相続税の計算に倍率方式を利用する際には固定資産税評価額に要注意

宅地

主に地方にある土地や宅地を評価するときには、「倍率方式」を使って評価額を計算します。その計算方法は固定資産税評価額に評価倍率を乗じるだけですが、その際に注意しなければならないポイントがあります。また、東日本大震災の被災地にある土地の評価方法について震災後に定められた特例制度についても、併せて見ていきましょう。

倍率方式とは

相続財産としての土地を評価する方法には、「路線価方式」と「倍率方式」の2つの方法があります。都市部などでは路線価方式を使って評価額を算出することが多いですが、地方では路線価が定められていない地域が多数あるので、土地の評価には倍率方式を使うことが一般的です。

倍率方式って何?

倍率方式とは、路線価が定められていない地域で、該当地域の役所が定めた固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価額を算出する方法のことを言います。実際に計算するには、固定資産税評価額を調べておくなどの事前準備が必要です。

固定資産税評価額を把握する

まず、被相続人の死亡年での固定資産税評価額を把握します。相続税を申告する年ではなく、被相続人が死亡した日の属する年であることに注意しましょう。固定資産税評価額は、毎年郵送されてくる「納税通知書」や市区町村役場の窓口で調べることができます。

国税庁HPで倍率を確認

評価倍率については、国税庁のHPで地域ごとに確認することができます。倍率方式で算出する場合は、原則として土地の形状や面積の大小は考慮されないため、補正率を加味する必要はありません。

倍率方式での計算方法とは?

では、具体的に倍率方式で土地の評価額を計算する方法について見ていきましょう。倍率方式での計算方法は、複雑な路線価方式とは違ってシンプルな計算で済みます。

倍率方式での評価額の計算方法とは

倍率方式での土地の評価額の計算式は以下の通りです。

固定資産税評価額×倍率

たとえば、固定資産税評価額が3000万円、国税庁の定める評価倍率が1.1倍とすると、評価額は

3000万円 × 1.1倍 = 3300万円

となります。

倍率に1.1が多い理由とは

国税庁HPに記載されている「路線価図・評価倍率表」を見ると、宅地の倍率は「1.1倍」になっていることが多いのに気づきます。もともと、土地の時価が10とすると相続税評価額は8、固定資産税評価額は7になるように設定されており、この7に1.1を掛けると約8になります。そうすることで、倍率方式での評価額を路線価の水準に引き直すようにしているのです。

倍率方式で計算するときの意外な落とし穴とは…

倍率方式は、計算方法だけを考えれば単純なものに見えますが、実はここに落とし穴があります。その落とし穴とは、倍率方式で評価額を算出するときの「基準年度」です。

固定資産税評価額の「基準年度」に注意

固定資産税評価額は基本的に3年に1度のペースで見直しが行われます。しかし、自治体によっては必ずしもそのペースで見直されるとは限りません。

固定資産税の見直しは基本的に3年に1回

固定資産税の金額は3年に1度、市区町村の役所により改定されます。平成に入ってからは、3の倍数の年が見直しの年となっています。たとえば、直近であれば平成27年に金額が改定されており、次回は平成30年に改定される予定です。

固定資産税評価額を毎年下げる自治体もある

ところが、平成26年に亡くなった方について相続税を計算するときに、固定資産税評価額が3年間据え置きだと思って平成26年の固定資産税評価額を使うと、間違いが起こることがあります。これは、土地の値段が下がっているからと、役所が自発的に固定資産税評価額を下げていることがあるからです。

必ず基準年度の固定資産税評価額で計算しよう

評価倍率はこの値下げ分も考慮して設定しているため、安くなった評価額に低くなった倍率をかけると評価額が低くなりすぎてしまいます。そのため、正しい評価額を算出するためには、面倒でも「基準年度」の固定資産税評価証明書を取り寄せることが必要です。

倍率方式でも補正率を使用することがある

土地を評価する上で見落としがちな点はもう一つあります。それは、基本的に倍率方式で計算する土地には個別事情を斟酌しなくてもよいとされているにも関わらず、倍率方式でも補正率を加味して土地の評価額を計算しなければならない場合があることです。

補正率を考慮すべき状況とは?

たとえば、地目が「山林」となっているのに、実際の土地は「雑種地」などの特殊な土地の場合は、「宅地比準方式」を利用することになります。1㎡あたりの近傍宅地の価額が入った固定資産税評価証明書を取り寄せ、その価額をもとに計算します。

評価方法はどうなる?

雑種地の場合は、まず当該土地が宅地である場合の1㎡あたりの価額を算出し、次にその額と当該雑種地の地積を乗じて算出します。計算式は以下の通りです。

評価対象地の1㎡あたりの価額 =

宅地である場合の固定資産税評価額 × 評価倍率 / 地積 × 補正率 (※) – 宅地造成費
※補正率:奥行価格調整率、奥行長大補正率、不整形地補正率などを必要に応じて乗じる

雑種地の評価額 =評価対象地の1㎡あたりの価額 × 雑種地の地積

震災で被害を受けた土地の評価方法はどうなる?

平成23年3月11日、東日本大震災で多くの人が津波や放射能汚染の被害に見舞われることになりました。そこで国税庁は、震災後に相続が起こった場合の土地の評価方法に関する特例を定めています。

震災前に取得した「特定土地等」の評価方法

国税庁は、震災の被害が大きかった地域に存在する土地について「特定土地」と定め、震災前に取得したものであれば以下のような方法で評価額を計算することにしています。

特定土地とは

特定土地とは、東日本大震災発生時に「相当な被害を受けた地域」として財務大臣の指定する地域内にある土地等のことです。具体的には次の地域が該当します。

県内全域が該当

  • 青森県
  • 岩手県
  • 宮城県
  • 福島県
  • 茨城県
  • 栃木県
  • 千葉県

一部地域のみ該当

  • 埼玉県加須市(旧北川辺町及び旧大利根町の区域に限る)
  • 埼玉県久喜市
  • 新潟県十日町市
  • 新潟県中魚沼郡津南町
  • 長野県下水内郡栄村

特定土地の評価方法はどうなる?

以下の①または②により取得した特定土地等を平成23年3月11日の時点で所有していたときは、取得の時の時価によらず、「震災の発生直後の価額(震災後を基準とした価額)」により土地の評価額を計算します。

① 平成22年5月11日から平成23年3月10日までの間に相続等により取得
② 平成22年1月1日から平成23年3月10日までの間に贈与により取得

震災発生直後の価額は「平成23年度」が基準年度に

平成22年中に相続や贈与により取得した特定土地等を倍率方式で評価額を計算する場合、固定資産税評価額は平成22年度のものではなく、平成23年度のもので計算します。そして、原則として、指定地域内の一定の地域ごとに定めた「調整率」を平成23年分の路線価及び評価倍率に乗じて計算することが可能になっています。

原発事故の影響を受けた地域の評価額は「0」に

国税庁のHPによれば、原発事故により放射能の影響を受けた「警戒区域」、「計画的避難区域」、「緊急時避難準備区域」内にある特定土地等については評価しないとされています。よって、これらの土地に関する相続税の申告をする際は、評価額を「0」として申告します。

倍率方式で評価する土地は、評価方法が単純明快なものの、意外なところに落とし穴があるので実際に計算するときには注意しなければなりません。倍率方式の対象となる土地や宅地は広大なことが多いため、ちょっとのミスが大きな評価額の違いにつながることもあります。そのため、被相続人が地方に土地や宅地を持っている場合は、相続に強い弁護士や税理士に相談し、正確に評価してもらえるようにしましょう。

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