養子離縁とは?配偶者の連れ子との養子縁組を解消する手続き方法と注意点
養子離縁とは、結婚相手の連れ子との養子縁組により成立した法律上の親子関係を解消するための手続きです。離婚時にこの手続きを怠ると、扶養義務や相続権の問題が残り、不都合が生じる可能性があります。
本記事では、養子離縁の重要性とその具体的な効果、そして手続き方法について詳しく解説します。
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養子離縁とは?養子縁組の解消による効果
養子離縁とは、養子縁組を解消することをいいます。養子縁組によって法律上の親子関係が成立しているので、それを解消するための手続きが養子離縁です。
離婚した際、同時に養子離縁の手続きをとらなければさまざまな不都合が生じることとなります。以下、くわしく解説します。
連れ子と養子離縁をしないとどうなる?生じる不都合
「妻(夫)と離婚したら当然に相手の連れ子とも縁が切れる」と誤解されている方が多いのですが、養子離縁をしなければ、さまざまな義務が残ったままとなります。
なぜなら、養子縁組によって養親と養子は法律上の親子となっているので、離婚したからといってその親子関係が同時に消滅することにはならないからです。
養子縁組が成立することによって、▽養親は養子を扶養する義務を負い(民法877条1項)、▽養親と養子は互いに相続権を持つ状態となっています(民法887条、889条1項1号)。
したがって、養子離縁をしなければ以下の2つの不都合が生じます。
扶養義務から解放されない
養子離縁をしなければ、養親は養子を扶養する義務から解放されません。たとえば、元配偶者が養育費を請求してきたら、収入に応じた養育費を払わねばなりません。
支払いを拒んだとしても、養育費請求の調停を申し立てられたら、相場に見合った金額を支払わなければなりません。
さらに、養子が成人した後も、養子が生活に困り扶養料を請求してきた場合には、支払わなければならない可能性があります。
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相続権が消滅しない
養子離縁をしなければ、養親の遺産は養子に相続されます。
トラブルが顕在化するのは養親が再婚して子ども(血縁関係上の子ども)ができた場合です。
養子離縁をしていなければ、養親が亡くなった場合、養子と実子が同等の相続分を享受してしまいます。子どもはみな平等。養子だからといって相続分が減らされることはないのです。
亡くなった養親の相続人が複数いる場合の遺産分割では、養親の配偶者と養親の実子、養子の全員が法定相続人となり、遺産分割協議をしなければならないので、合意形成は極めて難しくなるでしょう。
遺言書を作成すれば配偶者や実子にすべての遺産を相続させることも可能ですが、養子には「遺留分」(相続分の最低保障)が確保されているの、遺留分を請求される可能性もあります。
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以上のとおり、養子離縁をしなければ、
- 扶養義務から解放されない
- 相続権が消滅しない
という不都合があるのです。
連れ子と養子離縁した場合の効果
養子離縁すればその不都合は解消されます。これまでの記述の裏返しとなりますが、養子離縁をすると以下の効果があります。
扶養義務の消滅
養子離縁が成立すると、もはや養親は養子を扶養する必要はありません。
法律上は、養親と養子は赤の他人となるので、養親は扶養義務から解放されます。
相続権が消滅する
また、養子の相続権も消滅します。養親が再婚して子ども(血縁関係上の子ども)が生まれた場合は、養親が亡くなったとしても配偶者および実子にのみ相続させることが可能となります。
連れ子と養子離縁した場合の氏名等
養子離縁が成立した場合、名前や戸籍にも変動が生じます。
養子の名字
養子離縁した場合、養子の名字は基本的に養子縁組前の名字に戻ります。
ただし、養子縁組から7年が経過していれば、離縁から3か月以内の届出によって、養子縁組時の姓を名乗ることもできます。
養子の戸籍
養子縁組中、養子は養親の戸籍に入っています。養子離縁した場合、養子は養親の戸籍からは抜けるため、元の戸籍に戻るか、新しい養子のみの戸籍を編成するか選びます。
この取り扱いは、夫婦が離婚したときの妻の戸籍の扱いと同様です。
養親の戸籍
養子離縁した場合、養親の戸籍に入っていた養子が抜けるため、戸籍には「○月○日養子縁組解消」と記載されます。
養子縁組解消(離縁)の手続き方法
養子離縁するためには、以下の4つの方法があります。
協議離縁
これが基本的な方法です。養親と養子(またはその代理人)が話し合いにより離縁の合意に達した場合に成立します。
協議離縁の場合、家庭裁判所の関与は不要で、双方の合意だけで養子離縁が成立します。その後、離縁届けを市役所に提出します。
調停や裁判にもつれ込むと時間も手間もかかるので、基本的は粘り強く話し合って養子離縁の合意をとりつけましょう。
相手が協議での養子離縁に応じない場合は、以下の方法を試みることになります。
調停離縁
調停離縁とは、養親と養子が協議による合意に達しない場合に、家庭裁判所の調停を利用して話し合いを行うことです。
調停委員会が間に立ち、双方の意見を調整しながら合意に達するよう進めてくれます。調停が成立すれば、離縁が成立します。
ただ、調停は裁判と異なり、相手の同意が必要なので、最終的には相手が同意しないと離縁できないこととなります。
調停が成立すると、調停調書が作成されます。その調書を役所に提出します(調停成立の日から10日以内に行う必要あり)。
審判離縁
調停において「離縁を認めるのが相当」と判断されるケースでは、審判によって離縁が成立するケースもあります。
たとえば、調停でおおむね離縁することに合意できているのに、相手が諸事情で裁判所に来られなくなったなどです。
審判が成立したら、自宅に審判書が届きます。当事者双方が審判書を受領してから2週間が経つと審判が確定します。
その後、裁判所に申請をして確定証明書を入手し、審判書と確定証明書を役所に提出します。
裁判離縁
養子離縁の調停が不成立となった場合、離縁を求める裁判を提起します。
なお、離縁を求める裁判は、基本的には調停を経る必要があります(調停前置主義)。調停をせずにいきなり訴訟を提起することはできません。
裁判で養子離縁を認めてもらうためには、以下の離縁事由が必要です。
- 相手から悪意で遺棄された
- 相手が3年以上生死不明
- その他、縁組を継続しがたい重大な事由がある
最後の「縁組を継続しがたい重大な事由」とは、たとえば、連れ子が養親にひどい暴力を振るう場合などがあたるでしょう。
単に「養子に相続させたくない」「親同士が離婚した」という理由だけで離縁を認めてくれない可能性が高いです。
最終的には裁判という手段があるのですが、離縁裁判で上記の離縁事由を立証する必要があるのでを相当ハードルが高くなります。
したがって、できれば協議か調停で離縁を成立させることがベストです。
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養子(養親)と連絡を取れない場合
養子離縁について、養子や養親と協議したくとも連絡がとれない場合があります。
そういう事態に陥った場合には、以下の手順を踏みましょう。
住所を調べる
養親であれば、子どもの「戸籍附票」を取得できる可能性があります。
附票には養子の現住所が記載されているので、その住所へ手紙などを送りましょう。戸籍附票は「戸籍の本籍地のある役所」で申請することで発行可能です。
ただし元妻が離婚後に連れ子の籍をあなたの戸籍から抜いている場合、あなたは連れ子の戸籍附票を取得できない可能性が高いです。
ご自身で戸籍附票を取得できない場合は、弁護士に依頼して取得してもらいましょう。
離縁調停を申し立てる
手紙を送っても相手から音沙汰がない場合は、離縁調停を申し立てましょう。
相手の住所が分からないと家庭裁判所が調停申立書を送付できないので、裁判所は調停申立てを受理してくれません。
したがって、まずは相手の住所を把握することに全力を尽くしましょう。
勝手に離縁届を提出するのは犯罪のおそれ
注意が必要なのは、「相手と連絡がとれないからが」「養子離縁に応じてくれないから」といって、勝手に離縁届を作成して役所に提出してはなりません。
相手に無断で署名押印をすると文書偽造罪が成立する可能性がありますし、そういった離縁届を提出すると「公正証書原本不実記載罪」という罪が成立してしまう可能性があります。
もちろん、偽造した届出をした場合、養子離縁は無効となり、養親は扶養義務から解放されず、相続権は消滅しません。
正式に養子離縁を成立させるためにも、まずは相手の住所を調べて、協議または調停の手続きを踏むようにしましょう。
養子離縁に納得できない場合、慰謝料・損害賠償は請求できる?
養親が「離婚するからあなた(養子)と離縁したい」と養子に申し入れた場合、「なんて身勝手な」と感じる養子がいるでしょう。
そのような申し入れを受けた養子は養親に対してて損害賠償請求できるのか?という問題があります。
損害賠償請求できるケース
養子が養親に対して損害賠償請求するためには、養親からの離縁申出が不法行為にあたる必要があります。
養親が離婚を原因に養子離縁を申し出ている場合、離婚の原因が養親側の不貞行為やDVだとすれば、離縁申し出の根本的の原因を作った責任は専ら養親にあると判断される可能性があるので、そのような場合、養子は養親に対して、不法行為に基づく損害賠償請求ができる場合があります(民法第709条)。
慰謝料額の相場
ケースバイケースですが、一般的に養子離縁を理由として請求できる慰謝料は低くなると思われます。
東京地判平成5年12月24日では「養親子関係は、夫婦関係と異なって人間関係の緊密度が比較的薄く、破綻によって受ける苦痛の程度も、離婚の場合に比較して一般的に低いということができる」と述べられているからです。
もっとも、慰謝料請求できる根拠は、
- 悪意の遺棄、暴行といった離縁の原因となった個別的行為に対する精神的苦痛
- 離縁そのものにより被った精神的苦痛
にあるので、精神的苦痛の立証次第では上記判例を覆す判断が出る可能性もゼロではありません。
この点については弁護士さんに相談することをオススメします。
金銭的解決に至る可能性がある
養子が離縁について反対しているようなケースでは、離縁したい養親から養子に対して、解決金のような名目で金銭の給付が行われることもあります。
慰謝料という名目でなくても金銭的解決に至るケースも少なくありません。
相手に養子離縁を拒否されたら
先に述べたとおり、裁判などに移行すると時間も手間もかかるので、なるべく協議によって養子離縁を成立させたいところですが、相手に養子離縁を拒否されたら、調停・審判・訴訟に進まざるを得ません。
調停等、裁判所に移行した場合は、的確な立証と主張が求められるため、有利に養子離縁を進めるためにも弁護士に相談することをオススメします。
交渉をご自身で行うことは非常にストレスのかかるものとなりますが、弁護士に依頼すれば、相手が求めている条件を的確に把握しつつも当方の条件を飲んでもらうよう、円満解決に向けて交渉を進めてくれるので、強い味方となってくれるでしょう。
まとめ
養子離縁は、法律的な親子関係を清算するための非常に重要な手続きです。多くのケースは「連れ子のいる相手と結婚して連れ子と養子縁組をしたものの離婚することになった」というものです。
何もせずに離婚をした場合、養親は養子の扶養義務から解放されず、容姿の相続権も消滅しません。
養子離縁を成立させることで上記デメリットが解消されるので、必ず養子離縁の話も進めましょう。
ご自身で話し合いを試みてもうまく解決できない場合には、弁護士への相談をおすすめします。弁護士は、あなたの代理人として相手と話し合いを進めたり、調停、裁判に出席してくれます。
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