遺産相続で確定申告は不要?必要になるケースと申告までの流れ
遺産相続で受け継いだ相続財産について、所得税の確定申告は原則不要です。ただし、相続の内容によっては確定申告が必要となるケースもあります。
この記事では、確定申告が必要となるケースを具体的に提示しながら、その判断基準と注意点を詳しく解説します。
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遺産相続した時、確定申告は必要?
遺産相続した時に、所得税の確定申告が必要か、どうすればいいかわからず不安に感じる方は少なくありません。では実際のところはどうなのでしょうか?
遺産相続では所得税の確定申告は原則不要
結論から言うと、遺産相続をしただけでは原則的に所得税の確定申告は不要です。遺産相続では、相続財産が一定額を超えると相続税の申告が必要になりますが、所得税については特定のケースを除いて申告する必要はありません。
これは、相続税と所得税で「税金のかかる対象」が違うためです。
相続税は「相続した財産」に対してかかる税金で、所得税は「所得(給与や事業所得、投資などで得た収入から経費を差し引いた金額)」に対してかかる税金です。そもそもの課税対象が異なるため、遺産相続したからといって、相続税と別で所得税が二重課税されることはありません。
ただし、相続財産の内容や、相続した後の取扱いによっては、所得税の確定申告が必要になるケースもあります。以下で確定申告が必要となるケースをご紹介します。
遺産相続で確定申告が必要になるケース
遺産相続で確定申告が必要になるのは、以下のケースです。
相続した財産を寄付した
相続した財産を、国や地方公共団体、学校法人、社会福祉法人、政党、政治資金団体などに寄付した場合には、寄附した団体などから交付を受けた寄附金の受領証(領収書)を添付して確定申告を行うことで、「寄付金控除」ができます。寄付控除を受けるためには、所得税の確定申告が必要です。
一点注意すべきなのは、不動産や株式の寄付です。不動産や株式の寄付では、「みなし譲渡所得」という制度があるため、不動産や株式を時価で譲渡したとみなされ、譲渡所得として課税される場合があります。この点はしっかり押さえておきましょう。
相続により事業を承継した
被相続人が個人事業を営んでおり、その事業を承継した場合、事業所得の申告が必要です。
具体的には、事業を承継した年の事業所得の確定申告を、通常の確定申告と同様、事業承継年の翌年2月16日から3月15日までに行います。
相続した財産を換価分割した
相続した財産を現金化し、相続人の間で分け合う「換価分割」をして売却益が出た場合には、相続人それぞれが、代金の取得割合で不動産を取得したことになり、その譲渡所得に対し確定申告が必要です。
相続した不動産から家賃収入が発生した
相続した不動産を賃貸に出しており、家賃収入が発生した場合には、相続発生日以降の家賃収入を不動産所得として確定申告する必要があります。
遺言書により、貸付不動産の相続人が指定されている場合には、指定された人がその取得割合に応じて譲渡所得の申告を行います。
遺言書がなく遺産分割協議をして相続人を決める場合には、相続財産は相続人の共有状態であるため、家賃収入を法定相続分で分割し、それぞれが譲渡所得の申告を行います。
相続した財産を売却した
相続した不動産や株式などを売却し、売却益が出た場合には、その譲渡所得に対し確定申告しなければなりません。この際には、譲渡所得の特別控除を使って節税できるケースがあります。
具体的には、「取得費加算の特例」「空き家の譲渡所得の特例」といった特例がありますので、これらを積極的に用いることで税負担を抑えられます。
死亡保険金・未支給年金を受け取った
死亡保険金を受け取った場合
死亡保険金・未支給年金を受け取った場合には、確定申告が必要となる場合があります。
死亡保険金は、保険金受取人となった相続人本人が保険料を負担していたケースで、死亡保険金を一時金として受け取った場合には、一時所得として確定申告が必要です。ただし、一時所得には50万円の特別控除があります。そのため、その年の一時所得が控除枠の50万円を超えない場合には、確定申告は不要です。
また、死亡保険金を年金として受け取った場合には、雑所得として確定申告が必要となるケースがあります。雑所得の金額は、その年に受け取った年金の額から、金額に対応する払込保険料または掛金の額を差し引いた金額で算出します。雑所得にも一定の基礎控除があります。
未支給年金を受け取った場合
また亡くなった方の未支給年金を相続人が受け取った場合、一時所得として確定申告が必要です。ただし、未支給年金にも死亡保険金と同様の50万円の特別控除が適用できます。その年の一時所得が控除枠の50万円を超えない場合には、確定申告は不要です。
準確定申告は被相続人の所得に対する確定申告
被相続人が年の途中に亡くなった場合、被相続人の所得状況によっては、相続人が被相続人に代わって確定申告を行う「準確定申告」を行わなければなりません。
準確定申告とは、被相続人の所得に対する確定申告のことです。
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準確定申告が必要なケース
準確定申告は、被相続人が次のケースのいずれかに当てはまる場合に必要となります。
- 給与・退職金以外で20万円を超える所得があった場合
- 2ヶ所以上の企業から給与を得ていた場合(ただし従たる給与が20万円以下の場合を除く)
- 2,000万円を超える給与所得があった場合
- 400万円を超える公的年金を受給していた場合
- 不動産や株式等の売却による譲渡所得があった場合
- 事業所得・不動産所得・配当所得があった場合
- 生命保険の満期保険金・一時金を受け取っていた場合
還付金を受け取れる場合は準確定申告を
また、準確定申告が必須ではありませんが、準確定申告を行うことで所得税の還付金を受け取れる場合があります。
「被相続人が所得控除を適用できるケース」や「給与所得者で年末調整が行われていなかったケース」では、予定納税や源泉徴収で本来納めるべき所得税額よりも多額の納税をしているケースがあります。こうした状況の場合、還付金が受け取れる可能性があるため、準確定申告を行った方が得になります。
具体的には、次のいずれかに当てはまる場合などが考えられます。
- 被相続人が給与所得者で年末調整が行われていなかった場合
- 長期入院等で高額の医療費を支払っていた場合(医療費控除)
- 国・地方公共団体・学校法人などに寄付をしていた場合(寄付金控除)
- 配偶者や親族などを扶養していた場合(配偶者控除・扶養控除)
- 配当金を受け取っていた場合(配当控除)
- 特定口座での株式運用で損失の繰越がある場合(繰越控除)
- 生命保険や個人年金、地震保険などの保険料を支払っていた場合(保険料控除)
還付金は相続人全員での分配が必須
準確定申告で得られた還付金は相続財産に該当し、原則として相続人全員で、各自の相続分に応じて分配します。分配された還付金は相続税の課税対象になるため注意しましょう。
準確定申告の対象期間
準確定申告で申告の対象になるのは、被相続人の亡くなった年の1月1日から亡くなった日までに確定した所得です。
なお、被相続人の死亡後に受け取った給与等の収入は、準確定申告の対象からは外れます。
これは、死後に発生した収入が、所得税ではなく相続税の対象となるためです。
また、被相続人の死亡後3年経過後に支給が確定した収入については、その収入を受け取った相続人の一時所得として扱われます。つまり故人の準確定申告でも遺族の相続税の申告でもなく、その収入を受け取った相続人個人の所得税申告で処理することになります。
準確定申告の期限
準確定申告を行う期限は、相続人が、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内です。一般的には、被相続人の死亡日に相続の開始があったことを知ることが多いでしょう。
準確定申告の期限をオーバーしてしまった場合、無申告加算税や延滞税が課されます。
前年の確定申告書の控えがあると準備がスムーズに
準確定申告を期限内にスムーズに行うため、被相続人の前年までの確定申告書の控えがないか確認しましょう。前年の申告書からは、所得や控除の状況が読み取れるため、準確定申告をするのに有用です。
準確定申告の所得控除
準確定申告でも、通常の所得税の確定申告と同様に所得控除を受けられます。
具体的に、準確定申告で適用できる所得控除としては以下のもの等があります。
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 地震保険料控除
- 配偶者控除・扶養控除など
詳しくは以下で解説する注意点「準確定申告でも所得控除ができる」で解説します。
準確定申告の納税義務者
準確定申告では、相続人が納税義務者になります。
対象者としては相続人全員となりますが、申告手続きそのものは相続人のうちの代表者ひとりでも行えます。その場合、1つの申告書に相続人全員の氏名を連署して提出することで、全員が準確定申告を行ったものと認められます。
相続人が1人の場合は、確定した税額全額を納付、相続人が2人以上いる場合には、各自の相続割合(未決の場合は法定相続分)に応じた金額を納税します。
相続人各人の相続割合は、準確定申告の際に申告書に記入して提出します。
準確定申告の提出先と必要書類
準確定申告の提出先は、被相続人が亡くなった当時の納税地の管轄税務署です。
申告方法は、以下のいずれかを選択します。
- 税務署窓口への持参
- 郵送
- e-Tax(電子申告)
必要書類は基本的には通常の確定申告と共通で、具体的には以下のものが挙げられます。
準確定申告の必要書類 一覧
- 通常の確定申告書(表題に「準確定」と記入したもの)
- 給与・年金の源泉徴収票(※1)
- 控除証明書(生命保険料・社会保険料などの控除を受ける場合)
- 医療費の明細書・セルフメディケーション税制の明細書(医療費控除を行う場合)
- 所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(相続人が2人以上の場合)
- 相続人全員の本人確認書類
(マイナンバーカードがある場合はマイナンバーカード。マイナンバーカードがない場合は通知カード(個人番号通知書)か個人番号が記載された住民票の写し+運転免許証・健康保険証・パスポート・在留カードなど) - 委任状(相続人が2人以上で、特定の相続人が還付金を受領する場合)
- 還付金受け取り口座の情報がわかる書類(※2)
※1 給与・年金の源泉徴収票は、2019年税制改正により2025年現在は提出不要ですが、準確定申告書に源泉徴収の記入欄があるため用意します。
※2 提出は不要ですが、準確定申告書に記入欄があるため用意します。
遺産相続から確定申告までの流れ
遺産相続の開始から確定申告までは、次の手順を期限内に行います。
- 相続手続きの準備(3ヶ月以内)
- 相続方法の選択(3ヶ月以内)
- 準確定申告を行う(4ヶ月以内)
- 遺産分割協議の実施(10ヶ月以内)
- 相続税額を計算する(10ヶ月以内)
- 相続税の申告と納付を行う(10ヶ月以内)
- 所得税の確定申告を行う(翌年の2月16日から3月15日まで)
この記事では、遺産相続の流れの中でも特に税務に関連する部分を中心に解説します。遺産相続全体の流れ、各段階で対応すべき点については下記記事をあわせてご参照ください。
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相続手続きの準備(3ヶ月以内)
相続の開始があったことを知った日(死亡日)の翌日から3ヶ月以内に、
- 遺言書の有無の確認
- 相続財産の調査
- 相続人の確定
を行います。これら事前準備が完了しなければ以後の手続きが進まないため、なるべく速やかに進めていくのがおすすめです。
相続方法の選択(3ヶ月以内)
事前準備で相続全体の内容が確認できたら、その相続をどうするか
- 単純承認
- 相続放棄
- 限定承認
いずれかの相続方法を選択します。
相続方法の選択の期限は、相続の開始があったことを知った日(死亡日)の翌日から3ヶ月以内です。
3ヶ月を越えた場合、自動的に単純承認したものとして手続きが進んでいきます。
準確定申告を行う(4ヶ月以内)
相続の開始があったことを知った日(死亡日)の翌日から4ヶ月以内に準確定申告を行います。
以下の手続きを進めていくことになります。
- 相続人の代表者を定める
- 準確定申告に必要な書類を集める
- 準確定申告書を作成する
- 準確定申告書等を提出する
詳細は上述の「準確定申告は被相続人の所得に対する確定申告」をご参照ください。
遺産分割協議の実施(10ヶ月以内)
相続の開始があったことを知った日(死亡日)の翌日から10ヶ月以内に、相続人全員が参加する遺産分割協議を実施します。
遺産分割協議では、どの相続財産を、誰が、どのくらい受け取るか、遺産分割について話し合いを行います。
実は遺産分割そのものには特に法律上の期限はありません。ただし、相続税申告が10ヶ月以内であるため、実際には10ヶ月以内に実施・合意することが必要です。
相続内容が確定したら相続手続きを実施
遺産分割の内容に相続人全員が合意し、相続の内容が確定したら、遺産分割協議書を作成します。
不動産・株式等の名義変更や預金解約を進め、遺産分割協議書に記載の内容に合わせた財産の分配を進めます。
なお、名義変更や預金解約などの手続きは状況により遺産分割協議の前に行えるケースもありますが、手続きの中には遺産分割協議書の提出を求められることも少なくありません。そのため、遺産分割協議後に進める方がスムーズと言えます。
遺言書がある場合、遺産分割協議は原則不要
また、被相続人が遺言書を残していた場合には、遺産分割協議は原則として不要です。
ただし、遺言書があっても、それと異なる内容で遺産分割する場合には、遺産分割協議を行い相続人全員で合意することが必要です。
相続税額を計算する(10ヶ月以内)
遺産分割協議と前後して相続税がかかるかどうかの確認、かかる場合は相続税の総額、および各相続人ごとにかかる相続税を計算します。
課税価格の合計額が相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の範囲内であれば、相続税はかかりません。基礎控除を越える場合は、実際の相続割合(未決の場合は法定相続割合)に合わせて各相続人に割り振る形で課税されます。
相続税額の計算そのものに期限は定められていませんが、相続税の申告・納付の期限をふまえると、相続の開始があったことを知った日(死亡日)の翌日から10ヶ月以内、遺産分割協議の前後でなるべく速やかに行うのがおすすめです。
相続税の申告と納付を行う(10ヶ月以内)
相続税の申告・納付の期限は「相続の開始があったことを知った日(死亡日)の翌日から10ヶ月以内」です。
期限内に行わなかった場合には、無申告加算税や延滞税が発生します。受け取る金額の大きな相続の場合、加算税も高額になりがちです。くれぐれも期限に遅れることのないよう準備を進めましょう。
所得税の確定申告を行う(翌年の2月16日から3月15日まで)
上述の遺産相続で確定申告が必要になるケースなどに当てはまる収入がある場合、相続人自身の所得税の確定申告を行います。
所得税の確定申告に必要な書類を集める
所得税の確定申告に必要な書類は、
- 申告者全員に共通する必要書類
- 条件により異なる必要書類
の2種類があります。
いずれも、通常の確定申告でも用いる書類ですが、詳細は以下の通りです。
申告者全員に共通する必要書類
- 確定申告書
- 本人確認書類(マイナンバーカードがある場合はマイナンバーカード。マイナンバーカードがない場合は通知カード(個人番号通知書)か個人番号が記載された住民票の写し+運転免許証・健康保険証・パスポート・在留カードなど)
- 給与・年金の源泉徴収票(※3)
- 還付金受け取り口座の情報がわかる書類(※4)
※3 給与・年金の源泉徴収票は、2019年税制改正により2025年現在は提出不要ですが、確定申告書に源泉徴収の記入欄があるため用意します。
※4 提出は不要ですが、確定申告書に記入欄があるため用意します。
条件により異なる必要書類
- 利用者識別番号等の通知(確定申告会場で電子申告をしたことがある場合)
- 青色申告決算書(青色申告の場合)
- 収支内訳書(白色申告の場合)
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表)【総合譲渡用】(金・宝石・ゴルフ会員権などの資産について、総合課税の譲渡所得がある場合)
- 控除証明書(保険料控除を受ける場合)
- 医療費控除の明細書・セルフメディケーション税制の明細書(医療費控除を受ける場合)
- 寄付金額の証明書類(寄付金控除を受ける場合) など
確定申告書等を提出する
確定申告書等は、申告者の住民票の住所地を管轄する税務署に提出します。提出期限は(前年度の収入の場合)翌年の2月16日頃~3月15日頃までの間です。
なお、個人事業主で事前に届出をしている場合は、事務所の住所地を管轄する税務署に提出することも可能です。
遺産相続の確定申告・準確定申告に関する注意点
遺産相続をきっかけとした確定申告・準確定申告で意識しておきたい注意点を確認していきます。
準確定申告でも所得控除ができる
準確定申告では、通常の確定申告と同様に、次のような所得控除が適用できる場合があります。
医療費控除
長期入院等で高額の医療費を支払っていたケースでは、医療費控除を適用できます。
準確定申告の場合、被相続人が生前に支払った医療費だけが所得控除の対象です。
相続人が相続開始後に支払った医療費は控除対象にはなりません。
保険料控除
被相続人が死亡の日までに支払っていた生命保険や個人年金、介護医療保険、地震保険などの保険料も控除対象となります。
これらの保険料も被相続人が生前自ら支払っていた分のみで、相続人や第三者が支払っていたケースは控除されません。
配偶者控除・扶養控除
被相続人に生計を一にしていた配偶者または扶養している親族(16歳以上)がいた場合、配偶者・扶養親族の所得が年間38万円以下であれば、配偶者控除・扶養控除を利用できます。
配偶者・扶養親族であるかどうかの判定は被相続人が亡くなった時点での実勢に基づいて判断されます。
また、配偶者・扶養親族の所得については、被相続人が亡くなった年の収入が対象となり、亡くなるまでに得た収入を元にした見積もりで判定します。
寄付金控除
被相続人が国・地方公共団体・学校法人・公益財団法人・社会福祉法人などに一定の寄付をしていたケースでは、寄付金控除の適用対象となる場合があります。
被相続人が生前に支払っていたふるさと納税も、所得税分のみ控除対象として適用可能です。(本人死亡のため住民税分の控除は適用されません。)
ただし、寄付金控除の対象となるのは「国や地方公共団体、特定公益増進法人など」と規定されており、これらの条件にあてはまらない企業・団体・個人への寄付は寄付金控除の対象外となる可能性があります。
被相続人が行っていた寄付が寄付金控除の対象となるかどうかは弁護士等に問い合わせるのが確実です。
配当控除・繰越控除
被相続人の亡くなった後に、被相続人が保有していた株式の配当金を相続人が受け取っていた場合、配当控除を利用できる場合があります。
また、特定口座での株式運用で損失が出ていた場合、繰越控除を適用できるケースもあります。
準確定申告では、遺産分割協議書の添付を忘れずに
遺産分割協議で定めた相続財産の取得割合が法定相続分に沿った割合と異なる場合は、準確定申告の際に遺産分割協議書の添付が必要となります。
遺産分割協議書の添付を忘れた場合、法定相続分の通りに所得税を課税されることになります。
相続人間で相続財産の分割割合を調整した場合は、注意が必要です。
準確定申告が2年分必要になるケースも
被相続人が、亡くなる前年の確定申告をせずに死亡したケースでは、前年と当年 2年分の準確定申告が必要です。
この場合、2年分の準備が必要となっても、申告期限は相続開始から4ヶ月以内とスケジュールは変わりません。
期限を過ぎると無申告加算税や延滞税が課されるため、なるべくすみやかに準確定申告の手続きを進めましょう。
準確定申告で還付金と還付加算金の帰属先に注意
準確定申告では、払いすぎた分の税金が戻ってくる還付金、還付金の利息にあたる還付加算金を受け取れる場合があります。この2つ、還付金と還付加算金の帰属先(税務上の取り扱い)はそれぞれ異なるため、注意が必要です。
還付金は相続財産で相続税の課税対象
まず還付金は、被相続人の相続財産にあたり相続税の課税対象となります。
その理由として、国税庁は以下の様に説明しています。
1 還付金請求権は(本来の)相続財産であり、相続税の課税の対象となります。還付金請求権は、被相続人の死亡後に発生するとしても、被相続人の生存中に潜在的な請求権が被相続人に帰属しており、これが被相続人の死亡により顕在化したものと考えられます。
還付金を請求する権利は被相続人の死亡後、相続人が準確定申告を行うことで発生します。
それでも実際は、被相続人がその生前から潜在的な請求権を備えていた状態とも言えること、その被相続人の持つ請求権を被相続人の死亡をきっかけに請求可能となったものと考えられます。
そのため、還付金の請求権は被相続人から相続人へと相続された財産、相続税の課税の対象であると、国税庁は解釈しています。
還付金の利息・還付加算金は所得税の対象
次に還付加算金ですが、還付加算金とは、還付金が還付されるまでの日数に応じて加算される、利息相当額のことを言います。還付加算金は相続人の雑所得になり所得税の対象です。
2 還付加算金は相続人が確定申告書の提出によって原始的に取得するもので、被相続人からの相続によって取得するものとは認められないため、所得税(雑所得)の課税対象となり、相続税の課税価格には算入されません。
還付加算金は準確定申告の提出を計算上の起算点とすることになり、申告から還付金支払日までの利息というお金の特性上、被相続人から相続した債権とは言えないことから、相続人の所得税(雑所得)とみなされます。
還付申告の期限は被相続人の死亡後10カ月以内の実施がおすすめ
なお、還付申告の期限は準確定申告の期限である、相続の開始があったことを知った日(死亡日)の翌日から4ヶ月ではなく、相続の開始があったことを知った日(死亡日)の翌日から5年です。
ただし、上述の通り還付金は相続財産とみなされます。相続税の申告・納付期限である相続の開始があったことを知った日(死亡日)の翌日から10カ月までには行うことをお勧めします。
事業承継した場合は、青色申告の引き継ぎを
青色申告の承認を受けていた被相続人が営む事業や賃貸不動産等を相続によって承継し、相続人も所得税の青色申告の承認を受けたい場合、青色申告の引き継ぎをしなければなりません。
青色申告を引き継ぐには、税務署へ青色申告承認申請書を提出し、税務署の承認を受けます。
相続で事業承継した場合の青色申告承認申請書の提出期限
通常・新規の青色申告承認申請手続の場合、確定申告を行うタイミング(青色申告による申告をしようとする年の3月15日まで)に申請書を提出するのですが、これが相続による事業承継の場合は、相続開始日(被相続人の死亡の日)の時期に応じて、提出期限が異なります。
相続で事業承継した場合の青色申告承認申請書の提出期限は次の通りです。
- 死亡の日がその年の1月1日から8月31日までの場合:死亡の日から4か月以内
- 死亡の日がその年の9月1日から10月31日までの場合:その年の12月31日まで
- 死亡の日がその年の11月1日から12月31日までの場合:その年の翌年の2月15日まで
青色事業専従者届出書の提出が必要な場合も
相続人が承継した事業を、配偶者や親族が協力して行う家族経営で継続する場合、家族への給与を経費化するには青色事業専従者の届出が必要です。
一定の要件に当てはまる家族に給与を支払い、必要経費として算入する場合、青色事業専従者届出書を、事業を承継した日(相続開始日)から2ヶ月以内に納税地を所轄する税務署に提出します。
届出の対象となる家族の要件は以下の通りです。
青色事業専従者届出書の提出対象となる家族の要件
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族
- その年12月31日現在(専従者又は青色申告者が年の中途で死亡した場合にはそれぞれ死亡当時)で年齢が15歳以上である
この届出を忘れた場合、その年に支払った家族への給与は、経費に認めてもらえなくなります。
青色申告事業者の場合、白色申告事業者が適用する事業専従者控除を利用することはできません。
事業収益が増えても控除や経費を適用できなくなるため、結果として所得税・住民税の負担が大きくなるおそれがあります。
まとめ
遺産相続が発生した場合、原則として所得税の確定申告は不要です。ただし、相続した財産を売却して利益が出た場合、不動産を賃貸に出してその家賃収入を得た場合、また被相続人の事業を承継した場合など、相続内容によっては申告が必要となるケースがあります。
また、被相続人が亡くなった年に受けた所得に関しては、被相続人の最後の確定申告・準確定申告を相続人が代わりに行います。準確定申告は相続の開始を知った日(死亡日)の翌日から4か月以内に行わなければなりません。他の相続手続きと並行して進める必要があるため、対応忘れのないよう特に注意が必要です。被相続人の医療費や保険料、扶養控除など使える所得控除は活用して余分な税金の支払いを防ぐことも大切です。
相続税だけでもよくわからない中、所得税の確定申告にまで対処が必要となると、どう手続きを進めるのが最適か判断に迷ったり不安を感じることもあるでしょう。そうした場合は、弁護士などの専門家に相談することで、適切な助言を受け、手続きの代行も依頼できます。弁護士は、確定申告のみならず、遺産相続にまつわる手続き全般をサポートしてくれるので、安心して相続手続きを進めることができるでしょう。判断に迷う場合は、早めに弁護士への相談をお勧めします。
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