債務整理で弁護士に辞任されるとどうなる?生活や手続きへの影響と取るべき対処法

債務整理で弁護士に辞任されるとどうなる?

債務整理の手続きを進めていたものの、弁護士との意思疎通が計れず、手続きがスムーズに進まないこともあるでしょう。途中で弁護士に辞任されてしまった場合、債務整理の手続きや日常生活にさまざまな悪影響を及ぼします。

この記事では、債務整理中に弁護士に辞任されてしまった場合どうなってしまうのか、弁護士が辞任するケースなどについて解説したうえで、費用の返金の有無や弁護士に辞任されたあとの対処法などについて解説していきます。

債務整理の途中で弁護士に辞任されるとどうなる?

まずは、債務整理手続きの途中で弁護士に辞任されてしまった場合の影響を確認していきます。

手続きがストップし督促が再開する

債務整理の途中で弁護士に辞任された場合、進めていた債務整理の手続きは全てストップし、返済の督促が再開します。

債務整理を弁護士に依頼した場合、弁護士は各債権者に「受任通知」と呼ばれる書面を送付します。
この受任通知は、弁護士が代理人となって債務整理を進める旨を伝える書面であり、法律上、この書面を受け取った債権者は、直接債務者に支払いの督促ができなくなります(貸金業法21条1項9号)。

弁護士が辞任すると弁護士は債権者の代理人ではなくなり、当然この受任通知の内容も無効となります。債権者から債務者への直接の督促を禁じる条文の適用から外れることになるので、債務整理手続きをはじめる前と同様の状況となり、返済の督促が再開されることになります。

弁護士の辞任に際し対応の引き継ぎ等がなされなかった場合、最悪は申請を進めていた免責許可や認可決定が下りなくなるケースもあり得ます。

督促開始のタイミング:弁護士からの辞任通知が債権者に届いた後

督促が再開するタイミングは、債権者のもとに弁護士からの「辞任通知」が届いたあとです。

何らかの理由で債務整理手続きを途中で辞任することになった場合、弁護士は各債権者に対して「辞任通知」と呼ばれる書面を送付します。
この辞任通知は、弁護士が債務整理手続きの代理人を辞任した旨を伝える書面です。
債権者は、この辞任通知が届いて初めて弁護士が辞任したことを正式に知ることになります。

辞任通知が送られるタイミングは弁護士にもよりますが、債務者に辞任の旨を伝えたあとすぐに送付されるのが通常でしょう。

督促が再開しても支払えない場合、一括請求の可能性

債権者からの支払いの督促を無視し、支払いを放置していると、残債務額の一括返済を要求されます。

債務整理手続きを進めている以上、基本的に本来返済すべき期日を過ぎています。期限までは返済をしなくてもいい債務者の利益を「期限の利益」と呼びますが、この期限の利益を喪失している以上、債権者は債務者に対して、一括返済を要求できるようになるのです。

必ずしも一括返済を求められるわけではありませんが、返済をストップしていた期間を含めて滞納期間が長期に及んでいる場合、債権者から残債務を一括で返済するよう要求される可能性が高いです。

支払いをストップしていた期間の分も遅延損害金を請求される

一括請求の場合、支払いをストップしていた期間の遅延損害金も併せて請求されます。

遅延損害金とは、返済が遅れたことで債権者が被った損害を賠償するためのお金です。
通常の利息とは別で支払う必要があるので、滞納期間が長くなればなるほど、借金総額は膨れ上がります。
遅延損害金の利率は債権者ごとに異なりますが、基本的に通常の利率よりも高く設定されていることがほとんどです。
そのため、支払いを放置するデメリットは小さくありません。

弁護士に依頼して返済をストップしていたからといって、その期間が滞納期間から除外されることはありません。
たとえば、弁護士への依頼前に2か月滞納、その後、弁護士に依頼して1か月返済をストップしていた場合、督促再開時には、合計3か月分の遅延損害金を支払うことになります。

和解交渉が難航し和解条件が悪くなる可能性が高まる

弁護士に辞任され債務整理の手続きがストップすると、その後、債権者と再度の交渉には難航する可能性が高いです。

基本的に、弁護士が1度受任した事件を途中で辞任することはありません。もし、何らかの理由で辞任されてしまった場合、債権者が債務者の今後の返済にも疑いを持ち、和解交渉に応じてくれなくなるおそれがあります。

和解交渉に応じてくれたとしても、長期分割での和解を認めてもらえなくなるなど、辞任前と比べ和解条件が悪化する可能性もあるでしょう。

申し立てに必要な書類の有効期限が切れる

自己破産や個人再生などの手続きを進めていた場合、辞任によってその後の対応に時間がかかり、1度集めた申立書類の有効期限が切れてしまう恐れがあります。

裁判所ごとに若干異なりますが、住民票や戸籍謄本などは3か月以内に取得したものに限られているケースが多いです。

もし、書類収集中に依頼先弁護士に辞任されたことで書類の有効期限が過ぎてしまった場合、書類は再度集め直す必要があります。

準備のやり直しが発生することで債権者自身が自己破産や個人再生を進めるモチベーションを失い、当初以上に手続き準備が難航するリスクもあります。

一括請求の放置で訴訟提起〜財産差し押さえのケースも

一括請求を無視し、支払いを放置していると、訴訟を起こされ最終的には財産を差し押さえられる可能性があります。

差し押さえの対象となるものは多岐に渡りますが、多くは預金口座や給与そのものが対象となります。

預金口座の場合、債務額の全額を差し押さえることが可能です。
たとえば、債務総額が100万円だった場合で、預金口座に80万円入っていたら、80万円全額が強制的に差し押さえられてしまいます。

また、給与の差し押さえの場合、手取り額の4分の1にあたる金額が強制的に引かれます。勤務先に裁判所から書面が届いてしまうため、差し押さえの事実は必ずバレます。

差し押さえの段階まで進んでしまうと、基本的に債権者が和解交渉に応じることはありません。
いまさら方針覆しての差し押さえ取り下げはなかなか期待できないため、差し押さえを止めるには残りの債務額を全額支払うか、自己破産もしくは個人再生の手続きを進める必要があります。

債務整理で弁護士が辞任するケース

ここでは、債務整理の手続き途中で弁護士が辞任するケースをご紹介します。

嘘をつく・連絡を無視するなどの不誠実な対応をした

債務整理手続きの途中であっても、弁護士からの質問や確認に対して嘘をついたり、連絡を無視するなど不誠実な対応をした場合、弁護士に辞任される可能性があります。

弁護士が辞任する不誠実な対応としては、次のようなケースが挙げられます。

  • 依頼者と連絡が取れない(電話に出ない、折り返しの連絡もない)
  • 債務状況や収支状況などについて嘘をつく
  • 約束していた面談期日に無断欠席する
  • 高圧的な態度をとってくる  など

辞任する基準は一律ではなく弁護士によって異なりますが、信頼関係を築けないと判断された場合には辞任されることになるでしょう。
必要以上に低姿勢になる必要はありませんが、自分から依頼している以上、弁護士との間の適正なコミュニケーションはスムーズに解決を進めるための大前提です。

弁護士からの質問や問い合わせに対しては、誠実な対応を心がけましょう。

約束の期日までに弁護士費用を支払わない

約束された期日までに弁護士費用を支払わない場合、弁護士に辞任される可能性が高いです。

弁護士費用は、事件を依頼する際に一括で支払うのが基本です。一方、お金に困っている方を対象とする債務整理の場合、費用の分割払いに対応してくれる場合があります。

もし、決められた期日に返済が滞ってしまった場合には、費用を支払ってもらえないもしくは信頼関係を築けないなどの理由で、辞任される恐れがあります。

1度返済を滞納したからといって、それだけですぐに辞任されるケースは少ないかもしれません。しかし、どのタイミングで辞任されるかは弁護士によっても異なるので、辞任されるリスクを少しでも減らすためにも、支払いが厳しいのであれば、事前に弁護士に相談するようにしてください。

弁護士の指示に従わない

債務整理の手続き中、弁護士の指示に従わないかった場合、手続きをスムーズに進行できないことを理由に辞任されてしまう場合があります。

たとえば、次のようなケースが挙げられます。

  • 手続きに必要な書類を一向に収集しない
  • 弁護士に借金の総額を隠していた
  • 自己破産手続き中にもかかわらず、弁護士の許可も取らず高額な買い物をした
  • ギャンブルをやめないなど手続きに非協力的  など

弁護士も、依頼者が無理をしなければできないようなことは基本的には指示してきません。
債務整理の手続きを進める際は、弁護士に指示されたことを守るよう心がけてください。

任意整理で債権者との和解後に返済を滞納した

任意整理で債権者と和解した後、返済を複数回滞納した場合、弁護士に辞任されてしまう可能性があります。

弁護士事務所により、任意整理の和解交渉後、債務者に代わる代理弁済のサービスを提供している場合があります。代理弁済サービスを利用する場合、債務者は毎月の返済金を弁護士事務所に支払います。弁護士事務所は債務者から支払われた返済総額を預かり、各債権者に振り分けて返済を進めます。毎月の返済金を支払い総額より少し多めに確保し、残金をプール金として弁護士事務所が預かる対応もよく行われています。

一方、債権者との和解交渉をまとめる際は、和解が破棄になる条件(懈怠約款:けたいやっかん)も併せて定められるのが通常です。
一般的には支払いが2回連続で滞った場合に和解破棄となるケースが多いですが、条件次第では滞納1回で破棄される場合もあります。

こうした代理弁済サービスを利用している最中、返済が滞った場合、債権者にまず対応するのは弁護士事務所です。
和解破棄が想定される場合、債務者から一括請求が行われる可能性が高いことから、弁護士も辞任せざるを得なくなる場合があります。

債務整理で弁護士が辞任した場合、費用は返金してもらえる?

債務整理で弁護士に辞任されてしまった場合、すでに支払った着手金などの費用は返金してもらえるのでしょうか。

返金してもらえるかどうかは、その辞任が「依頼者都合」なのか「弁護士都合」なのかで異なります。

依頼者都合の辞任なら着手金は返金してもらえない

依頼者都合での辞任の場合、基本的に支払った費用は返金されません。

依頼者都合に該当する主なケースは、例えば次のとおりです。

  • 依頼者と連絡が取れなくなり手続きが進められなくなった
  • 弁護士費用を支払ってもらえない
  • 弁護士の指示に従わず信頼関係を築けない など

こうした状況の場合、依頼者が手続きに非協力的であることを理由に辞任するため、支払った費用は返金されないのが基本です。

ただし、まだ支払いが着手金程度の一部金のみで、実際の手続きに着手していない場合には、事務所によっては返金に応じてくれるケースもあります。

いずれにせよ、辞任の理由が依頼者側の都合や対応に因るものである場合は、基本的に支払ったお金は返ってこないものと考えておくのが良いでしょう。

弁護士都合の辞任なら着手金を返還してもらえるケースも

一方で、辞任の理由が弁護士側にある場合には、支払い済み費用を返還してもらえる可能性があります。

弁護士都合に該当する主なケースは、次のとおりです。

  • 弁護士が病気になってしまい手続きの継続が難しくなった
  • 業務過多でほかの弁護士に手続きを引き継いでほしいと申し出てきた
  • 「考え方が合わない」などの理由で一方的に辞任を申し出てきた  など

ただし、一般的に弁護士に支払った着手金は返金してもらえないのが原則です。
契約書に「理由の如何を問わず着手金は返金できない」と明記されている場合もあり、実際の対応は弁護士次第になるでしょう。

また、すでに手続きに進んでいた場合、すでに稼働した分の支払いについては、返金に応じてくれない場合もあります。

債務整理中の弁護士の辞任で取るべき対処法

債務整理中に弁護士に辞任されてしまった場合には、次の対処法を検討してください。

手続きがストップしている以上、財産を差し押さえられる前に早急に対応する必要があります。

自分で手続きを進める

弁護士に辞任されてしまった場合、自分で手続きを進めるのも1つの選択肢です。

債務整理は、必ずしも弁護士に依頼しなければ進められない手続きではありません。債権者と示談交渉をしたり、自己破産や個人再生の手続きを自分で進めることができるのであれば、それも1つの選択肢として考えておくと良いでしょう。

たとえば、すでに交渉の最終段階まで話が進んでいる場合であれば、自力で和解を成立させられるかもしれません。また、和解後の入金が遅れてしまった場合であれば、返済を待ってもらえるよう真摯に交渉することで、債権者が返済を待ってくれる可能性もゼロではありません。

ただし、そもそも返済できない・自分では対処できないから弁護士に依頼している場合がほとんどなので、基本的には自分だけで適切に対処するのは難しいでしょう。

また、債権者側も、弁護士が辞任したことを理由に、早い段階で財産を差し押さえる手続きに入る可能性もあり、効果や確実性の面から考えても、あまりおすすめできない方法です。

別の弁護士に債務整理を依頼する

債務整理を依頼している弁護士に辞任されてしまった場合、基本的には速やかに他の弁護士に依頼するのが良いでしょう。
1度弁護士に辞任されたからといって、ほかの弁護士に依頼できないわけではありません。弁護士によっては、辞任までの経緯を踏まえたうえで、依頼を受けてくれるケースもあるでしょう。

別の弁護士が対応を引き継ぐことで、そこまで進めてきた手続きを継続する、あるいは、新たな方針での借金解決の道筋の立て直しなどが期待できます。
特に、自己破産や個人再生で借金の免除や減額の許可を得るには、弁護士への依頼は現実的には必須です。

ただし、再度弁護士に依頼する場合にも当然費用はかかります。
依頼者都合で弁護士に辞任された場合、着手金は返金されないため、費用負担が大きくなることを頭に入れておきましょう。

弁護士費用の支払いが難しいなら法テラスの利用も検討する

弁護士費用の支払いが厳しい場合、法テラスの利用を検討しましょう。
法テラスでは、経済的に困っている人向けに、無料の法律相談や弁護士への依頼費用の立て替えなどを行っています。
この制度を利用すれば、相談者の手元に弁護士費用として支払えるお金がなくても、法テラスの立て替えで弁護士に依頼できます。
※立て替えで支払われたお金は、追って依頼者が法テラスに分割で返済していきます。

なお、立替制度を含む法テラスの民事法律扶助は、誰でも援助を受けられる訳ではありません。
収入が一定以下であること、裁判となった際に勝訴の見込みがあること、など法テラスが定める要件を満たす必要があります。

参照:民事法律扶助業務|日本支援センター 法テラス

また、審査自体に時間がかかること、相談待ちで枠が空くまでに時間がかかるケースもあります。
対応を急ぐ場合、お近くの債務整理に強い弁護士に直接相談するのが良いでしょう。

新たに別の弁護士に依頼する場合の注意点

新たに別の弁護士に依頼することになった場合、また辞任されてしまうようなことのないように、まず以下に上げる4つは注意して話し合いを進めるようにしましょう。

前の弁護士に辞任されたこと、その経緯を正直に話す

別の弁護士に依頼する場合、前の弁護士に辞任された事やその経緯を正直に話すようにしましょう。

弁護士が相談者からの依頼を引き受ける際、依頼者と信頼関係を築けるかどうかは、非常に重要視されます。
辞任された事を内緒にしていた場合、いざその事実がバレた際に「また同じように不誠実な対応をとられてしまうのではないか」と疑われ、信頼関係の破綻につながります。

弁護士の辞任につながった理由を明確にし、今度は信頼関係が破綻するようなことはしないことを伝え、弁護士側も不安なく対応できる関係性作りを図りましょう。

弁護士の指示に従い誠実に対応する

依頼を受けてもらったら、弁護士の指示に従い手続きに協力的な態度を示しましょう。
弁護士からの連絡に応じることはもちろん、書類の提出期限や面談の約束なども守るようにしてください。

もちろん、電話に出られなかったとしても、のちほど折り返しの連絡を入れれば問題ありません。面談期日については、無理に弁護士側の予定に合わせる必要もありません。何かわからないこと、不安なことがあれば、その都度弁護士に相談してもらって構いません。

よほどのことがない限り弁護士から辞任されることはありません。一般社会生活で求められる程度の誠実さをもって対応するようにしましょう。

弁護士費用の支払いは無理のない範囲で設定する

過去に辞任された理由が弁護士費用の滞納にある場合、無理のない範囲で支払いができる弁護士事務所を選択することも重要です。

無理して弁護士に依頼すると、途中で弁護士費用が払えなくなり、再度辞任されてしまう可能性が高まります。

当然ながら、債務の状態が多岐に渡り事態が複雑な状況ほど、その解決に要するコスト=弁護士費用も高くます。

債務整理を検討する方は、そもそも収入に対して支出が上回り困難な状況にある方がほとんどです。

提示された金額が高額で支払いが厳しいのであれば、長期の分割払いなど、返済の進め方をふくめ、あらかじめ弁護士に相談するようにしましょう。

自己破産など自分の状況に合った債務整理を検討する

もし、任意整理の和解後に返済が厳しくなってしまった場合は、自己破産や個人再生など、他の債務整理も検討しましょう。

任意整理は、将来的に支払う利息の免除や分割回数を伸ばしてもらうことで、毎月の返済額を調整する手続きです。
そのため、手続き後は交渉で取り決めした金額を毎月継続して支払うことになります。

もし、任意整理をしても毎月の支払いが厳しい状況だと、再度任意整理をしても、今後返済できなくなるおそれがあります。
たとえ本人に悪気はなくとも、支払いが遅れれば、弁護士の信用も失い、再度辞任されてしまうリスクは高まります。

特に前回、任意整理を進めてうまく行かなかった方は、自分の収入や財産など現実的な状況を冷静に見定め、自己破産や個人再生のメリット・デメリットも考慮しながら、自分に合った債務整理を選択するようにしてください。

まとめ

弁護士に辞任された場合、これまで進めていた手続きがストップし、借金返済の督促が再開します。そのまま放置していると、財産差し押さえに遭うリスクも高まるため、速やかな対処が必要です。
弁護士辞任時の状況によっては自分で手続きを進めることも不可能ではありませんが、対応を誤れば取り返しのつかないことにもなるため、できれば、新たな別の弁護士のもと債務整理を再度依頼することをおすすめします。

もし、別の弁護士に依頼する際には、信頼関係が破綻するような雑な対応は厳禁です。自分の借金問題解決に必要な手続きであることを自覚し誠実に取り組むことを心がけてください。
また、前の弁護士と進めてきた債務整理手続きで対応が難しかった場合は、別の債務整理方法を選択できないか、方針の変更も視野に入れていきましょう。

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