子どもがいない夫婦の夫が亡くなると、相続財産はすべて妻のものになる?

夫婦子ども無し

民法には法定相続人と法定相続分が規定されていますが、被相続人が相続させたい相手や遺産の分け方を指定したい場合は遺言書を残します。遺言書は、作成年月日を明記する、押印するなどのルールを守らなければ法的効力はありません。また、遺言書があっても配偶者や子ども等には最低限保証された財産の取り分(遺留分)が認められています。

注目!

疎遠であっても親族に相続の権利がある場合も

たとえ何年も連絡を取っていなくても、父母・兄弟が存命であれば遺留分として相続の権利が発生します。
トラブルが予想される場合は早めに弁護士に相談されることをおすすめします

子どもがおらず、妻に全財産を残したい

あなたは自分が亡くなった後、遺産を相続する資格が誰にあるか把握していますか?相続人の範囲と順位は民法で厳密に定められています。自分が意図する相手に財産を残したい場合、まずは法定相続人が誰なのかを知ることから始めます。

【相談事例】子どもがいないと、疎遠な親族が相続?

遺産相続は「配偶者に2分の1、子どもに2分の1」というイメージを持たれていますが、それは数ある相続のパターンの一つに過ぎません。では、子どもがいない夫婦の夫が亡くなった場合、全財産を妻だけに残せるのでしょうか?典型的な相談事例に沿って解説します。

相談内容

「私たち夫婦には子どもがいません。先日、夫が亡くなりました。両親はすでに死亡しています。夫は3人兄弟の末っ子で、兄・姉も他界しています。兄に男の子が、姉に女の子がいますが、遠くに住んでいますし、兄姉が亡くなったのはずいぶん前で、私は甥や姪にはほとんど会ったことがありません。この2人に相続させないといけないのでしょうか?」

相談者への回答

相談者(妻)は、甥・姪には相続させたくないと考えているようです。しかし、たとえ疎遠な親戚でも、被相続人の遺言が残っていない限り、法定相続人である甥・姪には相続の権利があります。

法定相続人と順位

法定相続人とは、被相続人と一定の身分関係にあり相続人になれる人です。常に相続人となる「配偶者相続人」と、子・父母・兄弟姉妹など優先順位に沿って相続人となる「血族相続人」がいます。

配偶者相続人

配偶者は常に相続人になります。配偶者の相続権は、相続開始時(被相続人が亡くなった時)の戸籍で決まるのが原則です。このため婚姻届を提出していない内縁関係や事実婚の場合は相続人にはなれません。逆に、長年別居していて夫婦で生活している実態がなくても、離婚していなければ配偶者に相続権があるのです。

血族相続人

血族相続人とは、被相続人の子・孫、父母・祖父母、兄弟姉妹・甥・姪です。血族相続人には順位があり、順位が高い者がすでに死亡していたり相続を放棄した場合、次の順位の者が代わりに相続人となります。

第1順位:子・孫

血族相続人の中で真っ先に相続人となるのは子です。子が死亡している場合や相続放棄している場合は、その子(被相続人の孫)が相続人となります(代襲相続)。相続開始時点では母親のお腹にいた胎児や、離婚後に配偶者が引き取った子どもにも相続権があります。

また、内縁関係や事実婚の相手の子ども(非嫡出子)も、被相続人が認知していれば相続人になれます。一方、再婚した配偶者の連れ子は養子縁組をしていたとしても相続人ではありません。再婚相手と連れ子は血のつながりがないからです。

第2順位:父母・祖父母

子・孫の次の順位が与えられているのが、父母です。親子関係と相続権の考え方は、前項と同じことが当てはまります。父母がすでに死亡している場合は祖父母が相続人となります。

第3順位:兄弟姉妹・姪や甥

父母・祖父母の次の順位は、兄弟姉妹です。兄弟姉妹が死亡している場合はその子(被相続人の甥や姪)が代襲相続で相続人となります。

法定相続分と遺言

相続人は1人とは限りません。複数いる場合はどのように分け合うかが問題となります。そこで、民法にはあらかじめ相続人のパターンによって取り分が規定されています。それが法定相続分です。

法定相続分とは

今回の相談者の場合、相続人は自分(配偶者)と甥と姪の3人です。このパターンの法定相続分は、配偶者が4分の3、残りの4分の1を甥と姪で均分して受け取ることになります。

相続人のパターン別で見る法定相続分
配偶者のみ 全部
配偶者と子 配偶者が2分の1、子が2分の1(子が複数なら2分の1を均分)
配偶者と直系尊属(父母など) 配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1
配偶者と兄弟姉妹 配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1(兄弟姉妹が複数なら4分の1を均分)
子のみ 全部(相続人が複数なら均分)
直系尊属のみ 全部(相続人が複数なら均分)
兄弟姉妹のみ 全部(相続人が複数なら均分)
法定相続分は絶対ではない

法定相続分はあくまで「基準」という位置付けです。相続人どうしで遺産の分け方を話し合った場合、全員が合意した結論が法定相続分と違っていても問題ありません。しかし調停・審判に進んだ場合は、相続税の申告期限が近づけばひとまず法定相続分で相続します。

遺言を活用する

今回の相談者は「縁の薄い甥や姪には相続させたくない」という意向があったようです。このように子どもがいない夫婦に配偶者以外の相続人がいる場合、遺産をすべて配偶者に残したいなら「遺言」を作成しておくことが大切です。

遺言の内容は法定相続分より優先される

遺言とは、被相続人が財産の処分に関する意思を伝える手段です。被相続人は「誰にどれだけ渡すか」を自由に決めていいのです。遺言に書かれた相続分は「指定相続分」といい、法定相続分よりも優先されます。「介護で世話になった長女には遺産を多めに渡したい」といった希望がある場合や、法定相続人以外でお世話になった人に相続させたい場合(遺贈)も遺言で相続分を指定できます。

遺言書作成の注意点

法的に認められる遺言を作成するには、様々な注意点があります。費用がかからず自力で作成できる「自筆証書遺言書」の場合、パソコンで作成したもの・代筆・ビデオレター等は不可です。作成の年月日が手書きで明記してある、署名押印がある、といったルールを守りましょう。法律上のルールではありませんが、誰かに書き換えられないよう封筒に入れて押印しておくと安心です。

遺留分は自由に処分できない

今回の相談者の場合は、夫が存命中に「妻に全財産を相続させる」という内容の遺言を残していれば財産はすべて妻に残せました。しかし、もし夫の親が生きていたら、遺言の指定相続分より効力が強い「遺留分」を請求されたかもしれません。

遺留分とは

遺留分とは、一定の範囲の相続人に最低限保証された財産の取り分です。なぜ遺留分の制度があるのかと言うと、例えば「愛人に全財産を相続させる」という遺言を残した被相続人がいたら、家族が著しい不利益を被るかもしれないからです。民法には相続人のパターンによって遺留分が定められています。

相相続人のパターン別で見る遺留分
配偶者のみ 2分の1
配偶者と子 配偶者が4分の1、子が4分の1(子が複数なら4分の1を均分)
配偶者と直系尊属(父母など) 配偶者が6分の2、直系尊属が6分の1
配偶者と兄弟姉妹 配偶者が2分の1、兄弟姉妹なし
子のみ 2分の1(相続人が複数なら均分)
直系尊属のみ 3分の1(相続人が複数なら均分)
兄弟姉妹のみ なし

生前贈与も遺留分の対象

遺留分は生前贈与の財産も対象としています。具体的には以下のような財産です。

  • 相続開始前1年以内の贈与財産
  • 遺留分を侵すことを双方が承知のうえで贈与した財産
  • 相続人に対する一定の贈与財産(子の住宅取得資金などの特別受益)

遺留分で妻の生活に大きな影響が出る可能性

子どもがいない夫婦の夫が遺言で全財産を妻に残していても、夫の親が遺留分を請求してくれば、妻は応じなければなりません。このとき妻の生活に大きな影響が出る可能性があります。

父母には遺留分がある

父母には6分の1の慰留分があります。仮に相続財産が6000万円の場合、父母が遺留分を請求すれば妻は1000万円を渡す必要があります。父母は、遺留分侵害を知った日から1年以内に請求しなければ権利が消滅します。

最悪の場合、妻が自宅を手放すことに

もし相続財産6000万円のうち大半が自宅(不動産)だった場合、妻が遺留分の請求に応じるには自宅を売らなければなりません。これを回避するには、生命保険に入っておくなど事前の対策が必要です。

遺留分を請求されたら拒むことはできませんが、それでも財産を残す相手を選びたい場合に遺言は非常に有効な方法です。自力で作成するのが困難な方は遺言書作成に強い弁護士に相談してみてください。

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