扶養的財産分与とは?離婚を考えている専業主婦は知っておきたい

離婚をする際、特に男性が外で就労し、女性は家事に従事していた場合などは、男性と女性ではまったく置かれる状況が変わってきます。主婦やパートをしていた女性には、離婚を期に経済的に悲惨な生活が待っていることも多く、それを助けてくれるのが「扶養的財産分与」です。

離婚で見える現実。婚姻費用、児童手当の請求

離婚する人は扶養的財産分与に注目! 法的な規定はない

離婚当初は子どもの養育費だけでなく、母親自身の生活費獲得も視野に

離婚をする際、子どもがいると母親は「養育費をもらわなければ」ということばかりを考えてしまいがちですが、離婚前に専業主婦だった場合などで収入がない場合、特に離婚直後は子どもだけでなく、母親自身のための生活費を得ることも視野にいれましょう。母親が家族の生活を支えるだけの収入がある仕事を持っていない場合は、子どものためにもらう月数万円の養育費と児童扶養手当等の公的扶助だけで当面の生活をしのがねばならなくなり、どう考えても普通の経済レベルの生活は営めないでしょう。

「扶養的財産分与」とは、このように夫婦の一方に経済的な不安がある場合、収入の多い方から少ない方へ財産分与の名目で行なわれる生活の援助を指します。主婦だった妻が離婚によって働きに出なければならないなど、主に妻の側に生活の不安要素が多く、妻が無事仕事に就いて生活が立ち直るまで夫がフォローをするというケースが大半です。そんな妻側の生活フォローを考えた仕組みが扶養的財産分与です。

離婚をすると夫婦間の法的な扶養義務はなくなりますが、裁判例では妻が離婚後に安定した収入を得るまでの一時的な補助として、扶養的財産分与が認められています。

扶養的財産分与を受けやすい専業主婦

ただし、この「扶養的財産分与」に関しては、法律上具体的な定めがあるわけではありません。いくら補助するか、いつまで補助するのかも、明確な定めはないのが現状です。そのため、協議離婚の場合には、扶養的財産分与を求める側の年齢や経済力、仕事のスキルがあるか否かなども踏まえながら、離婚をする当事者同士で話し合って決めることになります。

なお、協議が整わず裁判となった場合には、家庭裁判所では、婚姻中の夫婦の収入に格差があり、その状態が継続していた場合には、扶養的財産分与を認める方向となっています。そのため、専業主婦は扶養的財産分与を受けやすいということになります。

扶養的財産分与の期限は、一般的に半年~3年

今まで夫の収入で生きてきた女性が突然世の中に放り出されて、家賃から食費・もろもろの生活費まで支払える能力が、離婚直後に備わるはずはありません。新たに資格を取る期間なども含めれば、立ち直るまでに2~3年はかかるでしょう。

扶養的財産分与の期限は、一般的に半年~3年間ほどとされています。たとえばお互いの話し合いで月額5万円・期間6ヶ月と決めた場合は、財産分与に5×6=30万円を上乗せ(または毎月送金)します。扶養的財産分与の代わりとして、金銭の授受の代わりに、夫の有価証券などを譲る場合もあります。

ただし、扶養的財産分与を受ける側に十分な資産や貯蓄があったり、十分な慰謝料を受け取っていたりする場合、実家に経済力がある場合などは、扶養的財産分与を支払う必要はありません。また、支払う側に十分な収入や資産がない場合も、無理をしてまで払う必要はありません。

逆に、扶養的財産分与を受ける側が高齢であったりすると、3年よりも長い期間になる場合もあります。払う側としては、「離婚をしたら、本当は1円でも妻にお金を払いたくない」と思うのが心情かもしれませんが、事情を考えればやはり払わざるを得ないでしょう。

扶養的財産分与は必要不可欠!? 離婚後のシングルマザーに待っている生活とは

新たな職探しに奔走しても、男性のような職には就けない女性も多い

最近は男性以上の収入を得る女性も増えてきましたが、現状ではまだまだ低収入(あるいは専業主婦で無収入)の女性も多いです。離婚をしても、これまで就労していた男性は今までの仕事を続けられるので、たとえ養育費を支払っても、多くの場合、経済的にはさほど悲惨にはならないでしょう。

ところが、離婚後の女性はそうはいきません。日本では、離婚する夫婦の9割方は、子どもの親権は母親がもつため、子どもを引き取って育てるのはほとんどが女性。にもかかわらず、今まで専業主婦やパートをしていた人は、十分な生活費を得られるフルタイムの就職先を見つけるところから始めなければなりません。そして就業経験がこれまであまりなく、しかも幼い子供を育てていて時間の融通等がききづらい人を正社員で雇ってくれる会社は非常に少ないのが現実です。

ですから、離婚後の生活を成り立たせていくうえでも、扶養的財産分与のような生活を支える仕組みが自ずと必要になってくるのです。

一番厳しい状況に置かれるのは、持ち家がなく実家にも住めないケース

自分の実家に身を寄せられる人は、このような状況から回避されますが、問題は持ち家がなく賃貸住宅に住まなければならない人の場合です。家賃を工面するためにも、女性は子供の面倒をみながら、パートの仕事をかけ持ちしなければならないこともあります。例えば、「昼はスーパーのレジ、夜は居酒屋の店員」ときつい仕事をかけ持ちする人も、少なくないのが現状です。

体力的につらい仕事を終えて家に帰っても、そこには母親を求めて待っている子どもがいます。母親が家にいない間、子どもは子どもで、両親の離婚という生活の劇的な変化や寂しさに耐えられず、大きなストレスを溜めていることも多いです。大人のように感情を抑えることができない子どもは、泣き叫んで母親を困らせたり、中には非行に走ったりする子もいます。

そんな現状を打開できる方法の一つとして考えられるのが扶養的財産分与。だとするなら、離婚を決めた夫婦は子どもへの責任として、扶養的財産分与の請求と受け入れを行なうべきでしょう。

学習塾にも通わせられず、食べる物にも困る生活

両親が揃っていれば入れてあげられたはずの、スイミングスクールや学習塾にも通わせてあげられず、日々の食べる物に苦労をする家庭すらあります。「何とかして子どもを育て上げなければ」と母親は必死になりますが、自分の服や化粧品を買うゆとりは、もはやありません。

子どもの学力は低下し、家の中は荒れ放題。その時になって女性は、「今までよりもっと幸せになるために離婚したのに、こんなはずではなかった」と悔やむことになるのです。これはけっして大げさな話ではなく、貧困家庭の6組に1組と言われるシングルマザー家庭の、赤裸々な現実です。

離婚を決める夫婦はご自身らの意思で事を運べるものの、扶養されている子どもには、自らの生活を決定できる自由がほとんどありません。ならば、せめて人並みの生活を送れるよう扶養的財産分与を行なうのも一つです。

扶養的財産分与を支払う側の男性。離婚ダメージ少なく収入を維持

もともと仕事を持つ男性には、生活面での支障は少ない

一方の男性はというと、もともと妻に家事や育児を任せて続けてきた仕事へのダメージがあるわけでもないので、離婚後も同じ職場で働き続けます。養育費の支払いがあるにせよ、無職やパート職だった妻の収入に比べれば、使えるお金には雲泥の差があるでしょう。

でもここで大事なことは、男性が婚姻中に仕事を続けてこられたのは、妻の家事や育児による援助があればこそだったということです。そのことを忘れて、「離婚後は自分の力でなんとかしろ。これまでだって、俺の稼ぎで食べさせてやった」などと考える男性がいたとしたら、お門違いもはなはだしいところでしょう。

妻は、扶養的財産分与を請求できる権利を十分に持っているのです。

収入面だけでなく、離婚時の財産分与でも不利な立場にある女性

ところが、この「扶養的財産分与」に関しては、まだまだ世の中の認知度の低さが目立ちます。「離婚後まで元妻の面倒を見なければならないなんて、あり得ない」と考える男性もいて、離婚協議でもめるケースが少なくありません。

しかし夫婦が共に仕事を持って働いていた場合ならともかく、夫の側だけに収入の糧が偏っていた場合、シッポを切るように妻への援助をカットしてしまうのは社会的にも問題でしょう。事実、現在でも扶養的財産分与を受けられていない貧困に喘ぐシングルマザー家庭では、「子ども食堂」や「フードバンク」などの食事施設を利用しなければならないほど状況がひっ迫しています。

もともと日本には、「男性は働き、女性は家を守る」という風土があり、通帳や有価証券・土地建物などの名義は男性のものになっているケースも多いです。そのため、離婚の可能性があると男性は財産隠しなどを行う場合もあり、シングルマザーは自分の収入面だけでなく、財産分与の面でも非常に不利な立場にあります。さらに仮に養育費まで満足に支払われていない場合だと、離婚後の男女の生活格差は、いかばかりでしょうか。

これから離婚を考える女性は、そうした日本の現状を良く考えて、未来の自分や子どもたちが不幸にならないよう慎重に行動すべきでしょう。

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