相続回復請求権とは?請求権者と相手方の条件、行使すべきケースをわかりやすく解説
相続回復請求権とは
相続回復請求権とは、相続人ではない人が相続財産を占有している場合に、相続人が請求権を行使することで、相続人としての権利を回復できる制度です。(民法第884条)
たとえば、本来は相続人ではないにもかかわらず、自分が相続人であると思いこんで、被相続人(亡くなった人)の土地を占有している人(表見相続人)がいるとします。
自分こそが土地を相続する権利があると知った真の相続人(真正相続人)にとっては、土地を占拠されていることで、その土地を相続できない不当な状態が生じています。
そこで、真の相続人に相続回復請求を認めることで、占有している相手から土地を返還できるようにして、真の相続人の権利を保護することにしたのが、相続回復請求権の制度です。
遺留分侵害額請求権との違い
相続回復請求権のように、相続人の権利を保護するための制度として、遺留分侵害額請求権があります(民法第1046条)。
遺留分侵害額請求権とは、一定の法定相続人に対して認められている遺留分(相続財産に対する最低限の取り分)が侵害された場合に、侵害した相手に対して、遺留分に相当する金銭を支払うように請求できる権利です。
たとえば、長男だけが遺産の全てを相続したことで、300万円分の遺留分を侵害された次男が、長男に対して300万円を支払うように請求するなどです。
相続回復請求権は財産自体の返還を請求できる
相続回復請求権と遺留分侵害額請求権の主な違いは、相続回復請求権は財産自体の返還を請求できますが、遺留分侵害額請求権は金銭の支払いのみを請求できることです。
たとえば、ある人が相続財産である土地を占有している場合で考えてみましょう。
相続回復請求権の場合は、土地自体を返還するように請求することができます。
しかし、遺留分侵害額請求権の場合は、土地自体の返還を求めることはできません。
土地の相続によって侵害された遺留分に相当する金銭を請求できるだけです。
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相続回復請求を行える人と相手方
相続回復請求を行える人と、相続回復請求を受ける相手方について解説します。
行える人=真正相続人
本来は相続権を有するにもかかわらず、相続権を侵害されている人を真正相続人といいます。
真正相続人に該当するのは、法定相続人(被相続人の配偶者や子など、民法が規定する相続人)や、遺言によって相続人として指定された人などです。
相続回復請求権を行使できるのは真正相続人と、以下のような真正相続人に準ずる地位にあると認められる人です。
相続分の譲受人
相続人として遺産を相続できる地位そのものを譲り受けた人です。
包括受遺者
遺産の全部または一定の割合について、包括的な遺贈を受けた人です。
遺言執行者
財産目録の作成など、遺言の内容を実現するための事務を任された人です。
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相続財産管理人
相続財産の管理や清算を任された人です。
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相手方=表見相続人
表見相続人とは、実際には相続権がないにもかかわらず、相続権があるかのように相続財産を占有している人のことです。
表見相続人にあてはまる条件
表見相続人にあてはまる主な条件としては、以下のものがあります。
- 相続欠格によって相続権を失った場合
- 相続廃除によって相続権を失った場合
- 無効な婚姻によって配偶者になった場合
- 無効な養子縁組によって養子となった場合
- 偽りの出生届や認知によって相続人となった場合
- 自己の持分を超えて相続権を主張する共同相続人
いずれの条件においても、本来は相続権が認められないにもかかわらず、相続権があるかのように財産を占有した場合に、表見相続人に該当します。
相続回復請求を行使すべきケース
相続回復請求権はどのようなケースで行使すべきなのか、具体的なケースごとに解説します。
相続欠格によるケース
相続欠格とは、相続人が一定の欠格事由に該当する場合に、相続権が剥奪される制度です(民法第891条)。
欠格事由としては、詐欺や脅迫によって遺言をさせた場合や、遺言書を偽造した場合などがあります。
ある相続人が欠格事由に該当する行為をした場合、裁判所に申し立てるなどの特別な手続きをすることなく、その相続人は当然に相続権を喪失すると考えられています。
しかし、相続欠格に該当するかどうかは外観からはわからないので、相続欠格に該当するにもかかわらず、相続人として遺産を相続してしまうケースがあるのです。
相続欠格に該当する行為をした場合はすでに相続権を失っているので、正当な権限なく相続財産を占有している状態にあります。
そこで、相続欠格人に対して相続回復請求をすることで、占有している遺産の返還を求めることができます。
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偽りの出生届によるケース
ある親の子として出生届を出された子は、その親が亡くなった場合に法定相続人となります。
しかし、出生届によって親子関係が認められるのは、出生届の内容が真実の親子関係に基づく場合です。
偽りの出生届を提出した場合は親子関係は認められないので、親が亡くなった場合でも、相続人として遺産を相続する権利はありません。
偽りの出生届に基づいて財産を相続した人に対しては、真正相続人が相続回復請求権を行使して、相続財産の引渡しを請求できます。
共同相続人による持分侵害のケース
共同相続人が他の相続人の持分を侵害している場合は、その共同相続人に相続回復請求をすることによって、持分の返還を請求することができます。
共同相続人は正当な相続権を有していますが、他の相続人の持分を侵害している場合は、表見相続人と同様に他の相続人の権利を侵害していると評価できるからです。
相続回復請求権の時効
相続回復請求権の時効について解説します。
相続回復請求権の消滅時効は5年または20年
相続回復請求権には時効(消滅時効)があり、以下のいずれかを満たす場合に時効が成立します。
- 相続人(またはその法定代理人)が、相続権を侵害されたことを知ったときから、請求権を5年間行使しなかったとき
- 相続開始から20年経過したとき
「相続権を侵害されたことを知ったときから5年間」の意味
①における「相続権を侵害されたことを知ったとき」に該当するには、単に相続が開始した事実を知るだけでなく、以下の3つの事実の全てを知ることが必要です。
- 相続が開始したこと(被相続人が亡くなったこと)
- 自分が相続人であること
- 自分が相続から除外されていること
たとえば、被相続人が亡くなったことを2022年5月12日に知ったものの、自分が相続人であることと、相続から除外されたことを知ったのは、同年6月20日の場合で考えてみましょう。
この場合、時効が開始するのは5月12日ではなく、3つの事実の全てを知った6月20日からです。
「相続開始から20年経過したとき」の意味
②については、相続が開始してから(被相続人が亡くなった日に相続が開始します)20年が経過した場合は、①における3つの事実を知ったかどうかに関係なく、時効が到来します。
たとえば、自分が相続人であることをずっと知らなかったとしても、被相続人が亡くなってから20年が経過した場合は、相続開始請求権の時効が到来しています。
時効援用できるのは「善意無過失」の表見相続人に限られる
時効が到来したとしても、相続回復請求権が一切行使できなくなるわけではありません。
時効によって権利を行使できなくするには、時効の効果を援用するという意思表示が必要であり、これを時効の援用といいます。
相手が時効の援用をしない場合は、時効の期間が到来したとしても、相手になお権利を行使することができるのです。
たとえば、相続開始から20年以上経過したとしても、相手が時効を援用しないのであれば、相続回復請求権を行使することができます。
他者の相続権をわかっていながら財産を占有する表見相続人は時効を援用できない
相続回復請求権については、誰でも時効を援用できるわけではありません。
相続回復請求権の時効を援用できるのは、表見相続人が善意かつ無過失の場合に限られます。
善意無過失の表見相続人というのは、つまり「相続財産について注意を払っていたものの自分が真正相続人ではないと知ることができないまま財産の占有をしていたケース」になります。
表見相続人が善意でない、または過失がある場合は、相続回復請求権の時効を援用することは認められないのです。
たとえば、他の相続人の相続権を侵害していると知りながら、相続の対象である土地を長年占拠してきた場合は、善意ではないので時効を援用することはできません。
表見相続人からの譲受人は取得時効を援用可能
表見相続人からの譲受人は、相続回復請求権の時効を援用できませんが、取得時効の援用は可能です。
表見相続人からの譲受人とは、表見相続人から相続の対象となる財産を譲り受けた人のことです。
たとえば、表見相続人が相続した土地を売りに出して、その土地を購入した人は、表見相続人からの譲受人に該当します。
相続回復請求権の時効を援用できるのは表見相続人ですが、譲受人は表見相続人ではないので、時効を援用することはできません。
ただし、表見相続人からの譲受人は、取得時効の援用をすることができます。
取得時効とは、所有の意思を持って他人の物を一定期間占有した場合は、その物を取得できるとする制度です(民法第162条)。
たとえば、表見相続人から土地を購入した譲受人が取得時効の要件を満たす場合は、相続回復請求に対して、自分は取得時効によって土地の所有権を取得したと主張することができます。
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相続回復請求を行う場合の流れ
相続回復請求を行う場合の流れについて解説します。
話し合い
相続回復請求をする場合、まずは相手と話し合いをすることができます。
相手と話し合いをして、自分が相続回復請求をすることを主張します。もし相手が請求に応じて必要な措置を取れば、問題は解決します。
たとえば、本来は相続人ではない人が現金を相続してしまった場合に、真正相続人が相手と話し合いをして、相続回復請求権に基づいて現金の返還を請求するなどです。
もし相手が話し合いに応じて相続財産を返還すれば、裁判を起こしたりしなくても問題を解決することができます。
内容証明による請求
相手が話し合いに応じない場合は、内容証明(内容証明郵便)を利用して請求する方法があります。
内容証明は郵便サービスの一種であり、差出人の住所氏名・宛先の住所氏名・文章の内容などを日本郵便が証明してくれるのが特徴です。
内容証明を利用して請求することで、いつ、誰が誰に、どのような請求をしたのかを証明できます。
また、内容証明に配達証明を付けることで、文章がいつ相手に到達したかを証明することも可能です。
内容証明によって請求することで、相手にある程度のプレッシャーを与えるだけでなく、裁判の証拠としても活用できます。
相続回復請求訴訟の提訴
話し合いや内容証明の送付をしても相手が応じない場合は、相続回復請求訴訟の検討が必要です。
相続回復請求訴訟とは、民事裁判を起こして、訴訟の中で相続回復請求をする方法です。
裁判をするには時間や費用がかかりますが、訴訟に勝って判決が確定すれば、相手が返還に応じない場合でも強制執行をすることができます。
まとめ
相続回復請求権とは、表見相続人が相続財産を占有している場合に、真正相続人が請求権を行使することで、相続人としての権利を回復できる制度です。
相続回復請求権を行使できるのは、法定相続人などの真正相続人のほか、遺言執行者などの真正相続人に準ずる人です。
相続回復請求権には時効がありますが、時効を援用できるのは表見相続人が善意かつ無過失の場合に限定されます。
相続回復請求権を行使するには、裁判外で内容証明によって請求したり、訴訟を起こして請求したりなどの方法があります。
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