仮想通貨を相続する方法。暗号資産の相続税・所得税が税率110%で破産のケースも
近年、新しい経済の流れと注目を集める仮想通貨。令和2年(2020年5月)の資金決済法の改正以降、法令上の呼称は国際標準の表現 crypto-assets に合わせ「暗号資産」と呼ばれています。
万一、相続財産に仮想通貨(暗号資産)が含まれている場合、相続税に所得税が加わり、最大税率110%と受領財産を越える税金がかかってしまうケースもあるため、その扱いには注意が必要です。
今回は、そんな仮想通貨・暗号資産を相続する方法について解説します。
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仮想通貨にも相続税はかかる
相続が発生し、亡くなった方の相続財産に「仮想通貨」が含まれていた場合、その仮想通貨は相続財産として扱われ、その他の資産と同様、相続税がかかります。
相続税は法定相続分に応じた各人の取得金額によって税率が異なり、取得金額が高くなるほど税率も高くなります。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
仮想通貨は相場の変動幅が非常に大きく、高額化しやすい傾向にあります。
たとえばビットコインの場合、2009年の誕生時には1ビットコインあたり1円以下だった価値が、現在は1ビットコイン1,245万(2025年4月22日時点)と、1200万倍以上に昇る非常に大きな高騰を見せています。
このように、被相続人が価値の低い時期に保有したのち値上がりした仮想通貨を相続することになった場合、相続人にかかる相続税の税率も高くなり大きな負担となり得ます。
仮想通貨の相続で起こり得るリスク
仮想通貨の相続で起こり得るリスクとしては、相続した仮想通貨は売却した際の利益にも税金が発生すること、取得費加算の特例を適用できないことなどがあります。
相続した仮想通貨の売却益は雑所得、所得税の対象に
相続した仮想通貨を売却した場合、売却益は原則として雑所得に区分され、所得税の対象となります。雑所得は、給与や事業、不動産などの収入と合算して計算される「総合課税」となり、所得が上がれば税率も高くなる「累進課税」が採用されています。
相続税と所得税の二重課税で税率110%のケースも
仮想通貨を相続した場合、まず「相続税」が発生します。また相続した仮想通貨を売却する際には「所得税」も発生するため、相続税と所得税が二重に課税されることになります。
相続税の税率は相続財産の額により異なりますが、最大で55%、所得税は最大45%、住民税が10%の税率なので、相続税と所得税、住民税を合わせると最大で110%の税率になってしまうケースもあります。
仮想通貨に取得費加算の特例は適用されない
土地や建物、株式などの財産を相続し、その後3年以内に相続した財産を譲渡する場合、「相続税の取得費加算の特例」と言う、譲渡した際に発生する税額が軽減される特例があります。
この特例を利用すると支払った相続税額のうちの一定額を「取得費」に加算し、税額を抑えることができます。
現金・預貯金以外に換価可能な財産を取得した場合、その譲渡所得に対して広く使われる特例なのですが、この特例は仮想通貨に適用することができません。
国税庁からの仮想通貨は譲渡所得ではなく「雑所得」に区分されるため、取得費加算の特例の要件に該当せず、適用することができないのです。
暗号資産を売却又は使用することにより生ずる利益については、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として、雑所得に区分され所得税の確定申告が必要となります。
暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について(令和6年12月)|国税庁 より引用
現在の日本の制度では、仮想通貨を相続することで相続税・所得税の課税が発生し、その金額によっては相続で受け取った以上の金額を税金として支払わなければならなくなるリスクが、考えられます。
仮想通貨を相続する流れ
では仮想通貨を相続した際の相続の流れを見ていきましょう。仮想通貨を相続する流れは大きく分けて、以下の通りです。
仮想通貨の取引所(交換業者)への連絡
仮想通貨を保有する被相続人が亡くなり相続が発生した場合、まず仮想通貨の取引所(交換業者)へ連絡し、相続の発生を伝える必要があります。
相続に必要な手続きの流れや提出が必要な情報は取引所によって異なります。WEBサイト内で必要情報を確認するか、問い合わせフォーム等から問い合わせて確認するようにしましょう。
相続税の計算では、仮想通貨の相続税評価額を計算する必要があります。
計算には取引所側の情報を元にする必要があるため、以下の資料は必ず請求するようにしましょう。
- 相続開始日の残高証明書
- 相続開始日の日本円換算レート
- 過去の取引履歴
取引所指定の必要書類を作成・返送
その後、取引所から案内された必要書類を準備、作成し、返送します。一般的には以下の書類等が必要になります。
- 被相続人の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺言書または遺産分割協議書
- 法定相続情報一覧図
- 委任状
他に必要なものがないか、取引所のWEBサイトや問い合わせ回答を確認の上、指定の必要書類を揃えていきます。
取引所から仮想通貨の払い戻しを受ける
必要書類を揃え、取引所に提出し、受理されたら、仮想通貨の払い戻しを受けます。
仮想通貨のまま受け取るケースもあれば、日本円に換金するケースもあります。
どちらを選択するか自分で選択できる場合と、できない場合があるため、仮想通貨の払い戻し方法についても確認しておきましょう。
このうち、仮想通貨のまま受け取るケースでは、取引所で使用する口座を開設し、受け取ることになります。
日本円として受け取る場合には、換金する際に所得税が発生する可能性もあるため注意が必要です。
相続した仮想通貨の評価方法
相続した仮想通貨の評価方法は、相続開始日(亡くなったことを知った日)の時価で行います。
この時価での評価は、「活発な市場が存在する場合」と「活発な市場が存在しない場合」によって方法が異なります。
ここでいう「活発な市場」とは、取引量が多く、継続的に取引が行われていて、継続的に売買価格が公表されている市場のことを言います。例えば、複数の取引所で取引されているビットコイン、イーサリアム、リップルなどなら「活発な市場が存在する仮想通貨」と言えます。
逆に、特定の取引所1箇所でしか取り扱いがないような新興の暗号資産は、「活発な市場が存在しない仮想通貨」にあたります。
活発な市場が存在する場合
活発な市場が存在する場合には、以下の方法等によって仮想通貨の相続開始日の時価を確認し、評価を行います。
- 取引所による相続開始日の残高証明書の金額
- 取引所により公表されている相続開始日の売却金額
取引所による相続開始日の残高証明書の金額
取引所から残高証明書を発行してもらい、そこに記載されている相続開始日の残高を日本円に換算したものを、そのまま相続税評価額とします。
取引所により公表されている相続開始日の売却金額
こちらの方法では、残高証明書を取得せず、取引所により公表されている相続開始日の売却金額をそのまま相続税評価額とします。
活発な市場が存在しない場合
一方で、活発な市場が存在しない場合には、仮想通貨の内容や性質、取引実態等を個別に評価する必要があります。
具体的には、相続開始日に売却した場合の金額を専門家の鑑定などにより評価します。
活発な市場が存在しない場合の仮想通貨の評価は、方法がより複雑になるため、弁護士や税理士への相談をお勧めします。
仮想通貨の相続にかかる相続税の計算方法
仮想通貨の相続にかかる相続税の計算方法は以下の通りです。
- 仮想通貨の時価を日本円に
- 遺産総額から基礎控除額を差し引く
- 課税遺産総額を法定相続分で按分
- 各相続人の相続税を計算し相続税の合計額を算出
- 実際の相続割合で按分、各自の相続税を算出
- 税額控除を差し引き各相続人の相続税を計算
仮想通貨の時価を日本円に
相続税を計算するにあたり、まずは仮想通貨の時価を日本円に換算します。
評価方法は先ほど解説した通り、活発な市場がある場合と活発な市場がない場合で異なります。相続した仮想通貨の種類に適した方法で評価額を確認し、その時価に仮想通貨の数量を乗じ、課税対象となる金額を算出します。
遺産総額から基礎控除額を差し引く
相続税の計算では、相続財産額から一定の「基礎控除額」を差し引くことができます。相続税の基礎控除額は「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算されます。
つまり、先ほどの課税対象となる仮想通貨やその他の預貯金や不動産などの資産と合算したものから基礎控除を引き、「課税遺産総額」を算出します。
課税遺産総額を法定相続分で按分
算出された課税遺産総額を法定相続分で按分します。
法定相続分とは、民法で定められた相続人の相続割合のことです。この法定相続分はあくまでも民法で定められている割合なので、実際に相続する割合とは異なっている場合もあります。
各相続人の相続税を計算し相続税の合計額を算出
法定相続分で分割された遺産に対して相続税率を乗じ、各自の相続税額を合算、相続税の合計額を算出します。
相続税の税率は1,000万円以下であれば10%ですが、法定相続分に応じて最大55%(6億円超の場合)となります。
実際の相続割合で按分、各自の相続税を算出
導き出された相続税の合計額を、実際の相続割合で按分し各自の相続税負担額を算出します。
この相続割合は、遺言書に従って決める、遺産分割協議により決める、などの方法により決めます。
税額控除を差し引き各相続人の相続税を計算
各自の相続税額が決まったら、配偶者の税額軽減や未成年者控除など、各種控除を差し引き各自の最終的な相続税額を確定させます。
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相続した仮想通貨にかかる税金を節税する方法
それでは仮想通貨の相続で発生する税金を抑制し少なくすることはできるのでしょうか。ここでは相続した仮想通貨にかかる税金を節税する方法について解説します。
被相続人の生前に仮想通貨を現金化してもらう
仮想通貨を相続すると、相続と売却のタイミングで二重に税金が課税される恐れがあります。相続人の二重課税の負担を減らすため、被相続人の生前に仮想通貨を現金化しておくのも、税金を減らす節税対策の一つになります。
被相続人が仮想通貨を現金化することで相続人の税金支払いは避けられる一方で、所得税の支払いそのものが不要になるわけではありません。
仮想通貨の現金化により生じた利益が課税対象となり、所得税支払いで相続財産全体が目減りする可能性はあります。
そのため、仮想通貨を売却するタイミングは、税金支払いも念頭に置いて、慎重に決定する必要があります。
仮想通貨を現金化できれば、以後は生前贈与や不動産(居宅)を購入しての相続など、通常の相続でも利用できる特例・控除の活用も視野に、幅広い節税対策に取り組むことができます。
現在の日本の税制上、高額な税金支払いは避けられない
仮想通貨は、現状「雑所得」として扱われ「総合課税」として考えられています。
仮想通貨が株式等の金融商品取引(申告分離課税)に分類されれば、一律20.315%(所得税15.315%、住民税5%)となりますが、現状、仮想通貨はこうした株式等の金融商品と同等とは認められていません。
雑所得とみなされた仮想通貨は、所得税の税率は給与や事業などと合算し、所得に対する累進課税が適用されます。住民税を含めると最大55%の課税になり、現在の日本の税制上、高額な税金支払いを避けられない状況です。
なお、2025年の税制改正により、仮想通貨は「申告分離課税」への移行も検討されています。
申告分離課税になると、税率が20.315%になることに加え、その他の所得と分離して税額を計算することができるようになります。
また、税金予測が容易になるというメリットもあります。
仮想通貨を相続する場合の注意点
仮想通貨に対して取れる相続への対策は、現状、財産を受け取る側の相続人よりも、財産を遺す被相続人による取り組みが重要になります。
仮想通貨を相続する際の注意点を確認していきマシュ。
デジタル資産は被相続人の生前にリストアップしておく
デジタル資産も相続税の課税対象となるため、被相続人の存命中にリストアップしておきましょう。仮想通貨は、財産目録の中にデジタル資産として記載しておくと良いでしょう。
その際、取引所の名称や仮想通貨の種類も残しておくと、相続が発生し遺族が相続手続きを行う際、スムーズに進めることができます。
なるべく相続発生前に仮想通貨の売却を
また、仮想通貨がある場合、節税対策としてなるべく相続発生前に売却しておくことをお勧めします。
理由としては、仮想通貨を相続すると現在の日本の税制では相続税に加え換金時に高い税率の所得税が課され、相続する際に発生する取引所とのやり取りなど、残された相続人の負担が大きくなるためです。
被相続人自ら現金化を済ませておくことで、相続人の負担を減らし、かつ、一般的な節税対策にも取り組めるようになります。
被相続人のスマートフォンやパソコンは処分しない
被相続人のスマートフォンやパソコンにはデジタル資産の情報が入っている可能性があります。
被相続人の亡くなった後、すぐに処分や解約をしてしまうと、仮想通貨に関する必要情報(アカウントやログイン情報等)が失われてしまう可能性があります。
被相続人のスマートフォンやパソコンは、相続が発生してもすぐに処分してしまわないように注意しましょう。
相続手続きが終わるまで仮想通貨の取引を行うのはNG
相続が発生した場合、相続手続きが終わるまで仮想通貨の取引を行うのはNGです。
相続財産は相続が開始してから遺産分割が終了するまで、相続人全員で共有します。そのため、相続人の1人が勝手に相続財産を処分すると、他の相続人との間でトラブルにつながります。
仮想通貨も財産のひとつとして、遺産分割協議で取り扱いを定めた後に相続手続き~売却を進めるのが基本です。
特に、仮想通貨に関して理解の浅い相続人がいる場合、相続税や所得税のことを考えず、仮想通貨の額面だけで売却処分・利益分配を要求してくる可能性もあります。
処分の手順ひとつによっても税負担などが大きく変わることもあり得ます。拙速な手続きはなるべく避け、売却額・相続税額・所得税額までを正しくシミュレーションした上で手続きを進める方が穏便でしょう。
仮想追加についてよくある質問
ここでは、仮想通貨についてよくある質問についての回答をいくつかご紹介します。
パスワードがわからない場合、どうすれば良い?
「パスワードが分からない」というのは、仮想通貨を相続した際に発生するよくある質問です。
被相続人が設定したパスワードが分からない場合、仮想通貨の取引所に連絡をして指示を仰ぐのが原則ですが、一般的には以下の流れで対応します。
- 本人確認書類を提示
- 必要書類の送付
なお、相続が発生した場合、仮想通貨のIDやパスワードが分からないからという理由で相続税が免除されるということはありません。
分からないままで放置はせずに取引所へと連絡し、手続きを進めましょう。
海外の取引所を利用している場合の対処方法は?
海外の取引所を利用している場合でも、まずは取引所に連絡をして相続発生の事実を伝えることから手続きを開始します。
海外の取引所であるからと言って相続税の申告が不要になるわけではありません。取引所側の指示・対応をふまえて適切に申告・納税を進める必要があります。
未登録の海外取引所など利用ケースの少ない環境で仮想通貨を保有している場合、相続への対応そのものが未整備というケースもあり得ます。資産評価にも個別対応が必要になり複雑となる可能性もあるため、弁護士・税理士など専門家に相談する方が穏便でしょう。
海外へ移住すれば仮想通貨の税金支払いは不要になる?
海外に移住することで、仮想通貨の税金の支払いを逃れようと考える方もいます。
日本では、海外に出国する際に1億円以上の資産を所有し、一定の要件を満たしていると課税される「国外転出時課税制度」という仕組みがあります。
国外転出時課税制度では、国外転出のタイミングで「対象資産」の譲渡等があったものとみなされ、対象資産の含み益に対して所得税が課税されます。
ただし、この「対象資産」は、
- 有価証券
- 未決済信用取引等
- 未決算デリバティブ取引
とされており、現時点で仮想通貨は国外転出時課税制度の対象資産に含まれていません。
この国外転出時課税制度の対象外であることを利用して「節税対策のために海外へ」と考える方も一定数はいます。
しかし、1億を越えるレベルの高額資産を保有する方の場合、税務署等の確認・調査に基づき個別対応が行われる可能性もあります。
現状、仮想通貨について明文化されていない状態といっても、脱税目的と疑われるおそれは高く、海外移住が有効な節税対策と断言することはできません。
また今後の税制改正により変更がある可能性もあるので注意しましょう。
まとめ
今回は仮想通貨・暗号資産を相続する方法について解説しました。仮想通貨を相続した場合、相続した際に発生する相続税、売却した際に発生する所得税を合わせると最大で110%の税率になってしまうケースもあります。
被相続人の生前からエンディングノートなどを活用することで生前に相続財産を把握し、仮想通貨が見つかった場合には相続人で話し合い、どうしていくのか処分の方向性を定めておくと良いでしょう。
仮想通貨が高額なケース、海外取引所への対応など複雑な対応が予想される場合、税理士・弁護士などの専門家に相談しましょう。
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