交際相手が既婚者と知らなかった場合でも、不倫慰謝料の支払い義務はある?
交際関係にある相手が既婚者と知らなかった場合、その既婚者と付き合っていた相手には不倫慰謝料の支払い義務は発生するのでしょうか。
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既婚者と知らなかった場合も不倫慰謝料を支払う義務がある?
結論から言えば、本当に交際相手が既婚者であると知らなかった場合、「既婚者であることを知らなかった」ことを客観的に証明できれば、不倫慰謝料の支払いを免れることができる可能性があります。
逆に、既婚者との不倫であることに気付いていた、あるいは薄々気づきながらも確認する術を取らずに交際を続けていた場合は、満額ではないにしても不倫慰謝料の支払い義務を課される可能性があります。
そもそも不倫慰謝料を支払う義務がなぜ生じるのかといいますと、不倫(法律用語では不貞行為)は民法第709条の不法行為に該当すると考えられるからです。
民法第709条には「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定められています。
相手が既婚者であると知りながら(故意)、または知らないことに落ち度があって(過失)不倫交際をしていた場合には、“婚姻生活の平和”という法律上保護される利益を侵害したことになると考えられます。そこで、交際相手の配偶者が感じた精神的苦痛に対する慰謝料(損害賠償)を支払う義務が生じるということです。
以上のように、故意・過失が要件となっていますので、不倫慰謝料の支払い義務を回避するには「本当に知らなかった」または「知らないことに落ち度がなかった」ことを証明することが必要です。
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既婚者の交際で支払い義務が発生するケース
既婚者の交際で支払い義務が発生するのは、主に下記のようなケースです。
交際相手が既婚者であることに故意・過失がある
交際相手が既婚者であると知っていながら交際していた場合に損害賠償責任が生じることについては、納得していただけるかと思います。
難しいのは、“過失があった”ケースです。
この場合の過失とは、「しっかりと注意深く見ていれば既婚者であると気づくはずなのに、その注意を怠っていた」という状態を意味しています。
何をもって「過失がある」と判断するのかは個々の事例に応じて異なりますが、例えば
- 共通の知人・友人がいるのに相手が既婚者であるかどうか確認しなかった
- 相手がまったく自宅に入れてくれない
- 土日祝日はほとんど会えない
などが考えられます。
反対に、共通の友人・知人がおらず、客観的状況から「相手が独身であると信じるのも常識的に考えて無理はない」と判断されると、過失が否定される可能性があります。
実際に、以下のような判例も存在します。
意図せぬ不倫に故意・過失が否定された判例
東京地方裁判所平成24年8月29日判決
ホステスとして働いていた既婚女性が「自分は独身だ」と偽って客の独身男性と交際していた裁判例では、客の男性の故意・過失が否定されました。
お互いの私生活をよく知る共通の知人・友人がいなかったこと、ホステスとして深夜勤務をする女性が独身だと信じるのは世間一般の常識に照らし合わせて無理がないこと、などが理由です。
東京地方裁判所平成23年4月26日判決
お見合いパーティーで出会った既婚男性が、婚姻状況だけでなく氏名・職業なども偽って独身女性と交際していた裁判例でも、女性の故意・過失が否定されています。
肉体関係があったことの証拠を配偶者が持っている
法律上は、原則として、肉体関係がある場合のみ不貞行為による損害賠償請求責任を負うとされています。
そのため、不倫相手の配偶者が、肉体関係があったことを明らかにする証拠を抑えていた場合、不倫慰謝料の支払い義務が発生する可能性が高まります。
ここでいう証拠とは、ホテルに入る様子を写した動画や写真はもちろん、ホテルの領収書、肉体関係をほのめかす内容のメールやLINEなどでのやりとりなどが上げられます。
肉体関係なし「プラトニックな交際」なら慰謝料支払い回避の可能性も
もし既婚者と知らないまま交際していて、配偶者から故意・過失を厳しく追及されたとしても、交際中に肉体関係がなければ損害賠償責任を免れることができる可能性があります。
既婚者との交際が、二人きりの外食やデートを数回だけした、キス・手をつなぐ・抱きしめるなどの軽いスキンシップにとどまるなどの“プラトニックな交際”では、慰謝料の支払い義務が発生しない可能性が高いでしょう。
たとえメールで「好きだよ」「愛している」「また会おうね」などとやり取りをしていても、肉体関係がなければ、不法行為責任は負わないと判断される傾向があります。
ただしプラトニックな交際でも例外的に慰謝料の支払いが認められたケースがありますので、心配な方は弁護士に相談しましょう。
円満だった夫婦関係が不倫によって破たんした
前述のとおり、不法行為の要件は、“被害者の権利や保護されるべき利益”が侵害されたことです。不倫の場合は、“婚姻生活の平和”が保護されるべき利益とされています。
不倫が発覚したことで“婚姻生活の平和”が侵され、夫婦関係が悪化し離婚に至った場合は、不倫慰謝料の支払い義務を課されるおそれがあります。
「夫婦仲が険悪」だけでは夫婦関係の破たんとは認められない
既婚者と知らずに交際していて、配偶者から「既婚者だと知っていたのではないか(故意)」「知らないはずはない(過失)」などと反論されたとしても、その時点ですでに夫婦関係が破たんしていた場合は、相手の配偶者は慰謝料請求ができない可能性が高いでしょう。
交際した時点で、保護されるべき“婚姻生活の平和”がすでにない状況だからです。
ではどのような状態をもって夫婦関係が破たんしていると言えるかについてですが、これは
- 離婚調停中である
- 離婚を前提に別居している など
の状況が当てはまるとされています。
既婚者がよく使用する言い訳としては「妻とは家庭内別居だ」「妻とは冷めている」「もうすぐ離婚するつもり」などがありますが、単に夫婦仲が険悪であるとか家庭内別居状態なだけでは、法律上は“夫婦関係が破たんしている”とは判断されない傾向があります。
相手の言葉の言うがままに不倫関係を持つと「既婚者である事実を知っていて不倫関係を持った」と判断される可能性もあるため、注意が必要です。
実際に上記の言い訳を使って既婚男性が独身女性に交際を迫ったケースでは、独身女性側に故意はなかったものの過失があったとして、慰謝料500万円の請求に対して結局150万円の支払いが命じられました(東京地方裁判所平成22年8月25日判決)。
慰謝料の支払い義務がないケース
消滅時効が成立している
一つ目は、消滅時効が成立しているケースです。
相手が既婚者であると知っていたのか否かに関係なく、消滅時効が成立していれば支払い義務はなくなるのが法律上のルールです。
民法第724条には、不法行為の損害賠償請求権は「被害者(交際相手の配偶者)又はその法定代理人が損害(不倫)及び加害者(既婚者と不倫した人の氏名・住所)を知った時から3年間行使しないとき」または「不法行為の時から二十年間行使しないとき」に時効消滅すると記載されています。
性犯罪にあたるケース
二つ目は、性犯罪のケースです。慰謝料請求の対象となる不倫(不貞行為)の要件は、“自由意思に基づく肉体関係”であることです。
既婚者の相手によって自由意思に基づかない肉体関係を強制された、つまり暴力や脅迫や薬を用いて無理やり強かんや強制わいせつの被害に遭った場合には、当然のことですが不法行為による損害賠償請求を負いません。
むしろ犯罪被害者として、加害者の刑事責任と民事責任を問うことができる立場にあります。
既婚者との不倫による慰謝料トラブルに取るべき対応
既婚者だと気づいたなら、交際を止める
相手が既婚者であると気づいたら、その時点で交際を止めることが非常に大切です。
たしかに一度生まれた恋愛関係は理屈だけで即座に割り切れるものではありませんが、そのまま交際を継続すると法律上は不倫の故意があると判断されます。
実際に、過去の判例で、ある独身女性が交際相手の妻の知人からの連絡を受けて相手が既婚者であると知ったケースでは、その後も交際を継続したために不法行為責任を問われる結果となりました(東京地方裁判所平成24年12月17日判決)。
騙されていた側が多額の慰謝料支払いのリスクを負うことになります。
交際相手が既婚者だと気付いた時点でその交際は解消するようにしましょう。
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交際相手とのメールやメッセージを消去しない
次にするべきは、既婚者であると知らなかったことを示す証拠を保存することです。交際相手とのメールのやり取りやメッセージ履歴、一緒に撮影した写真などは、消去しないようにしましょう。
たとえば「今度一緒に結婚式場を見に行こう」「親御さんにきちんと挨拶させてよ」など、真剣交際や結婚を匂わせるメッセージがあれば、保存しておくことで万一不倫慰謝料を請求された際に、相手の悪質性を立証する重要な証拠となり得ます。
マッチングアプリや婚活サービスでの出会いの場合、利用規約が証拠になることも
交際相手との出会いの場が“独身者であること”を利用条件とするマッチングアプリや婚活サービス等であった場合、サイトの利用規約も証拠となることがあります。
たとえばマッチングアプリ大手『Omiai』の利用規約第4条には
18歳以上(高校生は除きます)で、かつ独身(離婚している場合も含みます)でなければ、当サービスの会員登録や当サービス、ウェブサイトの利用ができません
同じくマッチングアプリ大手『ペアーズ』の利用規約第6条には
18歳以上(高校生は除く)で、交際相手がいない方、独身の方(現在離婚している方も含む)のみが利用可能な婚活をサポートするサービスです
と明記されています。
マッチングアプリで出会った既婚者ならば、規約の定めに則れば「既婚者とは知らずに騙された」と主張できる可能性があります。
交際相手とサイト内でマッチングしてやり取りしたことを証明するスクリーンショットも、併せて保存しておきましょう。
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内容証明郵便等で交際相手の責任を追及する
交際相手に騙されていた場合は、証拠を集めた上で損害賠償責任を追及することも検討しましょう。
まずは内容証明郵便で慰謝料を請求する方法が一般的ですが、慰謝料金額の決定や内容証明郵便の作成が難しいと感じたら、弁護士に依頼することをお勧めします。
普通の郵便を使用すると、相手から「そんな文書受け取っていない」「そんなこと書かれていなかった」などと反論されるおそれがあります。
内容証明郵便は文書の内容・送り主・受取人・送達日時まで郵便局が記録してくれますので、通常は内容証明郵便が用いられます。
内容証明郵便による交渉を行っても相手が損害賠償金の支払いに応じない場合には、最終的に訴訟を起こすことも考えられます。
過失ありとされても、減額できる可能性
交際相手が既婚者であることについて過失ありとされても、弁護士による交渉次第では減額される可能性もあります。
独身だと信じていた交際相手の配偶者から突然慰謝料を請求されたら非常に驚くでしょうが、焦って支払いに合意したり感情的に反論したりすると、不利な状況になるおそれがあります。
まずは一度弁護士に相談し、アドバイスに沿って冷静に次のアクションを取ることが大切です。
たとえば過去の事例では、以下のような事情が減額要因とされています。
- 相手夫婦の婚姻生活が短い
- 相手夫婦の間に未成熟子がいない
- 不倫の回数が少ない
- 交際相手に強く迫られて交際がスタートした
- 交際相手の方が大幅に年上、社会的地位が高い(例:上司)
- 相手の配偶者に対して誠実な対応をする
その他諸般の事情が考慮され、減額される可能性があります。気になる方は弁護士に相談しましょう。
まとめ
既婚者と知らなかったのに不倫慰謝料を請求されたら弁護士に相談を
故意・過失がなければ不倫慰謝料を支払う義務はありませんが、そのためには証拠を集めることが大切です。
交際相手が既婚者であると気づいたら、または「もしかしたら既婚者かもしれない」と疑ったら、その時点で交際をやめて弁護士に相談しましょう。
弁護士への法律相談は、具体的なトラブルが発生していない時点でも予防的に利用することも可能です。むしろ事前に相談するほうが、重大なトラブルを未然に防ぐことにも繋がる可能性があります。不安になったら、気軽に弁護士に相談してみましょう。
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