贈与契約書とは?生前贈与を明確にする書き方、作成の流れと注意点

贈与契約書

祖父が孫にお祝いで現金を譲るなど、贈与者が受贈者に財産を譲る方法として贈与契約があります。

贈与契約自体は口頭でも成立しますが、贈与契約書を作成しておくと、後のトラブルを防止しやすいなどのメリットがあります。

贈与契約書を作成しておきたいものの、どのように作成すればいいかわからない場合もあるでしょう。

そこで今回は、贈与契約書のメリットや書き方、作成の流れなどを解説します。

贈与契約書とは

贈与契約書とは、贈与契約をしたことや、贈与契約の内容などを証明するための書類であり、贈与契約を結ぶ場合に作成します。

贈与契約とは、贈与者が自分の財産を受贈者に与えることを約束する契約のことで、当事者である贈与者と受贈者が合意することで成立します。

たとえば、就職のお祝いとして、祖父(贈与者)が孫(受贈者)に現金100万円を贈与するなどです。

贈与契約を結ぶにあたって、贈与契約書を作成することは必須ではありませんが、贈与契約書を作成しておくと様々なメリットがあります。

贈与契約書を作るメリット

贈与契約書を作成することには複数のメリットがあるので、それぞれ解説します。

贈与の内容を明確にできる

贈与契約書を作成するメリットは、どのような贈与をするのか、贈与の内容を明確にできることです。

契約書を作成せずに贈与をする場合、言った言わないの水掛け論になったり、どのような内容で合意したのかで争いになったりするリスクがあります。

たとえば、贈与者は100万円を贈与するつもりでいたところ、受贈者は150万円を贈与してもらえると思っており、贈与の金額でトラブルになるなどです。

贈与契約書を作成しておけば、贈与の金額や贈与する時期などを記載できるので、贈与の内容が明確になるのがメリットです。

贈与が履行されることの保証になる

書面によらずに贈与をした場合、履行が終わっていない部分については、当事者のどちらからでも贈与を撤回することができます(民法550条)。

たとえば、合計100万円の贈与契約を口頭でしたとして、30万円を贈与した時点で撤回したくなった場合は、残り70万円については贈与を撤回することができるのです。

口頭で贈与をすると、履行が終わっていない部分については自由に撤回することができるので、最後まできちんと贈与が行われる保証がありません。

贈与契約書を作成すれば口頭での贈与ではなくなるので、当事者が自由に撤回できなくなり、贈与がきちんと履行されることの保証になります。

税務調査時で贈与を証明するための手段になる

贈与契約書を作成しておけば、税務調査が行われた場合に、贈与があったことを証明するための手段になります。

贈与税には110万円の基礎控除があるので、年間110万円までの贈与であれば、原則として贈与税がかかりません。

そこで、毎年110万円ずつ贈与することで、贈与税の対象にならずに少しずつ財産を減らしていく方法があり、これを暦年贈与といいます。

しかし、相続税逃れの名義預金(預金の名義を他人にして本人が管理すること)ではないかとか、定期贈与ではないかと疑われて、税務調査の対象になる可能性があります。

暦年贈与をする場合、毎年贈与をする度に贈与契約書を作成しておけば、税務調査が入った場合に暦年贈与であることを証明しやすくなるのです。

不動産登記の名義変更をスムーズに進められる

贈与契約書を作成するメリットは、不動産登記の名義変更をスムーズに進めやすくなることです。

贈与によって土地や建物などの不動産を得た場合、不動産の名義を贈与者から受贈者にするために、不動産登記の名義変更をしなければなりません。

不動産の名義変更の手続きにおいては、名義変更をする理由を記載する必要がありますが、そのために贈与契約書を用います。

贈与契約書を作成しておけば、不動産登記の名義変更をスムーズに進めやすくなるのです。

贈与契約書の書き方

贈与契約書を作成しておきたいものの、契約書をどのように書けばよいかわからない場合もあるでしょう。

そこで、贈与契約書の基本的な書き方として、書式や必要記載事項などについて解説します。

贈与契約書の書式は自由

贈与契約書には法律などで決められた書式はないので、どのような書式で作成するかは基本的に自由です。

パソコンでの作成もOK

贈与契約書は手書きで作成することもできますが、パソコンなどを使用して手書き以外の方法で作成しても問題ありません。

ただし、きちんとした贈与契約書であることを証明するためのコツとして、当事者の署名や日付は手書きで記載することをおすすめします。

贈与契約書の必要記載事項

贈与契約書には決まった書式はありませんが、契約書の中に必ず記載しておくべき5つの必要記載事項があります。

必要記載事項を記載しなかった場合、せっかく契約書を作成したにもかかわらず、贈与契約書としての法的な効力が認められない場合があるので注意しましょう。

以下、贈与契約書に記載すべき5つの必要記載事項について、それぞれ解説します。

誰が贈与するのか

贈与契約書に記載すべき事項の一つは、誰が贈与をするのか(贈与者が誰であるか)です。

贈与者が誰であるかを明確にしておかないと、誰が贈与をしたのかが不明瞭になって、トラブルが生じる可能性があります。

誰が贈与をするのかを明確にするために、贈与者の氏名・住所・生年月日などを正確に記載しておきましょう。

誰が贈与を受けるのか

贈与契約書を作成するにあたっては、誰が贈与を受けるのか(受贈者が誰であるか)を明確に記載しておきましょう。

誰が財産を受け取るのかを明確にしないと、贈与を受けたにもかかわらず受けていないと主張されるなど、トラブルに発展する可能性があるからです。

誰が贈与を受けるのかを明確にするには、受贈者の氏名・住所・生年月日などをきちんと記載しておきます。

何を贈与するのか

贈与契約のトラブルを防止するためには、何を贈与するのか、贈与の目的物を明確にすることが重要です。

金銭を贈与する場合は、「およそ100万円」などのあいまいな記載をするのではなく、「123万円」と正確な金額を記載しましょう。

不動産を贈与する場合は、どの不動産なのかを明らかにするために、登記事項証明書を参照しつつ、地番や家屋番号などを正確に記載します。

株式を贈与する場合は、どの株式なのかを明確にするために、株式会社の名称・本店所在地・株数・株券の番号などを記載しましょう。

いつ贈与するのか

贈与契約書を作成する場合、いつ贈与をするのかを明確に記載しておきましょう。

贈与をする時期を明確にしておかないと、いつ贈与が行われたかわからないだけでなく、贈与が行われたかどうかも疑われる可能性があるからです。

贈与する時期を明確にするために、贈与をする年月日を正確に記載しましょう。
西暦でも和暦でもどちらでも問題はありませんが、和暦を用いるのが一般的です。

どのように贈与するのか

贈与契約書を作成する場合は、どのように贈与を行うのか、贈与の方法を記載しておきましょう。

贈与の方法について法的な制限は基本的にないので、たとえば金銭を贈与する場合は、手渡しでも銀行振込でもかまいません。

ただし、手渡しの場合は履行をしたことを証明しにくいので、履行をしたかどうかをめぐってトラブルになりやすいので注意しましょう。

銀行振込であれば振込の履歴が記録として残るので、基本的には銀行振込によることをおすすめします。

負担付贈与の場合は、受贈者の引き受ける債務も具体的に明記を

また、受贈者が一定の債務を負担する負担付贈与をする場合は、受贈者の債務の内容を正確に記載しておきましょう。

債務の内容を記載しておかないと、通常の贈与なのか負担付贈与なのかが不明になるからです。

たとえば、債務の内容が贈与者の介護を1年間行うことである場合、その旨を契約書に記載するだけでなく、介護の内容や期間などを記載します。

贈与契約書は2通作成する

作成できる贈与契約書の数について決まりはありませんが、贈与契約書は2通作成しておくことをおすすめします。

贈与契約の当事者は、財産を与える側である贈与者と、財産を受け取る側である受贈者です。

贈与契約書を2通作成しておけば、当事者である贈与者と受贈者の両方が契約書を保有できるので、契約書の紛失や改ざんなどのトラブルを防止しやすくなります。

贈与契約書の作成・契約の流れ

贈与契約書を作成する流れについて解説します。

贈与者・受贈者 双方での内容確認

贈与契約書を作成するにあたって、まずは贈与者と受贈者の双方で内容を確認しましょう。

特に確認すべき内容は、先ほど解説しました5つの必要記載事項です。

  • 誰が贈与するのか
  • 誰が贈与を受けるのか
  • 何を贈与するのか
  • いつ贈与するのか
  • どのように贈与するのか

必要記載事項について双方の認識に食い違いがあった場合、贈与契約をめぐってのトラブルに発展する可能性が高いので、きちんとすり合わせをして確認しておきましょう。

贈与内容の合意・確定

贈与契約の具体的な内容が決まったら、次は当事者である贈与者と受贈者が贈与契約について合意をします。
贈与契約が成立するには、贈与者と受贈者の双方の合意が必要だからです。

贈与契約の合意をするには、法的には口頭で合意をするだけでも成立します。
しかし、口頭だけで合意を済ませてしまうと、後で合意をめぐってのトラブルになる可能性があります。

そこで、贈与契約書を作成することで、当事者双方が贈与契約についてきちんと合意したことの証拠とするのです。

贈与契約書を2通作成する

贈与契約書は同じ内容のものを2通作成しましょう。贈与者と受贈者がそれぞれ契約書を保管するためです。

贈与契約書を2通作成するにあたっては、内容や日付などに相違がないかをよく確認しておきましょう。

贈与者・受贈者それぞれ1通ずつ保管する

贈与契約書を2通作成したら、贈与者と受贈者がそれぞれ1通ずつ保管しましょう。

当事者のどちらかのみが2通とも保管してしまうと、贈与をする気がなくなって契約書を破棄してしまったり、契約書の内容を改ざんしてしまったりなどのリスクがあるからです。

贈与契約書は重要な書類なので、金庫に保管するなどして厳重に管理することをおすすめします。

贈与契約書を作成する場合の注意点

贈与契約書を作成するにあたっては、あらかじめ知っておくべき注意点があります。

注意点を知らずに贈与契約書を作成してしまうと、後で思わぬトラブルに発展する可能性があります。

そこで、贈与契約書を作成する場合の注意点について解説します。

贈与することは受贈者にきちんと知らせる

自分の財産を贈与する場合、贈与をすることは受贈者にきちんと知らせておきましょう。

贈与契約が成立するには、贈与者と受贈者の双方が契約に同意する必要があります。

自分に対して贈与が行われることを受贈者が知らない場合は、受贈者が契約に同意していないものとして、贈与契約が成立していないとみなされる可能性があるのです。

贈与契約の成立についてトラブルが生じないように、贈与をする場合は、あらかじめその旨を受贈者にきちんと知らせておきましょう。

贈与契約書は贈与する度に作成する

贈与契約書は贈与をする度に、きちんと作成することをおすすめします。

一回だけ贈与をする場合は、贈与契約書を作成するのは一度だけで問題ありませんが、贈与を複数回する場合は、贈与をする度に贈与契約書を作成しておくべきです。

契約書を複数回作成するのは負担に思われるかもしれませんが、贈与契約書に記載すべき事項はある程度決まっているので、きちんと作成しておきましょう。

特に、年間110万円までの暦年贈与を行う場合は、税務調査で暦年贈与であることを証明するために、贈与の度に契約書を作成する必要性が高いケースです。

不動産の生前贈与では登録免許税・不動産取得税・贈与税が発生する

不動産の生前贈与をする場合、登録免許税・不動産取得税・贈与税などが発生することに注意しましょう。

生前贈与とは、贈与者が生きている間に財産を贈与することです。

登録免許税とは、不動産の所有権移転登記などをする場合にかかる税金であり、贈与の場合は原則として不動産価格の2%です。

不動産取得税とは、贈与や売買などによって不動産を取得した場合にかかる税金で、土地や家屋の場合は原則として不動産価格の3%になります。

贈与税とは、財産の贈与を受けた受贈者に課される税金であり、税率は原則として一律20%です。

不動産の贈与を受ける場合、上記のような税負担が発生することをあらかじめ把握しておくことが重要です。

贈与税の特例には適用要件がある

贈与税には税の負担を軽くするための各種の特例がありますが、特例には適用要件がある点に注意しましょう。

たとえば、不動産の贈与については、

  • 配偶者控除
  • 相続時精算課税

などの特例があります。

配偶者控除とは、20年以上の婚姻関係にある夫婦の居住用の不動産について、最高で2000万円(基礎控除を除いた場合)まで非課税になる特例であり、おしどり贈与と呼ばれることもあります。

配偶者控除を受けるには、20年以上の婚姻関係があるなどの要件を満たしたうえで、贈与税の申告をしなければなりません。

相続時精算課税とは、一定の要件を満たす贈与(祖父母から孫への贈与など)について、2500万円まで贈与税が控除される特例です。

相続時精算課税制度を受けるには、贈与者や受贈者について、一定の身分関係や年齢が必要です。また、後で相続が発生した際にまとめて課税される点にも注意が必要です。

まとめ

贈与契約書とは、贈与契約を結んだことや、贈与契約の内容などを証明するための書類です。

贈与契約をするにあたって、贈与契約書の作成は必須ではありませんが、契約書を作成しておくと様々なメリットがあります。

贈与契約書を作成するメリットは、贈与がきちんと履行される保証になることや、税務調査で贈与を証明するための手段になることなどです。

贈与契約書に決まった書式はありませんが、誰が誰に対して、いつ何をどのように贈与するかなど、契約書に必ず記載しておくべき事項があります。

贈与契約書をどう作成すればいいか不安な場合は、相続問題の経験が豊富な弁護士に相談するのがおすすめです。

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