奨学金が返せないという理由で自己破産はできる?奨学金破産は更に増加の恐れも
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奨学金の返済困難による自己破産が社会問題に
ここ数年間、奨学金を返せずに自己破産する若者が増えて社会問題となっています。
ニュースや国会答弁などでも頻繁に取り上げられているので、耳にしたことのある方も多いでしょう。
実際にどのくらいの人が奨学金を理由に自己破産しているのか、なぜ奨学金を返せない若者が増えているのかなど、奨学金を巡る現状をみてみましょう。
奨学金借入の現状
約半数の学生が奨学金を利用!
労働者福祉中央協議会が公表した資料によると、2018年において「学生時代に奨学金を利用した」人(39歳以下)の割合は46.9%に達しています。
39歳以下の若年層では約半数の人が奨学金を利用して大学や大学院に通っているといえるでしょう。
返済が必要な奨学金を利用している人が多い!
利用されていた奨学金の種類は「有利子(日本学生支援機構)」が41.2%に及びます。同じ日本学生支援機構で「無利子」のタイプが30.1%です。
多くの方が「返済が必要な有利子または無利子の奨学金」を利用しているといえるでしょう。
借入総額
奨学金の借入総額は、平均324.3万円となっています。また借入総額が500万円以上となっている割合は12.4%にも及びます。
参考:2019年3月「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査」調査結果の要約(労働者福祉中央協議会)※PDFファイル
つまり、学校を卒業するとともに300万円、500万円という「借金」を背負い、返済していかねばなりません。
大学院生の4割が300万円以上の借金を負担しており、博士課程を修了した場合には6割が額資金を借り入れているというニュースも報道されたことがあります。
参考:大学院生、4割が借金300万円超えの現実 奨学金が返せず自己破産も
新卒ではそう高い給料も見込めません。奨学金を返せない若者が増えてもやむを得ない状況といえるでしょう。
奨学金を苦にした自己破産の状況
実際に奨学金返済を苦にして自己破産している方は、どのくらいいるのでしょうか?
日本全体における自己破産の件数、割合
まず日本全体における自己破産の件数をみてみましょう。
近年では、7万件程度で推移しています。日本の人口が約1億2600万人なので、割合的には0.05%程度となります。
参照:個人の自己破産申立件数の年別推移(金融庁資料)※PDFファイル
奨学金を苦にして自己破産する件数、割合
奨学金を理由に自己破産する人の数や割合については、奨学金運営者である「日本学生支援機構」がデータを元に声明を出しているので、参照しましょう。
平成24年(2012年)から平成28年(2016年)の間に自己破産によって奨学金を免除してもらった人の人数(件数)は以下のとおりです。
本人 | 8,108件 |
---|---|
連帯保証人 | 5,499件 |
保証人 | 1,731件 |
平成28年に限ると、返還者本人の自己破産件数は2,009件となっており、これは全体の0.05%です。
つまり「奨学金によって自己破産する人の割合は、日本全体の自己破産の割合と同程度」といえます。特に奨学金によって自己破産する人の割合が高い状況とはいいにくいでしょう。
日本学生支援機構は、このことから「奨学金が直接自己破産の発生につながっているわけではない」と述べています。
参考:奨学金返還者の自己破産に関する報道について(日本学生支援機構)
確かにデータを見る限り「奨学金による破産件数が日本全体の破産件数を押し上げている」とか「奨学金による破産者が一般より特に高い」とはいいにくい状況です。
奨学金はどのくらい返済が必要?具体例でシミュレーション
実際に奨学金を借りると、どのくらい返済の負担が発生するのでしょうか?
大学生が第二種奨学金(貸与)として500万円を借りた場合を基準にシミュレーションしてみましょう。貸与利率は令和2年9月における「0.16」を適用し、機関保証は利用しないものとします。
20年間、月2万円の返済。大学院卒なら月3万円以上の負担になるケースも
※日本学生支援機構「奨学金貸与・返還シミュレーション」にて試算
2022年4月から返済を開始する場合には月額21,185円ずつの返還が必要となり、支払終了時期は2042年3月までとなります。
大学を卒業してから20年もの間、毎月21,185円を返済し続けなければなりません。
もしも大学院や私大理系学部などに通って借入金額が800万円になれば、月の返済額は3万円を超えます。
新卒で就職できなかったり低賃金の職業にしか就けなかったりすると、若者にとっては大きな負担となることが明らかです。
子どもが奨学金で自己破産すると請求は保証人の親や親族へ
奨学金を返せない若者が破産すると、本人だけの問題では済まされません。多くのケースでは、親が「連帯保証人」になっているからです。連帯保証人は、本人が借金を返さない場合に代わりに返済しなければなりません。子どもが奨学金を返せなければ、日本学生支援機構は連帯保証人である親へと残債を一括請求します。親にも余裕がなく返済が難しければ、親子もろともに破産しなければなりません。
実際に、800万円もの奨学金返済が重荷となって子どもが破産し、連帯保証人となっていた父親もともに破産したケースもあります。
参考:奨学金800万円重荷「父さんごめん」 親子で自己破産(朝日新聞デジタル)
30歳になる娘が400万円の奨学金を返済できず、定年退職した父親がやむなく返済、という事例もあります。
奨学金破産を生む社会背景
今奨学金を返済できない若者が増えているのは、以下のような社会背景も要因となっています。
学生の就職難
1つには、学生の就職難です。近年もIT企業の活況などを背景に一時期は「売り手市場」となっていましたが、さらにその前には学生が正規雇用につきにくい氷河期時代がありました。
当時、学校を卒業した学生たちは給料を充分にもらえる仕事に就けず、奨学金返済の負担に苦しむことを余儀なくされたのです。
また、2020年現在では、就職市場の先行きが不透明なこともあり、再度、学生が就職しにくい時代が来る可能性も見込まれます。
非正規雇用の増加
2つ目は、非正規雇用の増加です。
日本では長らく「正社員の終身雇用制」が当たり前のように続いてきましたが、近年ではその常識が崩壊しています。派遣社員、契約社員、アルバイトなどの雇用形態が増えたため、若者の就業環境が不安定となっているのです。
非正規雇用は正社員に比べて低賃金なケースも多いですし、何かあったときには解雇、雇い止めのリスクも高まります。
非正規雇用の若者が増えたことも、奨学金破産の一因となっています。
親子両世代に渡る収入減少の傾向
一世代前では、子ども世代にお金がなくても「親世代」がお金を持っているケースが多々ありました。すなわち今の「高齢者世代」は比較的余裕のあるケースが多いのです。高度経済成長期にお金を貯めたことや節約志向などもあり、余裕のある老後を迎えています。
ところが今の「親世代」にはお金があまりありません。子どもが苦しいとき、親が助けるのも困難となっているのです。子どもは親も頼れないので、結局は自己破産する選択肢しかとれません。
奨学金破産予備軍は増加の見込み
今年は世界全体で不況の傾向にあり、企業の倒産が増大すると、ますます雇用は不安定となります。今はたらけている人も職を失うケースも想定され、奨学金破産の「予備軍」が、どんどん増えていくことも予想されます。
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奨学金破産する前に取るべき対処法
奨学金の返済が難しくなったら、破産する前に以下の制度を利用してみてください。
日本学生支援機構の返還免除・減額・猶予制度を利用する
日本学生支援機構では「返還免除」「返還期限猶予」「減額返還」の3種類の方法が用意されているので、まずは要件に該当しないか確認しましょう。
返還免除制度
奨学金を借りた本人が死亡したときや、精神・身体の障害によってはたらけなくなった場合には、奨学金の一部や全部を免除してもらえます。
また2004年3月31日以前に大学院の「第一種奨学生」に採用されて奨学金を借りた人は、教育や研究職に就いて所定の要件を満たすと返還を免除してもらえます。
返還免除制度を利用するには、日本学生支援機構への申請が必要です。何もしなければ償還を督促されてしまうので、該当する場合には、早めに機構へ連絡して手続を済ませましょう。
返還期限猶予制度
病気やけが、失業、災害などの事情によって奨学金の返済が難しくなった場合には、返済を一定期間停止して先送りにしてもらえます。
ただし返還期限猶予制度では「支払を先延ばしにする」だけであり、元金や利子は減額されません。
減額返還制度
病気やけが、失業、災害などの事情によって奨学金返済が難しくなったとき、一定期間返済額を減らしてもらえる制度です。具体的には月々の返済額が2分の1または3分の1に減ります。
ただ返済総額を減額してもらえるわけではありません。減額された分は、将来にわたって返済しなければならないので注意しましょう。
また減額返還制度を適用するには、「延滞していない」ことが要件となります。支払が難しいと感じたら、延滞してしまう前に日本学生支援機構へ相談してみてください。
他の奨学金制度の場合も救済制度の確認を
日本学生支援機構以外の奨学金でも、返済困難な方を救済する仕組みが用意されているケースが多々あります。諦める前に、一度運営事務局へ状況を話して相談してみてください。
生活費、家計の見直し
破産を選択する前に、家計を見直してみるのも1つの方法です。
無駄な支出があるなら、節約によって返済資金を生み出せるでしょう。
- スマホをキャリアから格安スマホに替える
- 遊興費を減らす
- 浪費を控える
- 車を手放す
- 生命保険を見直す
- 1人暮らしの方は実家に戻る
上記のような工夫で生活や返済を楽にできる可能性があるので、一度検討してみてください。
奨学金以外の借金・債務を圧縮する
生活が苦しくて奨学金以外の負債がかさんでしまった方は、それらの負債を「債務整理」する方法がオススメです。
- 消費者金融のキャッシング、リボ払い
- クレジットカードのキャッシング、ショッピング
- 銀行カードローン
こういった負債は、弁護士に相談すれば債務整理によって減額・免除してもらえます。
任意整理
任意整理であれば、奨学金の返済は続けつつ他の負債だけを減額できます。
たとえば奨学金返済が2万円、他の消費者金融等の借金返済が5万、月7万円返済しているとしましょう。
任意整理をすると、他の消費者金融等の借金返済額2万円程度に抑えて、月4万円の返済額にできる可能性があります。そうすれば、自己破産しなくても何とかやっていける方が多いでしょう。
個人再生
奨学金自体の支払が苦しいときには、個人再生が有効です。個人再生をすると奨学金を元本ごと5分の1程度にまで減額してもらえます(ただし100万円以下には減額されません)。500万円の奨学金を100万円にしてもらえたら、返済していける方が多いでしょう。800万円の奨学金なら160万円にまで減額してもらえる可能性があります。
住宅ローン返済中の方は、家を守りながら奨学金などの他の借金のみ減額してもらえる特則を利用できます。家を失わないのも大きなメリットとなるでしょう。
個人再生後の返済期間は3年程度なので、場合によっては20年かかる奨学金返済を3年で終わらせることも可能です。
奨学金以外の借入があるなら、早めに弁護士に相談してみてください。
奨学金破産回避のために知っておきたい基礎知識
奨学金破産を避けるには、以下のような知識を持っておくと役に立ちます。
奨学金は「機関保証」を選ぶ
日本学生支援機構の奨学金には「機関保証」という制度があります。
機関保証とは、専門の保証機関が奨学金の保証人となってくれる制度です。
機関保証を利用すると、親や親族の連帯保証人や保証人を立てる必要がありません。
将来、本人が奨学金を返せなくなった場合でも、親に迷惑をかける心配がないのです。保証人になっていない以上、親には返済義務が及びません。親が同時に破産するリスクを避けられます。
確かに機関保証を利用すると、月々の返済額が上がるデメリットがあります。ただ、将来の危険を考えると、少し返済額を上げてでも機関保証を利用する方が安心といえるでしょう。
これから日本学生支援機構で奨学金を借りるなら、機関保証を利用してみて下さい。
「保証人」の返済義務は「半額」だけ
日本学生支援機構の貸与制の奨学金を利用するときには、「連帯保証人」と「保証人」の両方を立てなければなりません。
連帯保証人は、主債務者(借りた本人)と同等の返済義務を負う保証人です。一方保証人は、自分の保証すべき負担割合のみ負担する保証人です。
そして、通常の「保証人」の負担割合は「本人の2分の1」とされています。
そこで本人が返済を滞納したとき、保証人は「未返還額の半額」のみ支払えば良いのです。本人や連帯保証人と違い「未返還額の全額の返還」をする必要はありません。
近年、日本学生支援機構が「保証人」に対してまで「未返還額の全額返還」を要求して問題になったケースもありました。保証人が「払いすぎた負債」の返還請求をした事件が話題になった経緯があります。
今後はそういった問題は起こらないと予想されますが、万一「保証人」なのに全額返還を求められたときには、「半額しか払いません」とはっきり断ると良いでしょう。
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奨学金による自己破産は、弁護士に相談して慎重な判断を
奨学金を返せないとき、とりうる手段はたくさんあります。
生活費の見直しなどによって何とか返済を継続できそうであれば、自己破産などの債務整理をする必要はありません。病気、けが、災害、失業などの事情があれば、奨学金の減額返還制度や返済猶予制度を利用して解決できる可能性があります。そういった対応が難しくても、奨学金以外の負債を任意整理したり、個人再生で奨学金自身を大きく減額してもらったりすれば、解決できるケースが少なくありません。
自分ではベストな対処方法がわからない場合には、専門家に判断してもらうと安心です。債務整理や借金問題に熱心に取り組んでいる弁護士であれば、あなたの悩みや状況を聞いて、適切な対処方法をアドバイスしてくれるでしょう。
いったん奨学金を滞納してしまったら、減額返還などの方法を利用できなくなったり、連帯保証人や保証人に督促されたりするので不利益が大きくなってしまいます。奨学金を返せなくて困っている方は、早めに債務整理に積極的に取り組んでいる弁護士に相談してみてください。
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