ケチは離婚の理由になる? 知っておきたい「経済的DV」の基準

ケチは離婚の理由になる? 知っておきたい「経済的DV」の基準

配偶者があまりにもケチすぎて辛い時、相手が拒否していても離婚は可能なのでしょうか?
最近よく耳にする“経済的DV”と一般的なケチとの違いは、法律的にはどのように判断されるのかも併せて解説します。

夫がケチで離婚したい!ケチで離婚は認められる?

お金やモノを大切にする倹約(ケチ)は、一般的には好ましいと認識されている行為です。しかし度が過ぎる場合、生活を共にする配偶者は息が詰まる思いをすることになりかねません。
たまに会う人同士であれば耐えられることでも、一緒に生活していると耐えがたいほど辛く苦しく感じることはよくあります。

配偶者が同意すれば、ケチを理由とした離婚も可能

ケチで離婚できるのかどうかについては、配偶者の同意さえあれば可能です。当事者同士の話し合いで離婚することを“協議離婚”と言いますが、協議離婚の理由は何でも良いからです。


一方、相手が離婚を拒否している場合には、そうはいきません。

相手の合意なく強制的に離婚手続きを進めるためには、家庭裁判所での調停を経て、最終的には裁判により離婚を認めてもらう必要があります。家庭に関するトラブルについては“調停前置主義”というルールがあるため、いきなり離婚裁判を起こすことはできないからです。
そして裁判所の手続きにより強制的に離婚を認めさせるためには、以下のような理由(法定離婚事由)がなければならないと法律に定められています。

民法770条1項 法定離婚事由

  1. 配偶者に不貞な行為があったとき。
  2. 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
  3. 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
  4. 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
  5. その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

ケチを「悪意の遺棄」「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚が認められることも

いわゆる“ケチ”で離婚するためには、上記のうちの「配偶者から悪意で遺棄されたとき」または「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当すると裁判所にも認められるほど深刻な態様であり、かつ客観的な証拠が揃っていることが必要です。

「配偶者から悪意で遺棄されたとき」とは、民法第752条に定められている「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」という義務に、正当な理由なく違反することを意味します。正当な理由とは、たとえば病気・ケガにより働くことができないなどのやむを得ない事情です。
自由に使える生活費を渡さない、過度の倹約を強要するなどの行為は、夫婦の協力義務や扶助義務に違反していると判断されることがあります。

「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」は、1~4以外の離婚事由を一括りにしたものです。

法定離婚事由に当てはまらなくても離婚が認められるケースも

これら1~4の法定離婚事由に当てはまらなくても、夫婦関係が破たんしておりこれ以上婚姻生活を続けることが困難であると客観的に判断された場合には離婚が認められることがあります。たとえば、性格・価値観の不一致、一定期間の別居、DVなどが挙げられます。
では、“ケチ”がどの程度深刻であれば離婚が認められるのでしょうか。以下で詳しく見ていきましょう。

経済的DVとは

ケチの程度が“経済的DV”と言えるほど深刻である場合には、民法770条1項2号の悪意の遺棄に該当するとして離婚が認められ、慰謝料も請求できる可能性があります。

経済的DVは比較的新しい言葉であり、法律上は明確に定義づけられていません。しかし離婚の実務では、以下のような行為が経済的DVに該当するとされています。

  • 最低限の生活費も渡さない
  • 健康上問題なく働けるにもかかわらず働かない
  • 配偶者の給料を取り上げる
  • 自由なお金を渡さない
  • 給料や資産の金額を明かさず過度な倹約を強要する
  • 配偶者が働くことを認めない 等

夫婦のうち収入が高い方の配偶者は、低い方の配偶者に対しても、自分と同水準の生活を保障する義務を負っています。
上記のような行為は、民法752条が定める扶助義務・協力義務に違反していると判断される可能性があります。

悪意の遺棄として認められなかった場合でも、裁判所が個々の事情を総合的に判断して、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」として離婚を認めるケースがあります。

ケチと経済的DVの線引きはどこになる?

単なるケチや倹約家と、経済的DVの線引きは、当事者の主観によっても左右されますので、非常に難しいところがあります。

過度のケチ・経済的DVの状況を明確に示す証拠が重要に

第三者である弁護士や裁判所に被害の状況をわかりやすく示して納得してもらうためには、口で説明するだけではなく、やはり客観的な証拠を集めることが大切です。
具体的には、ボイスレコーダー、預金通帳、家計簿、メッセージの履歴などが挙げられます。
こうした実際のやりとりの記録で、過度のケチ・経済的DVが明らかにできれば、以後の離婚交渉、慰謝料請求においても有効な証拠となるでしょう。

性格の不一致による離婚では慰謝料を請求できない

慰謝料については、経済的DVと言えるほど酷いケースでは“悪意の遺棄”に該当するとして請求できる可能性がありますが、ケチや倹約による性格の不一致であると客観的に判断される場合には「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)としてあつかわれ、慰謝料を請求できないと考えられます。
価値観・性格の不一致の場合は、どちらか一方に責任があるとは言えないからです。

離婚を前提に別居した場合、婚姻費用(生活費)を請求可能

経済的DVを受けて、または経済的価値観の不一致により離婚を検討する場合、まず別居を始める方も少なくありません。
離婚を前提とする別居をしている場合でも離婚届を提出するまでは法律上夫婦関係にありますから、前述の扶助義務(民法第752条)が発生しているため、婚姻費用(生活費)を配偶者に請求することができると考えられています。

婚姻費用の請求手続きは、まずは内容証明郵便を郵送して配偶者に直接請求します。相手が応じない場合には、次に家庭裁判所に婚姻費用分担請求の調停を申立てます。調停での話し合いが不成立となった場合には、自動的に審判手続きに移行し、裁判官が判断を下すことになります。

「配偶者と直接やり取りしたくない」「手続きが難しい」という理由で、弁護士に依頼する人も多いです。

まとめ

ケチや経済的DVは、民法第770条1項に定められている法定離婚事由のうち、“悪意の遺棄”または“その他婚姻を継続し難い重大な事由”に該当する可能性があります。
しかし裁判所に離婚を認めてもらうためには、ケチや経済的DVが民法752条の扶助義務・協力義務に違反しており「婚姻生活を継続できないほど深刻である」ことを示す客観的証拠を集めることが必要です。

離婚事由の判断はケース・バイ・ケースであるため、不安な方は弁護士に具体的な状況を相談されることをお勧めします。

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