卒婚とは?離婚との違いから見る準備のポイント
卒婚とは
卒婚とは、離婚手続きをしないまま、そして別居もしないまま、夫婦が別々の人生を歩むということです(別居を選択する卒婚夫婦もいます)。
同じ家に住んでいるだけで、対外的に夫婦としても振る舞うことがなくなるため、仮面夫婦とも違います。同居人に近い存在、という表現が適していると言えるでしょう。
卒婚と離婚の違い
卒婚と離婚の違いは非常に明快で、法的な婚姻関係を継続するか、継続しないかにあります。
夫婦双方が同意の下、お互いに干渉しない自由な人生を歩みながらも、いざという時には法律上の夫婦としてのメリットを享受できるため、卒婚を選択する熟年夫婦が増えていると言われています。
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卒婚のメリット
普通の夫婦関係に戻りやすい
離婚とは違って、卒婚は夫婦関係に戻りやすいのが大きなメリットです。離婚手続きには非常に大きな精神的エネルギーと労力を伴います。離婚した夫婦が復縁する実例はゼロではありませんが、一般的には一度離婚を選択するとなかなか元には戻りづらいものです。
しかし卒婚の場合は、相手の合意さえあれば元の夫婦関係に戻ることが比較的容易です。
しばらく自由な暮らしを満喫してほとぼりが冷めたら、改めて配偶者の魅力や長所を再確認できるかもしれません。
面倒な手続きが必要ない
離婚手続きと違って、煩わしい手続きが必要ないのも魅力です。
離婚手続きでは、協議のみで条件の合意に至らない場合には、家庭裁判所での離婚調停を申立てなければなりません。離婚調停でも話し合いがまとまらない場合には、さらに離婚裁判に発展する可能性もあります。
離婚手続きでは、財産分与や親権(未成熟の子どもがいる場合)などたくさんの取り決めをしなければなりません。
自分にとって少しでも有利な条件で離婚を成立させるために証拠を用意したり弁護士と話し合いをしたりと、非常に多くの時間とエネルギーを費やす必要があり、肉体的・精神的に疲れ切ってしまう人も少なくありません。
その点卒婚は、面倒な手続きがほとんど必要ありません。後々のトラブルを避けるために合意書を作成した方が良いケースもありますが(後述します)、離婚とは比べ物にならないほど負担が軽いのがメリットです。
相続・生活費…金銭面でのメリット
法律上の夫婦である以上、卒婚をしても相続権はあります。
子どもがいる場合、配偶者の法定相続分は、被相続人の遺産の2分の1です。そして子どもがおらず被相続人の直系尊属(両親等)がいる場合は3分の2、被相続人の兄弟姉妹のみがいる場合は4分の3が、配偶者の法定相続分です(民法第900条)。
この点は、離婚にはない大きなメリットであると言えるでしょう。
また夫婦にはお互いの生活を支え合う扶助義務があります(民法第752条)。
専業主婦(主夫)である、または自活できるほどの収入がない場合には、卒婚を選んだ方が生活の安定に繋がるかもしれません。
経済的に自立している夫婦同士であっても、卒婚を選択すれば、どちらかがケガや病気などで働けなくなった場合に支え合える可能性があります。
夫婦げんかに悩む必要がなくなる
卒婚をするとお互いの自由を尊重することになるので、夫婦げんかに悩む必要がなくなるかもしれません。
卒婚といっても生活は引き続き共にするわけですから、もちろんまったく言い争いがゼロになるとは言い切れません。
しかし“卒婚状態にある”とお互いが認識することにより、今までよりも距離感が生まれるでしょう。
「夫婦なんだからこれぐらいやってくれて当然」「夫婦はこうあるべき」という甘えや期待がなくなり、かえって関係が改善するかもしれません。
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卒婚のデメリット
生活を支え合う法的義務
前述のメリットの裏返しになりますが、法律上の婚姻関係が続いている以上は、お互いに扶養義務を負っていますので、相手の生活費を自分が負担することになる可能性があります。
扶養義務は収入の多い方が一方的に負っているものではない点に、注意が必要です。今まで大黒柱だった配偶者が病気やケガで働けなくなった場合には、原則としてもう片方が生活を支えることになります。
病気や障がいを負った配偶者を扶養する義務は続く
また、配偶者の病気や障がいを理由とする離婚は、判例でも認められにくい傾向があります。
民法第770条1項4号には、法定離婚事由のひとつとして“配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき”が記載されていますが、これは躁うつ病や統合失調症などごく一部の重い病気に限定されています。
他の病気や障がいについても、それが原因で夫婦関係が破たんしていると判断される場合には、例外的に民法第770条1項5号“その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき”として認められることがあります。
しかしいずれにしても“配偶者を長きにわたり真摯に介護・看病してきた”ことが離婚の条件として求められる傾向があるため、卒婚だからといって病気や障がいを負った配偶者を扶養する義務からは逃れられないことに注意が必要です。
“恋愛”は不倫になる?
法律上の婚姻関係が継続している以上、不貞行為は民法第770条1項1号に定められているとおり法定離婚事由に該当し、慰謝料を請求される可能性があります。
同意の上の卒婚は法的な「婚姻関係の破たん」とは認められない
ただし不貞行為をした時点ですでに婚姻関係が破たんしていたといえる場合には、不貞行為によって夫婦が平穏な家庭生活を送る権利が侵害されたわけではないため、慰謝料を請求できないとされています。
婚姻関係の破たんの定義は、判例では離婚を前提に別居しているとか、離婚に向けて具体的な話し合いを進めているなどの状態だとされています。家庭内別居であるとか、ただ単に夫婦仲が冷めている・険悪であるというだけでは婚姻関係の破たんとは認められないでしょう。
しかし「卒婚なので婚外恋愛にお互いが合意している」ということを契約書などではっきりと証明できれば、不貞行為の責任を免れることができる可能性はあります。
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卒婚する際の準備のポイント
生活費について具体的な取り決めをしておく
前述のとおり法律上の夫婦である以上は生活を支え合う義務を負っているので、生活費等についての取り決めをしっかりとしておくことが大切です。
熟年夫婦では、妻の方が長年専業主婦をしていることも少なくありません。その場合、収入の多い夫の方が生活費を負担することになります。一方専業主婦も、生活費をもらう代わりに家事労働を通して夫の生活を支える義務を負っています。
揉めることのないよう、「お互いの自由を尊重しながらも、生活費は妻に支払う。その対価として、妻は家事労働を行う」などの具体的な合意を書面に残しておくことがお勧めです。
“婚外恋愛”についても合意をしておく
“婚外恋愛”の扱いについても、事前にしっかりとお互いの意思を確認しておくべきでしょう。卒婚を形式的に選択したとしても、夫婦のいずれか一方に恋愛感情が残っている場合、苦しくなってしまうかもしれません。
「卒婚なので婚外恋愛も認めると言っていたけど、やっぱり耐えられないので慰謝料を請求する」などと、後で口頭の約束を翻される可能性もゼロではないでしょう。
夫婦関係は、理屈だけでは考えられないものです。お互いの感情の浮き沈みによって法律関係が不安定にならないためにも、事前に冷静な話し合いの機会を設け、婚外恋愛を認める場合にはその旨を明記した書面を作成しておきましょう。
相続・お墓など終活についても話し合いを
相続やお墓など、終活についても詳細に話し合いをしておくことをお勧めします。
配偶者とは別のお墓(実家のお墓など)に入りたいのであれば、事前にその旨を伝えておくとよいでしょう。
相続については、前述のとおり法定相続分が法律上定められていますが、遺言書により法定相続分と異なる相続分を定めることも可能です。
卒婚状態を理由に配偶者の相続分を減らすのか、それとも卒婚状態でも配偶者への感謝の気持ちから法定相続分通りにするのか、夫婦によって正解はケース・バイ・ケースです。
お互いが納得のいく形になるよう、徹底的に話し合いをしておくべきでしょう。
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卒婚が向いている夫婦のタイプ
お互いに自立している夫婦
夫婦の片方だけが自立していても、もう片方が経済的・精神的に依存している状態では、卒婚に向いているとは言えません。
片方の意思のみに基づいて卒婚を強行採決しても、もう片方が心から納得していない状態では、後で法的トラブルに発展する恐れがあります。
もし仮に専業主婦の家庭であっても、精神的に自立しており、「夫は生活費を渡してくれる同居人である」と完全に割り切っている場合には、卒婚が成立しやすくなるかもしれません。
恋愛感情はないが感謝と情が残っている夫婦
恋愛感情はもはや残っていないけれど、長年協力しながら子育てをして家庭生活を営んできた“同志”としての感謝と情が残っている夫婦は、卒婚に成功しやすいと言えます。
卒婚は、お互いの自由を認めながらも、いざという時は生活を支え、相手に遺産相続も認めるライフスタイルです。
卒婚というと一見冷たい響きに聞こえるかもしれません。しかし家族としての情すらまったく残っておらず、憎しみしかない場合には、卒婚はかえってトラブルの元になる恐れがあります。
冷静に話し合いができる夫婦
お互いに理性的であり、冷静な話し合いができる夫婦は、卒婚に成功しやすいと言えます。
これについては、これまで培ってきた夫婦関係の良し悪しというよりも、その人が持って生まれた個性や、長年培ってきた性格に左右されるでしょう。
感情的、嫉妬深い性格は卒婚に不向き
逆に、すぐ感情的になってしまう、独占欲が強く嫉妬してしまうなどの性格は、卒婚に向いていないかもしれません。
夫婦として長年観察してきた相手の性格を見ながら、卒婚が可能かどうか慎重に判断することをお勧めします。
まとめ
卒婚とは、離婚をせずに法律上の婚姻関係を維持したまま夫婦が自由な生活をおくる、新しい選択肢です。
元に戻りやすい、相続権がある、生活費をもらえるなどのメリットがある反面、不貞行為で揉めるおそれがあるなど様々なデメリットもあります。
生活費や婚外恋愛についての合意書は、法律上の要件を満たしていなければ、証拠としての効力が認められなくなるおそれもあります。
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