共有名義の不動産を解消する方法|共有物分割請求の流れと費用

共有名義の不動産を解消する方法|共有物分割請求の流れと費用

親が遺した実家の土地を兄弟で相続し、共有名義のまま数年が過ぎた。売りたくても他の共有者が首を縦に振らず、固定資産税だけを払い続けている。このような相続で発生した不動産の共有状態は、待っていても解消されません。

共有名義の不動産は、共有物分割請求をすれば共有者1人の意思で解消に動けます。共有物分割請求するのに他の共有者の同意は必要ありません。話し合いがまとまらなければ最終的に裁判所へ申し立てることで分割方法を決めてもらえます。

この記事では、不動産の共有状態を解消する方法の選び方から、共有物分割請求の流れと費用、請求された側の対応までを解説します。

共有になった不動産は共有物分割請求で解消できる

共有物分割請求とは、複数人で共有している不動産等について、共有者のひとりが他の共有者に対して共有状態の解消を求める民法上の手続きのことです。

不動産等の共有状態解消は、当事者間での話し合いで解決できれば理想的ですが、話し合いがまとまらない場合は訴訟を申し立て、裁判所に分割方法を命じてもらうことも可能です。つまり共有状態の解消を望む共有者が1人いれば、共有関係は最終的に必ず終わらせることができます。

放置すると共有者が増えていく

共有名義の不動産は、売却にも建て替えにも共有者全員の同意が必要です(民法251条)。共有者のうちだれか1人でも反対すれば、勝手に売却や改修を進めることはできません。
共有不動産の解消が進まなくても、生活に直接的な支障がなければ放置しがちですが、共有の問題は時間がたつほど深刻になります。

次の相続で持分が細分化し、全員の同意が取れなくなる

共有者が亡くなると、その持分は共有者の相続人が引き継ぎます。

たとえば兄(子ども3人)と弟(子ども2人)で共有していた土地なら、兄が亡くなった時点で共有者は弟と、弟から見ておい・めいにあたる兄の子3人の合計4人です。
更に弟も亡くなれば、所有者はいとこ同士5人へと細分化していきます。

共有者が増えるほど、全員の同意はそろえにくくなります。会ったことのない共有者や、連絡先のわからない共有者が現れる例も珍しくありません。
不動産の共有状態を解消するなら、共有者どうしの関係を正しく把握できているうちが、最も動きやすい時期です。

分割はいつでも請求できる

共有物の分割について、民法256条は次のように定めています。

共有物の分割請求 (民法第256条)

第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
(民法|e-Gov法令検索)

共有物分割の請求に期限はなく、共有状態になってから何年たっていても請求できます。
共有者は、なぜ分割したいのか共有物分割を求める理由を示す必要もありません。

共有物分割請求は、各共有者が単独で行使できる権利です。他の共有者の同意や承諾は必要なく、共有者の1人が分割を求めた時点で、他の共有者は分割の話し合いに応じる立場に置かれます。

まず共有物分割禁止特約がないか確かめる

ただし共有者間で共有物分割禁止特約(分割をしない契約)を結んでいる場合は例外で、この特約が定める期間内は、共有不動産の分割を請求することができません。禁止できる期間は5年までで、更新もできますが、更新後の期間も更新の時から5年を超えられません(民法256条2項)。

この特約があるかどうかは登記で把握することができます(不動産登記法59条6号)。相続や売買で持分を取得した人は、前の共有者どうしが特約を結んでいないかを登記事項証明書で確認しておきましょう。

「遺言による遺産分割の禁止」は別の制度

遺言者は、遺言で相続開始から5年を超えない期間、遺産の分割を禁止できます(民法908条)。

遺言による遺産分割の禁止は遺産分割の手続き自体を止める制度です。共有者どうしが結ぶ共有物分割禁止特約とは、特約を結ぶ根拠も対象も異なります。
どちらも5年という同じ数字が出てきますが、混同しないよう注意が必要です。

相続した不動産は先に遺産分割をする

相続人どうしで遺産分割を終えていない共有状態を、遺産共有と呼びます。実家の土地が兄弟の共有名義のままなら、多くはこの遺産共有にあたります。

相続をきっかけに共有となった不動産は、手続きの入口が通常の共有の場合とは異なります。

遺産共有のままだと共有物分割請求できない

遺産分割がすんでいない不動産は、共有物分割訴訟では分割できません(民法258条の2第1項)。
遺産共有の解消は、まず相続人どうしの遺産分割協議か、家庭裁判所での遺産分割調停・審判で行う必要があります。

遺産分割を通じて不動産を1人の単独名義にまとめることができれば、そもそも共有物分割請求を使う必要はありません。

相続開始から10年たてば共有物分割訴訟で処理できる

2023年4月施行の改正民法により、相続開始から10年を経過すると、遺産共有の持分も共有物分割訴訟で分割できるようになりました(民法258条の2第2項)。

ただし、他の相続人が遺産分割の請求をした上で、訴訟が起こされた旨の通知を受けた日から2か月以内に裁判所へ異議を申し出ると、その持分は共有物分割訴訟では分割できません。その場合、相続人は遺産分割の手続きで持分を解消します。

また、共有物分割訴訟で処理する場合、法定相続分または指定相続分を基準とした分割となります。
寄与分の考慮や被相続人の意思などふまえた柔軟な調整は、相続による遺産分割であれば認められる可能性がありますが、共有物分割訴訟では基本的に反映されることはありません。

共有を解消する3つの分割方法

ここからは、自分から共有の解消を進める場合の方法を説明します。

共有物の分割方法は、現物分割・代償分割・換価分割の3つです。
どれを選ぶかは、不動産を残したいか、お金に換えたいかで決まります。

分割方法 内容 向いているケース
現物分割 不動産そのものを分けて、各自の単独所有にする 分筆できる広さの土地
代償分割 1人が不動産を取得し、他の共有者に代金を支払う 住み続けたい共有者がいる
換価分割 不動産を売却し、代金を持分割合で分ける 誰も使う予定がない

代償分割|不動産を残したい場合

代償分割(価格賠償)は、実家に住み続けている共有者がいる場合や、賃貸収入のある物件を手放したくない場合に向いています。

不動産を取得する共有者は、他の共有者の持分を時価で評価した代金(代償金)を支払い、引き換えに不動産を単独名義にします。
この時、持分の時価より著しく低い代償金にすると、差額を贈与により取得したものとみなされ、取得した共有者に贈与税がかかります(相続税法7条)。贈与税の具体的な額は、税理士に確認が必要です。

2023年4月施行の改正民法は、裁判所が代償分割を命じられることを条文に明記しました(民法258条2項2号)。条文の上で現物分割と代償分割は並列に置かれており、どちらかを先に検討すべきという優先順位はありません。

代償金を用意できることが前提

代償金は不動産の時価をもとに計算するため、数百万円から数千万円の支払いになります。

取得を希望する共有者に支払える資力がなければ、裁判所は代償分割を命じません。代償分割を希望する共有者は、代償金を預貯金でまかなえるか、金融機関の融資を使えるかを、協議の前に確かめておきましょう。

換価分割|共有物を誰も使わない場合

誰も住まず、使う予定もない不動産なら、お金に換えて分けるのが最も公平で、後に禍根も残りません。

協議で換価分割に合意できれば、共有者全員で不動産会社に仲介を依頼して市場価格での売却を目指し、売却代金から仲介手数料などの費用を引いた残りを持分割合どおりに分けます。売却で利益が出た共有者には、持分に応じた譲渡所得税と住民税がかかります。

なお、相続した土地を国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度は、共有者全員での申請が必要なため、対立している共有の解消手段にはなりません。

競売になると価格が下がる

協議がまとまらず訴訟に進み、現物分割も代償分割もできないと裁判所が判断した場合は、競売を命じます(民法258条3項)。

競売による売却額は、仲介で市場に出した場合の売却額を下回るのが通常です。手取りを減らしたくない共有者は、訴訟の途中でも、和解による市場での売却を模索できます。

土地なら現物分割も

共有しているのが家などの建物ではなく土地であるなら、現物分割も可能です。
共有となっている1筆の土地を複数に分ける分筆登記をすることで、共有者それぞれの単独所有とします。分筆を行うには測量が必要となり、土地家屋調査士への報酬がかかります。
土地は道路に接しているかどうかや形状によっても価値が変わるため、面積を持分どおりに分けるだけでは公平になりません。
共有者それぞれが受け取る土地の価値の差は、共有者間で代金の支払い・受け取りを行うことで調整します。

なお、1筆の土地を共有者の持分割合どおりに現物分割で分けた場合、その分割による譲渡はなかったものとして扱われます。そのため譲渡所得税はかかりません(所得税基本通達33-1の7)。

建物は分けにくい

建物は物理的に切り分けられないため、現物分割にはほぼ向きません。
建物付きの土地や、狭くて分筆できない土地では、共有者は代償分割か換価分割を選ぶことになります。

共有物分割請求の進め方

分割方法の見当がついたら、次は請求の手続きです。共有物分割請求は、次の順序で進みます。

  1. 共有者どうしで協議する
  2. まとまらなければ簡易裁判所へ民事調停を申し立てる(省略もできる)
  3. 共有物分割訴訟を起こし、裁判所が分割方法を決める

まずは共有者どうしで協議する

共有物分割は、共有者どうしの協議から始めます。

共有者全員が協議で分割方法と金額に合意できれば、共有物分割協議書を作成し、その内容に沿って持分移転登記や売却を進めます。

裁判所を使った手続きに比べ、費用も期間も大幅に抑えられるため、解決できるのであればベストな方法と言えます。

内容証明で分割の意思を伝える

共有物分割を請求する共有者は、話し合いに応じない共有者や疎遠になっている共有者に対して、内容証明郵便で分割請求の意思と希望する分割方法を伝えます。

内容証明郵便は、いつ・誰に・どのような内容の文書を送ったかを日本郵便が証明する郵便です。
内容証明郵便を出したにもかかわらず相手が返答しなかった場合、その後の訴訟では、返答のなかった事実が協議できない状況を示す証拠のひとつとして認められる場合があります。

まとまらなければ共有物分割調停を申し立てる

協議で折り合えない場合は、簡易裁判所の民事調停で、調停委員を交えた話し合いができます。

当事者どうしでは感情的になって進まない協議も、調停委員が第三者として間に入ることで整理される場合もあります。
ただし調停はあくまで話し合いの手続きなので、相手が出席しなければ成立しません。

調停を経ずに訴訟を起こすこともできる

なお、共有物分割では、調停を先に申し立てる義務はありません。
話し合いの余地がないと判断したら、協議から直接訴訟へ進むこともでき、実務でも調停を挟まずに訴訟を起こす例は多くあります。

訴訟で裁判所が決める

協議でも調停でも決まらない場合は、共有物分割訴訟を起こします。
訴訟を起こしてから判決が出るまでの期間は、共有物にまつわる争点の数や鑑定の要否で異なり、提訴から半年を超える例も、1年以上かかる例もあります。

訴訟では、裁判所は現物分割か代償分割を命じ、共有者がそのどちらもできない場合は競売を命じます(民法258条2項・3項)。
裁判所は分割の判決とあわせて、代償金の支払いや登記手続きも命じることができます(民法258条4項)。

訴訟を起こす相手(被告)は共有者全員

共有物分割訴訟は、自分以外の共有者全員を被告として起こします。一部の共有者を外した訴えは、不適法として却下されます。

訴え先は、不動産の所在地または被告の住所地を管轄する地方裁判所です。

協議ができない状況でも請求できる

改正前の民法は、訴訟を起こせる場合を「協議が調わないとき」とだけ定めていました。

2023年4月施行の改正で、「協議をすることができないとき」が加わりました(民法258条1項)。これにより、他の共有者が話し合いを無視する、連絡がつかないといった状況でも訴訟を起こせることが、条文上明確になりました。

共有物分割請求にかかる費用

手続きの流れがわかると、次に気になるのは費用です。

共有物分割にかかる費用は、大きく裁判所に納める費用と弁護士費用に分かれます。訴訟まで進んだ場合に、請求する側が何をいくら用意するのかを順に説明します。

裁判所への費用は訴額で決まる

訴訟を起こす人は、訴状に収入印紙を貼って手数料を納めます。
手数料の額は、訴訟で求める利益を金銭に換算した「訴額」で決まります。

共有物分割訴訟の訴額は、不動産の評価額そのままではなく、次の目安で計算します。

実務では、固定資産税評価額をもとに、次の式で訴額の目安を計算します。

  • 建物:固定資産税評価額 × 持分割合 × 3分の1
  • 土地:固定資産税評価額 × 持分割合 × 3分の1 × 2分の1(=6分の1)

たとえば固定資産税評価額3,000万円の土地を、2分の1の持分で共有している場合の訴額の目安は次のとおりです。

3,000万円 × 2分の1(持分) × 6分の1 = 訴額250万円

裁判所は、訴額の区分ごとの手数料をまとめた手数料額早見表を公式サイトで公開しています。訴訟を起こす人は、訴状を出す前にこの表で確認できます。

書面で訴状を提出する場合の手数料は、たとえば次のとおりです。

  • 訴額250万円:手数料2万500円
  • 訴額500万円:手数料3万2,500円
  • 訴額1,000万円:手数料5万2,500円

被告が2名以上のときは、上記の手数料に、被告の数から1を減じた数×2,000円を加算します。

実際の訴額は提訴する裁判所で確認する

訴額は最終的に裁判所が判断するため、確定した額と印紙代は提訴する裁判所の窓口で確認してください。

このほか、書類の送付に使う郵便切手(予納郵券)も数千円分必要です。
切手の内訳は裁判所と被告の人数によって変わります。

弁護士費用

弁護士費用の中心は、依頼時に支払う着手金と、解決時に支払う報酬金です。

弁護士費用の金額は事務所ごとに自由に決められますが、多くの事務所が目安にしている旧日本弁護士連合会の報酬基準では、争いの対象となる金額(経済的利益)に応じて計算します。

共有物分割において経済的利益をどう捉えるかは法律事務所によって異なります。

着手金

着手金は、結果にかかわらず依頼するときに支払う費用です。

旧基準では、経済的利益が300万円以下なら8%、300万円を超え3,000万円以下なら5%+9万円でした。

たとえば相談者の共有物持分の評価額が1,000万円なら、着手金の目安は5%+9万円が適用となり、59万円(消費税別)となります。

報酬金

報酬金は、解決によって得られた経済的利益に応じて支払う費用です。

旧基準では、経済的利益が300万円以下なら16%、300万円を超え3,000万円以下なら10%+18万円です。
このほかに法律相談料や実費がかかる事務所もあるため、総額は依頼前の見積もりで比較してください。

代償分割では鑑定費用がかかることも

協議や訴訟で不動産の時価に争いがあると、不動産鑑定士による鑑定で価格を確かめる場合があります。
裁判所が鑑定を実施すると、数十万円規模の鑑定費用を当事者が負担します。

鑑定まで進む前に、共有者どうしが不動産会社の査定書など複数の価格資料を出し合って合意できれば、この費用は抑えられます。

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自分の持分だけを手放して共有から抜ける方法

ここまでは、不動産そのものを分けて共有を解消する方法を説明してきました。
共有物分割請求は共有者全員を巻き込む手続きで、訴訟まで進めば費用も時間もかかります。

共有者は、自分の持分だけを手放すこともできます。持分の処分は各共有者が単独で決められるため、他の共有者が話し合いに応じなくても共有から抜けられます。ただし不動産そのものは共有のまま残るので、残った共有者にとっての解決にはなりません。

持分を手放す方法は、次の3つです。

他の共有者に持分を買い取ってもらう

不動産を使い続けたい共有者がいるなら、その共有者に自分の持分を買い取ってもらう方法が最も穏当です。
共有関係から抜けた上で、持分に見合う代金も受け取れます。

売買代金は持分の時価をもとに決めます。売る側の共有者は、不動産会社の査定書など価格の根拠になる資料を用意して交渉すると、金額でもめにくくなります。

この方法には相手の同意と資力が必要なため、買い取りを断られれば成立しません。断られた共有者は、第三者への売却か共有物分割請求へ進みます。

第三者や買取業者に持分を売却する

買い取ってくれる共有者がいない場合、自分の持分は第三者へ売却できます。共有持分だけを専門に買い取る業者もあり、他の共有者と交渉できない共有者の出口になります。

持分を売る共有者には、他の共有者の承諾を得る義務も、事前に通知する義務もありません。

ただし共有持分の買主は不動産を自由に使えないため、市場では買い手が限られます。
売却価格は、不動産全体の価格に持分割合を掛けた額を下回るのが通常です。売却して利益が出た共有者には、譲渡所得税と住民税がかかります。

買主が他の共有者に分割請求する場合がある

持分を買い取った業者は新しい共有者となり、残った共有者へ共有物分割請求をするのが一般的です。

売却した共有者は手続きから離れることができますが、残った親族は業者との交渉に対応することになります。
親族との関係を保ちたい共有者は、第三者へ売る前に他の共有者へ買い取りを打診しておきましょう。

共有持分を放棄する

持分の買い手が見つからない場合、共有者は自分の持分を放棄できます。対価は受け取れませんが、固定資産税の負担と共有者としての立場から外れることができます。
共有持分の放棄の場合、手放した持分を渡す相手を選ぶことはできません。特定の共有者に無償で渡したいなら、贈与を選んでください。

放棄した持分は他の共有者に帰属する

共有者の1人が持分を放棄すると、その持分は、他の共有者が持分割合に応じて取得します(民法255条)。

放棄は、相手の同意を必要としない一方的な意思表示であるため、他の共有者が持分の受け取りを拒んだとしても、放棄そのものの効力が妨げられることはありません。

登記には他の共有者の協力が必要

持分の移転登記は、放棄した共有者と持分を受け取る共有者が共同で申請します。
他の共有者が登記に協力しなければ、登記簿上の名義は共有のまま残り、固定資産税の請求も届き続けます。

協力を得られない場合、放棄した共有者は登記引取請求訴訟を起こし、判決にもとづいて単独で登記を申請します。

持分を受け取る共有者には贈与税がかかる

放棄された持分は、他の共有者が贈与により取得したものとして扱われ、贈与税の対象になります(相続税法基本通達9-12)。
また、持分を受け取る共有者には不動産取得税、移転登記の登録免許税もかかります。

放棄する共有者は、他の共有者に税負担が生じることを伝えた上で手続きを進めてください。

共有物分割請求を受けても拒否はできない

ここまでは、自分から共有の解消に動く側の説明でした。ここからは、他の共有者から共有物分割に関する内容証明や訴状が届いた側の対応を見ていきます。

民法256条が、いつでも分割を請求できると定めている以上、分割禁止の特約を結んでいる場合を除き、請求そのものを拒否する方法はありません。ただし、どう分けるかについては、請求を受けた側にも主張できることが多く残されています。

拒否ではなく希望する分割方法を主張する

共有物分割の請求を受けた共有者は、自分の希望する分割方法と条件を主張することができます。

共有物である家屋に住み続けたいなら、自分が共有物全体を取得して他の共有者に持分に応じた代償金を支払う代償分割を主張します。
共有物を手放してもよいなら、納得できる価格での換価分割を求めます。

分割方法とあわせて、価格の妥当性も争いの対象です。
相手方から提示された代償金や買取額が低いと感じたら、不動産会社の査定や鑑定を根拠にして反論できます。

協議と調停で伝える

訴訟まで進むと、最終的な分割方法を裁判所が決めることになるため、個別の事情もふまえた希望を反映させやすいのは、協議から調停までの段階です。

内容証明が届いた場合、記載された期限までに希望を回答しましょう。
請求を受けた共有者が返答しないままでいると、協議ができない状況として訴訟を起こされ、話し合いで条件を調整する機会を失います。

権利の濫用と反論しても認められにくい

分割請求そのものが権利の濫用にあたる、と反論する方法も考えられますが、民法が分割の自由を原則としているため、裁判所が濫用を認める例は限られます。

請求を受けた共有者は、請求の目的への不満より、分割方法と価格の主張に力を注ぐ方が結果に結びつくでしょう。

分割禁止の特約があれば期間内は拒否できる

請求を拒否できる唯一の例外が、共有物分割禁止特約です。特約を結んでいれば、期間内(最長5年)の分割請求は拒否できます。

特約を登記していれば、特約より後に持分を取得した共有者にも対抗できます。
分割請求を受けたら、まず共有物分割禁止特約の有無を確認しましょう。

買取業者から請求が来た場合

共有物分割請求の通知は、親族からとは限らず、親族から共有持分を買い取った買取業者から届く場合もあります。

他の相続人の持分を買い取った業者が分割請求してくるケースも

他の相続人が自分の持分を買取業者へ売ると、業者が新しい共有者となり、共有物分割請求の通知を送ってきます。

面識のない業者から突然通知が届けば誰でも戸惑いますが、請求自体は民法にもとづく正当なものです。

取るべき対応は相続人からの請求と同じ

業者からの請求に対しても、請求された側が取れる対応は相続人から請求された場合と特に変わりません。
代償分割で自分が持分を買い取るか、換価分割を選択して共同で売却するかを軸に、希望する方法・価格を主張します。

親族間の協議と違うのは、相手が共有物分割の交渉に慣れた業者だという点です。
業者の提案をそのまま受け入れてしまうと、本来受け取れる分を大きく下回る金額で持分を手放すことになりかねません。

業者の示した条件を受け入れる前に、提示された代金が持分の評価額として本当に妥当か、慎重に確認してください。

共有者が認知症で判断能力を失っている場合

ここまでの手続きは、共有者全員が自分で判断できることを前提にしていました。共有者の1人が認知症などで判断能力を失っている場合、その共有者を加えた協議は成立しません。

分割を進めるには、先に家庭裁判所で成年後見人を選任してもらう必要があります。
共有物分割では、成年後見人が決まった後も、誰が本人を代表するのか、いくらなら本人が合意できるかという2点も確認することになります。

成年被後見人がした法律行為は、後から取り消せます(民法9条)。後見開始の審判を受けていない場合でも、意思能力を欠く状態で結んだ合意は無効となります(民法3条の2)。

判断能力を失った共有者に分割協議書へ署名をしてもらったとしても、後から選任された成年後見人が協議の無効を主張すれば、分割は最初からやり直しです。

本人に代わって分割に合意できるのは、家庭裁判所が選任した成年後見人に限られます(民法859条1項)。
本人と同居する家族や、日ごろ介護をしている共有者が本人に代わって署名することはできません。

成年後見制度の手続きや費用は、次の記事で解説しています。

後見人が同じ不動産の共有者なら特別代理人が必要

親族が成年後見人になる場合、その親族自身が同じ不動産の共有者であることがあります。
共有者である長男が母の成年後見人になり、母と長男とで分割の話をまとめる形が典型です。長男は、自分の取り分を増やせば母の取り分が減る立場に立つため、成年後見人と本人の利益が相反します。

利益相反にあたる行為について、成年後見人は家庭裁判所に特別代理人の選任を請求します(民法860条826条)。
裁判所が選任した特別代理人は本人に代わって共有物分割協議に加わり、本人の取り分を検討します。成年後見監督人がすでに選任されていれば、監督人が本人を代表するため、特別代理人は不要です(民法851条4号)。

共有者の中に認知症の方がいる場合、この手続きを省いた分割協議は効力を生じません。
他の共有者は、後見人が同じ不動産の共有者かどうか、最初に確かめてください。

後見人は本人の持分に見合わない条件には合意できない

後見人の職務は、本人の財産を守ることです。持分の時価を下回る代償金や、本人だけが不利になる分け方に、後見人は同意できません。身内どうしだから安くという調整も、後見人が付いた後は通りません。

他の共有者は、持分割合どおりの代償金を用意する前提で計画を立てます。共有者の判断能力に不安があるなら、後見の申立てと分割の進め方をまとめて弁護士に相談する方が、家庭裁判所への手続きを二度手間にせずに済みます。

共有者と連絡が取れない場合の対応

認知症の共有者とは、成年後見人を通じて手続きを進められます。共有者の所在も生死もわからない場合、その共有者を所在等不明共有者と呼び、他の共有者は次の2つの裁判を申し立てられます。
どちらも2023年4月施行の改正民法で新設された制度です。

いずれの裁判も、対象は不動産に限られます。

持分取得の裁判で共有を解消する

所在等不明共有者の持分は、裁判所の決定を得て、他の共有者が取得できます(民法262条の2)。
申立人が取得した持分を自分の持分と合わせて単独所有にできれば、共有は解消されます。

不動産の所在地の地方裁判所に申し立てる

申立て先は、不動産の所在地を管轄する地方裁判所です。

申立人は、住民票や戸籍をたどっても共有者の所在がわからないことを、調査の資料を添えて示します。

持分の時価にあたる金額を法務局に預ける

申立人は、裁判所が定める持分の時価相当額を法務局に供託します。

所在等不明共有者は、後からこの供託金の支払いを受けられます。持分を一方的に取り上げる制度ではなく、対価と引き換えに共有を整理する仕組みです。

裁判所の公告から3か月以上かかる

裁判所は、異議を述べる機会を確保するため、3か月以上の期間を定めて公告し、登記簿上の他の共有者にも通知します。申立人は、公告期間だけで3か月を超えることを見込んで動きましょう。

持分譲渡権限付与の裁判で不動産全体を売る

不動産全体を第三者へ売りたい場合、申立人は所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を裁判所から付与してもらいます(民法262条の3)。

この裁判でも、申立人は持分の時価相当額を供託します。

他の共有者全員が持分を売ることが条件

譲渡権限が働くのは、所在等不明共有者以外の共有者全員が、それぞれの持分を同じ相手に譲渡する場合です。売買が成立すると、所在等不明共有者の持分は買主へ直接移転します。

譲渡の権限には期限があり、裁判の効力が生じてから原則2か月以内に売買契約まで進める必要があります。申立人は、買主探しを申立ての前から並行して進めておきましょう。

相続から10年以内はまず遺産分割を

連絡の取れない共有者がすでに亡くなっている場合や、共有者が相続人どうしである場合は、この2つの裁判を使う前に相続の処理が必要です。

亡くなった人の持分は相続から10年たつまで対象にならない

相続人どうしの遺産共有となっている持分は、相続開始から10年を経過するまで、持分の取得や譲渡権限の付与の対象になりません(民法262条の2第3項)。

遺産分割で持分を1人にまとめてから手続きする

相続開始から10年以内に動きたい場合は、まず遺産分割で持分の帰属を確定させます。相続人の中に連絡の取れない人がいるときは、家庭裁判所で不在者財産管理人を選任して遺産分割を進める方法があります。

持分がまとまって共有者がはっきりすれば、あとはこの記事で説明してきた協議や訴訟で解消を進めるだけです。

遺産分割で不動産を取得した後は、名義変更(相続登記)も必要です。手続きは次の記事で解説しています。

まとめ

共有名義の不動産は、共有物分割請求でいつでも解消に動けます。他の共有者の同意は要りません。協議で決まらなければ、裁判所が分割方法を決めます。

分割方法や代償金の額をめぐって、共有者の利害は正面からぶつかります。相手が話し合いに応じない、認知症で判断できない、所在がわからないといった事情が重なれば、手続きはさらに複雑になります。

共有状態を放置すれば、次の相続で共有者が増え、解消の難易度は上がる一方です。動ける共有者がそろっているうちに、解消へ踏み出すことが大切です。

共有名義の不動産の解消は弁護士に相談を

弁護士は、持分の評価と分割方法の見立てから、内容証明の作成、協議・調停の代理、共有物分割訴訟まで、一連の手続きを代理します。交渉の窓口を任せれば、感情的な対立で止まっていた話し合いが前に進む例も多くあります。

共有名義の不動産をどう解消するか悩んでいる方は、まずお近くの遺産相続に強い弁護士にご相談ください。

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