非上場株式の相続の注意点。引き継ぐデメリットと評価や手続き方法を解説
未上場の会社を経営している/株式を所有している方が亡くなった場合、非上場株式の相続が発生します。
非上場株式には譲渡制限や評価自体の難しさなどもあり、株式市場で取引される公開会社の株式と比べ、相続を実行するハードルは大きく上がります。
この記事では非上場株式を相続する際の注意点、デメリットや評価、手続き方法や、相続によって発生し得る税金まで解説していきます。
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非上場株式とは
非上場株式とは、上場していない株式会社が発行する株式のことを言います。非上場株式は、上場企業とは異なり株式市場での取引は行われておらず、一般的にはその会社の経営陣や特定の株主のみが所有しています。
日本では上場企業の割合は全体の0.1%未満で、ほとんどの企業は非上場の中小企業やファミリービジネスとなります。
非上場株式の所有や取引には、上場株式にはない特有のルールや制約が存在することから、非上場株式の相続を巡って問題が発生するケースもあります。
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非上場株式の多くは譲渡制限株式
非上場株式の大部分は「譲渡制限株式」と呼ばれます。
譲渡制限株式とは、株主が保有する株式を第三者に自由に譲渡できないよう、会社が譲渡に制限を設けている株式のことです。
譲渡制限株式は、企業が経営権を外部に奪われるリスクを防ぐための重要な措置であり、一定の制限をかけることで望ましくない人物が株主になることを防ぎ、会社の経営が安定するメリットもあります。株主が会社の経営に深く関わっている場合には、企業の文化を維持することにも寄与するでしょう。
メリットの少ない非上場株式の相続
譲渡制限があるため売却しづらく評価方法も複雑なことから、非上場株式を相続することには、基本的にメリットが少ないとされています。
特に相続人が会社の後継者ではなく、また事業承継税制を利用できない場合には相続のデメリットが大きいと言われています。
非上場株式の相続で起こり得るデメリット
非上場株式を相続する際には、いくつかのデメリットが発生する可能性があります。以下のポイントに注意が必要です。
売却先が限られる
非上場株式は市場に流通していないため、売却できる相手は限られています。売却先として考えられるのは、会社の経営陣や主要株主、あるいはその親族などに限定されるケースが多いです。外部の第三者に株式を売却することは、譲渡制限があるため難しく、会社側の同意を得る必要があります。特に、事業承継や後継者問題が絡む場合には、売却先の選定が極めて限定的となり、すぐに売却できない場合もあります。
買い手を探しづらい
仮に株式を売却したいと考えても、非上場株式の買い手を探すことは容易ではありません。取引市場がないため、一般的な売買の仕組みが存在せず、売却相手を見つけるためには、M&Aの専門家や仲介会社、金融機関などの力を借りる必要があります。特に、会社の業績や将来性に対する評価が低い場合、買い手を見つけることがさらに困難になります。また売却の手続きには時間とコストがある程度かかるということも覚えておきましょう。
評価方法が難しい
非上場株式は、上場株式のように市場価格を基にした評価ができません。そのため、会社の財務状況や事業計画、資産価値をもとに株価を評価する必要があります。
評価方法は複数あり、どの方式を採用するかによって評価額が大きく変動します。
例えば、類似業種の株価や会社の純資産を基にした評価方法などがありますが、どれも高度な専門知識が必要です。
評価方法を誤ると、相続税の負担が予想以上に大きくなるリスクがあるため、慎重な検討が必要です。
会社を引き継ぐ場合は非上場株式の相続がマスト
評価も難しく売りづらい非上場株式の相続は、事業継続への思い入れと相応の負担への覚悟がなければ、メリットを見つけづらいケースが大半です。
それでも、相続人が会社を引き継ぐということは、すなわち会社の「非上場株式」を相続することです。
会社を引き継ぐ以上は、いくらか複雑さをともなったとしても、非上場株式の相続手続きがマストになることは、あらかじめ覚悟しておく方が良いでしょう。
非上場株式を相続しない場合の対応
相続人が非上場株式の相続を望まない場合、いくつかの選択肢があります。以下にその対応策を解説します。
売却する(株式譲渡)
株式譲渡によって非上場株式を売却することが可能です。ただし、前述の通り、非上場株式の売却先は限定されるため、買取人を見つけることが難しい場合もあります。売却するためには、まず買取人を確保し、会社の譲渡承認を得る必要があります。
非上場株式を売却する場合の一般的な流れは以下の通りです。
買取人の確保
非上場株式を外部に売却する場合、仲介会社やM&A専門家の力を借りることが一般的です。また、売却時には株主総会での承認が必要なため、株主間の調整や交渉が重要です。
会社に譲渡の承認を伝達
非上場株式の場合、会社に対して株式譲渡の承認を得る必要があります。株主総会または取締役会で譲渡の可否が決定されますが、譲渡が認められない場合もあります。
承認:株主の指定した買取人への株式譲渡・売却
会社からの承認を受けられた場合、譲渡人と譲受人は「承認通知書」を受け取ります。その後株主の指定した買取人との株式譲渡契約書を作成し契約を締結します。契約書に記載されている支払い方法にて期日までに支払いを実行してもらうことで無事に売却が完了します。
否認:会社または会社指定の買取人による買い取り
もし会社が譲渡を承認しない場合には、会社が指定する買取人による株式の買い取りが行われます。これにより、株式の売却が実現されるものの、必ずしも希望する価格での売却ができるわけではありません。
相続放棄
非上場株式の相続を望まない場合、相続放棄の手続きを取ることが可能です。家庭裁判所で相続放棄の手続きを行うことで、相続そのものを放棄し、債務を含む財産全体を相続しない選択ができます。
非上場株式以外の財産も相続放棄することに
注意しなければならないのは、相続放棄をすることで非上場株式以外の財産についても相続放棄をすることになるということです。非上場株式だけ相続放棄をするということはできませんので注意しましょう。
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非上場株式を相続する場合の手続きの流れ
非上場株式を相続する場合、以下の手続きを踏むことになります。
相続人・相続財産の調査~確定
相続の最初のステップとして、相続人と相続財産の調査を行います。誰が法定相続人となるのか、また非上場株式以外にどのような財産が存在するのかを確認し、正確な相続計画を立てることが重要です。
非上場株式の評価額の算定
次に、非上場株式の評価額を算定します。
非上場株式の評価方法には
- 原則評価方式
- 配当還元方式
があります。
原則的評価方式
原則的評価方式とは、株式を発行している会社の従業員数や総資産価額、売上高によって会社を大会社、中会社、小会社の3つに分類して評価額を計算する方法のことを指します。
配当還元方式
配当還元方式とは、配当金額から単純に株価を逆算する方法のことです。評価方法としては例外的な方法と言われています。
評価方法の選択は会社の規模や種類・状態、株主の種類、売上高など、会社や株主の状況によって異なり、最終的な評価方法は税法上のルールに則って決定されます。(完全に自由に自社や株式所有者の希望で、方法を選べるものではありません。)
大まかな決定方法は後述の「非上場株式の評価額の決定方法」でもご紹介しますが、非上場株式の評価にはやや複雑な計算と専門的な知見に基づいた判断が必要です。非上場株式の評価は自分だけで行おうとせず、弁護士・税理士など相続の専門家の助けを借りる方が現実的です。
遺産分割協議で株式の相続人の決定
相続財産の評価が終了した後、遺産分割協議を行い、どの財産を誰が受け取るかを決めます。遺言書が存在する場合はその内容に従いますが、遺言がない場合は相続人同士の話し合いによって分割を決定します。遺産分割協議の内容をまとめたものが遺産分割協議書になり、各相続人が実印で押印し、印鑑証明書を添付します。
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会社の株主名簿書き換えを請求(非上場株式の名義変更)
非上場株式を相続した際、相続人は「株式名簿書換請求書」を提出し、株主名簿の書き換えを請求する必要があります。株主名簿の名義変更が行われないと、株主としての権利(配当金の受領、株主総会での議決権行使など)が制限される可能性があります。必要書類は株式会社により異なるため、事前に該当会社に連絡をし、必要書類や提出先、期限などを確認しましょう。一般的な必要書類としては、相続人全員の同意書、遺産分割協議書、被相続人の戸籍謄本、相続人の住民票などが挙げられます。
相続税の申告・納付
相続税の申告と納付は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。この10ヶ月の期間内に、相続財産の評価、遺産分割協議、申告書の作成、納税までを完了させる必要があります。特に相続財産の中でも非上場株式は評価が複雑であり、会社の財務状況や資産価値に基づいて評価額が大きく変わるため、相続税の申告書を完成させるために多くの場合専門家の助けが必要な項目となります。
非上場株式の評価額の決定方法
非上場株式の評価額の決定方法は、株式を取得した株主がその株式を発行した会社の経営支配力を持っている同族株主等か、それ以外の株主かの区分により異なります。
同族株主または少数株主の会社区分の判別
議決権比率30%以上の株主グループを構成する株主は「同族株主」となり、同族株主以外の株主のことを「少数株主」と呼びます。
※ただし、議決権比率50%以上の株主グループが存在する場合はその株主が「同族株主(筆頭株主)」となり、他の株主グループが30%以上を保有していても「少数株主」とみなされます。
被相続人が同族株主にあたる場合には「原則評価方式」、少数株主の場合には「配当還元方式」を採用します。
原則的評価方式
非上場株式の評価は、会社の規模や財務状況に応じて異なる方式で行われます。
会社は、その経営希望ごとに
- 大会社
- 中会社
- 小会社
に区分されます。
大会社
- 従業員数が100人以上
- 総資産額が卸売業では20億円その他の業種では10億円以上で、従業員数が50人超
- 取引金額が80億円その他の業種では20億円以上
中会社
以下のいずれかの条件に当てはまる会社は「中会社の<大>」に分類されます。
- 総資産額が卸売業では14億円その他の業種では7億円以上、従業員数が50人超
- 取引金額が卸売業では80億円その他の業種では20億円以上
以下のいずれかの条件に当てはまる会社は「中会社の<中>」に分類されます。
- 総資産額が卸売業では7億円その他の業種では4億円以上、従業員数が30人超
- 取引金額が卸売業では25億円、小売・サービス業では6億円、その他の業種では7億円以上
以下のいずれかの条件に当てはまる会社は「中会社の<小>」に分類されます。
- 総資産額が卸売業では7000万円、小売・サービス業では4000万円、その他の業種では5000万円以上、従業員数が5人超
- 取引金額が2億円、小売・サービス業では6000万円、その他の業種では8000万円以上
小会社
大会社・中会社のいずれの条件にもあてはまらない会社は「小会社」となります。
これら条件で大会社・中会社・小会社で分類の上、それぞれ以下の方法で評価を行うのが一般的です。
類似業種比準方式
大会社に適用されるのは類似業種比準方式です。
類似する業種の上場会社の株価と比較して、評価対象会社の「配当金額」、「利益金額」、「純資産価額」の3つの指標を基に評価します。
この方式は、上場企業と比較するため、財務指標が揃っている大会社に向いています。
併用方式
中会社では、類似業種比準方式と純資産価額方式を併用して評価を行います。
企業の規模が大きすぎず小さすぎない中規模の会社に適しており、両方の評価方法をバランス良く使って評価額を算定します。
純資産価額方式
小会社には純資産価額方式が適用されます。
会社が保有する資産と負債を洗い替え、その純資産額に基づいて株式の価値を評価します。純資産が評価の基準となるため、純資産の時価が高いほど評価額も高くなります。資産が多い小規模企業の場合にはこの方式が有効となります。
配当還元方式
同族株主以外の株主が取得した非上場株式は、配当金額を基にした特例的な評価方式である配当還元方式で評価されます。
この方法では、年間配当金額を10%の利率で元本に還元し、株式の価額を算定します。この評価方法は、事業承継や同族経営でない企業において活用されることが多いです。
非上場株式の相続でかかる税金
非上場株式の相続、譲渡、贈与にはそれぞれ以下の税金が発生することが考えららます。
相続税
非上場株式を相続すると、相続分に応じて取得した株式の価額に基づいて相続税が課されます。税率は10%から最大55%に設定されています。株式の評価額が高額になるケースでは、相続人がすぐに納税する資金を用意できないため、延納や物納の手続きが必要となることもあります。一方で、「事業承継税制」などの特例を適用することで、一定の条件を満たす場合には納税の猶予や免除が認められる場合があります。
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譲渡所得税
非上場株式を譲渡する際には、株主から株を譲渡する形になるため、個人としての所得が発生します。その場合、譲渡所得税が課税されます。譲渡所得税は譲渡益に対して15%の所得税(復興特別税含む)と5%の住民税が課されます。
贈与税
非上場株式を贈与した場合、暦年贈与か相続時精算課税制度を選択することができます。暦年贈与では、累進課税方式が適用され、贈与額に応じて10%から55%の税率がかかります。一方、相続時精算課税制度を選択した場合、2,500万円までの特別控除が適用され、それを超えた部分には一律20%の税率が課されます。この特例を選択した場合には相続時に贈与した額が相続財産に加えられ精算されることになります。
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事業承継や売却の形でかかる税金は異なる
非上場株式を相続する場合、前述のように事業承継や売却の形によりかかる税金は異なります。株式の譲渡による場合には「所得税(15%)」や「住民税(5%)」、「特別復興所得税(0.315%)」、相続や贈与による場合には「相続税」、「贈与税」が課税されます。
会社を引き継ぐ場合は事業承継税制の特例を活用可能
事業を承継する場合には、「事業承継税制の特例」を利用することで、後継者が非上場株式を相続した際にかかる相続税の負担を軽減できます。
事業承継税制の特例により、事業承継を受けた後継者が、将来次の後継者に事業を承継させることができれば、本来支払うはずであった相続税や贈与税を全額免除されるという特例です。
これにより、事業の継続が可能になり、相続人が資金不足で事業を売却しなければならないというリスクを回避できます。
まとめ
今回は非上場株式の相続について、相続の注意点やデメリット、評価方法、相続する場合としない場合の手続きや税金について解説しました。日本の多くの企業が非上場株式であり、今後膨大な非上場株式の贈与や相続が発生することが考えられます。それに伴い政府も様々な事業承継に関する特例を用意していますので、最新の特例情報も確認しておきましょう。
手続き・算定が非常に複雑な非上場株式の相続
非上場株式の相続は、評価方法や税制が非常に複雑であり、適切な手続きを進めるためには十分な準備が必要です。しかし、非上場株式の評価については様々な評価方法があり、専門的な知識が求められる分野です。また相続税は評価方法が異なることで税額も変わってきます。
非上場株式の相続は弁護士など専門家に相談を
非上場株式の相続に関しては、税理士や弁護士などの専門家に相談することが重要です。専門家の助けを借りることで、手続きが円滑に進み、税制上の特例などを活用することも可能です。
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