離婚で年金分割しないとどうなる?実例を交えて解説
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年金を考えずに離婚し、下流老人となったAさんの場合
「年金分割を放棄しろ」と言われて、承諾してしまったAさん
Aさんは元専業主婦。サラリーマンの元夫との間に2人の子どもがいて、Aさんは家事と子育てに専念する日々を送っていました。やがて子どもたちが自立したとき、Aさんはまったく心の交流のない夫との生活に不満を感じ、離婚を考え始めました。
夫に「離婚したい」と話したところ、「俺に何の非もないのに、離婚したいというのはおまえの我がままでしかない。それでも離婚したいなら、財産分与として500万円だけは渡す。年金分割は放棄して、この家から出て行け」と言われ、Aさんは「500万円もらえるなら」と、思わず承諾してしまったのです。夫はすぐに離婚協議書を作成し、Aさんはこれを認めました。
正社員の仕事は見つからず、パートをしながらギリギリの生活
その時、Aさんは52歳。ずっと専業主婦だった人間がこれから仕事をするには、あまりにも歳を重ね過ぎていました。しかしAさんには、財産分与として譲り受けた500万円があります。「いざとなればこれを使って生活する」と、その時は安易に考えていたのです。
離婚後、Aさんは必死で仕事を探しましたが、正社員として雇ってくれる所はありませんでした。仕方なくAさんは飲食店のパートを始め、安いアパートに暮らしながら、ギリギリの生活を送ることになったのです。
60歳になって感じる、老後への言い知れない不安
やがて8年後、Aさんは60歳になり、身体に不調を感じ始めていました。パートの日数も減らし、月収はわずか10万円ほど。これで家賃を払いながら生活をするのは、非常に厳しい状況でした。貯金を切り崩しながら生活をしていたので、500万円あったはずの貯金も、今では200万円に減っていました。
「今はまだ働けても、身体が動かなくなれば生活保護を受けるしかない。でも、生活保護を受けて暮らすのは、やっぱり屈辱を感じる。もしあのとき年金分割を放棄しないで、何とか話し合って半分をもらっていたら、今の収入くらいは確保できたかもしれないのに」と、心から後悔するAさんでした。
2007年からスタートした「年金分割制度」
「離婚後の妻にも年金が受けられるように」と、設けられた制度
年金分割とは、離婚するにあたって夫婦の年金を分割するという制度のこと。2007年にこの制度がスタートするまでは、離婚をすると年金はすべて夫のものになってしまうことが多く、離婚後の妻は悲惨な老後を強いられるケースが数多くありました。年金分割制度ができたことで、妻にも年金の半分をもらう権利が生まれ、老後の年金を受給することができるようになったのです。
ただしAさんのケースのように年金分割を請求しない約束をし、離婚協議書に記載されてしまうと、年金はもらえなくなってしまいます。離婚する際は、くれぐれも不用意に分割放棄などしないように気をつけましょう。
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年金分割の割合については、話し合いが必要
【例外】2008年4月以降に結婚した専業主婦は、手続きが簡単
2008年4月以降に結婚した専業主婦の人が離婚をする場合は、手続きは極めて簡単です。夫との話し合いは必要なく、自分で年金事務所に出向いて手続きをすれば、それで年金分割の一件は落着します。
2008年4月以降に結婚した専業主婦の人が離婚をする場合は、手続きは極めて簡単です。夫との話し合いは必要なく、自分で年金事務所に出向いて手続きをすれば、それで年金分割の一件は落着します。
年金分割制度がスタートしたのは2007年ですが、その時点では双方の話し合いがなければ分割割合は決められませんでした。それが2008年になって、「妻が第3号被保険者(専業主婦など)の場合に限り、自分で年金分割請求の手続きをすれば50%の分割が受けられる」という内容に変更になったのです。
ほとんどの人は「合意分割」のための話し合いが必要
しかし実際には、2008年以降に結婚した専業主婦の人が離婚をするケースというのは、そう多くはありません。ほとんどの人は、「合意分割」というワンステップを踏む必要があります。
話し合う内容は、“年金分割の割合”についてです。もしも妻が結婚後に厚生年金を払って働いていた場合は、夫の年金と妻の年金の両方が分割の対象になりますし、夫が妻に扶養されていた場合は、妻の年金分割分を夫が受け取るというパターンもあり得ます。
今は共働きの夫婦も多いので、この分割割合の話し合いは、意外と複雑になる可能性もあります。長寿社会にあって、高齢になってから無期限で受給できる年金の価値は、ある意味養育費や慰謝料などよりも高いと言えるかもしれません。
分割割合に不服があれば、裁判に進むことも
年金分割割合の話し合いがまとまれば、あとは二人で年金事務所に出向き、年金分割請求の手続きをすれば完了です。その際は、お互いが分割に合意したことがわかる「公正証書」や「離婚協議書」なども必要となります。
「離婚をすると自動的に年金の半分をもらえる」と誤解している人もいるのですが、実際にはこの手続きを踏まないと、特別な場合を除いて年金分割分を受給することはできません。
もしも分割割合に不服があれば、調停や審判・裁判に進むこともあります。その場合、ほとんどは「50%」で落ち着くとか。でも、たとえば夫が自営業で、妻が会社員だった場合などはどうなるのでしょうか?分割割合に関する裁判はまだ日が浅いので、これからいろいろなパターンが出てくるかもしれませんね。
年金分割請求の期限は2年以内!
離婚後は早めに年金事務所で手続きを
年金分割請求の期限は、2年以内と定められています。家庭裁判所に申し立てればまだ間に合う可能性もありますが、それは非常に危険なことと言えるでしょう。
忙しさにかまけて年金分割の手続きを怠ってしまい、いざというときに本当に年金がもらえなくなってしまったら、老後はいったいどうなるでしょう?想像してみると、それがいかに怖いことかわかります。「老後なんてまだまだ先の話だから」などと考えず、早めに年金事務所に行って、手続きを済ませることが大切です。
「年金の半分をもらえる」という言葉のからくり
実は、もらえるのは「報酬比例部分」だけ
ここで気になるのが、「年金の半分をもらえる」という言葉の意味です。「純粋に年金受給額の半分でしょう?」と思う人もいるかもしれませんが、実際はそうではありません。
ちょっとわかりにくい話になりますが、年金の仕組みは2階建ての1軒家のようになっていて、1階は「基礎年金」、2階は厚生年金や共済年金などの「報酬比例部分」になっています。そのうち、分割の対象となるのは、2階の「報酬比例部分」だけなのです。「2階建ての1軒家をもらったと思っていたら、そのうちの2階部分しかもらえなかった」といった感じです。
たとえば夫が自営業で国民年金を払っていた場合は、1階部分しか払っていないので、年金分割はゼロということになってしまいます。
婚姻中の年金額だけが対象となる
また、「夫の受け取る年金を半分ずつに分ける」と誤解している人もいるのですが、これもまた勘違いです。年金分割の対象となるのは、結婚していた期間だけ。たとえば10年間結婚していた人が離婚した場合は、10年間分の年金額だけが計算の対象となります。
こうして考えると、「年金の半分をもらえる」といっても、そこまで多い額ではないことが想像できるでしょう。50歳以上になると、年金事務所で年金見込額を教えてもらうことができますが、それより若い人でも一度相談してみると良いかもしれません。
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