遺産分割審判への即時抗告~審判内容に不服な場合に取るべき対応
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遺産分割審判に不服がある場合、即時抗告ができる
他の相続人と意見が合わず「遺産分割協議」がまとまらない場合、家庭裁判所で「遺産分割調停」をしなければなりません。遺産分割調停でも意見がまとまらなければ「遺産分割審判」に移行して、家庭裁判所の裁判官が遺産分割の方法を決定します。
ただ遺産分割審判の決定内容にも納得できないケースがあります。そんなときには高等裁判所へ不服申立(異議申立)ができます。その不服申立の方法を法律上「即時抗告」といいます。高等裁判所での即時抗告が認められれば、家庭裁判所の遺産分割審判の内容が変更され、希望した通りに遺産分割をしてもらえる可能性もあります。
即時抗告とは
即時抗告とは、裁判所の「判決」以外の決定に対する不服申立の方法です。法律上「即時抗告を認める」という規定がある場合にのみ申立を行えます。遺産分割審判に対しても即時抗告が認められているので、当事者に不服があれば即時抗告で争えるのです。
控訴と即時抗告の違い
一般的な裁判の「判決」に対する不服申立方法は「控訴」であるのに対し「判決以外の決定」に対する不服申立方法が「抗告」や「即時抗告」です。遺産分割審判の決定は「審判」であり「判決」ではないので、「控訴」ではなく「即時抗告」によって争う必要があります。なお即時抗告は抗告の中でも「期間制限」があるものをいいます。
即時抗告の効果
即時抗告をすると、原決定の効力が差し止められます。この効果により即時抗告審が決着するまで原決定にもとづく強制執行ができません。遺産分割審判に対して即時抗告を行った場合にも、家庭裁判所の審判にもとづいた遺産分割はできず、即時抗告審の判断を待つことになります。
即時抗告審で判断する人
即時抗告審は「高等裁判所」で行われます。遺産分割審判の原審である「家庭裁判所」とは別の高等裁判所の裁判官が審理して結論を下すので、原審と異なる判断になる可能性が充分にあります。
ただし原審の資料が引き継がれるので、そもそも原審での主張が不合理な場合には裁判官が変わっても認めてもらうのは困難です。
即時抗告で判断を変更してもらうには、法律的に正しい主張と立証を行う必要がありますし、可能であれば追加の資料を提出するなどして自分の主張が正しい根拠を補強すべきです。
即時抗告すべきケースの具体例
遺産分割審判に不服があって即時抗告をすべきケースの例を挙げると、以下のような場合です。
- 指定された遺産分割の方法に不服がある
- 代償金の金額に不服がある
- 寄与分が認められなかった
- 寄与分の計算方法に不服がある
- 特別受益が認められなかった
- 特別受益の計算方法に不服がある
指定された遺産分割の方法に不服がある
たとえば相続財産である実家の相続方法について相続人間で意見が合わなかった場合、遺産分割審判で「競売命令」が出るケースがあります。競売を望まないなら即時抗告によって争うべきです。
代償金の金額に不服がある
誰か1人の相続人が不動産などの相続財産を取得する場合、他の相続人へ代償金を支払うよう命じられるケースがあります。代償金が高すぎる、あるいは低すぎるなどで不満があれば即時抗告で争えます。
寄与分が認められなかった
被相続人を献身的に介護し続けてきたケースなどで、寄与分を主張しても遺産分割審判では認められないことが少なくありません。その場合、即時抗告で争えば寄与分が認められる可能性があります。
寄与分の計算方法に不服がある
寄与分が認められたとしても、計算方法に納得できないケースがあるものです。寄与分が低すぎる、あるいは高すぎると感じるなら即時抗告で争うと良いでしょう。
特別受益が認められなかった
誰か1人の相続人が高額な生前贈与を受けていたので「特別受益の持ち戻し計算をすべき」と主張していたけれど認められなかった場合、特別受益を主張していた相続人は不服を抱くでしょう。そういったケースでも即時抗告で争えます。
特別受益の計算方法に不服がある
特別受益が認められたけれども金額が低すぎて納得できない場合、あるいは高すぎて受け入れられない場合などにも即時抗告で争えます。
上記以外にも「原審判の内容に不服がある場合」には広く即時抗告で争えます。ただし即時抗告で主張が認められるには法的な根拠が必要で、原審で不合理な主張をしているなら即時抗告をしても同じです。素人では対応が難しいので弁護士に依頼する方が良いでしょう。
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即時抗告の流れ
即時抗告審はどのように進んで行くのか、流れをみていきましょう。
- 即時抗告の申立
- 理由書の提出
- 反論書の提出
- 裁判所で審理が開かれるケースがある
- 即時抗告の決定
即時抗告の申立
即時抗告は、当事者からの申立があって開始されます。遺産分割審判の内容に不服があれば、まずは即時抗告の申立を行いましょう。申立先の裁判所は「高等裁判所」です。ただし即時抗告の申立書自体は原審のあった家庭裁判所へ提出する必要があります。その後、家庭裁判所から原審の記録と共に高等裁判所へ送られる仕組みになっています。
また即時抗告の申立は「家庭裁判所の審判書を受け取ってから2週間以内」に行わねばなりません。その期限を過ぎると審判が確定して争えなくなるので、注意が必要です。
即時抗告の申立書には、詳しい不服理由を書く必要がありません。単に「原決定に不服があるので即時抗告を申し立てる」とだけ書いていれば有効です。遺産分割審判の審判書を受け取ったとき、内容に不服があればとりあえず簡単に高等裁判所宛の「即時抗告申立書」を作成し、家庭裁判所に提出しましょう。
申立の際、手続きを弁護士に任せれば弁護士がすべて必要な作業をしてくれるので当事者は何もする必要がありません。
理由書の提出
即時抗告の申立書には簡単に「即時抗告を申し立てる」としか書いていないケースが多いので、後に詳細な理由書を提出しなければなりません。
即時抗告の理由書についても提出期限があり、原則的には「即時抗告の申立後2週間以内」です。
ただしその期間内に理由書を提出できなくても、いきなり申立が棄却されたりするケースは少数です。多少は遅れても受け付けてもらえる可能性が高いと言えます。
そうはいっても即時抗告申立から2週間を過ぎると、高等裁判所はいつ即時抗告を棄却してもかまわない状態となるので、油断していると突然棄却されてしまうかもしれません。書面の提出期限は必ず守りましょう。
弁護士に依頼している場合
即時抗告の申立を弁護士に依頼した場合、即時抗告申立理由書は弁護士が作成します。ただし書面作成の際には弁護士と当事者との打ち合わせが必要になるケースが多いですし、弁護士が作成してくれた書面を当事者がチェックする必要もあります。こういった打ち合わせや確認の作業が遅れると、2週間の提出期限に間に合わなくなってしまうおそれが高まります。
弁護士に即時抗告を依頼している場合には弁護士の指示に従ってスムーズに打ち合わせや書面の確認と連絡を済ませ、即時抗告理由書の早期提出に協力しましょう。
追加の資料提出も可能
即時抗告審では、追加の資料も提出可能です。家庭裁判所の遺産分割審判では提出できなかった資料やその後の調査で明らかになったこと、即時抗告の理由を基礎づけるための追加資料などがあれば、用意して提出しましょう。
反論書の提出
即時抗告の申立人が詳細な理由書を提出すると、相手方から反論書の提出があるものです。反論書が提出されたら申立人にもその書類が届くので、内容を確認できます。
もしも相手の反論に対して補足で再反論があれば、即時抗告審の決定が出るまでの間に書面を作成して提出できます。弁護士に書面を作成してもらって適切に反論しましょう。
裁判所で審理が開かれるケースがある
即時抗告審は基本的には書面審理なので、必ずしも当事者が裁判所に出頭して期日が開かれるとは限りません。ただし当事者からの申立書や反論書が出た段階で、裁判所の判断により当事者を裁判所に呼び出して、進行方法を検討するケースがよくあります。
その場合、多くは裁判官から「和解」の勧告があります。当事者同士で話し合いが成立すれば、即時抗告審で裁判所が決定しなくても和解で解決できます。
即時抗告の決定
申立書と反論書が提出されても特に裁判所から呼出がなかった場合や、当事者が裁判所で話し合っても和解できなかった場合などには、即時抗告審の裁判官が決定を下します。
即時抗告の決定は訴訟の判決と違って「言い渡し期日」がありません。決定が下されると、ある日突然書面で送られてきます。遺産分割審判もこれと同じなので、審判を経験していればイメージしやすいでしょう。
弁護士に依頼していれば、法律事務所宛に即時抗告の決定書が届きます。決定書を受け取ってから当事者が2週間以内に特別抗告や許可抗告の申立をしなければ、即時抗告の決定内容が確定して有効となります。
許可抗告、特別抗告について
即時抗告の決定内容に不服がある場合、一応「許可抗告」「特別抗告」という更なる不服申立方法が用意されています。ただしこれらは「憲法違反」「法令違反」などの場合しか受け付けてもらえないので、通常は認められないと考えましょう。
遺産分割方法の決定で自分の主張を認めてもらうには、即時抗告が事実上最後のチャンスと考えるべきです。
即時抗告申立書のひな形、必要書類、費用
即時抗告の申立方法をもう少し詳しく説明します。
必要書類
- 即時抗告申立書
- 追加の資料
基本的には「即時抗告の申立書」を提出すれば申立ができます。戸籍謄本や相続関係説明等の書類は既に原審で提出しているので、改めて集める必要はありません。ただし追加で提出したい資料があればつけることができます。申立時につけなくても理由書の提出時に一緒に資料を出せるので、この時点でそろっていなくても焦る必要はありません。
費用
1件について1,800円分の収入印紙と連絡用の郵便切手が必要です。郵便切手の金額や内訳は裁判所によって異なりますが、5,000円くらいはかかるケースが多数です。詳細は各高等裁判所へ確認しましょう。
即時抗告申立書のひな形
即時抗告申立書のひな形を示すので、参考にしてみてください。
即時抗告申立書サンプル ※zip圧縮Wordファイル(.docx形式)
申立書作成の方法
申立書には、基本的に以下の記載が必要です。
当事者の表示
申立人と相手方の表示です。最低限住所と氏名を記入し、申立人については電話番号(あればFAX番号)も書いておきましょう。
原審判の表示
どの遺産分割審判に対する不服申立なのかを明らかにしなければならないので、必ず「原審判の表示」が必要です。書かなければならないのは以下の事項です。
- 遺産分割審判が行われた家庭裁判所名
- 事件番号
- 当事者名
- 事件名
家庭裁判所から届いた「審判書」に書いてあるので、間違いのないように写しましょう。
即時抗告を申し立てること
即時抗告申立書には詳細な理由は不要ですが「不服があるので即時抗告を申し立てること」を明らかにしなければなりません。
日付
申立書の作成日付を入れましょう。
署名(記名)押印
必ず申立人の署名または記名と押印が必要です。印鑑は認印でもかまいませんが、忘れると書面が成立しないので、必ず対応しましょう。
書類の提出先と提出方法
即時抗告の書面と収入印紙等の費用、提出したい追加資料を用意できたら、書類を「遺産分割審判のあった家庭裁判所宛」に提出します。書面の宛先は高等裁判所ですが、提出先は家庭裁判所になるので注意が必要です。
提出期限
即時抗告申立書の提出には期限があります。原審の審判書を受け取ってから2週間以内で家庭裁判所に必着です。郵送でも提出できますが、確実を期するために簡易書留で速達を利用しましょう。もしくは2週間以内に家庭裁判所まで持参すると確実です。
遅れると即時抗告を受け付けてもらえなくなるので、急ぎ対応しましょう。弁護士に任せていたら安心です。
即時抗告と和解
即時抗告は話し合いで解決する最後のチャンス
即時抗告では、当事者の和解で終了するケースも多くなっています。実際、即時抗告でも主張が認められなかった場合、許可抗告や特別抗告は認められない可能性が極めて高いので、即時抗告が「話し合いで解決する最後のチャンス」となります。
合意によって解決できれば、「全面的に負けてしまうリスク」を回避できますし、相手(兄弟姉妹や親子などの親族であるケースが多い)との関係も、ある程度は維持しやすくなります。
高等裁判所の裁判官から和解の勧告があれば、1度は話し合いのテーブルについてもめている相手と話し合ってみてください。それでもどうしても合意できない場合、即時抗告審の判断に委ねると良いでしょう。
即時抗告は弁護士に依頼すべき理由
即時抗告は、自分一人でも進められるのでしょうか?弁護士に依頼すべきかどうか、みてみましょう。
即時抗告を有利に進めるには専門知識、ノウハウが必要
即時抗告は話し合いの手続きではなく、基本的に「書面」によって審理が行われます。法律的な根拠のある説得的な主張書面を提出し、主張を補強する証拠なども提出しなければなりません。
こういった法律的に専門的な対応を、当事者が一人で進めていくのは困難です。即時抗告を有利に進めるには法律の専門知識とノウハウが要求されます。一人で対応すると不利になる可能性が高くなるので、必ず弁護士に依頼すべきといえるでしょう。
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弁護士に依頼すると手続きが楽になる
即時抗告では「原審判後2週間以内に申立書を提出」し、「申立後2週間以内に即時抗告理由書を提出」しなければなりません。相手の反論書面に対する再反論なども必要です。一人でこういった手続きに対応するのはとても大変で手間がかかります。
弁護士に依頼すれば、申立書や理由書などの作成や提出をすべて任せられますし、提出期限についても心配不要です。手間を省いて安全かつ有利に手続きを進めるため、弁護士の力を借りましょう。
即時抗告は遺産相続に詳しい弁護士に依頼しよう
即時抗告というと一般にはあまりなじみがないかもしれませんが、遺産分割でもめると対応が必要になる可能性があります。遺産分割審判を依頼している弁護士がいれば引き続き即時抗告を依頼すれば良いですが、もしも審判に一人で対応した場合には必ず遺産相続関係に詳しい弁護士を探して依頼しましょう。今後の参考にしてみてください。
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