地積規模の大きな宅地の評価とは?適用できるケースと計算方法
2018年、税制改正によってこれまでの「広大地評価」が廃止され「地積規模の大きな宅地の評価」に変わりました。
この改正により、今後はどのようなケースでどういった宅地の評価方法をすれば良いのか、またなぜ税制改正が行われたのか、その目的などを解説していきます。
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地積規模の大きな宅地の評価とは
そもそも「地積規模の大きな宅地の評価」とはいったい何のことなのでしょうか?
地積規模の大きな宅地の評価は広い土地の評価方法
「地積規模の大きな宅地の評価」は、相続税や贈与税などの国税を計算するときの「土地の評価方法」の1種です。
人が亡くなって土地を相続するときや土地の贈与を受けるときには、それぞれ相続税や贈与税がかかります。
これらの国税は土地の「評価額」に応じて計算されるので、課税の前提として土地を「評価」する必要があります。
対象が広い土地の場合に適用される評価方法が、今回ご紹介する「地積規模の大きな宅地の評価」です。
「地積規模の大きな宅地の評価」が適用されるのは、すべての土地ではありません。
適用対象になるのは一定の地域内の一定以上の大きな(広い)土地のみです。
広い土地の場合、土地評価方法の原則である「路線価」や「評価倍率」方式を修正して、価格補正されます。
その補正計算の方法が「地積規模の大きな土地の評価」なのです。
広い土地の評価方法が修正される理由
なぜ広い土地の場合、「地積規模の大きな宅地の評価」によって計算方法を修正しなければならないのでしょうか?
それは、広い土地は「そのままでは使いにくい」からです。
特にマンションや商業施設として利用できない場所では、あまりに広すぎる土地は足かせにしかならないケースがあります。分筆もできなければ売りようがありませんし、分筆するとしても手間や費用がかかります。道路も設置しなければならなかったりして思ったような価格では売りにくくなるケースも多々あります。
このように、広すぎる土地は「使い勝手が悪い」です。
しかし路線価や評価倍率による原則的な評価方法では「土地の面積に応じた評価方法」となるので、土地が広ければ広いほど税金が高額になってしまいます。
使い勝手が悪く実際にはそれほどの価値がないにもかかわらず税金だけ高くなるのは不合理なので、一定のケースでは「地積規模の大きな宅地の評価」によって土地評価額を減額するのです。
従来は「広大地評価」が適用されていた
実は広い土地については、従来「広大地評価」という方法で価格を修正されていました。
ところが2018年に税制改正が行われて従来の「広大地評価」が廃止され、新たに「地積規模の大きな宅地の評価」が導入されました。
2018年以後に土地を相続あるいは贈与する際、その土地が一定の地域内でかつ一定面積より広ければ「広大地評価」ではなく「地積規模の大きな宅地の評価」を適用して相続税や贈与税を計算する必要があります。
地積規模の大きな宅地の評価が導入された背景
2018年、なぜ広大地評価が廃止されて地積規模の大きな宅地の評価が導入されたのでしょうか?その背景事情を確認しましょう。
広大地評価とその問題点
地積規模の大きな宅地の評価が導入される前、広い土地の評価方法としては「広大地評価」が適用されていました。
広大地評価の目的も現在の「地積規模の大きな宅地の評価」と同じです。広すぎて使い勝手の悪い土地を適正に評価して、税額を適正なものに抑えるためでした。
ところが広大地評価は、評価基準があいまいで正しく適用されていないことが非常に多く、かねてから問題になっていました。
広大地評価の適用要件
広大地評価が適用されるためには以下の2つの要件が必要です。
- マンションや商業施設を建築できない区域の土地であること
- 中に「道路」を通さないと活用できないこと
マンションや商業施設を建築できるかできないかについては市町村役場などで調べれば簡単にわかるのですが、土地内に「道路」を通さないと活用できないかどうかは簡単にはわかりません。
不動産鑑定士に依頼して綿密に調査しないと判明せず、納税者や税理士と税務署との見解が一致しないケースも数多く発生しました。
すると納税者側が広大地評価を適用して申告しても、後から税務署に否認されて多額の追徴課税が行われる可能性があります。
そうなったら税理士が責任追及されるので、税理士としては「はじめから広大地評価は適用しない」ようになりました。
納税者が不当な不利益を受けていた
すると今度は納税者が不利益を受けます。
本来受けられるはずの減税措置を受けられず、税額が上がってしまうからです。
つまり広い土地を相続した方は、税理士に依頼しても広大地評価を適用してもらえず、本来より高額な税金を納めることになってしまうのです。
その後、「おかしい」と気づいた方は、あらためて税理士(当初の税理士と異なるケースも多い)に依頼して、土地の調査をやり直し「相続税の更正請求」などを行い、払いすぎた税金を取り戻す対応をしていました。
税金の払いすぎに気づかなかった方は更正請求をせず、払いすぎたままになっていました。
広大地評価の計算方法
また広大地評価には計算方法にも問題がありました。広大地評価の場合、広い土地に対して一定の「広大地補正率」という割合をかけ算して土地評価額を減額していました。
ところが広大地補正率は、土地の形状や接道状況などの個別の事情を考慮していなかったため、実際には使いやすい土地と本当に使えない土地の評価額が同じになってしまうこともありました。
このように、一律の計算方法によって実態とは異なる価格評価になることも、広大地評価の持つ問題点であると考えられていました。
広大地評価の反省を活かして地積規模の大きな宅地の評価が導入された
このように、従来の広大地評価は、機能していないとまでは言えなくても、適正な方法で適用されているとはいいがたい状況でした。このような状況となったのは、「広大地評価の適用場面があいまいで判断しにくい」ことや計算方法が不適切であったことが要因であったため、今回の「地積規模の大きな土地の評価」では、適用される場面や計算方法を明確に規定しています。
地積規模の大きな宅地の評価が適用されるケース
わかりやすくなった地積規模の大きな宅地の評価は、具体的にどういったケースで適用されるのでしょうか?
面積の要件
地積規模の大きな宅地の評価が適用されるには、土地が一定以上の面積である必要があります。
- 三大都市圏では500平方メートル以上
- それ以外の場合は1000平方メートル以上
基本的には宅地が対象ですが、宅地への転用が可能であれば農地や山林、原野にも適用されます。
土地の区域について
土地の「区域」についての要件は以下の通りです。
- 普通住宅地区または普通商業・併用住宅地区
- 市街化調整区域ではない
- 都市計画の用途地域が「工業専用地域」ではない
- 大規模工場用地に該当しない
容積率について
- 東京都の特別区の場合300%未満
- それ以外の宅地の場合400%未満
地積規模の大きな宅地の評価方法
「地積規模の大きな宅地の評価」を適用する場合、どのようにして土地の価額を計算するのでしょうか?計算方法をご説明します。
路線価を基準に計算する
広い土地を「地積規模の大きな土地の評価」によって計算する場合でも、基本となるのは「路線価」です。
路線価とは、「道路に面した土地の1平方メートルあたりの単価」を基準にして土地価格を計算する方法です。
市街地的な土地にはそれぞれ路線価が定められているので、土地の評価をするときには「土地の近くの路線価×土地の地積」によって土地の評価額を求めます。
そこで、地積規模の大きな宅地の評価を適用するときにも、まずは路線価図を確認して自分の土地に適用される路線価を調べます。
なお地方などでは「路線価」が設定されていない場所もあります。その場合の評価倍率による計算方法については、後の項目で説明します。
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各種の補正率を適用して減額補正する
路線価を調べたら、次に土地状況に応じた補正を行います。同じ面積でも、土地の形状や奥行、道路が二面で道路に接しているかなどの状況に応じて、実際の使い勝手や価値はかなり異なってきます。
路線価はそういった土地の個性を無視して一律計算しているので、実際の土地評価の場面では各種の要素を考慮して価格修正を行います。
たとえば土地の形状が使いにくい状況になっている場合には不整形地補正率をかけ算して土地価格を減額します。
また奥行が長すぎたり短すぎたりすると、やはり土地を使いにくくなるので土地価格を減額できます。
反対に、土地が二面以上道路に接していると使い勝手が良くなるので、通常価格よりも加算されます。
規模格差補正率を適用する
このように路線価によって得られた金額を各種補正率によって修正したら「規模格差補正率」によって補正します。
この「規模格差補正率」が、土地が広いことによる修正割合です。かつての「広大地補正率」に相当します。
規模格差補正率はケースによって金額が異なり、定められた計算式があります。
以上をまとめると、地積規模の大きな宅地の評価による土地評価額の計算式は、以下の通りとなります。
4-4.規模格差補正率の計算式
「規模格差補正率」は、以下の計算式によって計算します。
上記の計算で使う(A)と(B)の数字については、税務署が定めているのでそれを使ってあてはめます。
具体的な数字は三大都市圏とそれ以外とで異なるので、それぞれみてみましょう。
地積 | (A) | (B) |
500㎡以上1,000㎡未満 | 0.95 | 25 |
1,000㎡以上3,000㎡未満 | 0.90 | 75 |
3,000㎡以上5,000㎡未満 | 0.85 | 225 |
5,000㎡以上 | 0.80 | 475 |
地積 | (A) | (B) |
1,000㎡以上3,000㎡未満 | 0.90 | 100 |
3,000㎡以上5,000㎡未満 | 0.85 | 250 |
5,000㎡以上 | 0.80 | 500 |
また、三大都市圏と言ってもいろいろな場所があり「神奈川県だからすべての場所で適用される」わけではありません。
関西エリアや東海エリアでも適用されない場所がたくさんあります。以下では具体的にどこが「三大都市圏」として地積の大きな宅地の評価の適用対象となるのか、簡単に示します。
関東エリア
- 東京都の特別区全域を始めとした多くの市町村
- 埼玉県、千葉県、神奈川県の多くの地域、茨城県の一部の市町村
関西エリア
- 大阪府の多くの市町村、京都府、兵庫県、奈良県の一部の市町村
東海エリア
- 愛知県の多くの市町村、三重県の一部の市町村
同一市町村内でも、地積規模の大きな宅地の評価を適用できる場所とできない場所があるケースもあり、わかりにくくなっています。
自己判断は危険なので、適用される地域かどうかは市区町村役場に確認しましょう。
評価倍率地域の場合
ここまで路線価方式が適用される場所での「地積規模の大きな宅地の評価」による評価方法をご紹介しましたが、地方などでは「評価倍率方式」が適用される場所があります。
評価倍率方式とは、路線価が設定されていない場所において、土地の「固定資産税評価額」に一定の割合をかけ算して土地の評価額を求める計算方法です。
評価倍率方式の地域で「地積規模の大きな宅地の評価」が適用される場合、次の低い方の価額が土地の評価額となります。
- 土地の固定資産税評価額に評価倍率をかけ算した価額(通常の評価倍率方式による計算方法)
- 土地の標準的な1平方メートル当たりの価格に対し、普通住宅地区の奥行価格補正率、不整形地補正率などの各種画地補正率と規模格差補正率をかけ算した価額に、その宅地の地積をかけ算して計算した価額
つまり通常の評価倍率方式によって計算された金額が低い場合には、それがそのまま適用されます。
その土地周辺の一般的な価格(特に使いにくい要素がない場合)に奥行価格補正率や不整形地補正率などの各種の補正率と規模価格補正率をかけ算した金額の方が低ければ、そちらの金額が採用されます。
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地積規模の大きな宅地の評価が適用される時期
地積規模の大きな宅地の評価が適用されるのは、2018年1月1日以後に起こった相続や贈与などです。
2017年以前に行われた贈与や2017年以前に死亡した場合の相続には、従前の広大地評価が適用されます。
「地積規模の大きな宅地の評価」を適用する方法
相続税や贈与税は基本的に「自己申告」ですので、広い土地を相続した場合にも「地積規模の大きな宅地の評価」を適用するかどうかは自己判断に任されます。
自分で気づいて適用しなければ、税務署の方から「適用して減額できますよ」とは言ってくれません。
そこで税金の申告の際、自分で適切に「地積規模の大きな宅地の評価」を始めとした各種の減額補正を適用して計算し、申告書に記載して提出する必要があります。
「地積規模の大きな宅地の評価」を適用して申告する場合、以下の書類も作成して提出します。
土地及び土地の上に存する権利の評価明細書
土地と土地上の権利について詳細に説明し、計算根拠を示すための明細書です。奥行補正や側方加算などの各種の補正率をなども書き込まねばなりません。国税庁が配布しているので、ダウンロードして利用しましょう。 土地及び土地の上に存する権利の評価明細書 ※別ウィンドウでPDFファイルが開きます
「地積規模の大きな宅地の評価」の適用要件チェックシート
地積規模の大きな宅地の評価を適用できるのか、要件を確認するためのチェックシートです。こちらも国税庁からダウンロードできます。
(平成30年1月1日以降用)「地積規模の大きな宅地の評価」の適用要件チェックシート ※別ウィンドウでPDFファイルが開きます
広い土地の評価は専門の税理士に相談しましょう
広い土地を相続したり贈与されたりしたら、通常は高額な相続税や贈与税がかかります。
そんなとき「地積の大きな宅地の評価」を適用できると、税額を大きく減額できる可能性があります。
7-1.広い土地の評価はとても難しい
しかし上記でみたとおり、地積の大きな宅地の評価の計算方法は簡単ではありません。
そもそも「奥行補正」「不整形地補正」「側方加算」などの各種の補正率を適切に適用すること自体が素人の方には困難です。
きちんと計算できていなければ、税務署から指摘を受けて追徴課税されるおそれもあります。
そこで、相続税や贈与税の節税のために地積の大きな宅地の評価などを適切に適用したい場合には、相続関係に専門的に取り組んでいる税理士に相談することをお勧めします。
最新の税制改革についてもきちんと勉強している専門の税理士であれば、各種の補正率を適用して正確に税額を計算してくれるでしょう。自分では見逃してしまうような価格補正や税金控除制度などにも気づいてくれて、減税を受けられる可能性もあります。
7-2.相続税申告に詳しい税理士を選ぶべき
税理士には弁護士以上にさまざまな人がいるので、必ず「相続税関係に詳しい」人を選ぶ必要があります。ほとんど相続税の案件を行っていない方や最新の勉強をしていない方も多く、そういった人に依頼するとまったく補正を適用してもらえず、高額な税額を計算されてしまうおそれがあります。
そうなると、後から別の税理士に更正請求を依頼しなければなりません。
毎年数多くの相続案件をこなし、実際に現地を見に来てくれて正確に土地を算定してくれる良い税理士を探しましょう。
弁護士の中にも税理士と提携している事務所があるので、相続関係に詳しい弁護士のいる事務所に相談するのも1つの方法です。
税金の払いすぎを抑えて上手に相続や贈与を乗り切って下さい。
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