株を相続する手続きと流れ。投資していた被相続人の株を相続する方法と注意点
株式投資をしていた被相続人が亡くなった場合、故人が保有していた上場株式も相続財産となります。
遺産分割協議を経て分割方法が確定した後、証券会社が名義を故人から相続人へと変更します。上場株式の相続税は証券取引所の株価に基づく評価額に従って計算され、相続税の基礎控除による節税が可能です。上場株式の相続では、株価の動きや相続人間の公平に配慮し、早めに相続手続を済ますことが重要となります。
上場企業の株式に投資していた人が亡くなると、その人が持っていた上場株式は相続財産となり、相続手続が始まります。この記事では、上場株式の相続手続にまつわるポイントについて見ていきます。
目次[非表示]
上場株式の相続手続きの流れ
まず、上場株式の持ち主が亡くなってから、その株式が相続人に受け継がれるまでの流れを見ておきましょう。
相続財産の調査
遺産相続が発生した場合、はじめに行うのが以下の3つの工程です。
- 遺言書の有無~内容確認
- 相続財産の調査
- 相続人の確定
相続の全体像を把握しなければ、正しい遺産分割は行えません。誰に、どれだけの財産を、どのように相続するのか、決定していくために、まずは基礎的な調査を進めます。
故人が取引していた証券会社の確認
株式に関しても、この相続財産の確認の一貫として調査を進めることになります。
被相続人が上場株式を持っていたといっても、家の金庫の中などにしまってあるわけではありません。上場株式は、持ち主と契約した証券会社が預かる仕組みになっています。
相続人は、故人の上場株式をどの証券会社が預かっているかを調べなければなりません。
証券会社から届いていた書類類の確認を通じて、取引証券会社を絞り込むのが基本となるでしょう。
オンライン口座で取引を行っていた場合、PCやスマートフォン内のメールやアプリなどを確認してはじめてわかるケースもあるかもしれません。
調べた結果、証券会社が分かったか分からないかによって、上場株式の相続手続の流れが違ってきます。
証券会社が不明な場合:証券保管振替機構に問い合わせ
故人が契約していた証券会社をつかむ手掛かりがなく、証券会社が分からないときは、証券保管振替機構に問い合わせて、故人が契約していた証券会社を教えてもらわなければなりません。
証券保管振替機構とは、163の証券会社が参加し、証券会社からの依頼と株主の承諾をもとに、株式の振替業務(名義変更)を行う株式会社です。参加証券会社にどのような顧客がいるかを把握しているため、ある顧客がどの証券会社と契約しているかも分かる仕組みになっています。
証券保管振替機構への開示請求手続き
故人が契約していた証券会社を教えてもらうには、証券保管振替機構への「開示請求」という手続が必要です。
- 開示請求書
- 相続人の本人確認書類(運転免許証など)
- 相続人であることを示す戸籍全部事項証明書または一部事項証明書
- 故人の住所の確認書類(住民票の除票など)
を、機構あてに郵送します。
窓口での開示受付や電話での回答はしていないので注意しましょう。
開示請求書の発送から2週間ほどで、代金引換サービス(簡易書留)により開示結果が郵送されます。
相続人からの開示請求には、1件6,050円の費用がかかります。
その他の詳しいことは、証券保管振替機構WEBサイトをご参照ください。
参考リンク:証券保管振替機構WEBサイト「ご本人又は亡くなった方の株式等に係る口座の開設先を確認したい場合」
遺産分割協議
株式含む相続財産、および相続人が確定したら、遺産分割協議を実施します。
株式を分割する方法については以下 「上場株式の相続時の分割方法」の章で後述いたします。
遺産分割協議の中で話し合い、株の分割方針も含め相続の内容が確定したら、遺産分割協議書を作成します。
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株式の名義変更
証券会社から故人宛ての郵便などにより、どの証券会社かが分かれば、その証券会社によって株式名義を故人から相続人に変えてもらうことで、上場株式の相続手続が終わります。
株式名義を変えてもらうまでの流れは、次のとおりです。
- 証券会社に相続開始を伝える
- 証券会社に提出する書類をそろえる
- 相続人名義の証券口座を設ける
- 相続人名義の証券口座への株式振替を申請する
証券会社に相続開始を伝える
証券会社に連絡して、上場株式の持ち主が亡くなったこと、上場株式を相続人の名義に変えたいことを伝えます。
証券会社に提出する書類をそろえる
証券会社で上場株式の名義変更をしてもらうのに必要な書類をそろえます。
- 戸籍全部事項証明書(故人と相続人の分)
- 住民票写し
- 相続人の本人確認書類(運転免許証写しなど)
- 遺産分割協議書(相続人が2人以上の場合)
- 遺言書(見つかった場合)
などは、どの証券会社でも必要とされるようなので、早めに準備しておくのがよいでしょう。
その他、どんな書類が必要かは、証券会社によって多少違いがあるので、証券会社にしっかり確認しましょう。
相続人名義の証券口座を設ける
上場株式を預かっている証券会社に相続人名義の証券口座を設ける必要があります。証券会社は、顧客の株式を顧客名義の証券口座に保管するという形で預かるからです。
相続人名義の証券口座を設けることで、上場株式を故人の証券口座から相続人の証券口座に移すことが可能になります。
相続人がすでにその証券会社に証券口座を持っていれば、新たに口座を設ける必要はありません。
証券口座を新たに設けるには、
- 相続人の本人確認書類(運転免許証など)
- マイナンバーカード(マイナンバー確認のため)
- 口座開設申込書
などが必要です。詳しいことは、証券会社にしっかり確認しましょう。
相続人名義の証券口座への株式振替を申請する
証券会社に、上場株式を故人の証券口座から相続人の証券口座に移してもらう(振り替えてもらう)申請をします。
申請には、証券会社ごとの申請書があるので、取り寄せて記入しましょう。
申請書には、先ほどお話しした、故人と相続人の戸籍全部事項証明書などの必要書類を添えます。
申請を受けた証券会社は、上場株式を相続人名義に変えたうえで、相続人の証券口座に移す(振り替える)ことになります。この時点で、上場株式の相続手続が終わります。
それ以降、相続人が上場株式の持ち主となり、株主として、株主総会に参加し、配当金を受け取ることになります。
相続税の申告・納税
相続開始から10ヶ月の期限内に相続税の申告・納付を行います。
株の相続による名義変更自体に期限はありませんが、相続税の申告期限までに名義変更の手続きが終わらない場合、正しい相続税申告を行うことができなくなります。
修正申告による加算税や追徴課税のリスクもあるため、相続財産に上場株式が含まれる場合、なるべく早めの手続きをおすすめします。
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上場株式の相続時の分割方法
上場株式の相続する場合、相続人が1人か2人以上かによって、取るべき対応が異なります。
相続人が1人であれば、故人が持っていた上場株式のすべてを1人の相続人が受け継ぎます。
相続人が2人以上だと、上場株式を相続人同士で分ける、つまり遺産分割をしなければなりません。
上場株式の遺産分割には、次の3つの方法があります。
現物分割:上場株式をそのまま分ける
1つ目は、上場株式をそのまま分ける方法です。現物分割といいます。
たとえば、相続人が息子3人の場合、A社の株式は長男、B社の株式は次男、C社の株式は三男が、それぞれ受け継ぐ方法です。
上場株式をお金に換えるなどせず、株式のまま分ける点に特徴があります。
相続人全員が株式投資を続ける気持ちがある場合に取られる方法です。
換価分割:上場株式を売ったお金で分ける
2つ目は、上場株式をすべて売り、その代金を相続人同士で分ける方法です。換価分割といいます。
たとえば、上場株式をすべて証券会社に売り、売却代金を、相続人である長男・次男・三男とで法定相続分に従って3等分する方法です。
相続人の誰も株式投資に関心のない場合に、この方法が取られます。
代償分割:全株式をもらった1人が他にお金を支払う
3つめは、相続人の1人がすべての上場株式をもらい、他の相続人に法定相続分に見合ったお金を支払う方法です。このお金を代償金ということから、代償分割と呼ばれます。
たとえば、相続人である息子3人のうち長男が1,500万円相当の上場株式をすべてもらう代わりに、次男と三男に500万円ずつ支払う方法です。
相続人の1人は株式投資に関心があるが、他の相続人は関心がない場合にピッタリの方法といえるでしょう。
上場株式にかかる相続税の評価額はどう決まる?
相続人が上場株式を相続すると、他の相続財産と同じく、相続税を納めることになります。
相続税を計算するには、まず相続人が手にした上場株式の評価額を決めなければなりません。
上場株式の評価額は4つの株価の最安値で決める
上場株式は、土地や建物と違い、証券取引所の開いている平日の9:00から11:30と12:30から15:00の間、絶えず株価が変わっています。
そこで、税実務では、上場株式について、次の4つの中で最も低い金額をもって評価額にできるとされています。
- 故人が亡くなった日の終値
- 故人が亡くなった月の終値の平均額
- 故人が亡くなった月の前月の終値の平均額
- 故人亡くなった月の前々月の終値の平均額
故人が亡くなった日が土日祝日の場合、その日は証券取引所が開いていないため、亡くなった日に最も近い証券取引所営業日の終値をもって故人が亡くなった日の終値とします。
故人が保有する上場株式の評価額の適用例
たとえば、故人がA社の上場株式1,000株を残して令和2年10月31日(土)に亡くなったとします。
最も近い証券取引所営業日10月30日(金)の終値 | 4,000円 |
---|---|
10月の終値の平均額 | 4,200円 |
9月の終値の平均額 | 4,500円 |
8月の終値の平均額 | 3,800円 |
この場合、
最も低い額3,800円×1,000株=380万円
が、故人が残したA社上場株式の評価額となります。
上場株式の終値や平均額はインターネットで検索を
上場株式の終値や月の平均額は、インターネット検索が便利です。
たとえば、毎日の終値であれば「Yahoo!ファイナンス」、月の終値平均であれば「日本取引所グループ(JPX)」のWEBサイトで確認できます。
株の相続時に使える節税のポイント
上場株式を相続した場合でも、他の財産を相続したときと同じく、なるべく税金を少なくしたいものです。そこで、株を相続したときに使える節税方法を2つ紹介します。
相続税の基礎控除により相続税を節税
上場株式を相続したときも、不動産や預貯金を相続したときと同じく、相続税の基礎控除を受けることができます。
相続税の基礎控除の計算式は、次のとおりです。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続した上場株式の評価額から基礎控除額を差し引いた金額を、国税庁が定めた相続税速算表に当てはめて、相続税額を求めることになります。
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取得費加算の特例で相続株式売却の所得税を節税
取得費加算の特例を使うと、上場株式を売った時の所得税を安くすることができます。
取得費加算の特例を手続の流れに沿って示すと、次のようになります。
- 上場株式を相続する。
- 相続した株式を、相続税の申告期限(故人が亡くなってから10か月)の翌日から3年以内に他の人に売る。
- 株式を売った際の所得税の計算ベースになる売却金額から、株式の取得価格の他に、相続税額も差し引かれる。
- 所得税計算ベースの金額が下がるので、所得税が安くなる。
具体例で見てみましょう。
父が5,000万円で買った株式をただ1人の相続人である長男が相続しました。評価額も5,000万円のままでした。
長男は、父が亡くなってからちょうど1年後、その株式を7,000万円で売りました。
株式の相続にかかる相続税は、国税庁が定めた相続税速算表に当てはめると、
基礎控除後の遺産額×相続税率-控除額=
(遺産額5,000万円-基礎控除3,600万円)×0.15-50万円=160万円
となります。
株式売却にかかる所得税は、所得税速算表に当てはめると、
所得金額×所得税率-控除額=
(売却額7,000万円-父による購入金額5,000万円-相続税額160万円)×0.4-279万6,000円=456万4,000円
となります。
もしも売却額から相続税額の差し引きがなければ、株式売却にかかる所得税は、
(7,000万円-父による購入金額5,000万円)×0.4-279万6,000円=520万4,000円
取得費加算の特例は相続税そのものを下げるものではありませんが、差し引きにより所得税が64万円の節税となり、トータルでは支払う税金を抑えることができます。
株式の評価額が低いタイミングで生前贈与する
上場株式の相続税の節税を考えた場合、生前贈与を選ぶのも有効な方法のひとつです。
考え方はシンプルで「上場株式の株価が下がったタイミングで生前贈与を行う」というものです。
保有する上場株式の評価額の低い状態で手続きが行えるので、基本的には保有株数が多い場合ほど有効な節税方法と言えるでしょう。
ただし、贈与税は相続税より高い税率が設定されており、保有する株数や家族構成、財産の状況によっては、生前贈与することでかえって損してしまう可能性もあります。
生前贈与を含む節税策は、税理士や弁護士などの専門家に相談し、綿密なシミュレーションした上で行うことをおすすめします。
株を相続する場合の注意点
上場株式の相続では、次の4つの点に注意しましょう。
換価分割では株価が上がった時に売る
上場株式をすべて売った代金を相続人同士で分ける換価分割を行う場合は、株価が上がったタイミングで株式を売却するのが重要です。
なるべく高く売ったうえで代金を分けた方が、すべての相続人にとって得であることは明らかでしょう。
2人以上の相続人で換価分割を行う場合は、相続株価の動きを注視することが必要です。
前に紹介した「Yahoo!ファイナンス」や「日本取引所グループ(JPX)」などのWEBサイトを活用して、株価が上がったタイミングで売るようにしましょう。
代償分割では相続人同士の公平に配慮する
代償分割では、代償金を支払うタイミングを、上場株式の評価額の動きを見ながら、慎重に決めることが大切です。
代償分割の場合は、上場株式を相続するのは相続人の1人。他の相続人には、株式の評価額を法定相続分で割った額のお金を他の相続人に支払います。
上場株式の評価額が上がった時は、代償金の額が高くなり、代償金をもらう相続人は喜びます。
ただ、株式を相続した相続人からすれば、将来評価額が下がるかもしれない株式なのに多額の代償金を支払わなければならないことに不公平を感ずることでしょう。
反対に、上場株式の評価額が下がった時は、代償金の額が安くなり、株式を相続した相続人の負担が減ります。一方で、代償金をもらう相続人にとっては、安い代償金しかもらえないことに不満が生じることになります。
株価が高からず安からずのタイミングで行うことが、双方が満足する代償分割の決め手といえます。そのため、株価の動きをつかみながら、代償分割のタイミングを相続人全員で決めるようにしましょう。
準確定申告を忘れないように
相続人は、故人が株式投資で得た所得を、故人に代わって申告し、所得税を納めなければなりません。相続人は、故人がすべきであった所得税を申告し納税する義務を受け継ぐからです。これを準確定申告といいます。
準確定申告の期限4ヶ月以内に、故人の株式投資の状況を明らかにする必要がある
準確定申告は、相続人が故人の亡くなったことを知った日の翌日から数えて4か月以内に行わなければなりません。
準確定申告をするには、故人が生前にどんな株式投資をしていたかを知ることが必要です。まず、契約していた証券会社に問い合わせましょう。
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相続放棄した相続人は相続株式の分割協議から外れる
相続人の中に相続放棄をした人がいれば、その人は初めから相続人でなかったことになるので、上場株式の分割協議から外れます。
残りの相続人で上場株式の分け方を決めることになります。
株の相続手続きを放置した場合
故人が残した上場株式の相続手続をしないまま放置したらどうなるでしょうか。
相続手続が終わらないうちは、株式の名義は故人のままです。
ただ、法律の上では、故人が亡くなると同時に株主の地位が相続人に移ります。
相続人が1人なら、相続人がそのまま株主として活動できる
相続人が1人なら、株式を発行した株式会社が拒まない限り、その相続人が新しい株主として、株主総会に出て議題への賛否を示したり、配当金を受け取ったりすることができます。
ただ、故人から株式を買い受けたと称する人がいると、株式の名義が相続人に変わっていない以上、その人に対して自分が新しい株主であると言い張ることはできません。
相続人が2人以上の場合、株式は準共有に
相続人が2人以上いて、相続株式の分け方を決めていないうちは、株主の地位を相続人同士で分けあう状態になります。これを準共有といいます。
相続人の中から株主として活動する人を1人決め、会社に届け出なければなりません。届け出た相続人が、株主総会に出て議題への賛否を示すなどを行います。
配当金は相続人全員に対して渡されるため、相続人同士で分けなければなりません。
上場株式の相続手続は早めに済まそう
上場株式の相続手続を放置すると、故人から株式を買ったと称する人との間のトラブルが生じたり、株主として活動する人の届出、相続人同士での配当金の分配といった面倒な手続が必要になってしまいます。
こうしたことのないよう、上場株式の相続手続は早めに済ますようにしましょう。
まとめ
株式の相続は、不動産や預貯金の相続と違う点がいくつかあることが分かりました。株式の相続はなるべく早く済ますことが大切であることも忘れてはなりません。
株式の相続手続を正しく早く行うには、株式相続の特徴の理解、相続法や会社法の知識、株式や相続についての実務経験が必要です。
こうしたことは、一般の方にはとても縁遠いことです。ここは専門家の力を借りるに限ります。
株式の相続については、弁護士や税理士といった税の専門家に相談することから始めましょう。
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