住宅ローンが払えず自己破産。債務者の生活への影響は?

住宅ローンと自己破産

住宅ローンが払えず自己破産!生活にはどう影響する?

昨今の不景気からの減収などにより、住宅ローンの支払いが苦しくなっている方は少なくないでしょう。どうしても支払いを継続できない場合、自己破産は住宅ローン問題を解決するひとつの方法です。
実際のところ、住宅ローンを抱えた方が自己破産をするとどのような効果があり、今の生活はどう変わっていくのでしょうか?順番にみていきましょう。

自己破産すると住宅ローンを払わなくて良くなる

自己破産とは、裁判所に申し立てて借金などの負債の支払い義務を免除してもらう手続きです。支払い義務を免除してもらうことを法的に「免責」といいます。

住宅ローンも負債の1種なので自己破産すると免責され、全額支払い義務がなくなります。滞納期間が長くなって保証会社が代位弁済して一括請求を受けていたり裁判されたり競売が行われたりした場合でも、自己破産したら一切の支払いが不要になります。住宅ローン以外の借金や未払いの家賃、携帯電話代の滞納がある場合には、そういったものも全部免除されます。
住宅ローンを払えなくなったとき、最終的に自己破産をしたら支払いが全部免除されるので大きなメリットを得られるでしょう。

以下で自己破産によってどのような生活上の影響が発生するかみていきましょう。

家はなくなる

自己破産をすると、生活に必要な最低限のものを残して財産が失われます。不動産を持っている場合にはほぼ確実になくなるので、持ち家を残すことはできません。
住宅ローンを払わなくて良くなりますが、家は売却されて他人のものになるので、他の場所に引っ越さねばならない影響が及びます。

その他の財産もなくなる

自己破産をするとき、失われるのは家だけではありません。車や預貯金、保険や株式などの他の財産も現金化されて債権者へ配当されます。

自己破産しても一部の財産だけは残せる

ただし全部がなくなるわけではなく、一定額までは手元に残せます。
残せる金額は裁判所によって異なる可能性がありますが、標準的には以下のような基準が採用されています。

  • 現金なら99万円まで
  • 預貯金、車などの個別の財産の場合にはそれぞれ20万円程度まで
  • 合計で99万円まで

なお失われるのは本人名義の財産だけであり、家族名義の預貯金や保険、家には基本的に影響が及びません。

資格制限を受ける

自己破産をすると「資格制限」を受けます。資格制限とは、自己破産の手続き中に一定の職業や資格が認められないことです。たとえば以下のような職業や資格が制限されます。

  • 弁護士、税理士、司法書士、公認会計士、行政書士などの「士業」
  • 警備員
  • 保険外交員
  • 騎手
  • 調理師
  • 貸金業
  • 質屋
  • 卸売業
  • 公証人
  • 成年後見人

資格制限による実際の影響について

一般の地方公務員、国家公務員や医師、看護師などの医療職は制限されません。法人の役員になっている場合、いったんは退任しなければなりませんが資格制限の対象ではないのですぐに再任できます。

また資格制限される仕事は限られているので、会社員や自営業の方などの多くは対象になりません。対象外の方は、まったく影響を受けず今まで通り仕事を続けられます。

資格制限を受ける期間も限定されていて「破産手続き開始決定時から免責決定が確定するまで」の間のみです。
具体的には3~8か月程度で、その期間が過ぎるとまた元のように仕事ができるようになります。資格が永久に失われるわけではありません。

連帯保証人に迷惑をかける可能性がある

住宅ローンを組むときに「連帯保証人」をつけていると、自己破産の際に迷惑をかける可能性が高くなります。自己破産をして免責されるのは「破産者本人の負債」のみであり、連帯保証人の負債には影響しないからです。連帯保証人の債務はそのまま残ります。

本人が破産すると保証会社が住宅ローンの代位弁済を行い、連帯保証人に対して負債と遅延損害金の一括払い請求をします。つまり、本人が支払わなくなったので保証会社が銀行に住宅ローンの残債を立て替え払いして、連帯保証人に全額の支払いを求めてくるのです。そうなると、連帯保証人としても自己破産などの債務整理を検討しなければならない可能性が高まります。

連帯保証人がいる場合の対処方法

住宅ローンに連帯保証人がついているケースで自己破産すると、連帯保証人に多大な迷惑をかけてしまいます。
なるべくトラブルを小さくするため、自己破産前に必ず連帯保証人に連絡を入れて

  • 今後自己破産する予定があること
  • 保証会社から請求が来ることが予想されること

を伝えましょう。

その上で、連帯保証人としてどのような対応をとるのが良いか、一緒に検討してみてください。困ったときには連帯保証人と一緒に弁護士に相談に行って専門家の視点からアドバイスを求めましょう。

ローンやカードを利用できなくなる

自己破産をすると、個人信用情報に「事故情報」や「官報公告情報」が登録されて、ローンやクレジットカードの審査に通らなくなります。
金融機関やカード会社は貸付審査の際、申込者の個人信用情報を参照して「信用できる相手かどうか」を判断するからです。個人信用情報にネガティブな情報が登録されていると、信用がないので審査に落とされます。

自己破産後は5年間程度、クレジットカードやキャッシングなどを利用できなくなりますし、銀行系の住宅ローンなどについては10年程度利用できない可能性が高くなります。
ただし利用と同時に即引き落としが行われる「デビットカード」や「キャッシュレスペイ」「プリペイドカード」などは利用できるので、これらを活用して生活すると、さほどの不便は感じずに済みます。

また家族名義のカードはこれまで通り自由に作れますし、家族名義でローンを組むことも可能です。

自己破産しても特に影響がないこと

一般的に「自己破産するとできなくなる」と誤解されがちですが、実は自己破産をしても特に影響がないことがいくつかあります。以下で確認していきましょう。

家族には借金支払い義務がない

「自己破産をしたら、家族が代わりに返済しなければならない」と思い込んでいる方がおられますが、誤解です。
家族が連帯保証人や連帯債務者になっていない限り、支払い義務はありません。同居の家族でも請求を受けないので、安心して破産手続きを進めましょう。

給料は普通に受け取れる

「自己破産をしたら給料を没収されて生活できなくなる」と思っている方もいますが、これも誤解です。
自己破産をしても毎月の給料やボーナスは今まで通り全額受け取れます。

むしろ借金を滞納して差押を受けている場合、自己破産をすれば差押えを中止したり解除したりできますし、破産手続き開始決定が出たらその後は差押えが禁止されます。住宅ローンやその他の借金を滞納して給与の差押えが心配な方は、早めに自己破産すべきといえるでしょう。

破産後の貯金や起業は自由

自己破産したら、その後貯金ができないと思っている方もいますが、それも誤解です。
自己破産後の貯蓄は自由ですし、保険加入も遺産相続もできます。また自己破産後の起業も可能です。
1つの事業に失敗しても、破産後新たな事業を始めて成功している方もたくさんいるので、心配しすぎる必要はありません。

住宅ローンを解決する自己破産以外の方法

住宅ローンを払えなくなったとき、いきなり自己破産するのではなく先に「任意売却」する方が良いケースがあります。

任意売却とは

任意売却とは、ローン借入先の金融機関と共同で物件を売却する手続きです。通常、住宅ローンを支払わないで放置していると「競売」にかかって裁判所により強制的に家を売られてしまいます。一方、任意売却をすれば自分の手で家を一般の不動産市場で売却できます。

任意売却でも家が失われることに違いはないのですが、競売と比べて以下のようなメリットがあります。

自己破産前に任意売却するメリット

自己破産前に任意売却すると、以下のようなメリットがあります。

  • 同時廃止になる可能性が高まる
  • 自己破産を避けられる可能性がある
  • 引っ越し費用を出してもらえる
  • プライバシーが守られる

同時廃止になる可能性が高まる

自己破産には「同時廃止」と「管財事件」の2種類があります。同時廃止は財産がほとんどない方に適用される簡単な手続き、管財事件は財産が一定以上ある方や複雑なケースで適用される手続きです。

同時廃止の場合、管財事件と比べて費用が大幅に安くなり、裁判所へ行かなければならない回数も少なくかかる期間も短く、債務者にとってメリットが大きくなります。

家を所有したままの状態で自己破産すると「管財事件」になる可能性がありますが、任意売却後、家を失っていたら「財産がない」と評価されて「同時廃止」になるケースが多数です。
つまり自己破産前に任意売却をすると、同時廃止となって自己破産にかかる費用や労力、時間を節約できる可能性が高くなり、メリットを受けられます。

自己破産を避けられる可能性がある

任意売却をすると、一般的に競売よりも高額で売れます。競売の場合、市場価格の6~8割程度になってしまうケースが多いからです。

任意売却で思いがけず不動産が高額で売れたら、住宅ローンを完済できる可能性もあります。完済できなくても残債が大きく減れば、残りを分割払いしていけるケースもあるでしょう。支払いができるなら自己破産する必要はありません。

任意売却がうまくいけば、自己破産を避けられる可能性があるのも大きなメリットといえます。

引っ越し費用を出してもらえる

競売で強制的に家を売られる場合、引っ越し費用は出ません。
任意売却の場合、売れた金額から30万円程度の引っ越し費用を出してもらえるケースが多数です。手元にお金がない破産者にとって、引っ越し費用が出ると助かるでしょう。

プライバシーが守られる

競売になると、競売情報が全国に公開されます。誰に見られるか分かりませんし、関心を持つ不動産業者が家を見に来たり近所の人に様子を聞いたりするケースもあるのでプライバシーが害されがちです。

任意売却であれば普通に不動産を売り出して買主と売買契約を締結して売却するので、住宅ローンの滞納などの不名誉な事実を世間に知られたり近所の人に不審に思われたりする心配は不要です。

任意売却を行うタイミング

住宅ローンが払えなくなったら、すぐに任意売却の準備を!

住宅ローンを払えなくなって任意売却に関心を持ったら、すぐに金融機関に打診して任意売却を開始しましょう。
任意売却は、いつまででもできるわけではありません。住宅ローンを滞納すると「競売」が始まりますが、競売手続きが進みすぎると任意売却はできなくなります。
具体的には「開札日の前日」までに債権者に競売申立を取り下げてもらう必要があります。

競売が開始してから開札日までは4~6か月くらいです。ただ開札日の直前になって任意売却の話を持ちかけても、金融機関が納得しない可能性が高くなるので、早めの対応が肝心です。

住宅を残して債務整理するには?

自己破産をすると住宅ローンは払わなくて良くなりますが、家が失われるデメリットがあります。
自己破産以外の債務整理方法なら家を残せるので、自宅を失いたくない方は破産より先にこちらを検討してみて下さい。

個人再生

個人再生は、債務を大幅に圧縮して決められた期間内に返済していく手続きです。負債額を5分の1~10分の1程度にまで減らせます。

また「住宅ローン特則」があり、利用すれば住宅ローン以外の他の借金(消費者金融など)のみを減額し、住宅ローンはそのまま支払って家を守れます。代位弁済が開始されていても代位弁済前の状態に戻せますし、競売が開始していても競売手続きを止めることが可能です。

個人再生は住宅ローン以外の負債があり、そちらを圧縮できれば何とか住宅ローンの支払いが可能な方にお勧めです。

個人再生について詳細を知りたい方は、こちらの記事をご参照下さい。

任意整理

任意整理は、裁判所を使わずに債権者と直接交渉して借金を減額してもらう手続きです。大幅な減額はできませんが、合意後の利息を全額カットしてもらえるケースが多数です。

任意整理をしても財産に影響はなく、家を含めてすべての財産を所有し続けられます。住宅ローン以外にカードローンやクレジットカードなどの負債が膨らんで支払い利息が高額になっている方にお勧めです。

自己破産後、住宅ローンを組めない期間

自己破産をすると、個人信用情報に事故情報などのネガティブな情報が登録されるので、住宅ローンを利用できなくなります。

自己破産後10年間は住宅ローンを利用できない可能性

金融機関が加盟している「全国銀行個人信用情報センター(KSC)」では、自己破産のネガティブ情報である「官報公告情報」が「10年間」保管されるので、自己破産後10年間は住宅ローンを利用できない可能性が高くなります。

なおクレジットカードなどの場合には手続き後5年程度で利用できるようになるケースが多数です。

自己破産後に住宅ローンを利用する方法

自己破産後、再度住宅ローンを利用するには以下のような手順で進めましょう。

  1. 事故情報が消えていることを確認
  2. 過去に利用していない金融機関に申し込む
  3. 自己資金を貯める
  4. 評価の高い就職先に就職する
  5. なるべく勤続年数を長くする

事故情報が消えていることを確認

まずは自分の事故情報(官報公告情報など)が消えていることを確認すべきです。事故情報が残っている状態では、ほとんどどこの金融機関に申し込んでも審査に通らないからです。

個人信用情報は、本人が開示請求すれば開示を受けられるので、各信用情報機関へ情報公開申請を行いましょう。
特に全国銀行個人信用情報センター(KSC)における登録状況が重要です。KSCでは郵送でのみ、情報の開示請求を受け付けています。こちらのページを参照して、開示を申し込んで下さい。

本人開示の手続き | 全国銀行個人信用情報センター | 一般社団法人 全国銀行協会

返送されてきた書類をみて「官報公告情報」などのネガティブ情報がなくなっていたら、住宅ローンに通る可能性があります。

なお念のため、CICやJICCでも開示請求を行って内容を確認しておくようお勧めします。

情報開示とは|指定信用情報機関のCIC

信用情報の確認 |日本信用情報機構(JICC)指定信用情報機関

過去に利用していない金融機関に申し込む

住宅ローン審査に通りたい場合、できるだけ過去に住宅ローンやカードローンを利用していない金融機関を利用しましょう。過去に利用して自己破産により迷惑をかけた金融機関では、その情報が残っていて貸付を受けられない可能性があります。

自己資金を貯める

住宅ローン審査に通るには、自己資金を貯めて頭金を多めに支払うと有効です。自己資金が多いと金融機関側のリスクが減るからです。破産後住宅ローンを申し込むまでの10年の間にできるだけ多く貯金しておきましょう。

評価の高い就職先に就職する

上場企業の会社員や公務員は信用が高いので、住宅ローン審査に通りやすくなります。反対にアルバイトやパート、フリーランスなどは評価が低く、住宅ローンに通りにくくなります。

自己破産後、できるだけ信用のある企業に正社員として就職しておくことが望ましいといえるでしょう。

なるべく勤続年数を長くする

勤続年数が短いと信用してもらえないので住宅ローンに通りにくくなります。破産後に就職したら、ブラック会社であれば話が別ですが、なるべく辞めずに勤続年数を長くすることが住宅ローンに通るためのポイントの1つとなります。

住宅ローンの支払いで自己破産を考えたら、まず弁護士に相談を

住宅ローンを支払えずに放置していると、競売が進んで家から強制退去させられます。また給料を差し押さえられるおそれも高まります。そうなる前に任意売却や自己破産を自主的に進めましょう。

困ったときにはまず弁護士に現状を相談し、どういった方法が最善かアドバイスを受けるようお勧めします。

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