特定調停後に過払い金請求はできる?調停調書の条項の注意点とは?

特定調停とは別に過払い金返還請求。債権者との交渉をしなければならない。

特定調停の手続きで行えるのは、債務を圧縮して返済計画を定めること、もしくは過払い金がある場合は「債務者の債務は存在しない」ことの確認です。過払い金請求は、特定調停後に別途行う必要があります。また、調停調書などの条項は「債権者に過払い金返還義務がない」と解釈できるような記載がないか、注意が必要です。

特定調停と過払い金請求

特定調停は、債務整理を弁護士などの専門家に依頼する費用がない人でも、少額の費用で行える借金整理法です。債務全体を圧縮し、原則3年で返済します。

特定調停の手続きで過払い金請求ができる?

では、特定調停の手続きと同時に過払い金請求をすることは可能なのでしょうか?

特定調停の趣旨

特定調停は、債務者が簡易裁判所に申し立てることで始まります。裁判官1名と民間の調停委員2名で構成される調停委員会が、貸金業者との取引履歴を元に引き直し計算を行ったり、債務者・債権者双方の意見を聞き、調停案を示します。

「債務不存在」を確認できるだけ

特定調停の場で行うのは、将来利息や遅延損害金のカットなどで借金総額を圧縮して返済計画を定めること、もしくは残債を上回る過払い金が発覚した場合は「債務者の債務が存在しない」ことを確認することです。

過払い金返還請求はできない

以上のことからわかるように、もし過払い金が発生していても、特定調停手続きの中で過払い金の請求手続きを同時に行う事はできません。

別途、過払い金請求の手続きが必要

任意整理を弁護士などに依頼していれば、引き直し計算で過払金が見つかると借金減額の交渉と合わせて過払い金請求の手続きも進めてもらえます。しかし特定調停では、別途、過払い金返還請求の手続きが必要です。

同時は無理だが、調停不成立になれば可能に

特定調停と同時に過払い金返還請求はできませんが、特定調停不成立になれば可能になります。もちろん、調停成立後に請求することもできますが、この場合、清算条項の文言の表現に注意が必要です。詳しくは後述しますが、「申立人と相手方の間に本件に定める以外一切の債権債務がないことを確認する」という調停成立の際に設けられる条項に同意した場合は、後に過払い金請求ができなくなります。この条項は「一切の債権債務がない」と書かれているため、当然過払い金も含めた借金がないという意味になってしまうからです。

もし、過払い金返還請求をしたい場合は、「債権債務がない」ことは確認せず、「債務を負担していないこと」を確認するとする必要があります。

特定調停後の過払い金請求の方法

では、ここからは特定調停の後に過払い金返還請求をする場合の方法について説明します。

特定調停後の請求は2通り

では、特定調停後に過払い金を取り返すにはどうすれば良いのでしょうか?過払い金返還請求には「裁判をせずに業者と交渉する」あるいは「過払金返還の訴訟を提起する」の2通りがあります。引き続き自力で取り組む方法は以下の通りです。

裁判外で業者と交渉

引き直し計算で過払金の金額が明らかになったら、金額や振込先の口座などを明記した「過払い金返還請求書」を作成して債権者に送付します。このとき、債権者に「受け取っていない」と言われるトラブルを避けるために、内容証明郵便を利用して配達証明を付けておきます。その後、書類を受け取った債権者が返還額の減額を持ちかけてくるので、交渉して折り合いがつけばその金額が返還されます。

過払い金還請求訴訟

債権者との交渉が不調になった場合は、裁判所に対して訴訟を提起します。
提訴に必要なのは、訴状、利息制限法に基づく法定金利計算書、取引履歴書などです。提訴後は裁判所が指定する期日に出頭し、主張や立証を行う必要があります。債権者によっては提訴を受けてすぐに和解案を示す場合もあり、通常は交渉時よりも高額の返還額が示されます。

特定調停後の過払い金請求できる根拠

ここで、特定調停後に過払い金請求ができる根拠を詳しく確認しておきます。

片面的条項

特定調停の調停調書の条項や、裁判所の決定である所謂「17条決定」において、「債務は存在しない」という記載のみの場合があります。

「存在しない」とは債務者の債務のこと

この記載は単に「債務がない」と言っているだけで、債務者の過払い金還請求権については何も述べていません。つまり、「債務は存在しない」という記載のある条項は、債務者の債務不存在についてのみ言及し、債権者の過払い金返還債務については触れていないのです。これは法律上「片面的条項」と言われています。

片面的条約は過払い金返還請求を阻害しない

このような内容の場合は、貸金業者側の過払い金返還債務(債務者側の過払い金返還請求権)に関しては何らの効力を有していません。そのため、債務者側の過払い金返還請求を阻害することはなく、問題なく過払い金返還請求を行う事ができます。

清算条項

一方、条項のなかには、「相互に債務が存在しない」「何らの債権債務がない」、と記載するものもあります。これは「片面的条項に対し「清算条項」と呼ばれます。

以前は判断が分かれていた

このような記載がある場合、実際は過払い金が発生していて債権者に債務があるにもかかわらず、調停では「債権者は過払い金を返還しなくてもよい」と確認したことになってしまいます。この問題について、過払い金請求を認めるかどうか、以前は裁判所の判断が分かれていました。調停調書が利息制限法に違反しているなどとして無効とする場合もあれば、判決と同等の効力がある調停調書を重視する場合もあったのです。

最高裁の判決

しかし、平成27年9月15日に出された最高裁判所の判決で、清算条項の効力は債務者の過払い金返還請求権に及ばないという判断が示されました。このため、今後成立した特定調停で調停調書や17条決定において清算条項が記載されていても、債務者は過払い金の返還を受けることが可能と言えます。

債務者に不利な表現になっていない注意を!

とはいえ、特定調停を利用して過払い金返還請求も行いたい場合は、条項が債務者にとって不利な表現になっていないか慎重に確認する必要があります。現在は清算条項の記載はほとんどありませんが、かつて過払い金請求が一般的でなかった時期には、引き直し計算を行わず、貸金業者の主張に従った調停調書の作成や裁判所の決定も行われていました。自力で行う特定調停には、債務者自身の判断の正確さや慎重さも求められます。

特定調停は確かに個人でも可能ですが、このように条項の表現ひとつをとっても専門的で難しい部分が多々あります。
もし、法律の知識面で不安が残るという方は、債務整理の実務経験が豊富な弁護士や司法書士に相談するのがおすすめです。また、特定調停後に過払い金返還請求を行うと、手続き終了までにさらに時間がかかります。債務整理に手間や時間をかけたくないという方は、ぜひ専門家の力を借りてください。

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