後遺障害9級の主な症状と慰謝料相場を解説

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後遺障害9級

後遺障害9級は、身体のいろんな部位の症状を含むため、事故前のように仕事ができにくくなり、逸失利益の生じるケースが多くなりがちです。高次脳機能障害や精神障害、頭痛など、交通事故との因果関係がはっきりしない症状もあります。弁護士の力を借りて、症状と事故との因果関係を明らかにしたうえで、逸失利益や慰謝料をしっかり受け取ることが大切です。

後遺障害9級の認定基準~該当する症状は?

国の基準では、後遺障害9級の労働能力喪失率は35%とされています。労働能力が健常者の65%になってしまったという意味です。

労働能力がここまで下がってしまうと、事故前と同じペースで働くことが難しくなり、仕事に復帰できないケースも考えられます。

9級は、14ある等級の中で、対象となる症状が最も多い等級です。その症状を表で示します。

後遺障害第9級認定に必要な条件
1号 両眼の視力が〇・六以下になったもの
2号 一眼の視力が〇・〇六以下になったもの
3号 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
4号 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
5号 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
6号 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
7号 両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
8号 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
9号 一耳の聴力を全く失ったもの
10号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
11号 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
12号 一手のおや指又はおや指以外の二の手指を失ったもの
13号 一手のおや指を含み二の手指の用を廃したもの又はおや指以外の三の手指の用を廃したもの
14号 一足の第一の足指を含み二以上の足指を失ったもの
15号 一足の足指の全部の用を廃したもの
16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの
17号 生殖器に著しい障害を残すもの

このいずれかの症状があれば、後遺障害9級の認定申請が可能です。

各症状を具体的に説明します。

1号)両眼の視力が〇・六以下になったもの

交通事故により、両眼の矯正視力が0.6以下になることをいいます。
矯正視力とは、裸眼でなく、メガネやコンタクトレンズを着けたときの視力です。

視力の測定は、万国式試視力表を用います(自賠法施行令別表 備考一)。眼科でよく見かける、ランドルト環という黒い円の切れ目や、アラビア数字・カタカナ・ひらがなを読み取る表のことです。

2号)一眼の視力が〇・〇六以下になったもの

交通事故によって、片眼の矯正視力が0.06以下になることをいいます。

他方の眼には後遺障害が生じないことが認定の条件です。

3号)両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの

交通事故により、両眼に、次のいずれかが生じることです。

  • 半盲症(視野の右半分または左半分が欠ける)
  • 視野狭窄(視野が狭くなる。視野全体が狭くなるタイプと、視野の一部分が不規則な形で狭くなるタイプとがある。)
  • 視野変状(半盲症と視野狭窄以外の形で視野が欠ける。視野の一部が点や斑(まだら)の形で欠ける「暗点」がその典型である。)

両方の眼に半盲症、視野狭窄、視野変状が起こった場合は後遺障害9級、片眼にこうした症状が起きれば後遺障害13級に当たります。

4号)両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの

交通事故によって、両眼のまぶたの全部または大部分を失い、両目を閉じた時に眼球を覆えないことをいいます。

こうした症状が片眼に起きれば、後遺障害11級です。

5号)鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの

交通事故により、鼻軟骨の全部または大部分を失い、嗅覚や呼吸の働きが大きく低下することです。

鼻軟骨の全部または大部分を失えば、顔に鶏卵の大きさ以上の傷跡が残ることになり、7級12号の「外貌に著しい醜状を残すもの」として認定されれば、9級と7級の併合により、併合6級となります(自賠法施行令2条1項3号二)。

6号)咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの

交通事故によって、顎の骨や筋肉、あるいは脳や神経に損傷を受け、咀嚼と言語の両方に障害が残ることをいいます。

咀嚼(そしゃく)とは、歯で食べ物を噛み砕いて食道へ送れる大きさや形にすることです。咀嚼障害とは、普通の食材は咀嚼できるが、歯ごたえのある堅いものを咀嚼できないことをいいます。
言語障害には、正しい発音ができない構音障害と、言葉を使うことができない失語症とがあり、ここでいう言語障害は構音障害のことです。

9級の構音障害は、次の4種類の発音のうち1種類の発音ができないことをいいます。

  • 口唇音(唇で発音。ぱ行音、ば行音、ふ、ま行音、わ行音。)
  • 歯舌音(歯や下で発音。さ行音、しゅ、し、ざ行音、じゅ、た行音、だ行音、な行音、ら行音。)
  • 口蓋音(上あごで発音。か行音、が行音、ぎゅ、にゅ、ひ、や行音、ん。)
  • 咽頭音(のどの奥で発音。は行音。)

発音できないのが2種類なら後遺障害6級または4級、3種類以上であれば後遺障害1級です。

交通事故により咀嚼障害と言語障害のどちらかが残れば、後遺障害10級となります。

7号)両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの

交通事故により、両耳で聞いても、1m以上離れた相手の普通の話し声を聴き取れなくなることです。

数値でいうと、次のいずれかの状態を指します。

  • 両耳でも60デシベル以上の音でないと聴き取れない(両耳の平均純音聴力レベルが60デシベル以上)
  • 両耳でも、50デシベル以上の音でないと聴き取れず(両耳の平均純音聴力レベルが50デシベル以上)、しかも「ア」「オ」などいくつかの言葉のうち7割以下しか聴き取れない(両耳の最高明瞭度が70%以下)

専門医である耳鼻科の医師に詳しい検査をしてもらうことが必要です。

8号)一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの

交通事故によって、次の2つの症状が生じることをいいます。

  • 片耳が、相手に耳元で大声で話してくれないと聴き取れない
  • 他方の耳が、1m以上離れた相手の普通の話し声が聴き取りにくい

数値でいうと下記の条件となります。

  • 片耳が80デシベル以上の音でないと聴き取れない(平均純音聴力レベルが80デシベル以上)
  • 他方の耳が50デシベル以上の音でないと聴き取れない(平均純音聴力レベルが50デシベル以上)

交通事故の後で耳の聞こえにくさを感じたら、早めに耳鼻科を受診して、聴力検査をしてもらいましょう。

9号)一耳の聴力を全く失ったもの

交通事故により、片耳の聴力を完全に失うことです。

数値でいうと、片耳が90デシベル以上の音でないと聴き取れない状態(平均純音聴力レベル90デシベル以上)をいいます。

他方の耳の聴力は事故前と変わらないことが9号認定の条件です。

10号)神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

神経系統とは、中枢神経(脳と脊髄)と末梢神経(中枢神経から枝分かれする神経。臓器を動かしたり痛みやかゆみを感ずるなどの働きをする。)をひとまとめにした呼び名です。

交通事故を原因とする神経系統の機能や精神の障害には、高次脳機能障害、頚椎症性の脊髄症と神経根症、抑うつ・不安・意欲低下、外傷性てんかん、頭痛などがあります

この中で交通事故との因果関係の証明が難しいのが、高次脳機能障害、頚椎症性の脊髄症と神経根症の2つです。

高次脳機能障害は脳の病気によっても生じる

高次脳機能障害とは、怪我や病気で脳損傷を負うことにより生じる症状の総称をいいます。次の4つが代表的症状です。

  • 記憶障害(物の置き場を忘れる、新しい出来事を覚えられない、同じことを繰り返し質問するなど)
  • 注意障害(ボンヤリしていてミスが多い、2つのことを同時に行うと混乱する、作業を長く続けられないなど)
  • 遂行機能障害(自分で計画を立てて実行できない、他人に指示してもらわないと何もできない、約束時間に間に合わないなど)
  • 社会的行動障害(興奮したり暴力をふるったりする、思い通りにならないと大声を出す、自己中心的になるなど)

高次脳機能障害は怪我だけでなく脳の病気によっても生じるため、後遺障害9級を取得するには、交通事故による怪我が原因であることを証明しなければなりません。

頚椎症性の脊髄症と神経根症は加齢によるものがほとんど

頚椎を形づくる7つの椎骨の一部が変形し(頚椎症)、脊髄や神経根を圧迫すると、痛み・しびれ・麻痺などの症状が出ます。これが頚椎症性脊髄症と頚椎症性神経根症です。

頚椎症は加齢によって生じるのがほとんどであることから、後遺障害9級をもらうには、変形した頚椎による脊髄や神経根の圧迫が交通事故によって生じたことを事細かに証明しなければなりません。

高次脳機能障害などによる就労可能職種の制限が必要

「服することができる労務が相当な程度に制限される」とは、事故前と比べて、通常の仕事ができる職種がかなり制限されるようになることをいいます。

こうした職種の制限は、高次脳機能障害などの障害が原因となっていること、つまり両者間の因果関係が必要です。

11号)胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

交通事故によって、呼吸器・心臓・消化器・泌尿器などの臓器の働きに障害が起こり、事故前と比べて、通常の仕事ができる職種がかなり制限されるようになることをいいます。

たとえば、呼吸器や心臓の機能に障害が生じると、肉体労働を伴う職種に就くことは難しくなるでしょう。

12号)一手のおや指又はおや指以外の二の手指を失ったもの

交通事故により、片手の親指または親指以外の2本の指を失うことです。

「手指を失った」とは、親指については第1関節(指節間関節)から先、親指以外の指については第2関節(近位指節間関節)から先をそれぞれ失うことをいいます(自賠法施行令別表 備考二)。

13号)一手のおや指を含み二の手指の用を廃したもの又はおや指以外の三の手指の用を廃したもの

交通事故によって、片手の、親指を含む2本の指、または親指以外の3本の指について、用を廃した状態をいいます。

「手指の用を廃した」とは、次のいずれかです(自賠法施行令別表 備考三)。

  • 指の第1関節から先の骨(末節骨)の半分以上を失う
  • 指の付け根の関節(中手指節関節)に著しい運動障害を残す
  • 親指なら第1関節(指節間関節)、その他の指なら第2関節(近位指節間関節)に著しい運動障害を残す

「著しい運動障害」とは、関節の可動範囲が、障害のない方(健側)の手指の半分以下になることをいいます。

14号)一足の第一の足指を含み二以上の足指を失ったもの

交通事故により、片足の、親指を含む2本以上の指を失うことです。

「足指を失った」とは、指の付け根から先すべてを失うことをいいます(自賠法施行令別表 備考四)。

足の親指は、歩いたり立ったりするのに重要な役目を果たす指です。片足の親指を含む2本以上の指を失うと、左右の下肢のバランスが取れず、歩きにくくなったり立ちにくくなったりして、労働能力の低下を招きます。

15号)一足の足指の全部の用を廃したもの

交通事故によって、片足の指すべての用を廃した状態をいいます。
具体的には、次のいずれかの状態です(自賠法施行令別表 備考五)。

  • 親指の第1関節(指節間関節)から先の骨(末節骨)の半分以上を、その他の4指の第1関節(遠位指節間関節)から先すべてを、それぞれ失う
  • 全ての指の付け根の関節(中足指節関節)または第1関節(指節間関節または遠位指節間関節)に著しい運動障害を残す

「著しい運動障害」とは、関節の可動範囲が、障害のない方(健側)の足指の半分以下になることをいいます。

16号)外貌に相当程度の醜状を残すもの

交通事故により、外貌にかなりの醜状が残った状態です。

「外貌」とは、頭・顔・首のように、上肢・下肢以外で日常露出する部分をいいます。「醜状」とは、怪我や火傷などで傷付けられた皮膚が修復された後に残る跡のことです。
国の認定基準によれば、外貌に「相当程度の醜状」があるといえるには、次の3つの要件が必要とされています。

  • 顔に残るものであること
  • 長さ5㎝以上の線状であること
  • 人目につく程度以上であること

たとえば、交通事故でハンドルに額を激しくぶつけ、長さ5㎝の割創(物が当たった衝撃で皮膚がぱっくりと口を開ける傷)を負い、治った後も額に5㎝の線状の傷跡が残った場合などです。

17号)生殖器に著しい障害を残すもの

交通事故によって、生殖器に生殖機能はあるものの、通常の性交では生殖ができない状態になることをいいます。

男性であれば勃起障害(ED)、女性なら両側卵管閉塞(左右の卵管がふさがり受精できないこと)などです。この状態で通常の性交をしても子どもを設けることはできず、生殖は不可能といえます。

13級以上の後遺障害が複数ある場合、併合で等級は繰り上げに

交通事故によりいずれかの症状が残れば、後遺障害9級の認定申請をすることが可能です。
審査に通れば、後遺障害9級に認定されるのが原則ですが、特例として、13級から9級の症状が2つ以上あれば、最も重い等級の1級上の等級へと繰り上がることがあります(等級の併合。自賠法施行令2条1項3号二)。
たとえば、9級の症状が2つあったり、9級と10級の症状が1つずつあったりすると、最も重い等級である9級の1級上の8級に認定され、併合8級となるのです。

等級の併合により労働能力喪失率も変わり、上記の例ではいずれも35%から45%に上がります。労働能力喪失率が上がれば逸失利益が増え、損害賠償金の増額につながります。

後遺障害9級の慰謝料の相場

自賠責基準による後遺障害9級の慰謝料相場

強制保険である自動車損害賠償責任保険(自賠責)では、国の基準により、後遺障害9級の慰謝料は249万円(2020年3月31日までの事故は245万円)とされています。
これが後遺障害の慰謝料についての自賠責基準と呼ばれるものです。自賠責基準は、賠償実務において、後遺障害による慰謝料額の最低ラインとして扱われています。

参考リンク:国土交通省WEBサイト「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準 第3の2(1)②」※PDFファイル

任意保険基準による後遺障害9級の慰謝料相場

後遺障害の慰謝料基準には、自賠責基準の他に、任意保険を扱う保険会社が個別に定める任意保険基準があります。

任意保険基準による慰謝料は、自賠責基準より少し高く、後述の弁護士基準(裁判基準)よりはるかに低い金額です。被害者の後遺障害の状態次第では、自賠責基準と同額の金額を提示してくる保険会社もあるとさえいわれています。

これまで任意保険基準は保険会社の内部情報として公にされてきませんでしたが、最近は任意保険基準をWEB上で公開している保険会社もあります。たとえば、損害保険ジャパン株式会社が定める後遺障害の慰謝料基準は、次の表のとおりです。

後遺障害者等級 父母・配偶者・子のいずれかがいる場合 左記以外
第1級 1,850万円 1,650万円
第2級 1,500万円 1,250万円
第3級 1,300万円 1,000万円
第4級 900万円
第5級 700万円
第6級 600万円
第7級 500万円
第8級 400万円
第9級 300万円
第10級 200万円
第11級 150万円
第12級 100万円
第13級 70万円
第14級 40万円

損害保険ジャパン株式会社WEBサイト「WEB約款」より転載)

この保険会社基準による第9級の慰謝料は300万円で、自賠責基準の249万円より少し高く、次に紹介する弁護士基準(裁判基準)よりずっと安くなっています。

弁護士基準(裁判基準)による後遺障害9級の慰謝料相場

交通事故の被害者となったとき、弁護士に加害者との慰謝料交渉を依頼すると、弁護士費用はかかりますが、もらえる慰謝料は通常、大幅に増加します。弁護士は弁護士基準(裁判基準)を基に慰謝料交渉を行うからです。

弁護士基準(裁判基準)とは、慰謝料の金額を判示した裁判例を基に算出された慰謝料額の目安のことです。弁護士が示談交渉や裁判において求める慰謝料の基準とすることから、このように呼ばれています。

弁護士基準(裁判基準)は、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称:赤い本)に掲載されています。
この「赤い本」によれば、弁護士基準(裁判基準)による後遺障害9級の慰謝料は690万円です。

後遺障害10級の慰謝料相場を3つの基準で比較
自賠責基準 任意保険基準 弁護士基準(裁判基準)
249万円 300万円 690万円

弁護士への依頼により慰謝料アップの期待大

慰謝料交渉を弁護士に依頼したときとそうでないときとでは、もらえる慰謝料の額が441万円から390万円の差があることがわかります。
これだけの差があれば、もらった慰謝料の中から弁護士費用を賄うことも十分に可能といえるでしょう。

これまでは弁護士への依頼というと敷居の高いイメージがありましたが、最近の弁護士事務所の中には、一般の人に分かりやすく弁護士費用の中身を明示したり、初回相談を無料で行ったりする所もあり、一般の人にとって弁護士への敷居は低くなりつつあります。

また、弁護士基準(裁判基準)による690万円という金額はいわゆる相場(通常の目安)であるため、交通事故に強い優秀な弁護士に依頼すれば、この金額以上の慰謝料をもらえる可能性も出てくるでしょう。

後遺障害9級の逸失利益の計算方法

後遺障害が残ると働くことが難しくなり、収入が減ってしまいます。こうした収入の減少は、事故に遭わなければ得られたであろう利益(逸失利益)として、加害者に請求することが可能です。

後遺障害による逸失利益は、平成13年に国が定めた「支払基準」により、次の式で計算することとされています。

“収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数“

参考リンク:国土交通省WEBサイト「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準 第3の1」※PDFファイル

後遺障害9級の逸失利益の労働能力喪失期間

労働能力喪失期間とは、後遺障害の影響により本来の仕事ができなくなるであろう将来の期間のことです。就労可能年数ともいわれます。

労働能力喪失期間は、支払基準の別表において、後遺障害等級が確定した時の年齢だけを基に決められていて、等級がいくつかは問われていません。

参考リンク:国土交通省WEBサイト「就労可能年数とライプニッツ係数表」※PDFファイル

高次脳機能障害になった人の労働能力喪失率の決め方

交通事故で高次脳機能障害になった人の逸失利益も計算式は、他の後遺障害の場合と変わりません。
上記でご紹介したとおり、収入、労働能力喪失率、ライプニッツ係数を元に算出されます。

ただ、労働能力喪失率については、記事の初めにお話した高次脳機能障害の症状の特徴から、支払基準別表の率を基本にしつつ、次の4点を考慮のうえ、実際の労働能力喪失率を決めるのが賠償実務の扱いです。

  • 事故前にはできていたが事故後にできなくなった仕事の内容
  • 復帰した職場でのトラブル
  • 他人の指導や援助がないとできない仕事
  • 日常生活における支障

これらは、高次脳機能障害の4大症状である記憶障害・注意障害・遂行機能障害・社会的行動障害を労働の面にあてはめたものといえるでしょう。

裁判例に見る後遺障害9級の示談金

裁判では支払基準によらない逸失利益算定を求めることも可能

判例は、交通事故による逸失利益をめぐる裁判において、裁判所は、国が定めた支払基準に縛られることなく、労働能力の喪失率や喪失期間を認定できるとしています(最高裁判決平成18年3月30日)。

それぞれの争いにふさわしい解決をすることが裁判の目的であり、逸失利益の算定についても、支払基準といった一律の基準によるのでなく、個々のケースの実状に適った算定をするべきだからです。

裁判において被害者は、支払基準を超える労働能力の喪失率や喪失期間を主張し、それを基に算定された逸失利益を加害者側に求めることができます。

実際に、9級の逸失利益が争われた裁判例を見てみましょう。

ここでは、逸失利益について争いとなることが多い、

  • 高次脳機能障害
  • 外貌醜状
  • 頚椎症性脊髄症・頚椎症性神経根症

についての裁判例を紹介します。(( )内は支払基準での数値です。)

高次脳機能障害の症状の多さは裁判例にも反映

高次脳機能障害9級の逸失利益に関する裁判例
判決年月日 年齢・性別 傷害 労働能力喪失率 労働能力喪失期間
①神戸地裁 令和3年1月15日 32歳 男 不明 35%(35%) 33年(35年)
②東京地裁 平成25年1月11日 35歳 男 ・外傷性クモ膜下出血
・脳挫傷
35%(35%) 32年(32年)
③大阪地裁 平成21年1月13日 23歳 女 脳挫傷 30%(35%) 44年(44年)
④千葉地裁 平成22年1月29日 43歳 男 脳挫傷 27%(35%) 24年(24年)
⑤名古屋地裁 平成21年3月27日 37歳 女 外傷性くも膜下出血 他 35%(35%) 30年(30年)
⑥岡山地裁 平成21年4月30日 33歳 男 外傷性くも膜下出血 他 35%(35%) 34年(34年)
⑦名古屋地裁 平成22年11月26日 55歳 男 頭部外傷 35%(35%) 13年(14年)
⑧東京高裁 平成22年9月9日 32歳 男 脳幹部損傷 35%(35%) 35年(35年)
⑨大阪高裁 平成21年3月26日 53歳 男 見当識障害 35%(35%) 14年(15年)
⑩大阪高裁 平成21年4月30日 30歳 女 頭部外傷 35%(35%) 10年(37年)

③④が労働能力喪失率、①⑦⑨⑩が労働能力喪失期間について、支払基準と異なる認定をしています。

裁判では支払基準に縛られずに個々のケースの実状に適った算定をすることができるという前述の判例(最高裁判決平成18年3月30日)の考え方がはっきりと表れた裁判例といえるでしょう。

また、10件中6件が支払基準と異なる認定をしているのは、高次脳機能障害の症状が人により様々であることが、労働能力の喪失率や喪失期間を一律に決めにくくしているためであるとも考えられます。

外貌醜状の労働能力喪失率は人目の付きやすさが決め手

外貌醜状9級の逸失利益に関する裁判例
判決年月日 年齢・性別 障害 労働能力喪失率 労働能力喪失期間
①大阪地裁 平成27年6月16日 46歳 女 ・前額部瘢痕
・複視(10級)
(併合8級)
20%(45%) 21年(21年)
②東京地裁 平成22年11月15日 9歳 男 ・眼瞼下垂
・脳外傷による高次脳機能障害(7級)
(併合6級)
67%(67%) 58年(49年)
③名古屋地裁 平成26年5月28日 33歳 女 右頬から右耳までの9㎝の線状痕 35%(35%) 34年(34年)
④神戸地裁 平成28年10月26日 38歳 女 ・額から左瞼までの5.6㎝の線状痕
・額から左眉毛までの1.6㎝の縫合痕
25%(35%) 29年(29年)
⑤さいたま地裁 平成27年4月16日 41歳 男 口唇に5㎝以上の線状痕 35%(35%) 27年(26年)

①④で認定された労働能力喪失率は、支払基準より低率です。
いずれも額(ひたい)の醜状であり、髪で隠せば人目に付くのをある程度防げることから、労働能力への影響も減ると考えられたためかと思われます。

頚椎症性の後遺障害の逸失利益はほぼ支払基準に忠実

外貌醜状9級の逸失利益に関する裁判例
判決年月日 年齢・性別 障害 労働能力喪失率 労働能力喪失期間
①大阪地裁 平成21年8月25日 57歳 男  頚椎症性脊髄症
・左手の痺れ
・細かな作業ができない
・左脚がもつれる
35%(35%) 12年(14年)
②京都地裁 平成23年6月10日 48歳 男   ・頚椎症性脊髄症
・頚部痛(14級)
(併合9級)
35%(35%) 19年(19年)
③名古屋地裁 平成30年4月18日 50歳 男  頚椎症性脊髄症
・右手で細かな作業ができない
・四肢の痺れ
脊椎症性神経根症
・背中~肩~頸の痛み
35%(35%) 17年(17年)

頚椎症性の脊髄症や神経根症では、支払基準にほぼ忠実に労働能力の喪失率や喪失期間が決められていることが分かります。

頚椎症性の後遺障害は、高次脳機能障害や外貌醜状ほど被害者ごとの症状が様々でなく、ある程度一律に労働能力喪失率などを決めることができるからといえるでしょう。

裁判所は支払基準もふまえて個別的に逸失利益を算定

前述の判例(最高裁判決平成18年3月30日)によれば、支払基準は、裁判に至らないケースについて、労働能力の喪失率や喪失期間を一律に定めることで、逸失利益を公平かつ迅速に算定し、保険金を速やかに支払うための決まりであるとされています。

裁判所は、逸失利益の算定に際して算定基準に縛られないとしても、自賠法16条の3という法律根拠を持つ算定基準を初めから無視するのではなく、ひとまず仮の基準として用いたうえで、算定結果がケースに妥当なら、それを逸失利益と認定し、反対に妥当でなければ、算定基準によらず、裁判所独自の判断で逸失利益を算定しているものと思われます。

先ほど紹介した中で支払基準と異なる労働能力の喪失率や喪失期間を示した裁判例は、後者の判断プロセスによって結論が導かれたケースといえるでしょう。

後遺障害9級で障害者手帳はもらえる?

後遺障害9級で障害者手帳の取得は難しい

身体障害者手帳には医療費の助成、所得税・住民税の減額、鉄道やバスといった公共交通機関の運賃割引などいくつかのメリットがあるため、後遺障害9級の認定を受けたら身体障害者手帳ももらいたいところです。

ただ、後遺障害9級で障害者手帳をもらうのは難しいのが実状といえます。

障害者手帳取得は障害等級6級以上から。後遺障害9級での取得は困難

後遺障害9級で障害者手帳をもらうのが難しいのは、身体障害者障害程度等級表(障害等級)6級以上に該当しにくいからです。

障害者手帳をもらうには、原則として、7等級ある障害等級のうち6級以上に該当することが必要となります。しかし、後遺障害9級ではそれが難しいのです。

たとえば、両耳の平均純音聴力レベルでいえば、後遺障害9級が60デシベル以上(60デシベル以上の音でないと聴こえない)とされているのに対し、障害等級6級では70デシベル以上(70デシベル以上の音でないと聴こえない)とされています。後遺障害9級の人は60デシベルから69デシベルまでの音を聴き取れてしまうため、障害等級6級に該当しないことになります。

とはいえ、後遺障害9級の人が障害等級6級以上に該当することが全くないわけではありません。
また、障害等級7級の障害が2つ以上ある、あるいは7級の障害と6級の障害とがあれば、身障者手帳をもらえることにもなっています。

参考リンク:厚生労働省「身体障害者手帳制度の概要」※PDFファイル

ただ、実際のところ、後遺障害9級では、身体障害者手帳をもらう要件に当てはまらないケースがほとんどといえるでしょう。

身体障害者障害程度等級表は、厚生労働省のWEBサイトで公開されています。

参考リンク:厚生労働省WEBサイト 「身体障害者手帳の概要 等級表」※PDFファイル

労災の場合、後遺障害9級でもらえる金額は?

後遺障害9級認定のもととなった交通事故が被害者の就業中または通勤途中に起きた場合、被害者は、業務災害または通勤災害(併せて労働災害)として、労働者災害補償保険(労災保険)から労災保険給付金をもらうことができます。

後遺障害9級でもらえる労災保険給付金は3種類

後遺障害9級の認定を受けている人がもらえる労災保険給付金は、次の3つです。これらはすべて一時金での支給となります。

  • 障害補償給付金 給付基礎日額×391日分
  • 障害特別給付金 算定基礎日額×391日分
  • 障害特別支給金 50万円

これらの労災保険給付金は、本人・家族または勤務先事業所が労働基準監督署に支給申請書を提出した後、面談審査などを経て、指定した口座に全額が入金されます(一時金形式)。申請から入金までの期間は、通常3か月程度です。

入金が済むと、厚生労働省から本人宛に、支給の決定とそれに基づく振込をしたことを知らせる支給決定通知が届きます。

給付基礎日額とは、事故前3か月間の賃金総額を暦日数で割った1日当たりの賃金額です。
算定基礎日額とは、事故前1年間に支払われた特別給与(ボーナス、結婚手当など)の総額を365日で割った額をいいます。

障害補償給付金と障害特別給付金が後遺障害で労働能力が低下することによる減収分を補うものであるのに対し、障害特別支給金は福祉的な観点から被害者の社会復帰を促すためのお金です。

交通事故による慰謝料は労災保険から給付されない

労災保険給付金は労災を被った人の収入の穴埋めと社会復帰の促進を目指すものであるため、交通事故による精神的ダメージへの賠償である慰謝料は労災保険から給付されません。
慰謝料は、精神的ダメージを与えた加害者側に請求することになります。

後遺障害9級の場合、県民共済で受けられる補償

交通事故の被害者は、加害者側の保険会社から損害賠償金を受け取るのが普通です。
さらに、被害者が県民共済に加入していれば、加害者側保険会社からの賠償金とは別に、県民共済からも損害の補償を受けることができます。

県民共済加入の交通事故被害者は共済金を受け取れる

県民共済とは、全国生活協同組合連合会(全国生協連)の会員として、都道府県ごとに設立された生活協同組合です。
数の上では県民共済と呼ばれる組合が多いですが、東京都だと都民共済、大阪府と京都府なら府民共済、北海道であれば道民共済と呼ばれます。
県民共済は、全国生協連からの委託に基づき、共済加入や共済金支払いの手続を行い、加入している交通事故被害者への共済金支払いもそのひとつです。

県民共済による後遺障害補償の仕組み

加入者が交通事故で後遺障害を負った場合にも共済金が支払われますが、その金額は県民共済独自の後遺障害等級に基づいて決められます。

自賠責等級との大きな違いは、自賠責の1級と2級を合わせて県民共済の1級となっていることです。
そのため、自賠責の後遺障害等級が14級まであるのに対し、県民共済の等級は13級までとなります。

たとえば自賠責で9級の場合、県民共済だと1級繰り上がって8級となります。

自賠責の後遺障害9級で県民共済から受け取れる金額

県民共済から支払われる後遺障害共済金の額は、次の式で計算されます。
“各等級の保障額 × 支払割合”

自賠責後遺障害9級の人が県民共済からもらえる共済金の額は、自賠責9級は県民共済8級に当たるので、以下のようになります。

“8級の保障額300万円 × 支払割合30% = 90万円” 

県民共済の後遺障害等級表は、全国生協連WEBサイトにPDFファイルで公開されています。
参考リンク:「傷害共済ご加入のしおり」p20~23 ※PDFファイル

後遺障害9級認定を獲得するための重要なポイント

交通事故の被害者が後遺障害の認定を受けるには、事故直後から、医師に症状を正しく申告し、症状にふさわしい治療と検査を受け続けることが必要です。
また、完治するしないに関わらず真面目に治療に取り組み、社会生活に復帰する努力を続ける姿勢を医師に示すことも大切になってきます。

信頼の置ける医師による治療を続けるべき

交通事故の後、後遺障害9級ほどの症状があれば、誰でもすぐに医療機関を受診すると思われます。

ただ、通院を続けても症状が改善しないと、もっと腕の良い医師を求めて他の医療機関を受診し、そこでも改善しないとさらに他の医療機関を受診するという、いわゆるドクターショッピングに陥る人が多いのも事実です。

最終的に信頼できる医師に巡り会えても、事故から時間が経っているため、医師としても、症状が交通事故によるものかどうかが分からず、後遺障害診断書を書いてもらうことができなくなります。
交通事故後の受診先は、時間や交通事情などの面から通いやすく、信頼できる医師のいる医療機関を選ぶことが、指示どおりの通院を続け、症状固定となったら速やかに後遺障害診断書を書いてもらうためにとても大切なことなのです。

ただ、救急搬送の場合だと、事故直後の医療機関は救急隊が選んだ所になりますが、退院後は、前述のような通いやすくて信頼できる医師のいる医療機関でフォローしてもらうようにしましょう。

後遺障害診断書は、等級認定において非常に重要

後遺障害の等級認定審査は何種類かの書類に基づいて行われますが、特に重要なのが医師の作成する後遺障害診断書です。

後遺障害の知識と経験豊かな医師を主治医に

等級認定の審査に通り、希望する等級をもらえるだけの診断書となるかどうかは、作成する医師における後遺障害についての知識と経験が決め手となります。もしも医師を選べるのであれば、こうした知識と経験が豊かな医師に診てもらうようにしましょう。

真面目に診療に通って医師との関係を良好に

審査に通るだけの診断書を書こうという気持ちを医師に持たせることも重要です。それにはまず、医師の指示どおりに真面目に診療に通いましょう。真面目に通ったにもかかわらず後遺障害が残ってしまったとなれば、医師としても、審査に通る診断書を書いてあげようという気持ちになるはずです。

後遺障害が残ることは、本人にとってとても辛いことです。だからといって、医師の診療の仕方に文句を言ったり、指示どおり真面目に診療に通おうとしない患者に対して、後遺障害の審査に通る診断書を書いてあげようと思う医師は、よほど情け深い人でない限り、まずいないと考えてよいでしょう。

後遺障害等級の認定率は、約5%という狭き門です。しかも認定審査で占める後遺障害診断書の重要性から考えれば、医師との良好な関係を保てるかどうかが認定を左右するといっても過言ではありません。

関節の可動範囲は自賠責保険の基準に則って測定を

交通事故によって、片手の、親指を含む2本の指、または親指以外の3本の指について、関節の可動範囲が障害のない方(健側)の手指の半分以下になれば、9級13号です。
片足の指すべてについて、関節の可動範囲が障害のない方(健側)の足指の半分以下になれば、9級15号に当たります。

自賠責保険が基準とする関節可動範囲の測定方法は、「関節可動域表示ならびに測定法」(1995年 日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の共同作成)です。
この測定法によらない関節可動範囲の測定は、被害の実態にそぐわない等級認定につながるおそれがあります。実際、この測定法と異なる測定の仕方による数値を診断書に記載する医師がいると指摘されていることも事実です。

医師には「関節可動域表示ならびに測定法」に則った関節可動範囲の測定をお願いすることが重要となります。それには、日頃の医師との関係を良好なものにしておけば、こうしたことをお願いしやすくもなるのです。

高次脳機能障害で後遺障害認定を受けるためのポイント

高次脳機能障害を理由に後遺障害9級をもらうには、次の3点が大切です。

脳外科でMRI検査を受ける

1つ目は、脳外科でMRI検査を受けてください。

脳の細かな所まで確認できる能力は、高い方からMRI>CT>レントゲンの順です。

高次脳機能障害は脳が物理的に変化して起きることから(脳の器質的病変)、等級認定申請では、その病変を目に見える形で示す画像が必要となります。
脳のわずかな病変もできるだけ逃さずに捉えるには、最も精度の高いMRI画像を用いるのが一番といえるわけです。
しかも、脳のMRIから病変をしっかりと読み取れるのは、脳外科の医師にほかなりません。

診療医に意見書を書いてもらう

2つ目は、診療した医師に意見書を書いてもらうことを忘れないようにしましょう。

高次脳機能障害の等級申請では、後遺障害診断書のほかに、「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」と題する書類を提出しなければなりません。
意見書の中でも、「高次脳機能障害」の欄の4つの能力(意思疎通、問題解決、持続力・持久力、社会行動)、および特筆すべき事項を正しく、しっかりと書いてもらうことが特に重要です。

医師の指示通りに診療に通って、真面目な患者だと好感を持ってもらうことが、等級申請に通る意見書を書いてもらうための第一歩といえるでしょう。

意見書の様式は、厚生労働省のWEBサイトにPDFファイルで公開されています。
参考リンク:「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書 様式1」※PDFファイル

家族が書く報告書を提出する

3つ目は、家族が本人の日常生活についての報告書を書いて提出することです。

高次脳機能障害では、様々な症状や能力低下が生じます。これらをより詳しく把握できるのは、限られた時間内で診察する医師というよりも、むしろ生活を共にする家族なのです。
「日常生活状況報告表」は、54項目の質問に三択で答える形式になっています。本人の日常で最も多く見られる状態を選んで記入してください。

報告書の様式は、厚生労働省のWEBサイトにPDFファイルで公開されています。
参考リンク:「日常生活状況報告表 様式2」

外貌醜状の面接調査には弁護士の同行を

外貌醜状の面接調査には、できれば弁護士に同行してもらいましょう。

外貌醜状の後遺障害認定では面接調査が行われる

外貌醜状で後遺障害認定を申請すると、損害保険料率算出機構の下部組織として全国にある最寄りの自賠責損害調査事務所において面接調査が行われます。

後遺障害認定は書面によるのが通常ですが、外貌醜状の場合、写真だけでなく、その生の状態を担当者が確認する必要があるためです。

9級の外貌醜状は、「顔に残る長さ5㎝以上の線状の傷跡やくぼみで人目につく程度以上のもの」を指します。
これを調査担当者がスケールなどで長さを測ったり、くぼみの状態をじっくり観察を行います。

弁護士の同行により外貌醜状の面接調査も安心なものに

こうしたことは、相手が調査事務所の職員とはいえ、本人にとってとても辛く恥ずかしい時間にほかなりません。

しかも、「人目につく程度」かどうかは、本人と担当者とで捉え方が食い違う可能性があります。本人からすれば「人目について恥ずかしい」という思いがあっても、担当者から見れば「人目につく程ではない」と感じることもあるからです。

そんな時に弁護士が同行してくれれば、「法律のプロと一緒」という心強さ、醜状の長さ測定など担当者の調査の仕方を監視してもらえる安心感、担当者が主観に走らないよう適度なコメントを入れてくれる頼もしさを感じられることでしょう。

後遺障害9級認定の申請を弁護士に依頼すると?

後遺障害9級認定の申請を、被害者だけで行ったときと、弁護士に依頼したときとでは、どんな違いがあるのでしょうか。 

被害者が療養や社会復帰の準備に専念できる

後遺障害等級認定の申請は、普段関わったことのない被害者にとって、何から始めてよいのか分からなかったり、初めて耳にする書類を集めなくてはならなかったりと、とても大きな負担です。

申請を交通事故に詳しい弁護士に依頼すれば、必要な手続をすべて行ってもらえます。被害者は、申請手続の負担から解放され、自分自身の療養や社会復帰の準備に専念することができるのです。

より高額の慰謝料を手にすることができる

幸いに申請が通って後遺障害9級をもらえたとしても、なるべくたくさんもらいたいと考える被害者側が示す慰謝料額を、できるだけ慰謝料を安く抑えたいと思う加害者側がすんなり受け入れることは、まずないでしょう。

逆に、9級の慰謝料額として加害者側の保険会社が示してくる額は、自賠責基準による最低ラインの金額であることが普通です。

慰謝料の請求を弁護士に依頼すれば、「後遺障害9級の慰謝料の相場」の章で説明したとおり、弁護士基準(裁判基準)による慰謝料額を基準に交渉してくれるので、自賠責基準よりはるかに高い慰謝料をもらえることが期待できます。

交通事故の被害者が、弁護士の力を借りるべきもう一つの理由

被害者自身と弁護士の違いは、示談の交渉力にも現れます。

交通事故の被害者が臨む示談交渉の相手は、加害者が加入する保険会社の担当員であるのが普通です。

保険会社で経験を積んだ示談交渉のプロを相手に、交渉に不慣れで、交通事故の賠償額相場さえ知らない被害者が自分に有利な条件を引き出すことは、不可能に近いといってよいでしょう。

そんなとき被害者の力強い味方になってくれるのが、弁護士です。
交通事故についての法律知識と実務経験に富んだ専門職として、加害者側の保険会社との示談交渉の場でその才を十分に発揮してくれるでしょう。
弁護士に相談することは、被害者に有利な条件を引き出すことへと直接つながっていくのです。

まとめ

見てきたとおり、交通事故の後遺障害等級申請や示談交渉を弁護士に依頼することで、被害者の負担が軽くなると同時に、より高額の慰謝料を手にすることができます。これは弁護士に依頼する大きなメリットです。

弁護士に依頼するタイミングは、交通事故に遭った直後がベストですが、示談交渉で加害者側から提示された金額に納得がいかないと思った時でも遅くはありません。

運悪く交通事故の被害者になってしまったら、後遺障害等級認定や示談を有利に進めるため、弁護士の活用をぜひ考えてみましょう。

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