特定調停の調停調書の効力|無効を主張できるケースとは

計算書のミスが特定調停の効力にもたらす影響

特定調停が成立すると「調停調書」が作られます。この調停調書には裁判の確定判決と同じ効力があり、返済が滞れば債権者は裁判を起こさずに給与や預金を差し押さえることができます。「成立してほっとしたけれど、後から債権者の計算書に誤りがあったと気づいた」「本当は過払い金があったのに、借金が残っていると思って合意してしまった」。そんなとき、調停調書の効力を争うことはできるのでしょうか。

結論からいうと、一度成立した調停を覆すのは簡単ではありません。ただし、債権者が取引履歴の一部しか開示していなかった、計算書に明らかな誤りがあった、といった事情があれば、調停の効力や過払い金の返還を争える可能性があります。この記事では、調停調書の効力の強さと、それを争える可能性があるケース、相談先について解説します。

特定調停の調停調書の効力

確定判決と同じ効力がある

民事調停法では、調停で合意が成立して調停調書に記載されると、その記載は裁判上の和解と同じ効力を持つと定めています。裁判上の和解には確定判決と同じ効力があるため、調停調書は判決と同じ「債務名義」という扱いになるわけです。任意整理の和解書は当事者間の契約にすぎませんが、調停調書はこの点で大きく異なります。

滞納すると強制執行を受けるおそれがある

通常、債権者が給与や預金を差し押さえるには、裁判で判決を得て債務名義を取らなければなりません。調停調書はすでに債務名義なので、債務者が調停調書どおりに返済しない場合、債権者は裁判を起こすことなく強制執行を申し立てることが可能です。多くの調停調書には、一定回数以上の滞納で残額を一括請求できるという条項(期限の利益喪失条項)が入っており、その回数は調停の内容によって異なります。期限の利益の喪失については、次の記事で詳しく解説しています。

調停に代わる決定(17条決定)も同じ効力

債権者が期日に出頭しない場合などには、裁判所が「調停に代わる決定」を出すことがあります。この決定は、当事者から2週間以内に異議が出なければ、調停成立と同じ効力を持つことになるのです。異議が出れば決定は効力を失い、調停は不成立となります。異議を申し立てた場合の流れは、こちらの記事をご覧ください。

一度成立した調停を覆すのは難しい

調停調書は、債務者と債権者が納得したうえで合意した内容を裁判所が記録した公的な文書です。「成立後に小さな計算違いに気づいた」「やはり合意すべきではなかった」という程度の理由で覆すことはできません。調停の成立前に、債権者が提出した計算書の内容を自分の記憶や手元の明細と照らし合わせ、慎重に確認することが何より大切です。

計算書とは

特定調停では、裁判所から債権者に対し、契約書の写しと利息制限法に基づく引き直し計算書の提出が求められます。計算書は、債務者の借金を上限金利で計算し直した結果を示すもので、調停の土台になる文書です。申立人は1回目の期日までに裁判所で閲覧・コピーできるので、必ず目を通しておきましょう。計算書と上申書の見方は、次の記事で解説しています。

調停の効力や過払い金を争える可能性があるケース

例外的に、調停の効力や、調停後の過払い金の返還を争える可能性があるのは、主に次のようなケースです。いずれも法律的な判断が必要なので、該当しそうなら弁護士に相談してください。

債権者が取引履歴の一部しか開示していなかった

自分ではもっと前から取引していた記憶があるのに、債権者が提出した取引履歴が最近の分しかなかった、というケースです。古い取引が計算に含まれていないと、本来なら元本に充当されるはずの払いすぎた利息が反映されず、残高が実際より多く計算されます。このような場合、全期間の取引履歴を取り寄せて計算し直し、調停の内容との食い違いを根拠に争うことが考えられます。

計算書に明らかな誤りや虚偽があった

計算書の利率や借入額に明らかな誤りがあり、それを前提に合意してしまった場合も、争う余地があります。錯誤や詐欺などの民法上の理由で合意の効力を争う方法や、調停の無効確認を求める訴え、強制執行に対する請求異議の訴えなどが法律上の手段として考えられますが、どの手段が使えるかは事案によって異なります。

本当は過払い金が発生していた

引き直し計算をきちんと行えば過払い金が出ていたのに、残債務があるものとして調停が成立してしまったケースです。この場合、調停調書の条項の書き方によって、調停後に過払い金の返還を請求できるかどうかが変わります。

この点について、2015年(平成27年)9月15日の最高裁判決は、調停の対象が特定の期間の債務に限られ、清算条項に取引全体から生じる過払い金返還請求権を特に対象とする文言がなかったことなどを理由に、調停が公序良俗に反して無効とはいえないと判断しました。つまり、清算条項の文言が過払い金を含むかどうかが大きな分かれ目になります。判決の内容と条項の読み方は、次の記事で詳しく解説しています。


調停調書に疑問を持ったときの進め方

  1. 手元の調停調書(または決定書)と、債権者が提出した計算書の写しを用意する
  2. 自分の記憶や明細と照らし、取引の開始時期や借入額に食い違いがないか確認する
  3. 債務整理に詳しい弁護士に相談し、全期間の取引履歴を取り寄せてもらう
  4. 引き直し計算をやり直し、調停の内容との差を確認する
  5. 差があれば、過払い金の返還請求や調停の効力を争う手段を弁護士と検討する

注意したいのは、疑問があっても調停調書どおりの返済を自己判断で止めないことです。返済を止めると強制執行のリスクが現実になります。争う手段が決まるまでは返済を続け、弁護士と相談しながら進めてください。あわせて次の記事もご覧ください。

調停調書の効力に関するよくある質問

何回滞納すると強制執行されますか?

調停調書の期限の利益喪失条項によります。2回分以上の滞納で一括請求できるとする内容が多く見られますが、自分の調停調書を確認してください。

調停が無効になったら、これまで払ったお金は戻りますか?

正しい計算による残債務と、実際に払った額の差は返還を求められる可能性があります。過払い金が発生していればその返還も求められますが、調停の内容や条項によって扱いが変わります。

調停委員が計算の誤りに気づかなかったのはなぜですか?

調停委員は債権者の計算書を前提に調整を行うため、取引履歴の一部が開示されていない場合などは、誤りに気づきにくいことがあります。申立人自身が計算書を確認することが重要です。

債権者の計算書に疑問を感じたら弁護士に相談を

特定調停の調停調書には確定判決と同じ効力があり、債務者は原則として調停調書どおりに完済しなければなりません。一方で、債権者が取引履歴の一部しか開示していなかった、計算書に誤りがあった、本当は過払い金が発生していた、といった事情があれば、調停の効力や過払い金の返還を争える可能性があります。

どの手段が取れるかは、調停調書の条項や取引の経過によって変わる専門的な判断です。自己判断で返済を止めたり、債権者と直接やり合ったりせず、債務整理に詳しい弁護士に調停調書と計算書を見てもらってください。

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