養子縁組すると相続はどうなる?実子と異なる相続の注意点

養子縁組による相続への影響
養子縁組をした場合、養親が亡くなった際に養子にも相続する権利があります。ただし、相続税基礎控除の計算で法定相続人として含められる養子の人数に上限があるなど、実子とは扱いが異なる点もあるため、注意が必要です。

今回は、養子縁組をした場合の相続について、養子縁組の種類やそれによる相続での扱いの違い、相続の際の注意点などを解説します。

養子縁組をした際に相続がどのように行われるのか、養子を迎えることで相続にどんな影響があるのかを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

養子縁組とは?

養子縁組とは、血縁関係のない養親と養子との間に法律上の親子関係を成立させる制度です。

養子縁組には2種類存在します。

  • 普通養子縁組
  • 特別養子縁組

いずれの場合も、養子は実子と同じように第一順位の法定相続人としての権利を持ちます。
一般的によく行われる養子縁組は「普通養子縁組」であり、相続対策としてこの制度を活用するケースも少なくありません。

血縁関係のない人に法定相続人としての権利を与えたい場合に、養子縁組で「養子にする」という手段は、相続税対策にもなり非常に有効と言えます。

養子縁組で法定相続人の数を増やす

相続税の仕組みとして、法定相続人は多いほど基礎控除が増えるなどのメリットが発生します。

  • 基礎控除額の増加(3000万円+600万円×法定相続人の数)
  • 生命保険金の非課税枠の増加(500万円×法定相続人の数)
  • 死亡退職金の非課税枠の増加(500万円×法定相続人の数)

法定相続人が配偶者のみ、あるいは子ども1人だけといったケースだと、相続財産から差し引かれる基礎控除額が少なくなり、その分、相続税も高くなります。
そこで、法定相続人を増やす目的で使われるのが養子縁組です。
法定相続人が1人増えるごとに基礎控除額は600万円増加し、生命保険金や死亡退職金などの非課税枠も拡大し、相続税対策が取りやすくなります。

実際の血縁関係のある法定相続人とは異なり、養子には

  • 法定相続人として控除が認められる人数制限
  • 相続税の2割加算

など一定の制約はあるものの、相続財産が多額の場合は有効な手段となります。

養子縁組の種類

養子縁組の2つの種類「普通養子縁組」と「特別養子縁組」を、それぞれ説明していきましょう。

普通養子縁組

普通養子縁組は、養親と養子が戸籍上で親子関係となる一方で、実親との関係も続くことが特徴の養子縁組です。養親と実子両方の親子関係が成立しているため、普通養子縁組の場合は「実親」「養親」どちらが亡くなった場合でも、相続権が発生します。

養子が成年者の場合は、養親と養子のお互いの合意があれば市区町村への届出によって成立しますが、養子が15歳未満の場合は養子の法定代理人(親権者等)の合意が必要です。

また、養子縁組をする相手は、自分より年下の人であることが条件になっています。養親より年長の人とは養子縁組できないため、注意が必要です。おじやおばなど続柄的に世代が上の人も養子にすることはできません。

一般的には子どもがいない夫婦が養子縁組で子どもを迎え入れる、または再婚相手の連れ子を養子として迎え入れるケースが多くあります。中には、子どもの配偶者に世話になり、お礼として相続権を持たせるために養子とする場合もあります。

特別養子縁組

特別養子縁組は、養親と戸籍上実の親子関係と同じように扱われる養子縁組制度です。
普通養子縁組とは異なり、実親との親子関係は消滅し、養親の戸籍に「長男(長女)」などと記されます。法的に実親とは親子ではなくなるため、相続権は養親に対してのみ発生します。

特別養子縁組を行うには、実父母の同意の元、家庭裁判所に特別養子縁組成立の申立ておよび特別養子適格の確認の申立てが必要です。
普通養子縁組とは異なり、養子は申立時に15歳未満であること、養親のいずれかが25歳以上の夫婦であることなど、厳しい要件が科せられます。

また、特別養子縁組の場合、離縁は原則として禁止されています。
※家庭裁判所の離縁審判を経て離縁が認められるケースはありますが、稀と考えて良いでしょう。

特別養子縁組は、虐待や生活困窮などの理由で実親と共に生活することが難しい子どもの、福祉の充実を目的として活用されている制度です。

普通養子縁組と特別養子縁組の違い

普通養子縁組と特別養子縁組の違いを表にまとめると、下記の通りです。

普通養子縁組と特別養子縁組の違い
普通養子縁組 特別養子縁組
子の相続権 養親と実親 双方の相続人となる 養親の相続人となる
※実親の相続人にはならない
養親の要件 ・20歳以上
・配偶者の有無は問わない
・配偶者がいる
・夫婦どちらかが25歳以上、かつ、もう一方が20歳以上
必要な手続き 市区町村役場への届け出 家庭裁判所での審判
戸籍の記載 ・実父母・養父母の双方が記載
・続柄:「養子」または「養女」
・身分事項:「養子縁組」が記載される
・養父母のみ記載
・続柄:長男・長女(実子と同じ)
・身分事項:「民法817条の2」が記載される。※「養子縁組」は記載されない。
成立までの期間 届出日から法律上の効力が発生 6ヶ月以上の看護期間が必要
実親の同意 養子が15歳以下の場合、実親(親権者)の同意が必要。15歳以上の場合は不要 実親の同意が必要
離縁 養親・養子の協議で離縁可能 養子・養親または検察官からの家庭裁判所への請求による ※原則不可
相続税の基礎控除への算入 ・被相続人に実子がいる場合、養子1人まで算入可能
・被相続人に実子がいない場合、養子2人まで算入可能
養親:実子と同様に算入可能
実親:相続人にならないため算入不可

相続対策に使われる普通養子縁組

特別養子縁組が実親と生活するのが難しい子どもの福祉のために活用される趣旨であるため、相続対策として活用することはありません。
一方、普通養子縁組は要件が特別養子縁組と比較してやさしく、単に親子関係を築く以外にも相続対策としても広く使われています。

普通養子縁組であれば実親との関係性はそのままに、養親が亡くなった際の相続権が発生するしくみです。
そのため、生前世話になった相手や実子の配偶者・孫などに相続税の基礎控除を増やす対策として利用されるケースが多くあります。

普通養子縁組で、特定の相手に相続権を与えることが可能

また、自分の兄弟のうち1人のみ相続権を持たせたい際、遺言状で他の兄弟には相続させない旨を遺しておいた上で、相続させたい対象の兄弟を養子とすることで他の兄弟に相続させないという方法もとることも可能です。
普通養子縁組の活用は、特定の相手に相続権を与えたい時には有効な手段と言えるでしょう。

特別養子縁組と普通養子縁組は、相続の面はもちろん活用する主旨から大きく異なる点は、理解しておくことが大切です。

養子縁組による相続税の節税効果(計算例)

養子縁組で法定相続人を増やした場合と、増やさいない場合で相続税はどれくらい変わるのでしょうか。
以下の事例をサンプルとして計算してみましょう。

相続財産1億2000万円を長男、長女、養子の3人で相続する場合

パターンA(養子縁組をしない場合)

基礎控除額 3000万円+600万円×2=4200万円
課税遺産総額 1億2000万円 – 4200万円=7800万円
法定相続分に沿ったそれぞれの相続税課税価額 長男 3900万円 長女 3900万円
各人の仮の相続税額 長男 3900万円x20%-200万円=580万円 長女 3900万円x20%-200万円=580万円
相続税の総額 1160万円

パターンB(養子縁組をした場合)

基礎控除額 3000万円+600万円×3=4800万円
課税遺産総額 1億2000万円 – 4800万円=7200万円
法定相続分に沿ったそれぞれの相続税課税価額 長男 2400万 長女 2400万 養子 2400万
各人の仮の相続税額 長男 2400万円x15%-50万円=310万円 長女 2400万円x15%-50万円=310万円 養子 (2400万円x15%-50万円)x1.2=372万円
相続税の総額 992万円

養子縁組をしないパターンA・養子縁組をしたパターンBを比較すると、養子縁組をしたパターンBの方が168万円の節税になります。

ただし法定相続人以外の人や孫を養子にする場合、相続税の2割加算が発生します。
それぞれのケースで得になるかどうか、親族同士でトラブルになる可能性も考慮しながら弁護士・税理士などの専門家と相談しながら準備を進めるのがベストです。

普通養子縁組した場合の法定相続人

普通養子縁組した場合、養子は養親と実親どちらが亡くなった場合にも相続権があります。

養親・実親、双方の相続財産を相続できる

そのため、養親・実親どちらが亡くなっても、実の子どもと同様、第一順位の法定相続人として相続財産を受け取れます。
また養親に実の子どもがいる場合は、基本的に養子を含めた子どもの人数で、子どもの法定相続分を均等に分割する形になります。

たとえば、養親に配偶者と実の子ども1人、養子が1人いる場合には、配偶者に財産の2分の1、子どもに2分の1の割合が法定相続分です。この場合、子どもは養子を含め2人いるため、1人あたりは4分の1(法定相続分の2分の1をさらに半分ずつに割った割合)に均等割りされるルールです。なお、実の子ども1人、養子が2人いる場合、税法上、養子に対する相続税の基礎控除は1人分のみ認められます。

養子が先に亡くなった場合、養親・実親の双方に相続権が発生

また、養子が養親と実親両方に対して相続権を持つ一方で、養親と実親もまた、養子が先に亡くなった場合の相続権を持ちます。養子に配偶者や兄弟、子どもがいないなかで亡くなった際、直系尊属が遺産をすべて相続することになるため、養親と実親両方存命の場合は法定相続分を2分の1ずつ相続する計算です。

特別養子縁組した場合の法定相続人

特別養子縁組を行った場合は、養親が亡くなったときのみ法定相続人となります。

相続できるのは養親の相続財産のみ

特別養子縁組を養親と結んだ時点で実親との戸籍上の縁がなくなるため、実親が亡くなっても遺産は相続できません。

養親の財産を遺産分割する際も、養親の実の子どもと同様に均等に分割されます。

養子が先に亡くなった場合、実親には相続権なし。養子の財産は養親のみに

また、特別養子縁組を行った場合は、養子が亡くなった際に配偶者や子ども、兄弟がいない場合は直系尊属(親、祖父母)が法定相続人となりますが、養親のみが対象です。
実親は法律上の関係性が切れているため、対象外となる点が大きな違いと言えます。

養子縁組をする場合の注意点

養子縁組は、血縁関係のない両者に法的な親子関係を持たせる、当事者にはもちろん、その家族に対しても非常に影響の大きな手続きです。
その重大な効果・影響から、実際に養子縁組を行う際には十分に注意すべき点が多々あります。

遺産分割で他の親族と揉める場合がある

養子縁組を行うと、養子を実子と同様に法定相続人として扱うことになるため、実子や血縁者の間で遺産の取り分が減ることを理由に揉め事に発展する可能性があります。場合によっては理解や協力を得られず、養子縁組自体が難しくなることもあるでしょう。

養子縁組を行う際は、事前に家族や相続人となる親族とよく話し合い、お互いが納得のいくように進めていくことが大切です。また、生前贈与を行ったり、遺言書で分割割合についてあらかじめ決めておいたりすることもトラブル防止には役立ちます。

相続をめぐるトラブルを防ぐためにも、ぜひ知っておいてください。

孫を養子にすると相続税の2割加算の対象に

養子縁組で養子となった人が相続する場合は実子と同様に扱われるのが原則ですが、孫を養子にした場合は相続税の2割加算の対象となるケースがあります。

孫が養子として相続することになると、親から子どもへ、子どもから孫へという相続の順番を1回飛ばすことになります。つまり相続税を1回分納付せずに済んでしまうため、孫を養子として相続させる際は、相続税を2割加算されることになっているのです。

相続時に孫の親(実子)が生きていれば2割加算対象

たとえば、孫を養子にしている祖父母が亡くなった際、孫の親となる実子が存命のパターンでは、実子と孫が同時に相続することになるため、2割加算の対象となります。

相続時に孫の親(実子)が亡くなっていれば2割加算されない

相続時に養子とした孫の親となる実子がすでに亡くなっている場合には、代襲相続人として孫が相続を受けた時と同じ扱いになるため、相続税の2割加算は対象外です。

つまり、孫を養子として、相続する際に孫の親(実子)が存命なら2割加算、すでに亡くなっていれば代襲相続の適用となり2割加算ナシになる仕組みです。

孫に遺産を残したいという理由で養子縁組を活用する場合は、この2割加算の原則を覚えておきましょう。

参考:国税庁|相続税額の2割加算

養子縁組した人の子供は代襲相続できないケースも

養子縁組した際に、養子となる人の子どもは代襲相続が認められないケースもあります。

養子縁組する前に生まれた子供(連れ子)がいる場合

養子に養子縁組する前に生まれた子供(連れ子)がいる場合、その子供は養親とは法律上無関係として扱われます。
そのため、養子の連れ子は代襲相続人にはなれず、養親の遺産相続で(養子がすでに亡くなっていた場合)代襲相続することは認められません。

養子の連れ子に遺産を相続させたい場合は、連れ子もあらかじめ養親の養子にしておく、あるいは生前贈与する必要があります。

養子縁組した後に子供が生まれた場合

養子縁組した後に養子に子供が生まれた場合は、その子供を法定相続人として代襲相続が認められます。

養子になった後の子どもは法律上の孫として扱われます。
そのため、養子の子供が養子縁組をする「前に生まれた」のか「後に生まれた」のかは、代襲相続の認定において大きなポイントとなります。

祖父が孫を養子にした場合、祖父と実父の相続人になることも

まれなケースですが、祖父が孫を普通養子縁組で養子にした場合、孫は祖父の相続人となるほかに、実親の代襲相続人になることがあります。その場合、養子は自分の法定相続分と実親の代襲相続分で2人分の遺産を相続するケースがあり得ます。

養子としての相続と代襲相続が同時に発生する場合は以下のようなケースです。
例えばAさんが、節税のために息子Bの長男Cを養子にした場合、BもCもAさんの法定相続人になります。ところがAさんよりも先にBが死亡してしまいました。その後Aさんも死亡した場合Cは、

  • 養親であるAさんの法定相続人
  • 実親であり、Aさんの法定相続人であったBの代襲相続人

となり、Aさんの遺産を相続するときに自分の取り分と本来Bのものになるはずだった取り分の計2人分の遺産を受け取ることになります。

こうした特定のひとりに多くの相続財産が渡る形となった場合、他の相続人が不公平感を感じ、トラブルになるケースは少なくありません。
多発するようなシチュエーションではないながらも、起こり得る可能性として頭に留めておくと良いでしょう。

養子の相続税基礎控除には人数制限がある

普通養子縁組をした養子が相続税基礎控除を受ける際は、人数制限がある点に注意が必要です。

実子がいる場合、養子は1人まで

実子がいる場合、実子は何人でも相続税基礎控除を受けることができますが、普通養子縁組での養子は複数人いても相続税基礎控除の計算において法定相続人として計算できるのは1人までとなります。

実子がいない場合、養子は2人まで

亡くなった方に実子がいない場合は、養子は2人までを相続税の基礎控除の人数に入れることが可能です。

ただし、養子を相続税基礎控除の法定相続人に認めるかどうかは、税務署の判断にも左右されます。
税務署が養子の目的を「相続税の負担を不当に軽減させるため」と判断した場合、基礎控除の対象と認めてくれないケースもあり得ます。

税務署に養子を法定相続人として認めてもらえるかどうか、判断基準は必ずしも一定ではなく、他の家族構成や相続財産の大きさも影響する可能性があります。
養子縁組を活用した相続税対策は、弁護士や税理士など、相続の専門家に相談の上進めるのが穏便です。

配偶者の連れ子を養子とした場合は特例がある

養子の相続税基礎控除には、実子がいる場合は養子1人まで・実子がいない場合は養子2人までと、原則人数制限がありますが、配偶者の連れ子を養子とした場合は、実子と同様に扱われ、連れ子が何人いても法定相続人の数に含めることが可能です。

また、特別養子縁組に関しても実子と同様に扱われるため、相続税基礎控除に含められる人数制限はありません。

民法上、相続できる養子の数に制限はない

税法上、相続税の基礎控除を適用できる養子の数には制限がある一方、民法上、実際に相続可能な養子の数に関しては特別な人数制限はありません。

たとえば、実子が1人、養子が2人いた場合、相続税の基礎控除には「実子1名」および「養子1名」のみ法定相続人として計算可能です。
一方、実際の相続自体は基礎控除の計算に含まれなかった養子も対象となり、実子1人+養子2人の合計3人全員が法定相続人となります。

相続税の税法上での法定相続人として認められる養子の人数と、民法上で実際に相続可能な養子の人数でカウント方法が異なる点には注意が必要です。

まとめ

養子縁組は、実子以外に遺産を相続させたい時の相続対策として有効な手段の一つです。ただし、一般的に相続対策に活用される普通養子縁組と、子どもの福祉を目的とした特別養子縁組とでは目的や要件が大きく異なるため、区別して扱うことが大切です。
相続対策として養子縁組を行う際は、養子を迎えることで法定相続人になりうる親族と遺産の分配についてトラブルに発展するケースもあるため、十分な話し合いと対策が必要と言えます。

養子縁組は相続上のメリットもありますが、トラブルの可能性などのデメリットもあるため、じっくりと検討したうえで進める必要がある制度です。

相続対策として養子縁組を活用したい際は、ぜひ一度専門家に相談ながら検討してみてください。

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