後遺障害4級の主な症状と慰謝料相場を解説
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交通事故弁護士相談広場編集部
後遺障害4級は、目・口・耳・上下肢の状態により、1号から7号に分類されています。
検査や測定の数値または身体外形によって客観的に決まる症状が中心ですが、本人の感覚という主観的症状も含まれています。
後遺障害4級の労働能力喪失率は92%で、事故前の8%しか働けず、労働収入が激減するため、慰謝料を含む十分な補償が必要です。
後遺障害4級の認定を含む慰謝料請求を円滑に行う一番の方法は、専門家の力を借りることです。
交通事故に強い弁護士に相談して、被害に見合った慰謝料を手に入れましょう。
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目次[非表示]
後遺障害4級の認定基準~該当する症状は?
後遺障害4級の症状は、次の7つです。
1号 | 両眼の視力が0.06以下になったもの |
---|---|
2号 | 咀嚼および言語の機能に著しい障害を残すもの |
3号 | 両耳の聴力を全く失ったもの |
4号 | 一上肢をひじ関節以上で失ったもの |
5号 | 一下肢をひざ関節以上で失ったもの |
6号 | 両手の手指の全部の用を廃したもの |
7号 | 両足をリスフラン関節以上で失ったもの |
このいずれかの症状があれば、後遺障害4級の認定を申請できます。
各症状について解説します。
1号)両眼の視力が0.06以下になったもの
1号の症状は、両眼それぞれの視力が0.06以下になることです。
両眼視力が0.06以下になる原因は、眼の屈折異常(眼球の長さが変わり、角膜と水晶体で屈折した光が網膜上で像を結べず、物がぼやけて見えること)がほとんどです。
屈折異常による視力は、裸眼視力でなく、メガネ・コンタクトレンズ・眼内レンズによる矯正視力を基準とします。
斜視(片方の眼が目標と違う方向を向いてしまうこと)など屈折異常によらない視力低下については、裸眼視力が基準です。
視力測定は、万国式試視力表を用います。
ランドルト環という黒い円の切れ目や、アラビア数字・カタカナ・ひらがなを読み取る表のことです。
両眼それぞれの視力が0.06以下になると、裸眼で物を見分けることができず、強度のメガネやコンタクトレンズによる視力調整が必要になります。
両眼の視力低下を症状とする他等級
両眼の視力低下には、視力に応じて、次の他等級があります。
- 両眼視力が0.02以下なら2級2号
- 両眼視力が0.1以下なら6級1号
- 両眼視力が0.6以下なら9級1号
視力検査で勘で答えものがたまたま正しく、「見える」と判定されると、両眼視力が0.1以下または0.6以下と診断され、4級より低い等級になり、自賠責で補償される逸失利益や慰謝料が下がってしまいます。
視力検査で自信のない文字や記号は、勘で答えず、「分かりません」とはっきり答えましょう。
2号)咀嚼および言語の機能に著しい障害を残すもの
2号は、咀嚼と言語の両機能に著しい障害を残すことを症状とします。
咀嚼機能に著しい障害が残ると粥程度しか食べられない
「咀嚼機能に著しい障害を残す」とは、粥または粥程度のもの(おじや、軟らかいうどんなど)しか食べられない状態のことです。
「咀嚼」とは、食べ物を消化できる状態にまで噛み潰す動作をいいます。
粥などは、少ない咀嚼動作で消化できるため、食べることができるのです。
食事が粥などに限られると、栄養不良から体力低下に陥りやすいので、主治医とも相談し、栄養補助食品の併用を考えましょう。
言語機能の著しい障害は発音とコミュニケーションの妨げに
「言語機能の著しい障害」の代表的症状は、次の4種の語音のうち2種の発音ができないことです。
- 口唇音(ま行・ぱ行・ば行・わ行の音、および「ふ」)
- 歯絶音(な行・た行・だ行・ら行・さ行・ざ行の音、および「しゅ」「し」「じゅ」)
- 口蓋音(か行・が行・や行の音、および「ひ」「にゅ」「ぎゅ」「ん」)
- 喉頭音(は行の音)
発音できないのが1種だけであっても、語音をつなげること(綴音 てつおん)ができにくければ、「言語機能の著しい障害」とされます。
たとえば、口唇音「わ」、歯絶音「た」「し」、口蓋音「が」の3種の音を別々に発音できても、それらをつなげて「わたしが」と発音できにくい状態などです。
言語機能の著しい障害が残ると、周囲との会話が難しくなって、孤立しやすくなります。
咀嚼や言語の機能障害を症状とする他等級
咀嚼や言語の機能障害には、障害の程度に応じて、次の他等級があります。
- 咀嚼および言語の機能を廃すれば1級2号
- 咀嚼または言語の機能を廃すれば3級2号
- 咀嚼または言語の機能に著しい障害を残せば6級2号
- 咀嚼および言語の機能に障害を残せば9級6号
- 咀嚼または言語の機能に障害を残せば10級3号
6級以下は4級より逸失利益や慰謝料が下がるので、6級以下と認定されないことが大切です。
咀嚼や言語の障害については言語聴覚士のいる医療機関を受診しよう
4級の認定を確実に取るには、咀嚼と言語の機能が正しく評価され、医師の診断書に反映されなくてはなりません。
そのためにも、咀嚼と言語の専門職である言語聴覚士(国家資格)のいる医療機関への受診をおすすめします。
言語聴覚士によって咀嚼や言語の評価がきちんとなされることで、障害の実状が反映された診断書になるわけです。
言語聴覚士がいる医療機関は、日本言語聴覚士協会のWEBサイトで紹介されています。
参考リンク:一般社団法人日本言語聴覚士協会WEBサイト「言語聴覚士に相談する」
3号)両耳の聴力を全く失ったもの
両耳の聴力を全く失うのが3号の症状です。
「両耳の聴力を全く失う」とは、純音聴力検査(ヘッドホンを付けて、オージオメータという器械が発する音を聴き取る検査)の数値が、次のいずれかの場合をいいます。
- 両耳とも90デシベル以上の音でないと聴き取れない(両耳の平均純音聴力レベルが90デシベル以上)
- 両耳とも80デシベル以上の音でないと聴き取れず(両耳の平均純音聴力レベルが80デシベル以上)、しかも、「ア」「オ」などいくつかの音のうち聴き取れる音の割合が30%以下(両耳の最高明瞭度(聞き取れる音の種類の割合)が30%以下)
検査数値を「平均」純音聴力レベルと呼ぶのは、聴力検査は日を変えて3回行われ、2回目と3回目の数値の平均が最終数値となるからです。
両耳がこうした重度難聴になると、音楽関係など、両耳で音を聞き分ける仕事への復職は無理になるでしょう。
対人関係でも、大声で話さなければならないことが相手の負担となり、関りを避けられがちになります。
3号の症状になったら、早めに耳鼻科を受診し、専門医指導の下で、補聴器や集音器その他のコミュニケーション機器を活用しましょう。
両耳の聴力低下を症状とする他等級
両耳の聴力低下には、聴力の程度に応じて、次の他等級があります。
- 両耳が耳に接しての大声でないと聴き取れないのは6級3号
- 両耳が40㎝以上離れた相手の普通声を聴き取れないのは7級2号
- 両耳が1m以上離れた相手の普通声を聴き取れないのは10級5号
- 両耳が1m以上離れた相手の小声を聴き取れないのは11級5号
いずれの級も4級より逸失利益や慰謝料が大幅に下がります。
本当は4級の状態なのに6級以下の状態と診断されないよう、聴力検査では、ヘッドホンからの音がはっきり聴こえた時にスイッチを押すようにしましょう。
4号)一上肢をひじ関節以上で失ったもの
4号の症状は、片上肢をひじ関節以上で失うことです。
「上肢をひじ関節以上で失う」とは、次のいずれかの状態をいいます。
肩関節において肩甲骨と上腕骨を離断した
肩甲骨と上腕骨は肩関節でつながっていますが、交通事故によってこのつながりが切り離され(肩関節離断)、肩から先の上肢が無くなった状態です。
肩関節とひじ関節との間において上肢を切断した
肩関節とひじ関節の中間で上腕が切り離され(上腕切断)、切断部から先の上肢が無くなった状態をいいます。
ひじ関節において上腕骨と橈骨・尺骨とを離断した
前腕にある橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)は、ひじ関節で上腕骨とつながっていますが、交通事故によってこのつながりが切り離され(ひじ関節離断)、ひじから先の上肢が無くなった状態です。
片上肢をひじ関節以上で失うと、失った側の腕や手が使えなくなり、他上肢だけで物事を行わなければならなくなります。
4級症状では、医療機関で義手を作り、装着や動作の訓練を行いますが、本物の上肢ほどの動作は望めません。
両上肢をひじ関節以上で失うと1級3号
両上肢をひじ関節以上で失うのは1級3号の症状です。
両手両腕を使えなくなり、4級以上の生活支障が生じます。
5号)一下肢をひざ関節以上で失ったもの
5号は、片下肢をひざ関節以上で失うことを症状とします。
「下肢をひざ関節以上で失う」とは、次のいずれかです。
股関節において寛骨と大腿骨とを離断した
寛骨(骨盤の股関節側の骨)と大腿骨とは股関節でつながっていますが、このつながりが交通事故で切り離され(股関節離断)、股関節から先の下肢が無くなった状態です。
股関節とひざ関節との間において下肢を切断した
股関節とひざ関節の中間で大腿が切り離され(大腿切断)、切断部から先の下肢が無くなった状態をいいます。
ひざ関節において大腿骨と脛骨・腓骨とを離断した
ひざ関節でつながっていた大腿骨と脛骨(けいこつ)・腓骨(ひこつ)とが交通事故で切り離され(ひざ関節離断)、ひざから先の下肢が無くなった状態です。
片下肢がこうした状態になると、片下肢の動作ができなったり制限されたりするため、松葉杖などの移動補助具が必要になります。
5号症状では、医療機関で義足を作り、装着や動作の訓練を行いますが、自分の下肢のように思いどおりに動かすことは望めません。
両下肢をひざ関節以上で失うと1級5号
両下肢をひざ関節以上で失うのは1級5号の症状です。
医療機関で両下肢の義足を作り、装着や動作の訓練を行いますが、長い距離の移動には車いすが欠かせなくなります。
6号)両手の手指の全部の用を廃したもの
両手指全ての用を廃するのが6号の症状です。
「手指の用を廃する」とは、次のいずれかをいいます。
- 手指の第1関節から先の骨を半分以上失う
- 手指の付根関節、親指の第1関節、他指の第2関節に著しい運動障害を残す
「著しい運動障害」とは、次のいずれかです。
- 関節可動範囲が健常時の半分以下になる
- 親指の橈側外転(指全体を橈骨側に曲げる)または掌側外転(指全体を掌側に曲げる)の範囲が健常時の半分以下になる
- 指先端の腹部分または外側部分の表在感覚(皮膚表面の感覚)と深部感覚(皮膚内部の感覚)が完全になくなる
両手指全ての用を廃すると、手指を使う動作が制限され、生活に大きな支障を来します。
片手指全ての用を廃すると7級7号
片手指全ての用を廃すると7級7号に該当します。
他手の指は健常なので、4級ほどの不便はありませんが、利き手全指の全廃だとかなりの不便が生じます。
関節可動範囲の測定は自賠責指定の方法で
「著しい運動障害」のうち関節可動範囲については、自賠責保険指定の方法で測定することが必要です。
自賠責保険では、「関節可動域表示ならびに測定法」(1995年 日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の共同作成)により関節可動範囲を測定するとされています。
この測定法によらないと、自賠責保険にそぐわない測定となり、4級認定をもらえないおそれがあります。
言われずともこの測定法を用いてくれる、後遺障害の知識と経験豊かな医師に診てもらいましょう。
7号)両足をリスフラン関節以上で失ったもの
7号の症状は、両足をリスフラン関節以上で失うことです。
「足をリスフラン関節以上で失う」とは、次のいずれかをいいます。
- 足が足根骨の中間で切り離された(足根骨切断)
- 足がリスフラン関節で切り離された(リスフラン関節離断)
足根骨切断は足が足根骨の中間で切り離されること
足根骨(そっこんこつ)とは、土踏まずから踵までの間にある7つの骨(踵骨(しょうこつ)、距骨(きょこつ)、舟状骨(しゅうじょうこつ)、立法骨(りっぽうこつ)、内側・中間・外側の各楔状骨(けつじょうこつ))の総称です。
足根骨の中間で足が切り離されるのが、足根骨切断です。
中足骨と足根骨が切り離されるのがリスフラン関節離断
リスフラン関節とは、5本の中足骨と足根骨とをつなぐ関節をいいます。
中足骨(ちゅうそくこつ)は、足の甲にある5本の細長い骨で、指骨につながっています。
中足骨と足根骨とがリスフラン関節で切り離されるのが、リスフラン関節離断です。
このいずれかの状態になると、両方の足裏や足指を使うことができず、立位や歩行が不安定になり、転びやすくなります。
こうしたことを避けるため、義足を作ったり車いすを使ったりすることが必要になります。
片足をリスフラン関節以上で失うと7級8号
片足をリスフラン関節以上で失うのは、7級8号の症状です。
他足は足裏や足指があるので、立位や歩行は4級ほど不安定ではありませんが、他足への負担が増え、筋肉や骨の疲労を招きます。
後遺障害4級の症状が複数ある場合、併合2級となる可能性
後遺障害4級の症状が2つ以上あると、等級が2つ繰り上がって「併合2級」の認定がなされます。「等級の併合」というシステムです。
たとえば、1つの事故で、両眼視力が0.06以下になり、全ての手指の用を廃した場合、4
級の1号と6号の2症状となるため、併合2級となります。
併合2級の慰謝料の基準となるのは、併合後の2級です。
併合2級の逸失利益算定の基になる労働能力喪失率について、裁判例は、①併合後の2級を基準とする、②併合前の4級を基準とする、③併合後の2級を基準としつつ事例に応じて減率する、という3つの考え方に分かれています。
後遺障害の認定期間は最短で1カ月、通常2,3カ月が目安
後遺障害の自賠責保険金の支払請求を受けた自賠責損害調査事務所での調査期間の内訳は、次のとおりです(2019年度の統計)。
30日以内 | 75.90% |
---|---|
31日~60日 | 12.40% |
61日~90日 | 6.10% |
90日超 | 5.60% |
参考リンク:損害保険料率算定機構「自動車保険の概況 2020年度版」37ページ
後遺障害認定は損害調査の一部として行われ、認定結果は調査終了時に示されることから、調査期間は後遺障害認定期間でもあるといえます。
2019年度の統計で見ると、認定期間30日以内の事例が8割近くですが、60日以内や90日以内の事例も1割前後あることから、長めに見積もって、2~3か月が後遺障害認定期間の目安といえるでしょう。
後遺障害4級の慰謝料の相場
後遺障害の慰謝料の決め方には、
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準(裁判基準)
の3つがあります。
自賠責基準による後遺障害4級の慰謝料相場
自賠責保険から支払われる後遺障害4級の慰謝料は、737万円(2020年3月31日までの事故は712万円)です。
自賠責保険からの慰謝料額は、国が定めた支払基準により、後遺障害等級ごとに決められていて、後遺障害慰謝料の自賠責基準と呼ばれます。
交通賠償実務では、自賠責基準が後遺障害慰謝料の最低額とされています。
参考リンク:国土交通省WEBサイト「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準 第3の2(1)②」※PDFファイル
任意保険基準による後遺障害4級の慰謝料相場
後遺障害慰謝料の基準として、任意保険の保険会社ごとに定める任意保険基準があります。
任意保険基準による慰謝料は、自賠責基準より少し高く、弁護士基準(裁判基準)よりずっと低額です。
保険会社は、この任意保険基準をもとに慰謝料交渉に臨むのが普通ですが、中には、後遺障害の症状が軽いことを理由に、自賠責基準と同額を提示する保険会社もあるといわれます。
任意保険基準は保険会社の内部情報として非公開でしたが、最近はWEB上で公開する保険会社もあります。
たとえば損害保険ジャパン株式会社が定める任意保険基準は、次の表のとおりです。
後遺障害者等級 父母・配偶者・子のいずれかがいる場合 左記以外 第1級 1,850万円 1,650万円 第2級 1,500万円 1,250万円 第3級 1,300万円 1,000万円 第4級 900万円 第5級 700万円 第6級 600万円 第7級 500万円 第8級 400万円 第9級 300万円 第10級 200万円 第11級 150万円 第12級 100万円 第13級 70万円 第14級 40万円
4級の慰謝料は900万円で、自賠責基準の737万円より少し高く、弁護士基準(裁判基準)よりかなり低額です。。
弁護士基準(裁判基準)による後遺障害4級の慰謝料相場
加害者側との慰謝料交渉を弁護士に頼むと、もらえる慰謝料は大幅に増えます。弁護士は弁護士基準(裁判基準)を基に慰謝料交渉を行うからです。
弁護士基準(裁判基準)とは、裁判例を基に算出した慰謝料額の目安のことで、弁護士が示談交渉や裁判での慰謝料基準とすることから、このように呼ばれています。
弁護士基準(裁判基準)は、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)に掲載されています。
この「赤い本」によれば、弁護士基準(裁判基準)による後遺障害4級の慰謝料は1,670万円です。
自賠責基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準(裁判基準) |
---|---|---|
737万円 | 900万円 | 1,670万円 |
弁護士基準(裁判基準)を用いると、自賠責基準や任意保険基準の2倍前後の慰謝料となります。
慰謝料の目的である精神損害の穴埋めはもちろん、弁護士費用も賄える金額です。
この1,670万円という金額は、弁護士に頼んだときのあくまで相場(通常の目安)なので、特に交通事故に強い有能な弁護士であれば、これ以上の慰謝料額となる可能性もあるでしょう。
後遺障害4級の逸失利益の計算方法
交通事故で後遺障害が残ると、事故前のように働けなくなり、労働収入が減ってしまいます。
こうした減収は、事故に遭わなければ得られた収入(逸失利益)として、加害者側に請求することが可能です。
後遺障害による逸失利益は、国が定めた支払基準により、次の式で計算することとされています。
“収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数“
後遺障害4級の労働能力喪失率は、92%です。
事故前の8%しか働けないことになり、労働収入が激減することを意味します。
参考リンク:国土交通省WEBサイト「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準 第3の1」※PDFファイル
後遺障害4級の逸失利益の労働能力喪失期間
労働能力喪失期間とは、後遺障害により事故前ほど働けなくなる将来の期間のことです。就労可能年数ともいわれます。
労働能力喪失期間は、国の支払基準により、後遺障害確定時(症状固定時)の年齢だけで決められ、後遺障害等級や性別は問われません。
たとえば、後遺障害確定時30歳の人なら、後遺障害4級でも14級でも、男女問わず、労働能力喪失期間(就労可能年数)は37年です。
逸失利益額は、等級を問わない労働能力喪失期間より、等級ごとに異なる労働能力喪失率の影響を大きく受けるといえるでしょう。
参考リンク:国土交通省WEBサイト「就労可能年数とライプニッツ係数表」※PDFファイル
裁判例に見る後遺障害4級の示談金
後遺障害4級の示談金(逸失利益と慰謝料)をめぐって裁判になった場合、裁判所はどんな判断をしているのでしょうか。
ここでは、事例を通してある程度の傾向を掴みやすい逸失利益をめぐる裁判例を見ていきます。
裁判では支払基準によらない逸失利益算定を求めることも可能
裁判所は、国が定めた支払基準に縛られず、各事例に応じて逸失利益や慰謝料を算定できるとするのが判例です(最高裁判決平成18年3月30日)。
理由は、次の2点です。
- 支払基準は、保険会社による公平で迅速な保険金支払いのために定められたものであること
- 裁判の目的は、個々の争いごとにふさわしい解決をすることにあり、交通事故の賠償額についていえば、支払基準という一律の基準に縛られず、各事例に応じた算定をすることが裁判の目的に適うこと
被害者は、裁判において、支払基準と異なる算定による逸失利益や慰謝料を請求できます。
実際に4級の逸失利益が争われた裁判例を見てみましょう。
判決年月日 | 年齢 性別 | 症状 | 労働能力喪失率 | 労働能力喪失期間 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
①東京地裁 平成20年3月19日 |
32歳 男 | 高次脳機能障害(5級2号) 嗅覚脱失(12級13号相当) (併合4級) |
92%(92%) | 32年(35年) | ほぼ支払基準どおりの認定。 |
②佐賀地裁 平成21年8月7日 |
36歳 男 | 高次脳機能障害(5級2号) 複視(10級2号) (併合4級) |
92%(92%) | 31年(31年) | 支払基準どおりの認定。 |
③大阪地裁 平成20年5月29日 |
45歳 男 | 高次脳機能障害(5級2号) 歯科補綴(10級4号) (併合4級) |
92%(92%) | 22年(22年) | 支払基準どおりの認定。 |
④千葉地裁 平成23年8月17日 |
27歳 女 | 高次脳機能障害(5級2号) 聴力障害(11級6号) 外貌醜状(顔面神経麻痺 12級14号) (併合4級) |
92%(92%) | 40年(40年) | 支払基準どおりの認定。 |
⑤京都地裁 平成22年12月9日 |
44歳 男 | 脊髄損傷による右上下肢しびれ、脱力感、歩行障害(5級2号) 嚥下障害(10級3号) (併合4級) |
92%(92%) | 23年(23年) | 支払基準どおりの認定。 |
⑥東京地裁 平成20年11月12日 |
42歳 男 | 右下肢の用を全廃(5級7号) 右下肢短縮(10級8号) (4級相当) |
92%(92%) | 25年(25年) | 支払基準どおりの認定。 |
⑦神戸地裁 平成26年9月24日 |
33歳 男 | 高次脳機能障害(5級2号) 右肩甲骨変形障害(12級5号) 右肩関節機能障害(12級6号) (併合4級) |
92%(92%) | 34年(34年) | 支払基準どおりの認定。 |
⑧名古屋地裁 平成26年1月9日 |
高校1年 女 | 高次脳機能障害(5級2号) 頭部手術痕の外貌醜状(12級14号) (併合4級) |
79%(92%) | 45年(49年) | 労働能力について、高次脳機能障害による影響が大きい一方、頭部の外貌醜状による影響は想定されないことから、労働能力喪失率を高次脳機能障害の5級を基に算定した。 |
⑨さいたま地裁 平成25年7月19日 |
8歳 男 | 高次脳機能障害(5級2号) 両眼に半盲症(9級3号) 片耳の聴力障害(10級6号) 外貌醜状(12級14号) (併合4級) |
92%(92%) | 49年(49年) | 支払基準どおりの認定。 |
⑩名古屋戸地裁 平成25年3月12日 |
9歳 男 | 高次脳機能障害(5級2号) 右耳殻の大部分欠損(12級4号) (併合4級) |
92%(92%) | 49年(49年) | 支払基準どおりの認定。 |
⑪横浜地裁 平成25年4月22日 |
22歳 女 | 左下腿切断(5級5号) 左下腿の醜状障害(12級14号) 左手関節の脱力感と疼痛(14級9号) (併合4級) |
79%(92%) | 43年(45年) | 歯科助手アルバイトの仕事に左下腿切断の影響が大きい一方、左下腿の醜状障害と左手関節の脱力感・疼痛については仕事への影響は想定できないことから、労働能力喪失率を高次脳機能障害の5級を基に算定した。 |
⑫横浜地裁 平成25年3月26日 |
23歳 男 | 右上肢機能障害(5級6号) 右股関節機能障害(10級11号) (併合4級) |
80%(92%) | 42年(44年) | 左手だけで建設会社での資料作成などの業務に当たっている状況を基に、労働能力が80%失われたと認定した。 |
⑬大阪高裁 平成21年9月11日 |
64歳 女 | 高次脳機能障害(5級2号) 頸椎の変形(11級7号) 左下肢の短縮(13級8号) (併合4級) |
79%(92%) | 12年(11年) | パート従業員の仕事への影響は高次脳機能障害が主であることから、労働能力喪失率を5級と同じ79%とした。 |
※( )内は支払基準での数値
後遺障害4級の逸失利益については支払基準に沿うのが裁判例の大勢
後遺障害4級の逸失利益については支払基準に沿うのが、裁判例の大勢です。
支払基準が定める労働能力の喪失率や喪失期間に沿って後遺障害4級の逸失利益を算定しようというのが裁判所の基本姿勢といえます。
具体的事情によっては労働能力喪失率を低く認定する裁判例も
裁判例⑧⑪⑫⑬では、労働能力喪失率が支払基準より低く認定されています。
後遺障害4級の労働能力喪失率について支払基準に沿う基本姿勢を取りつつ、労働能力の残り具合によっては喪失率を低く認定して、各事例にふさわしい逸失利益を算定した事例といえるでしょう。
後遺障害4級で障害者手帳はもらえる?
身体障害者手帳には、医療費の助成、所得税や住民税の減額、鉄道やバスなど公共交通機関の運賃割引など、いくつかのメリットがあるため、後遺障害4級の認定を受けたら身体障害者手帳ももらいたいところです。
身障者手帳の取得には障害等級6級以上が必要
身障者手帳をもらうには、身体障害者障害程度等級表(障害等級)6級以上に該当することが必要とされています。
後遺障害4級に相当する身障者障害等級は、次のとおりです。
後遺障害4級 | 身障者障害等級 |
---|---|
1号 | 視覚障害1級・2級・3級・4級 |
2号 | 音声機能、言語機能またはそしゃく機能の障害4級 |
3号 | 聴覚障害3級・4級 |
4号 | 肢体不自由(上肢)2級 |
5号 | 肢体不自由(下肢)3級 |
6号 |
肢体不自由(上肢)3級 |
7号 | 肢体不自由(下肢)6級 |
参考リンク:厚生労働省WEBサイト「身体障害者障害程度等級表」※PDFファイル
この表を見る限り、後遺障害4級のいずれの症状も障害等級6級以上に該当する可能性がありますが、該当するかどうかを実際に決めるのは、都道府県知事、指定都市市長または中核市市長です。
身障者手帳の申請先は、最寄りの福祉事務所または市区町村役場です。
詳しい手続については、お住いの市区町村役場にお問い合わせください。
参考リンク:厚生労働省WEBサイト「障害者手帳」
労災の場合、後遺障害4級でもらえる金額は?
就業中または通勤途中の交通事故で後遺障害4級になると、自賠責補償の他に、労働災害として労災保険の補償を受けられます。
後遺障害4級は労災障害4級に相当し、その補償内容は次のとおりです。
障害補償年金(就業中) 障害年金(通勤途中) |
1年間につき、給付基礎日額×213日分 |
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障害特別年金 | 1年間につき、算定基礎日額×213日分 |
障害特別支給金 | 264万円 |
給付基礎日額とは、事故前3か月間の賃金総額を暦日数で割った1日当たりの賃金額をいいます。
算定基礎日額とは、事故前1年間に支払われたボーナスなど特別給与の総額を365日で割った額です。
障害特別支給金とは、事故後の社会復帰を促すために支給されるお金です。
障害補償年金・障害年金・障害特別年金が1年分を2か月分ずつ偶数月に支払われるのに対し、障害特別支給金は全額が1回で支払われます。
慰謝料は労災での支払いの対象外
労災補償の目的は労災による減収の埋め合わせと社会復帰支援にあるため、精神損害の賠償である慰謝料は労災補償の対象外です。
慰謝料は、精神損害を与えた加害者側に請求しなければなりません。
労災事故の場合は会社に対する損害賠償請求も視野に
交通労災被害者は、労災補償の他、自分の会社に対して損害賠償を請求することができます。
交通労災被害者が会社に損害賠償を請求できるのは、会社が安全配慮義務に違反し、あるいは会社が使用者責任を負うからです。
会社は従業員の安全を保つ義務がある
安全配慮義務違反とは、会社が、従業員の生命や身体の安全を保つ義務を怠ることです(民法415条)。
たとえば、会社が点検整備を怠った社用車を運転した従業員が事故を起こして受傷した場合、従業員の受傷は、社用車の点検整備という安全配慮義務を会社が怠ったことによるものといえます。
会社は従業員が他人に与えた損害を賠償する責任を負う
使用者責任とは、従業員が業務中に他人に与えた損害につき、従業員の使用者である会社が賠償責任を負うことです(民法715条)。
たとえば、会社の同僚が運転する車に同乗中、運転者のミスで事故が起き、同乗者が受傷した場合、運転者の使用者である会社が同乗者の受傷について賠償責任を負うことになります。
損害賠償は労災補償の分だけ減額される
労災被害者が労災補償を受けた後に勤務先会社に損害賠償を請求した場合、損害賠償額は労災補償の分だけ減額されます(最高裁判決昭和52年10月25日)。
損害賠償も満額もらえるとすると、すでに労災補償された分までもらうことになり、二重取りになってしまうからです。
後遺障害4級認定を獲得するための重要なポイント
交通事故に遭って後遺障害4級の症状が残り、自賠責補償を受けるには、4級認定を取らなければなりません。
後遺障害4級の認定を取るには、次の2点が重要です。
- 認定取得につながる診断書を医師に書いてもらう
- 後遺障害の認定申請を被害者請求で行う
後遺障害診断書は、等級認定において非常に重要
後遺障害の等級認定審査で特に重要なのが、医師作成の後遺障害診断書です。
後遺障害の知識と経験豊かな医師を主治医に
後遺障害4級をもらえる診断書となるかどうかは、医師の後遺障害についての知識と経験が決め手になります。
WEBサイトなどで病院情報を調べ、後遺障害の知識と経験が豊富な医師に掛かるようにしましょう。
認定につながる診断書は医師との良好な関係から
4級をもらえる診断書を書こうという気持ちを医師に持たせることも大切です。
そのためには、医師の指示どおり真面目に通院しましょう。
真面目に通院したのに後遺障害が残れば、医師も、審査に通る診断書を書こうと思うはずです。
後遺障害等級の認定率は、約5%という狭き門です。
その狭き門を突破する最大の武器は、真面目な通院態度で培った医師との良好な関係に他なりません。
申請手続きは事前認定よりメリット大の被害者請求で
後遺障害4級の認定申請は、事前認定でなく被害者請求で行いましょう。
後遺障害の認定申請には、加害者側の保険会社が行う事前認定と、被害者自身で行う被害者請求とがあります。
両者には一長一短ありますが、被害者請求の方が高い等級をもらえる可能性が高いといわれています。
事前認定は、被害者自身の手間が省ける反面、加害者側の保険会社に任せてしまうため、被害者の意向に適った手続をしてもらえる保障がありません。
一方、被害者請求だと、被害者自身の手間はかかりますが、書類作成や資料集めに頑張った分の等級をもらえる見込みがあるわけです。
被害者請求権の時効消滅に注意
交通事故の被害者またはその法定代理人(未成年被害者の親権者など)が、後遺障害と加害者を知った時から3年を経過すると、被害者請求権が時効により消滅し、請求できなくなってしまいます。
3年の時効期間は、症状固定日(これ以上治療を続けても症状の改善が見込めないと医師が判断した日)の翌日から起算するのが賠償実務です。症状固定により後遺障害の残存が確定するからです。
被害者請求権を時効消滅させないことが大切ですが、そのことに不安を感じたら、交通事故に詳しい弁護士に相談しましょう。
まとめ
交通事故で後遺障害4級の症状が残ったら、まず4級認定の申請をします。
4級認定がもらえたら、加害者側と逸失利益や慰謝料の交渉となりますが、示談できなければ調停や裁判による解決となります。
後遺障害4級という重い障害による生活の不便を補うための障害者手帳の申請の他、仕事上の事故なら労災補償の申請も必要です。
これらは事故後の被害回復と生活安定のために不可欠で、滞りなく行わなければなりません。
後遺障害4級では労働能力が92%失われ、労働収入が激減することから、特に早めの対応が必要です。
ただ、交通事故に遭うことは頻繁にはないので、こうした手続に手慣れた人はほとんどいないといってよいでしょう。
そうした被害者の知識や経験の不足を補い、被害にふさわしい補償がもらえるように動いてくれるのが、交通事故に強い弁護士です。
交通事故で障害が残りそうな怪我をしたら、まず交通事故に強い弁護士に相談しましょう。
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