない場合は、裁判所は「夫婦関係の改善がいまだ可能」と判断する可能性が高いため、宗教を理由とした離婚は認められにくいでしょう。
また、多額の献金などをしておらず、小遣いの範囲で宗教活動をしているケースでも離婚は認められにくいでしょう。
このようなケースは「婚姻を継続し難い重大な事由」がないと判断されるからです。

また、裁判所が「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかを判断する際は、配偶者がどれほど宗教にのめり込んでいるかに加えて、別居期間も考慮されます。

宗教を理由に離婚が認められるかどうかのポイント

配偶者が宗教にのめり込んでいると疑われるケースで、離婚が認められるかどうかのポイントは、おおむね以下のとおりです。

  • 節度ある宗教活動といえるか
  • 宗教活動を理由に家事や育児をおろそかにしていないか
  • 夫婦関係の改善のために信仰を自粛しているか
  • 配偶者の信仰に対して寛容になるなど夫婦双方で協力する余地はあるか
  • 別居期間が長く既に婚姻関係が破綻していないか

憲法で「信教の自由」が保障されているため、裁判所はこの基本的人権は尊重し、判断を行います。

したがって、離婚を請求する側が、配偶者の宗教を一方的に「気持ち悪い」「不気味だ」と申し立てるだけでは、訴えが認められる可能性も低くなるでしょう。

宗教や信仰で離婚するためのポイント

まずは夫婦間での話し合いを

上述したとおり、夫・妻の宗教が理由で離婚を考えている場合、まずは夫婦間での話し合いをしましょう。
調停や訴訟は時間とお金がかかるので、まずは配偶者に離婚の意思を伝え、協議を重ねましょう。配偶者が離婚に応じてくれれば、その時点で離婚は成立します。

宗教にのめりこんでいる証拠の確保

夫婦間で話がまとまらなかった場合は、離婚調停に進むこととなりますが、調停やその後の裁判を有利に進めるためには証拠が必要です。
配偶者が宗教にのめり込んでいることを裏づける証拠を集めましょう。

たとえば

  • いつどのような集会に参加して頻度はどれくらいか
  • どれくらいの献金をしているのか

などです。
夫婦喧嘩の際に通常では考えられないようなおかしな言動があるのであれば、録音しておくのも方法です。

裁判所が「婚姻を継続し難い重大な事由あり」と認めるハードルは相当高いので、多くの証拠を集めることをオススメします。

宗教が及ぼした家庭や夫婦関係への影響をまとめる

ご自身の認識を書き留めておくことも大切です。
配偶者の宗教活動が家庭生活や夫婦関係にどのような影響を与えたのかを時系列で書き留めておきましょう。

家族を顧みない、生活費を家庭に入れないなど、具体的な事実を時系列で記録し、整理しておきましょう。

過度な相手の価値観否定は逆効果

夫婦間で離婚について話し合う際には、相手の宗教観を否定することは避けましょう。
「信教の自由」がありますし、自己の宗教観を否定されると態度が硬化し、話が前に進まないおそれがあるからです。

宗教を理由として離婚の話をする際は、相手の信仰を尊重しつつ、冷静に対応することが大切です。

まとめ

以上、宗教を理由に離婚できるのか、慰謝料は請求できるのか、親権を獲得できるのかなどについて見てきました。
宗教を原因・理由とする離婚の場合、夫婦間で同意して離婚を成立させることがベストですが、話し合いが前に進まない場合は、弁護士に相談することをオススメします。

弁護士は、裁判所にも信頼されやすい証拠の集め方や過去の事例を提示し、調停や裁判を有利に進めるアドバイスをしてくれます。
宗教を理由として離婚を考えている方は、まずは弁護士に事情を話してアドバイスを仰いてみましょう。

この記事の監修者
林 孝匡林 孝匡 弁護士

【ムズイ法律を、おもしろく】をモットーに、法律知識をおもしろく届ける情報発信専門の弁護士。

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