全債務のうち一部を債務整理の対象にすることは可能?債権者平等の原則も解説
債務整理は、債権者平等の原則を重視しながら抜本的な経済的再生を目指すため、基本的には債務の一部のみに絞ることはできません。
しかし任意整理では、ローンや保証人付きの債務などは対象から外すことも可能です。もし債務の一部に絞りたい場合でも、任意整理を依頼する弁護士には全ての債務を説明しアドバイスを受けることが大切です。
債務の一部のみの債務整理は可能?
債務の一部のみを整理することは原則としてできません。
なぜなら債務を一部整理しても必ずしも抜本的な経済的再生につながらず、債務整理の制度趣旨に反するからです。
債権者平等の原則
また、債務整理には債権者側の利益を守る視点も盛り込まれています。基本的に、債務整理手続きはすべて「債権者平等の原則」の考え方に沿って進められます。
債権者平等の原則とは
債権者平等の原則とは、一人の債務者に対し複数の債権者がいる場合、債権者は等しく扱われるというものです。どの債権者も、お金の貸し借りが行われた時期・順番・原因などにかかわらず、それぞれの債権額に応じて債務者から平等に返済してもらう権利があります。
各債権者を平等に扱う理由
債権者の立場になって考えてみると、債務者には他にどんな債権者が何者いるのかを知る機会はなく、特定の債権者だけが優先して返済を受けていれば不公平です。このため債務整理では債務の一部のみの整理は原則として不可能です。
個人再生・自己破産の場合
裁判所が介入する債務整理は、どの債権者も平等であることを特に重視します。個人再生と自己破産では一部の債権のみ除外することはできません。
個人再生の場合
個人再生は、返済の方法や期間などを定めた再生計画案を裁判所に提出し、これが認められた場合は最低返済額を100万円にまで減らせます。この再生計画案の内容は各債権者に平等でなければなりません。唯一の例外は住宅ローンで、債務者の持ち家を守るため「住宅資金貸付条項」が設けられ、再生計画案とは別枠で減免なしで返済を行います。
自己破産の場合
自己破産を行うには、債務者が支払不能の状態であることが条件です。自己破産の手続き中に一部の債権者のみに返済をすると免責不可事由となってしまう可能性があります。
友人や家族から借りたお金だけは自分で返したいと思っても、特定の債権だけ切り離すことはできません。
債権の一部のみを対象にできるのは任意整理だけ
一方、実務では一部の債権のみ対象にするケースもあります。任意整理は、個別の債権者と任意で債務整理について交渉を行う方法です。任意整理にも債権者平等の原則は該当しますが、交渉に応じるか断るかは債権者の判断です。これに応じた債権者は、平等性よりも少しでも債権回収することを選んだということになります。
債権の一部のみを対象にするメリット
一部の債権のみ対象にすることで、債務者が得られるメリットがいくつかあります。住宅ローン・マイカーローン、保証人との関係などです。またクレジットカードがしばらく使えるという点も、カードを利用することが多い人にとっては魅力になります。
住宅ローン・マイカーローンを外せる
多くの場合、住宅ローンには抵当権、マイカーローンには所有権留保(ローン完済までは車は所有名義が信販会社となる状態)が付いています。このため債務整理を行うと持ち家が競売にかけられたり、車を信販会社に引き渡さなければなりません。しかし任意整理でこれらのローンを対象から外せば、持ち家や車を所有し続けることができます。当然、ローンは延滞なく返済することが大前提です。
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保証人を巻き込まずに済む
全ての債務を任意整理した場合、保証人付きの借金があれば債権者は保証人に返済を求めます。保証人に請求が行かないためには保証人も一緒に任意整理を行う必要がありますが、保証人の信用情報を傷つけてしまうので負担をかけるという点では同じです。しかし、最初から保証人付きの借金を任意整理の対象から外しておけば、保証人に知られず迷惑もかけません。
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外したカードはしばらく使える
「債務整理をするとクレジットカードは使えなくなる」というイメージはありませんか?実は任意整理では手続き後しばらくの間はクレジットカードが使える方法があります。それは特定のクレジットカード会社だけ整理対象から外すことです。会社によりタイミングが異なりますが、カードの更新や途上与信までは従来通り使えることが多いです。しかし実際は、債務者の借金癖を正していくためにも、この方法を認める弁護士は多くないでしょう。
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債権の一部のみを対象にするデメリット
メリットがある一方で、任意整理の対象を絞ることが債務者のデメリットとなる場合もあります。結局自己破産に追い込まれるケースや、そうなっても自己破産が利用できなくなるケースがあるので注意が必要です。
債務整理をやり直すリスク
過払い金が返ってくる見込みがある貸金業者や、過払い金請求のみ残っている貸金業者だけを対象に任意整理を行い、返還を受けたとします。このとき、もし任意整理の対象外の債権者への返済に行き詰まってしまうと、最後の手段で自己破産せざるをえなくなる可能性があります。
最後の手段・自己破産が認められなくなる
返還された過払い金が裁判所から「資産」と見なされ、自己破産の足かせになることがあります。返還された過払い金を自己破産の前に使いきっていれば、債権者への配当原資に充てることができず、免責不許可事由になる場合もあるのです。
債務整理に関する日弁連の規程
このような事情を考慮して、日本弁護士連合会は「債務整理事件処理の規律を定める規程」を制定し、原則として一部債権者だけを対象とする任意整理をすることはできないものとしています。
弁護士に全ての債務を伝える
しかし規程があるとはいえ、「持ち家や車を守りたい」「保証人に迷惑をかけたくない」という債務者のために、実際は債権者を絞った任意整理の手続きを提案してくれる弁護士はいます。債務整理の対象は自分だけで判断せず、弁護士に債務全体の状況を全てオープンにした上で最適な方法を一緒に探ることが肝心です。
債務整理の方法に悩んだら、弁護士に相談を!
債務者が抱える事情は人それぞれで、法律は複雑です。自分に合った債務整理の方法を見つけたい方は、1人で悩まずに弁護士などの専門家に相談してみてくださいね。
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