相続欠格と相続排除|法定相続人なのに相続人になれない場合がある?

相続欠格と相続排除

テレビドラマなどでよくある遺産相続問題ですが、現実の世界でも遺産を狙って被相続人を殺害する事件が起きています。このような場合、殺害者は相続欠格に当たるため法定相続人でも相続権を失います。さらに被相続人に虐待行為等をした場合も相続排除となり、やはり相続の権利が剥奪されます。

遺産相続のルール

財産を所有している被相続人が亡くなって遺産相続が開始すると、まず相続人の確認が行われます。相続人は民法によって「法定相続人」が定められていますが、被相続人による遺言書がある場合にはそちらの内容が優先されます。

法定相続人とは

民法によって定められた相続人を法定相続人といいます。法定相続人は被相続人の配偶者をはじめ子や孫、父母、兄弟姉妹等がなりますが、相続できる人の範囲と順位が決められています。

配偶者相続人と血族相続人

法定相続人には「配偶者相続人」と「血族相続人」があります。配偶者相続人は、被相続人の配偶者で常に法定相続人となります。ただし、被相続人と婚姻関係がない内縁の夫や妻は法定相続人となることはできません。血族相続人は被相続人の子や孫、父母、兄弟姉妹等が該当します。

血族相続人には順序がある

血族相続人には、第一順位から第三順位まで優先順位が決められています。第一順位は被相続人の直系卑属で、子や孫がこれに当たります。子が死亡している場合には孫が第一順位の相続人となります。第二順位は直系尊属の父母、祖父母です。第一順位の相続人が不在で父母が亡くなっている場合には祖父母が相続人となります。第三順位は兄弟姉妹です。

上位がいる場合、下位は相続人になれない

優先順位が上位である法定相続人がいると、下位の者は相続人となることはできません。たとえば、被相続人に子供がいる場合にはその子が第一順位の相続人となるため第二順位の両親や第三順位の兄弟姉妹は相続人になることができなくなります。

遺言書がある場合の相続

相続では、被相続人による遺言書が残されている場合、原則としてその内容が法定相続人よりも優先されることが定められています。

法定相続分と指定相続分の違い

法定相続人が複数いる場合に相続人が相続する遺産の割合は、被相続人が特に何も指定していなければ民法で定められた法定相続分によって決められます。一方、遺言書による相続の割合は被相続人が自由に決めることが可能です。これを指定相続分といいます。

遺言書の内容は法定相続よりも優先される

被相続人には、生前に遺言書を作成することで財産分与の方法を自由に決めることが可能です。遺言書の内容は原則として法定相続より優先されるため、遺産相続の現場では被相続人による遺言書があるかどうかが遺産分割のポイントとなります。

遺留分は侵害されない

被相続人の意志を尊重する一方で、特定の相続人にだけ有利になることがないよう、民法では相続人が最低限譲り受けられる遺留分を保障しています。ただし、遺留分が保障されているのは配偶者および第一順位の子、第二順位の親までで兄弟姉妹には認められていません。

法定相続人が相続できないケースとは

法定相続人は無条件に遺産相続に参加できそうなものですが、中には法定相続人が相続人の権利を失う場合もあります。それはどんなケースなのでしょうか。

相続欠格となる場合

相続人が被相続人の生命を侵害するような行為をしたり、脅迫により遺言書を自分が有利になるように作成または修正させようとした場合には「相続欠格」に当たります。そうなると、法定相続人としての権利が剥奪されます。

故意に生命を侵害する行為

財産狙い等の理由から被相続人の殺害または殺害未遂で刑に処された相続人は、相続欠格となり相続権を失います。ただし、相続欠格となるのは相続人が故意に被相続人を殺した場合または殺そうとした場合であり、過失による致死の場合には相当しません。

殺害犯人を知りながら告発しない場合も…

さらに、自分が殺害した場合だけでなく、被相続人が殺されたことを知りながら犯人を告発しなかった場合でも相続欠格の対象となります。ただし、相続人に是非の分別が付かない場合や犯人が配偶者または直系の血族である場合、さらに事件の捜査が既に開始されている場合には欠格事由とはなりません。

遺言への不当な干渉

遺言書の内容について、被相続人を脅迫して自分が有利になるように書かせたり変更させようとした場合にも相続人としての権利を失います。さらに、遺言書の破棄や隠匿、偽造があった場合も、遺言への不当な干渉とみなされ相続欠格の事由に当たります。

相続排除となった場合

ある相続人によって虐待や侮辱行為がなされていた場合、被相続人は家庭裁判所に申立をすればその相続人の相続権を剥奪することが可能です。これを「相続排除」といいます。

相続排除は被相続人の意志による

相続排除では、相続人からの虐待や侮辱行為を受けた被相続人が家庭裁判所に申立をします。調停や審判を通して裁判所により排除が認められれば、相続人の相続権は失われます。相続欠格は被相続人の意思には関係なく適用されますが、相続排除は被相続人自らの意思で決めることができる点に違いがあります。

相続排除は遺言書でも指定することができる

相続排除は被相続人自身が家庭裁判所に申立をすることができますが、遺言書の中に「相続人による虐待行為があったために相続排除を希望する」旨を記載しておくことも可能です。遺言による相続排除は、被相続人の死後遺言執行者が家庭裁判所に申立をすることで執行されます。

相続排除できるのは遺留分を持つ者のみ

相続排除の対象となるのは、遺留分を有する配偶者、子、父母の推定相続人のみです。遺留分の権利を持たない兄弟姉妹を相続排除することはできません。もし、兄弟姉妹に財産を渡したくない場合には、遺言書にその旨を記載することになります。

相続欠格・相続排除になった場合の対策

相続欠格や相続排除等の理由により相続権を剥奪されても、相続人に子どもがいる場合には、代襲相続といってその子が親の代わりに遺産を相続することができます。

代襲相続とは

代襲相続とは、被相続人の子供が亡くなっている場合などに孫等が代わりに遺産を相続する制度で、相続人が相続欠格や相続排除により相続権を失っている場合にも適用されます。

代襲相続人になれるのは直系卑属か甥と姪

相続が開始された時点で被相続人の子どもが既に亡くなっている場合には、代襲相続といって孫が親の代わりに相続します。代襲相続人になれるのは、被相続人の子供が亡くなっている場合には孫等の直系卑属です。直系卑属と直系尊属が不在であれば兄弟姉妹が相続しますが、その兄弟姉妹が亡くなっている場合には甥・姪が代襲相続人となります。

相続欠格・相続排除でも代襲相続は可能

代襲相続は、被相続人の子供が亡くなっている場合だけでなく相続欠格や相続排除により相続権を失った場合にも可能です。つまり、法定相続人が被相続人の殺害を企てて相続権を剥奪されても、殺害者の子供は法定相続分を相続することができるのです。

遺産相続に強い弁護士に相談すべし

遺産相続は家族間の問題であるが故に複雑化するケースが多くなっています。相続問題で揉めそうな場合には、遺産相続の経験が豊富な弁護士などの専門家に相談しましょう。

相続排除は取り消しも可能

些細な喧嘩から、被相続人が相続人との関係をこじらせて相続排除したくなるケースもあるかもしれません。相続排除は被相続人の意思で取り消しができますが、当事者間がいがみあっていると上手に話し合うことも困難です。弁護士などの専門家が仲介すれば、双方が和解できる可能性も高くなります。

遺産相続に強い弁護士に相談しましょう

遺産相続により、もともと仲の良かった家族の関係が悪化して一家が離散してしまうケースがよくあります。家族間の問題だからこそ、一度揉めると泥沼化し取り返しのつかないことにもなりかねません。そのような事態を招かないためにも、遺産相続は弁護士に相談しながらスムーズに進めるようにしましょう。

遺産相続による争いは多額のお金が絡むことから、複雑化したり泥沼化したりするケースも多いです。家族が崩壊しないためにも、遺産相続に強い弁護士や税理士などの専門家にアドバイスをもらいながら相続の手続きを進めるようにしましょう。

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