自賠責基準、任意保険基準と弁護士基準(裁判基準)損害賠償額の違い
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裁判基準(弁護士基準)で損害賠償額は増額する
交通事故の損害賠償額は本来、案件ごとに詳細な要件を踏まえて算出すべきでしょう。被害者の負った傷害の程度や通院や治療の長さ、収入への影響や後遺障害のあるなし、被害者の年齢や事故時の状況・被害者の受けた精神的な苦痛・家族や遺族の精神的苦痛の程度などです。
しかし実際には損害賠償額の大体の目安は決まっています。交通事故の損害賠償金は事故の規模や傷害の程度により、一定の基準に従って算定するのです。
そしてこの算定基準は1つではありません。そのため、算定基準を変えることで損害賠償額が変わります。
裁判基準は最も高額
裁判基準は弁護士が介入することで実現できる基準であることから、弁護士基準とも呼ばれます。そして一般に、3つの基準の中で最も高額です。
弁護士が介入しない場合、保険会社から提示される損害賠償額は任意保険基準によるものです。そのため、裁判基準で算定しなおせば、ほとんどのケースで増額できます。
裁判基準では弁護士への依頼が必須
裁判基準の損害賠償金を手にするには弁護士への委任が必要です。そのため弁護士費用がかかります。
しかし、弁護士費用は増額分の損害賠償金で賄えるケースも多く、弁護士費用特約(加入者のみ)の利用で弁護士費用が無料になる場合もあります。
弁護士への依頼には増額以外にもメリットが
また、弁護士へ示談交渉を委任するメリットは損害賠償金の増額だけではありません。専門家へ依頼することで煩雑な手続きから解放され、安心感を得られます。加えて、交渉がスムーズに進み、早期解決の可能性が高まるというメリットもあるのです。
このようなことからも、交通事故の示談交渉は、弁護士に依頼することをおすすめします。
自賠責基準とは
自賠責保険基準とは、自賠責保険での支払基準のことです。交通事故による傷害・後遺障害・死亡に対する損害額の算定基準が明確に定められています。
ここでは自賠責保険とは何か、自賠責保険の補償について詳しくみていきます。
自賠責保険は強制保険
自賠責保険(自動車責任賠償責任保険)はいわゆる強制保険で、原動機付自転車(原付)を含むあらゆる自動車に加入が義務付けられている保険です。
自賠責保険に未加入の自動車の運転をすると、違反点数6点で即免許停止処分、1年以下の懲役または50万円以下の罰金という厳しい処分が科されます。
自賠責保険の証明書を所持せずに運転していただけでも30万円以下の罰金が科されます。
自賠責保険の補償は最低限度のもの
自賠責保険は、自動車の普及に伴う交通事故の増加が問題となったとことから、昭和30年に自動車損害賠償保障法の施行とともに開始されました。主に被害者の救済を目的とした保険です。
強制加入の保険(共済)という性格から、補償は対人賠償に限られ、限度額もあります。そして保険金の基準は最低限度のものとなっています。
そのため自賠責保険基準で算定した損害賠償額は、十分な補償額とは言えないのが実情です。
任意保険基準とは
任意保険基準とは、各任意保険会社が独自に定めている基準です。そのため、算定基準は保険会社によって若干異なります。
それでは、任意保険の補償内容や金額、任意保険基準の賠償額についてみていきましょう。
任意保険は加入が自由
強制加入の自賠責保険に対して、任意保険は「任意」という名の通り、運転者が加入を自由に決めることができる保険です。保険会社や補償内容も選択できます。
自賠責保険では足りない補償を補うために、多くの運転者が加入しています。
任意保険の補償内容
任意保険の補償は主に以下のようなものです。
対人賠償保険 | 相手を怪我・死亡させてしまった場合の自賠責保険を超える部分の補償 |
---|---|
対物賠償保険 | 相手の車や物に損害を与えてしまった場合の補償 |
人身傷害保険 | 加入者自身や搭乗者への補償(契約車以外への搭乗中や歩行中の事故なども含む) |
搭乗者傷害保険 | 搭乗者への補償 |
無保険車傷害保険 | 相手が無保険だった場合などで支払い能力が不足した場合の補償 |
車両保険 | 契約車が損害を受けた場合の補償 |
対人・対物賠償保険は無制限で補償される保険がほとんどです。対人賠償保険は自賠責保険にもありますが、限度額があるため不足部分は任意保険で補います。
自賠責保険では補償されない対物賠償部分を補う目的もあります。
任意保険に付加できる特約として次のようなものがあります。
- 他車運転特約
- 対物超過修理費用保障特約
- 弁護士費用特約
- 運転者限定特約
- 運転者年齢条件特約
- 自損事故傷害特約
- ロードサービス
任意保険基準は明らかにされていない
自賠責保険で足りない補償を補う任意保険ですが、任意保険会社が提示する任意保険基準での賠償金額は明らかにされていません。
対人賠償などは限度額がなく無制限ですが、実際にどの程度の補償額になるかはわからないのです。
任意保険基準は、保険会社が過去のデータなどから損害額を算出して定めており、自賠責保険よりも高くなると言われています。
しかし、実際に提示された損害賠償額が自賠責保険基準と同等か、それ以下というケースもあります。
裁判基準(弁護士基準)とは
裁判基準は、過去の交通事故裁判の判例などから算出した基準です。その詳細は日弁連交通事故相談センターが発行している「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」に掲載されています。通称赤い本と呼ばれている本で、東京地裁の実務に基づいた基準を公表しています。
ここでは、裁判基準の特徴について詳しくみていきます。
裁判基準は最も適切な賠償額を算定できる基準
裁判基準というと、特別な基準のようにも思えますね。しかし、実は裁判基準で算定した損害賠償額が、実際の損害の大きさに一番見合った額なのです。
過去の判例を基にしていますから、十分に検討されたうえで出されたものです。保険会社が独自に決めている任意保険基準に比べて、客観的で公正な基準といえるでしょう。
裁判基準に法的拘束力はない
一番適切な基準であるなら、すべての交通事故案件の賠償額の算定に裁判基準を用いればよいのですが、そうできないのが現状です。
裁判基準は法廷でも参考にされ、弁護士や裁判官が用いる基準ですが、法的拘束力はないのです。
そのため被害者自身が裁判基準で相手方に請求を行っても、交渉を成立させるのは困難でしょう。
裁判基準の賠償額を請求するために
裁判基準の損害賠償額を請求するために、裁判をする必要はありません。弁護士は裁判基準の賠償額を基本として交渉しますから、示談交渉を弁護士に委任するだけでよいのです。
裁判基準とまったく同じだけの賠償金を勝ち取れるとは限りませんが、任意保険基準よりは増額できることがほとんどです。
自賠責・任意保険・裁判基準、3つの基準を比較
次に、自賠責保険基準・任意保険基準・裁判基準、3つの基準のメリット・デメリット、損害賠償額を比較してみます。
3つの基準のメリット・デメリット
自賠責保険基準のメリット・デメリット
自賠責保険基準では加害者が任意保険に未加入の場合などでも、被害者が補償を受けられます。仮渡金制度や内払金制度の利用により損害賠償額の確定前に一定の支払いを受けることができるというメリットもあります。
デメリットは、自賠責保険基準の補償額は最低限のものとなっており、限度額もあることです。ただし、過失割合などによっては、任意保険基準を上回る損害賠償額となることもあります。
任意保険基準のメリット・デメリット
任意保険基準のメリットは、保険会社が損害賠償額の算定などをすべて行ってくれることです。そして通常は被害者の加入している任意保険会社が、加害者側との示談交渉を代理します。
しかし、被害者に過失が全くない場合には、被害者側の任意保険会社に支払い義務がないため示談交渉の代理はしてもらえません。
その他のデメリットとして、任意保険基準の損害賠償額が一般に低額であること、その基準が明らかでないことなどが挙げられます。
裁判基準のメリット・デメリット
裁判基準のメリットは、適正な損害賠償金を手にする可能性が高いことです。そしてその金額は3つの基準の中で一番高額です。また、示談交渉を弁護士に委任することで複雑な手続きの手間や不安が解消されることもメリットの1つです。
デメリットとしては、弁護士への委任が必要なことや、適正な損害賠償金が必ずしも任意保険基準を上回るとは限らないことです。
しかし、任意保険基準よりも裁判基準の損害賠償額が下回るのはごくまれなケースです。
また、弁護士費用特約があれば弁護士費用負担はゼロになることも多く、特約がなくとも賠償額の増額分で弁護士費用を賄える可能性があります。
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賠償額が増額できなければ弁護士費用の負担がいらない、完全成功報酬制をとっている弁護士も増えています。
基準 | メリット | デメリット |
---|---|---|
自賠責保険基準 |
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任意保険基準 |
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裁判基準 |
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3つの基準の損害賠償金額
3つに基準で損害賠償額に差がでることはわかりましたが、実際にどれくらいの金額が基準になっているのでしょうか。
ここでは、後遺障害慰謝料の例をみていきます。
自賠責保険の後遺障害慰謝料
自賠責保険基準の後遺障害慰謝料は、その等級ごとに定められています。第1級で(介護を必要としない場合)で 1,100万円です。
任意保険基準の後遺障害慰謝料
各保険会社の任意保険基準の後遺障害慰謝料は明らかにされていませんが、自賠責保険基準よりも少し多い程度と考えられます。
旧任意保険基準といって、平成10年まで各保険会社で一律に使われていた基準では、第1級で1,300万円です。現在は旧任意保険基準を用いる必要はなく、各保険会社が独自に算定基準を決められますが、旧任意保険基準から大きく逸脱することはないと考えられます。
裁判基準の後遺障害慰謝料
裁判基準の後遺障害慰謝料は、赤い本によると第1級で2,800万円です。
自賠責保険基準 | (旧)任意保険基準 | 裁判基準 | |
---|---|---|---|
第1級 | 1,100万円 | 1,300万円 | 2,800万円 |
第2級 | 958万円 | 1,120万円 | 2,370万円 |
第3級 | 829万円 | 950万円 | 1,990万円 |
第4級 | 712万円 | 800万円 | 1,670万円 |
第5級 | 599万円 | 700万円 | 1,400万円 |
第6級 | 498万円 | 600万円 | 1,180万円 |
第7級 | 409万円 | 500万円 | 1,000万円 |
第8級 | 324万円 | 400万円 | 830万円 |
第9級 | 245万円 | 300万円 | 690万円 |
第10級 | 187万円 | 200万円 | 550万円 |
第11級 | 135万円 | 150万円 | 420万円 |
第12級 | 93万円 | 100万円 | 290万円 |
第13級 | 57万円 | 60万円 | 180万円 |
第14級 | 32万円 | 40万円 | 110万円 |
後遺障害慰謝料の額ひとつをとっても、1千万円以上の差がでるケースがあることがわかりますね。損害賠償金には他にも、逸失利益や入通院慰謝料、休業損害などがあり、それぞれ3つの基準から算定されます。
損害賠償金全体では、任意保険基準と裁判基準で数百万円~数千万円の差が生じることも珍しくないのです。
加害者側から提示された損害賠償金は「3つの基準」をふまえて判断しよう
交通事故の損害賠償額は通常、加害者の加入している保険会社から提示されます。その額が適正なものなのか否かは、損害賠償金の3つの算定基準を知ったうえで判断しましょう。
保険会社の提示してくる賠償額は任意保険基準によるものですから、一般に、被害者の方にとって適正な額とは言えません。示談書にサインをする前に、裁判基準ならいくらになるのか、その差はいくらなのかを、必ず確認してください。
裁判基準での損害賠償は弁護士に相談を
交通事故の被害に遭ってしまった際に、保険会社から提示される賠償額が適正なものだと思っている方は多いものです。
しかし、実際には、弁護士が介入することで得られる裁判基準の賠償額が適正で高額になることがほとんどなのです。
しかも、その金額の差は大きなものです。
交通事故の被害に遭ってしまったら、裁判基準での損害賠償額を勝ち取るためにも、弁護士に相談することをおすすめします。
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