内縁の妻とは?法的な定義とメリット・デメリットを解説
内縁の妻は法律的に婚姻に準じるものとして保護される一方で、法律上の夫婦とは認められません。
メリットとしては改姓しないでよいことや家同士のしがらみに巻き込まれにくいことがありますが、相続権がないなどのデメリットも存在します。
この記事では、内縁の妻と法律婚の妻との違いや、内縁の妻にはどのような権利があるのか、さらには相続や社会保障制度においてどのようなポイントを押さえるべきなのか、詳しく解説します。
内縁の妻について理解を深め、法的な視点からのメリットとデメリットを知っておきましょう。
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内縁の妻とは
内縁の妻とは、婚姻の届出をしていないため法律上の夫婦とは認められないものの、社会生活を送る上で事実上夫婦同然の生活をする女性のことを指します。
内縁関係は、「婚姻に準ずる関係」として判例(最高裁昭和33年4月11日判決)上も保護されています。
いわゆる内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点においては、婚姻関係と異るものではなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げない。
最高裁昭和33年4月11日判決の全文より引用
具体的には、婚姻届を提出・受理されていないため法律婚の妻とは認められませんが、男女が協力して夫婦としての生活を営む関係は、婚姻関係と同様に扱われ、「婚姻に準ずる関係」として認められています。
内縁の妻と法律婚の妻との違い
内縁の妻と法律婚の妻には、以下のような違いがあります。
内縁の妻 | 法律婚の妻 | |
---|---|---|
改姓 | 改姓しない | 改姓する |
親族との関係 | 姻族関係は築けない | 姻族関係が築ける |
生まれた子供 | 非嫡出子として扱われる | 嫡出子として扱われる |
子供の親権 | 原則取ることができる | 離婚時の協議により可否が分かれる |
財産相続 | 相続人がいない場合分与請求できる | できる |
社会保険 | 扶養に入れる | 扶養に入れる |
遺族年金 | 一定の要件を満たせば受給できる | 受給できる |
慰謝料 | 請求できる | 請求できる |
財産分与 | 内縁関係中の共有財産は可能 | 婚姻中の共有財産は可能 |
内縁の妻の場合、改姓しないでよい点や、内縁関係を解消しても戸籍に残らないメリットがある反面、相続権がないことや生まれた子供が非嫡出子として扱われることがデメリットとして挙げられます。
詳しくは「内縁の妻のメリットとデメリット」で解説いたします。
内縁関係の法律上の定義
内縁関係が法的に認められる条件として、具体的には以下の4つの条件があげられます。
- 婚姻の意思をお互いに持っている
- 事実婚について公的手続きで表明している
- 夫婦同然の共同生活の実態がある
- 子どもを認知している
婚姻の意思をお互いに持っている
内縁関係が認められるためには、お互いが将来的に結婚するという、婚姻の意思を持っている必要があります。
ただし、恋人との同棲だけでは内縁とは認められません。
社会通念上、夫婦と認められるような事実を作り出すことが重要です。
例えば、結婚式を挙げたり、親族の行事に出席したりすることで社会的な認知が高まります。
事実婚について公的手続きで表明している
内縁関係を証明するために、住民票や社会保険の登録などの公的手続きを行うことがあります。
住民票を利用して事実婚を証明する場合、世帯主として1人を記載し、もう一方の続柄欄に「夫(未届)」または「妻(未届)」と記載します。
役所に前例がない場合や担当者に周知されていない場合、記載を断られ同居人の記載になることもあります。
この場合、夫(未届)妻(未届)の続柄の記載ができること、法的効力があることを伝えましょう。
参考資料として、総務省通知や法律上の根拠をコピーして持参することをおすすめします。
総務省通知
10ページにある「世帯主との続柄の記載方法」部分。
「住民基本台帳事務処理要領の一部改正について(通知)」総行住第17号平成24年2月10日
健康保険法の条文
(定義)
第三条
7項一号 被保険者(日雇特例被保険者であった者を含む。以下この項において同じ。)の直系尊属、配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下この項において同じ。)、子、孫及び兄弟姉妹であって、主としてその被保険者により生計を維持するもの
健康保険法3条7項1号
厚生年金保険法の条文
(定義)
第三条
2 この法律において、「配偶者」、「夫」及び「妻」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。
厚生年金法3条2項
夫婦同然の共同生活の実態がある
一般的には3年以上の同居期間と夫婦同然の共同生活の実態が必要です。
夫婦同然の共同生活とは、生計を共にしていることがあげられます。
別居していたり、生計を別にしている場合、内縁関係とは認められない可能性があるため注意してください。
子どもを認知している
生まれた子供を父親が認知することで、内縁関係としての評価が高まります。
連れ子であった場合も、養子縁組や子供の養育実績により、同等の評価を得られる可能性があります。
内縁の妻のメリットとデメリット
内縁の妻は法的な拘束力がない一方で、メリットとデメリットが存在します。
以下に詳しく説明します。
メリット
1.姓の変更が不要
内縁の妻は、法的な結婚と異なり、内縁の夫の戸籍に入らないため、改姓の必要がありません。
夫婦別姓を維持できるので、対外的な自分自身のアイデンティティを保つことができます。
2.法律婚と同等の権利・義務がある
内縁の妻にも、財産分与や年金分割、養育費請求など、法律婚と同等の権利が認められています。
内縁関係でも財産分与請求権が認められるため、相手が財産を分与してくれない場合は家庭裁判所で「財産分与調停」を申し立てることができます。
一方、子どもが生まれた場合は、子育てに関する義務も負います。
3.相手親族と一定の距離を置いて生活できる
内縁の妻は改姓しないため、相手親族の慣習や価値観にとらわれず、一定の距離を置いて生活を送ることができます。
4.内縁関係を解消しても戸籍に履歴が残らない
内縁の情報はお互いの戸籍に記録されないため、内縁解消後に誰かと結婚する際に過去の内縁関係が知られることはありません。
デメリット
1.相続権がない
内縁関係の相手が亡くなった場合、内縁の妻には法定相続権が認められていません。相続においては、法的な婚姻関係にある配偶者が優先されることが多いです。
内縁の妻が遺産を取得するためには、遺言による遺贈や贈与を受ける必要があります。
2.保険・税金関係の控除が受けられない
結婚しないため、法的な婚姻による保険や税金の控除を受けることはできません。
健康保険や医療の利用に制限があることがあり、特に緊急時には問題が生じる可能性があります。
3.子供が生まれた時の手続きが多い
内縁の妻としてのデメリットの一部として、子どもが生まれた際、煩雑な手続きが必要であることを理解しておくことが大切です。
内縁の妻との間に子供が生まれた場合、子供は母親の戸籍に入ります。そのため、子供は母親の苗字を名乗ることになります。
内縁の夫婦は、法的な夫婦ではないため、父親が子供を認知しない限り、親子関係は成立せず、父親と子供は法律上で他人とみなされます。
父親が子供を認知しなかった場合、父親の財産の相続権がない、父親の扶養義務が発生しないなどの問題が生じます。
内縁の妻の権利
内縁の妻には、共同で生活を営む権利など法律婚と同様に認められる権利と、一部権利的に異なる部分もあります。
相続権
内縁の妻は、法的な婚姻と異なり相続権を持ちませんが、遺言書を用意したり、特定の条件を満たし特別縁故者として認められた場合は、遺産を相続できる可能性があります。
ただし、遺言書で相続を受けたとしても、相続税控除がない為、法律婚と比べると税の負担額は高くなります。
生命保険の受取人
内縁の妻は、被保険者が内縁のパートナーを受取人として指定した場合、条件を満たせば生命保険金を受け取る権利があります。
相続権と同様、生命保険の受取についても内縁の妻は法律婚の妻とは異なり、注意しなければいけない点があります。
- 生命保険の受取人は「配偶者または2親等以内の血族」が基本とされ、原則的に内縁の妻は受け取れない
- 内縁関係の証明資料等を提出し、保険会社の基準を満たすことで内縁の妻を受取人にできる可能性はあるものの、具体的には保険会社ごとに対応が異なる
- 保険金を受け取った場合、受け取ったお金には相続税がかかる。配偶者控除は受けられないこともあり、法律婚よりは不利。
現状では、当然の権利とは言えず、対応も保険会社ごとに異なる為、事前の確認や準備が必要です。
内縁の妻でも慰謝料を請求できる?
内縁関係の解消においても、慰謝料が発生する場合があります。以下に詳しく説明します。
- 正当な理由なく内縁関係を解消させられたケース
- 正当な理由なく別居されたケース
- 内縁の夫(妻)に不貞行為があったケース
- 内縁の夫(妻)が既婚者であることを隠していたケース
正当な理由なく内縁関係を解消させられたケース
内縁関係が成立しているにもかかわらず、一方の当事者が正当な理由なく内縁関係を解消した場合、慰謝料の請求が可能です。
正当な理由とは、法定離婚事由(民法770条1項)に該当する事実があるかどうかによって判断されます。例えば、不貞行為、悪意の遺棄、相手の生死不明や強度の精神病が理由である場合などが該当します。
正当な理由なく別居されたケース
内縁関係の男女には同居・協力・扶養の義務が課せられます(民法752条)。
正当な理由なしに内縁関係の相手方と別居した場合、悪意の遺棄に該当し慰謝料請求できる可能性があります。
内縁の夫(妻)に不貞行為があったケース
内縁関係の一方が異性と不貞行為を行った場合、慰謝料を請求できます。
不貞行為とは内縁関係の相手以外の異性と肉体的に性的な関係を持つことを指します。
内縁の夫(妻)が既婚者であることを隠していたケース
相手が結婚している事実を隠して内縁関係を結んだ場合、貞操権侵害を理由として慰謝料請求が認められるケースもあります。
しかし、内縁の妻として慰謝料を請求することは、法的な観点から考えるとやや複雑です。
内縁関係の証明が困難な場合や、不貞相手が内縁関係の事実を知らなかったりすると、慰謝料の請求を断念せざるを得ないこともあります。
事前に事実婚について公的手続きで表明をしておく事により、慰謝料を請求できる可能性が高まります。
内縁の妻になる際にしておいた方がいい手続きと対策
ここまで、内縁の妻の権利やメリット・デメリットについて解説してきました。
内縁の妻になる際には、特定の公的手続きが必要ではありませんが、いくつかのポイントを押さえておくことで、将来的な法的保護や権利を得るために役立ちます。
公的手続きで表明しておく
住民票の「世帯主との続柄」を、「妻 (未届)」として登録します。これにより、夫婦としての意識を客観的に示すことができます。
また、社会保険に第3号被保険者として登録することにより、内縁の妻として、社会保障上の扶養や権利を得る事が可能になります。
私的契約書を作成して両者で調印する
内縁の妻としての関係を証明するために、私的な契約書を作成し、両者で調印します。
なお、公的な書類として信頼性を高めるため、作成した契約書は公正証書にすることをおすすめします。
まとめ
内縁の妻とは、パートナーと法律上の夫婦ではないけれど、事実上は夫婦同然の生活をしている女性のことです。
内縁関係は、婚姻に準ずる関係として認められており、法的に保護されています。
しかし、法律上の婚姻とは異なり、内縁の妻には法定相続権がないなどのデメリットもあります。
内縁の妻としての手続きは住民票の続柄を「妻 (未届)」とすることが主なポイントです。
様々な場面で内縁関係を証明する必要があるため、公的な手続きが複雑になることが多いです。
将来的な法的保護や権利を考慮し、弁護士に相談しながら適切な手続きを行うことをお勧めします。
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