破産障害事由とは~自己破産手続き開始を妨げ、破産決定しないケース

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佐々木 光嗣弁護士

破産障害事由

自己破産は自分の好きなタイミングで利用できる手続きではありません。

裁判所からの許可をもらって、はじめて借金の支払い義務をなくすことができるのです。そして、自己破産手続きを進める決定をもらうには、破産障害事由に該当しないことが条件となっています。

今回は、そんな破産障害事由について具体的に見ていきましょう。

破産障害事由とは?

自己破産という手続きは、裁判所に自己破産の申立てをし、申立てが認められて初めて実際の手続きへと進んでいきます。その後、破産手続開始決定を経て、免責決定(返済の法的義務がなくなる決定)が確定することで終了します。

自身で宣言するとか、もしくは専門家に「自己破産します」と依頼をするだけで、自動的に借金の支払い義務がなくなる手続きではないのです。必ず裁判所が関わってきます。しかし、裁判所に申立てをしたからといって必ず認められるわけではなく、事情次第で自己破産手続き自体を認められない場合もあるのです。

こういった事情のことを「破産障害事由」といいます。

自己破産が認められないと困る…

では、なぜ自己破産を認めないケースが現実にあるのでしょうか?

お金に余裕がなくて自己破産を申し立てているのだから、裁判所に一方的に認めないと言われても困ってしまいます。しかし、破産手続きは、債務者の財産を処分するという点では債務者に不利益を与えるものであるとともに、債権者に破産手続き外での権利行使を認めないという意味では債権者に不利益を与えるものでもあるのです。このように、債務者と債権者の利益を調整する重大な手続きであることから、安易な気持ちで利用するようなものではないでしょう。

破産手続きは最後の手段である

それゆえ、自己破産という手続きは慎重に判断されなければなりません。

このような観点から、破産手続きの開始原因である「支払不能」という状況がある場合であっても、必要なお金が納付されない場合とか、破産手続きが不当に利用されそうな場合であるとか、破産手続きに優先する債務整理手続きを進行させる場合など、個別に「破産障害事由」が定められ、無意味な形で破産手続きが進行してしまうことを防止しているのです。

どういった事情が破産障害事由に該当するのか?

では、具体的にどういった事情があると破産障害事由に該当するのでしょう。

主には以下の3つのケースがあります。

  1. 自己破産の予納金を納められない
  2. 自己破産申立が権利濫用に該当する
  3. 自己破産以外の倒産手続きが申し立てられた

それぞれ詳しく見ていきましょう。

自己破産の予納金を納められない

自己破産は一切お金をかけずに行える手続きではありません。

「予納金」といって、裁判所にお金を納めなければならないのです。具体的には、官報への掲載費用(1万円ほど)、収入印紙(個人の場合は1500円)、切手(数千円ほどで裁判所によって違いあり)となっております。

また、一定以上の資産がある場合は、自己破産の手続きの進行は破産管財人が行うことになるため、破産管財人に対する報酬に相当する費用(最低で20万円)も支払わなければなりません。これが思っていた以上に高額で、現実に一括での支払いができず、積み立てを利用しながらなんとか予納金を用意するという方もいらっしゃるのです。

申立てだけは出来たとしても・・・

なお、自己破産申し立ての際、追完(追加で納めること)を理由に、その場で申立てだけは出来る場合があります。収入印紙さえ貼付してあれば、とりあえず受理だけは裁判所もしてくれるのが通常の運用です。
しかし、その後、予納金が納められなかったとなれば、破産障害事由に該当するとし、破産手続き自体を認めてもらえなくなります。予納金は必ず納めなければなりません。

破産申立てが権利濫用に該当する

上記ですでに説明したように、自己破産は自身にとっては人生をやり直せる手続きであるという側面はありますが、公正に利用されるべきものです。よって、権利濫用に該当する場合は、破産障害事由に該当するとし、裁判所は破産手続きを認めていません。

自己破産の権利濫用とは?

ここでの権利濫用を簡単に言えば、本来なら破産すべきでないにも関わらず、破産できる権利を盾に申立てをする行為です。破産は誰にでも申立てできる手続きではありますが、権利濫用に該当する場合、手続きの利用は認められません。

たとえば、債権者が債務者に対する嫌がらせの目的で行う申立て(破産は債権者からも申し立てることができます)や、債務者が真に破産手続きを行う意思がないのに申立てを行った場合です。

上記はかなり極端な例ではありますが、破産手続きは裁判所が関与する公的な手続きである以上、不当な目的で破産を利用すべきではないとされています。

自己破産以外の倒産手続きが申し立てられた

一方で、借金整理の方法はなにも自己破産だけではありません。

上記で触れた任意整理は裁判所での手続きではありませんが、債権者との交渉によって、毎月の返済負担を軽くすることができます。個人再生は裁判所を利用した手続きになりますが、借金の一部を免除してもらえるため、こちらも返済負担軽減が期待されます。

こうした別の解決策がある以上、裁判所を利用する個人再生の申立てと自己破産の申立てが平行された場合、優先されるのは一部の免除を検討する個人再生となります。この場合、自己破産はたとえ手続き中であっても、一旦中止される取り扱いです。裁判所の手続きには優先順位があるのです。

企業の倒産手続きは多数ある

また、個人の方にとってはあまり馴染みのない手続きになってしまいますが、申立人が会社といった法人の場合、倒産手続きは自己破産だけではありません。

民事再生や特別清算、会社更生といった手続きもあります。こうした手続きが平行されると自己破産の手続きは中止されることになっています。その後、中止の理由となった手続きの認可決定などが出た場合、いったん中止されていた自己破産手続きは失効によって終了します。

破産障害事由が認められてしまったら

もし、破産障害事由が認められてしまったら、自己破産することはできません。しかし、今後二度と自己破産ができないというわけではありません。
障害となった事由を解消することで、再度の申立をすることが可能です。

破産障害事由を解消する方法

上記、②と③の場合は破産障害事由を解消するのは簡単ではありませんが、1のケースであればそれほど深刻になることはありません。
自己破産の予納金が納められないのであれば、納められるようになってから自己破産を申し立てれば問題ありません。自己破産には期限があるわけではないため、いつまでに申し立てをしなければならないといったルールはないのです。

強制執行にだけは要注意

しかし、あまり返済が滞っていると債権者から裁判を利用した請求をされるおそれがあり、最終的に強制執行(給与や銀行口座の差し押さえ)される可能性があります。強制執行をされてしまえば、予納金の納付がさらに遅れ、悪循環に陥ってしまうため常に注意していなければなりません。

では、具体的にどういった方法で強制執行は回避できるのでしょうか?

自己破産は弁護士に依頼する

もっとも効率的なのが、弁護士に依頼するという方法です。

弁護士に依頼をすると、貸金業者は弁護士を交渉の窓口にしなければなりません。これは貸金業者によって不利なようにも感じられますが、本人と連絡がつかずに音信不通になるケースを避けられる(弁護士なら電話が繋がる)ことから、焦って裁判手続きを利用する理由がなくなります。日ごろから連絡の取れない債務者がいる中で、とりあえず連絡が付けば満足という貸金業者は多くいます。その間に予納金を準備してしまいましょう。

強制執行には手間も時間もかかる

次に、強制執行というのは容易な手続きではありません。
裁判などを経由して「債務名義(判決などのこと)」を取得した後、対象の銀行や就業場所に執行裁判所を通じて通知を送るなど、数々の手間がかかります。
さらに、銀行口座や就業場所を把握している必要もあります。

自身の情報は可能な限り漏らさない

とはいえ、これを裏返せば銀行口座や就業場所を把握されていなければ強制執行のおそれは限りなく低くなるということです。また、銀行口座であれば普段からお金を預けておかなければ差し押さえられるおそれもありません。しかし、その気になれば調査される可能性は十分もあることから、予納金はなるべく早いうちに用意できるように心がけましょう。

この記事の監修弁護士
弁護士法人札幌パシフィック法律事務所

札幌市中央区にある「札幌パシフィック法律事務所」の弁護士、佐々木光嗣です。私はこれまで、前職までの事務所を含めて5,000件以上の債務整理に関する相談実績があります。債務整理に特化した大手事務所での経験もあり、豊富なノウハウを生かして借金問題に悩む方に最適な債務整理の方法をアドバイスしていきます。

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