親族内承継~ご子息など家族への事業承継はリスクを理解して
事業承継の方法としては、息子や娘に会社を継がせる「親族内承継」がもっともメジャーでなじみやすいです。ただ、この方法による場合、それなりにリスクも高いので注意が必要です。今回は、事業承継の親族内承継を成功させるための方法と注意点について、解説します。
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親族内承継とは
中小企業の経営者がある程度の年齢になっているなら、そろそろ事業承継について考えておくべきです。上場していない企業の場合、事業承継をしておかないと、経営者の死亡とともに会社が廃業してなくなってしまいます。実際に、日本では廃業する中小企業が増えていますし、中でも65歳以上の高齢の経営者が廃業に追い込まれるケースが多いです。
廃業を避けて会社を残すためには、誰かに会社を継がせる必要がありますが、その手続きが「事業承継」です。
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事業承継の中でも子ども(親族)に会社を継がせる場合を「親族内承継」
事業承継をするときには、引継人を選ばないといけないのですが、中でも最も多いのは、子どもに会社を継がせるパターンです。このように、子どもなどの親族に会社を承継させる方法を、「親族内承継」と言います。
親族内承継は、数ある事業承継の方法の中でも最もよく利用される方法
一般的にも、「事業承継=子どもへの承継」と捉えられていることが多いでしょう。「会社を継がせるなら、できれば子どもに継いでほしい」、と希望している経営者の方もたくさんおられるのではないでしょうか?
親族内承継には時間がかかる!
今、企業を経営していて将来的に子どもに継がせよう考えている方、いつから具体的な手続きに取り組もうと考えておられますか?
「まだまだ自分が元気だから、承継の必要はない」と考えているかもしれません。
親族内承継は時間がかかる
しかし、親族内承継には、相当の時間がかかることを理解しておかなければなりません。まずは後継者を選んで、候補者に了承をとり、後継者として育成する作業が必要です。
経営の感覚や能力というものは、一朝一夕に身につくものではありませんから、長年かけて経営者としての資質を備えさせなければなりません。また、その間、会社の従業員や取引先などにも周知して受け入れてもらう必要があります。他の相続人がいる場合には、その調整も必要です。
親族内承継を考えているなら10年程度は見ておく方がよい
親族内承継をするとき、10年は見ておいた方が安心でしょう。そこで、「今元気だから」と思ってゆっくり構えていると、時間がなくなる可能性があります。
親族内承継でよくあるトラブル
親族内承継を行うとき、「自分の子どもに承継するのだから、簡単だろう」と考えるかもしれませんが、注意していないとトラブルが起こります。以下では、よくあるトラブルのパターンをご紹介します。
子どもが承継してくれない
経営者としては、「いずれは息子が継いでくれるだろう」と期待していることがありますが、子どもはそのように受け止めていない例があります。その場合、親が実際に事業承継を進めようとしたとき、子どもに断られて後継者がいなくなります。
たとえば、独立して別会社でサラリーマンとして働いている息子がいるときに、経営者としては将来戻ってきてもらって会社を継いでほしいと考えていたとします。この場合、息子が「継がない」と言い出したら後継者がいなくなって困ってしまいます。
子どもの方から言い出してトラブルになる
次に、経営者の方が、自分から事業承継を言い出さない場合にトラブルになる例もあります。経営者が、いずれは会社を継がせようとして、子どもを社内に役員として入れていても、いつまでも「自分でできる」と思って事業承継の作業を始めないのです。
そこで、心配になった後継者の方から「そろそろ承継をしては?」と持ちかけたところ、経営者が立腹して手続きができなくなってしまうパターンです。
これは、現経営者に、事業承継が必要だという自覚がないために起こるトラブルです。この場合、社内で「現経営者側」と「後継者側」に分裂が起こり、会社経営が危機に陥ることもあります。
準備しないまま健康状態が悪化
親族に承継させようとするとき、早めに準備をしておかないと、経営者の健康状態が悪化して、身動きがとれなくなることがあります。また、親族に事業承継をさせる手続きを進めている途中で経営者が倒れてしまい、承継作業が中途半端になるケースもあります。
会社経営が行き詰まる可能性も
そうなると、子どもが経営者として未熟な段階で無理矢理引き継がないといけなくなりますし、後継者が取引先や金融機関から信用してもらえずに会社経営が行き詰まるおそれもあります。現経営者が個人保証をしていた場合には、保証人の入れかえができず、法定相続人全員に個人保証が引き継がれてしまう問題もあります。
他の相続人と遺産トラブルが起こる
子どもに事業承継をさせるときには、後継者ではない他の相続人との間での遺産トラブルが起こらないように注意する必要があります。
中小企業の場合、事業に必要な資産を経営者が個人所有していることもよくありますし、会社の株式を保有していることが一般的ですが、何も対策をせずに経営者が死亡すると、これらの資産は法定相続人に法定相続分に応じて承継されてしまいます。
そうなると、会社の事業用資産や会社株式が、経営に何ら関係のない相続人に相続されてしまうため、会社経営がスムーズに進まなくなります。
そのようなことを避けるため、後継者が事業用資産や株式を取得したいと他の相続人に主張すると、他の相続人は「不公平だ」と主張して多額の代償金の支払いを求め、相続トラブルに発展することも多いです。
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親族内承継の流れ
親族内承継を進める際の流れを確認しましょう。
後継者を選んで育成する
まずは、後継者を選びます。そして、後継者に対し、経営者としての実務経験をさせて経営のノウハウ、知識などを教え、育成します。経営セミナーなどに参加させるのも良いでしょう。中小企業の場合、実際に企業の役員に起用するなどして、実務経験を積ませることが多いです。
株式を移転する手はずを整える
また、後継者が株式取得して経営権を把握できるよう、現経営者から後継者へ株式を移転するための方法を決めます。相続と生前贈与、売買の3つの方法があります。このとき、現経営者が十分な株式数を持っていない場合には、買い集めなければなりません。
周囲に周知する
そして、会社の他の役員や従業員などに、後継者を周知させます。取引先や金融機関などに紹介し、徐々に重要な取引の担当なども任せていきましょう。
遺言、生前贈与をする
親族内承継のケースでは、遺言を残しておくことも重要です。遺言によって会社の重要な資産や会社株式を後継者に残すことができますし、先に生前贈与をしたときには、持ち戻計算の免除をしておくことも可能です。生前贈与によって事業を移転する場合には、贈与契約書を作成して生前贈与を行います。
保証や担保を交代する
さらに、現経営者が会社の借り入れについて個人保証をしていたり、個人資産を担保に入れたりしている場合には、金融機関と交渉をして保証や担保を外してもらい、後継者と交代してもらう必要があります。
親族内承継のメリット
親族内承継にはどのようなメリットを得られるのか、ご紹介します。
従業員や取引先に受け入れられやすい
事業承継を成功させるには、会社の他の役員や従業員、取引先などに受け入れてもらうことが必須です。従業員に反発されると、モチベーションが下がって企業の生産性が落ちてしまいますし、取引先や金融機関から不信を買うと、後の企業経営が難しくなってしまうためです。現経営者の子どもが承継するのは自然な流れなので、従業員や取引先の理解を得やすいです。
現経営者が安心できる
事業を始めた人は、自分が作った会社を大切に思っていることが普通で、子どものように感じていることも多いです。一般に、創業者は、そのような大切な会社を、自分の血を分けた子どもが引き継いでくれたらうれしいものですし、安心できます。
早期から事業承継の準備ができる
子どもに事業承継をさせる場合、子どもが若いうちから会社で働かせて社内のシステムや体質、営業方法などを把握させて、事業承継の準備を進めることができます。早くから準備をしておくことで、経営者に突然何か起こったり、企業を取り巻く状況が変化したりしたときにも柔軟に対応することが可能です。
親族内承継のデメリットとリスク
親族内承継には、デメリットもあります。
後継者が見つからない
まず、適任な後継者が見つからない可能性があります。経営者としては、自分の息子が継いでくれると思い込んでいても、息子の方には継ぐ気持ちがないケースがあるためです。この場合、息子が継いでくれることを期待しているために、その他の事業承継の準備をまったくしないこともありますが、そうなると、いざ「継ぐことはできない」と言われたときに、後継者がいなくて困ってしまうことになります。
時間がなくなる
親族に事業承継させる場合、準備に長期間がかかることが多いです。まずは、会社経営のいろはから教えなければなりませんし、従業員や取引先からの理解を得たり遺言を作成したり、いろいろな作業が必要だからです。親族内承継に取り組む時期が遅くなると、まだ十分に引継が終わっていない段階で経営者が倒れてしまうこともあります。
個人保証を外せない
中小企業を経営している経営者は、たいてい会社の借入についての個人保証をしていますし、自分の個人資産を担保に入れていることも多いので、事業承継の際には、こうした個人保証や担保を外してもらう必要があります。
そのためには、次の経営者に保証人を引き継いでもらい、担保提供をしてもらって現経営者と代わってもらわないといけませんが、実現するには金融機関の了承が必要です。ところが、金融機関は「今の経営者」を信用してお金を貸しているので、まだ何の実績もない息子に経営権が移ったと言われても、保証人の変更を認めてくれないことがあります。
また、息子自身に担保提供できるような資産もないこともあり、交代ができないケースがあります。
遺産トラブルが起こる
親族間承継をするときには、遺産トラブルに注意が必要です。親族間承継では、多くの場合、生前贈与や相続による方法を利用します。具体的には、遺言や生前贈与により、後継者に事業養の資産や株式を集中させるのです。しかし、そうなると、他の相続人との間で不公平になってしまいます。
すると、他の相続人は、後継者に対して遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)をします。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限認められる遺産相続分ですが、遺言や生前贈与によって遺留分が侵害されたら、侵害された相続人は、侵害者である受遺者や受贈者に対し、遺留分の返還を請求することができるのです。
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このことで、遺留分を返還すべきかどうかや、返還する額、方法などについて、後継者とそれ以外の相続人との間でトラブルになってしまいます。このことにより、事業用資産や株式を、経営に関わらない他の相続人が承継して、後継者による会社経営がスムーズに行えなくなるケースもあります。
多額の税金がかかる
相続や生前贈与の方法で親族内承継をするときには、それぞれ相続税や贈与税が課税されます。中小企業の株式は、評価額が相当な高額になることも珍しくないため、こういった税負担が非常に大きくなってしまうことがあります。多額の相続税が課税されたら、支払いのため別の資産を売却しなければならなくなり、会社の規模を縮小せざるを得なくなるケースもあります。
親族内承継の3つの方法
親族内承継を行うとき、以下の3つの方法から選択することができます。
相続による承継
1つ目の方法は、相続による事業承継です。これは、現経営者の生前には後継者に事業用財産や株式などを移転せず、相続によって後継者に承継させる方法です。相続による承継をする場合、必ず遺言によって事業養財産や株式などの会社関係資産を後継者に相続させる旨を明らかにしておく必要があります。
相続による承継のメリット
相続税には比較的大きな基礎控除が認められ、贈与税より安くなることがあるので節税につながります。
相続による承継の注意点
相続による承継で相続税が発生すると、一括で納めないといけないため、多額の資金が必要になります。また、遺言は自由に撤回することができるため、現経営者の気が変わったら遺言を撤回されて、後継者の地位が奪われてしまうおそれがあります。また、遺言があっても、他の相続人が遺留分請求を行うことにより、相続トラブルが発生してしまう可能性もあります。
生前贈与による承継
2つ目は、生前贈与による承継です。これは、会社の事業用資産や株式を、経営者が生きているうちに、生前贈与によって後継者に譲渡する方法です。
生前贈与のメリット
生前贈与の場合、贈与税はかかりますが、段階的に贈与をすれば相続税ほどはまとまった支払いにならないことも多く、資金を用意する必要がありません。また、生前贈与は現経営者によって撤回することができないので、後継者の地位は安定します。
生前贈与の注意点
ただ、贈与税は相続税よりも高額になることが多く、全体としての税負担が大きくなりがちです。また、生前贈与も遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)の対象になるため、他の相続人が遺留分を主張すると、相続トラブルが起こります。
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売買による承継
親族内承継をする場合でも、売買を伴うケースがあります。後継者が現経営者に対し、事業譲渡の代金を支払う方法です。
売買のメリット
売買した場合には、相続税も贈与税もかからないので、税負担は大きく減るメリットがあります。また、他の相続人から遺留分請求をされて相続トラブルが起こるおそれもありません。
売買の注意点
ただ、後継者が事業承継の代金を用意しないといけないので、資金準備が難しくなるケースが多いです。親子間で事業承継する場合などには、売買による承継方法は、あまり多くは利用されていません。
親族内承継を成功させるポイント
親族内承継を成功させるには、どういったことに注意すれば良いのでしょうか?以下で、ポイントをご紹介していきます。
早めに取り組む
まずは、早めに取り組むことが重要です。親族内承継には時間がかかるので、「体調が悪くなってきた」「仕事がしんどくなってきた」と思い始めてから準備を開始すると、間に合わなくなる可能性があるためです。また、承継してくれると期待していた子どもが「承継したくない」と言い出したときにも、早期に準備を開始していたら、従業員承継やM&Aなどの他の方法を検討することができますが、ぎりぎりになって対処を始めた場合には、後継者が見つからず廃業に追い込まれてしまうおそれが高くなります。
後継者を見繕って打診しておく
子どもに事業承継をさせようという場合、子どもの意思を確認しておくことが重要です。経営者としては、引き継いでくれるだろうと思い込んでいても、子どもの側からすると承継することは全く考えていないことがあるためです。
特に、子どもが現状会社に関わっておらず、他の仕事をしている場合などには注意が必要です。
現経営者の方から積極的に承継をすすめる
事業承継を実現するためには、現経営者が積極的に準備と承継手続きを進める姿勢が重要です。経営者が「後で良い」と思って何もしないでいると、周囲がやきもきしますし、ついには後継者の方から何らかのアクションを起こしてしまうこともあります。そうなると、現経営者は「自分を追い出そうとしているのか」などと考えてしまい、親子間でのトラブルになってしまう例もあります。現経営者が自覚を持って早めに自主的に取り組むことが、親族内承継成功のポイントです。
公正証書遺言をする
子どもに事業承継をさせるときには、遺言が必須です。遺言がないと、後継者以外の相続人にも法定相続分に従った取得分が認められてしまうためです。事業用資産を他の相続人が相続したら会社活動が円滑に行えなくなりますし、会社の株式を他の相続人が取得したら、株主総会の特別決議や普通決議において、後継者が意思決定できなくなり、運営に支障が生じます。
遺言をするときには、確実性の高い「公正証書遺言」を利用しましょう。
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遺言執行者を指定する
遺言をしても、その内容が確実に実行されるとは限りません。不利な内容になっている相続人が「偽物だ」などと言い出したらスムーズに相続手続きができなくなりますし、多数の複雑な資産の移転がある場合などには、後継者1人がその事務を行うのは大きな負担となります。そこで、遺言をするとき、同時に「遺言執行者」を定めておくことをお勧めします。遺言執行者とは、遺言内容を実現する事務を行う人のことですが、指定しておくと、相続開始後株式の名義変更や不動産の名義変更、預貯金の払い戻しと相続人への配当など、すべての必要な相続手続きをしてくれます。
遺言執行者には誰を指定しても良いのですが、事業承継のケースでは、法的な問題も絡みますし手続きも複雑になりがちなので、法律に詳しい弁護士を指定しましょう。
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無議決権株式を発行する
他の相続人による遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)を封じる方法として、無議決権株式を発行して、それらを他の相続人に遺贈する方法があります。
無議決権株式とは、議決権のない株式のことです。これを所有していても、株主総会で票を投じることができません。ただ、無議決権株式も株式の1種ですので、株式としての価値は有します。そこで、無議決権株式を他の相続人に遺贈すると、他の相続人もそれなりに多くの遺産を取得していることとなり、遺留分侵害ができなくなるのです。
事業用財産や株式の価格が大きく、普通通りに生前贈与や遺贈をすると、後継者の遺産取得分が大きくなりすぎて他の相続人との間で不公平になる場合には、是非とも検討しましょう。
株式評価を下げて生前贈与する
相続や生前贈与によって親族内承継をするときには、相続税や贈与税の対策が非常に重要です。普通に相続や生前贈与をすると、株式の評価額が大きくなって多額の税金がかかってしまうおそれがあるためです。
税金を下げる方法としておすすめなのは、株式の評価額を下げて、そのタイミングで生前贈与する方法です。株式の評価額を下げる方法としては、経営者に多額の退職金を支払う方法や、不動産を購入して純資産額を引き下げる方法などがあります。
また、中小企業の事業承継(非上場株式の贈与)に適用してもらえる贈与税の猶予の制度(事業承継税制)も活用しましょう。
親族内承継を成功させるには、弁護士に依頼しよう!
親族内承継は、事業承継の方法の中でも最もメジャーで、多くの企業で利用されています。円滑に進めることができれば、経営者としても満足しやすいですし、従業員や取引先などにも理解してもらいやすく、メリットの大きい方法です。
親族内承継は他の方法と比べて比較的長時間がかかるため、早めに取り組むことが重要
親族内承継を行うときには、遺言や生前贈与を上手に活用することが必須となりますが、こうした法的な手続きについては、弁護士のアドバイスが必要です。弁護士であれば、トラブルを回避するための効果的な遺言内容を考えてくれますし、公正証書遺言の作成も手助けしてくれます。弁護士に遺言執行者に就任してもらっておけば、後継者や他の相続人に手間をかけずに済みますし、遺言内容が確実に実現されます。
中小企業を経営していて、将来のことが気になっているなら、まずは弁護士に相談をしてみることをお勧めします。
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