遺言書の種類~普通方式と特別方式の違い、最も利用されている遺言とは?

遺言

遺言書には普通方式と特別方式があり、最も利用されているのは普通方式の自筆証書遺言と公正証書遺言です。自筆証書遺言は遺言者が1人で作れる手軽さが魅力ですが、些細なミス法的効力を失う恐れもあります。公正証書遺言は公証役場の力を借りるので確実・安全ですが、2人以上の証人の協力や数万円の費用の負担が必要です。

普通方式(1):最も利用されている遺言2種類

遺言は一般的には「普通方式」で作成されます。普通方式の中でも最も利用されているのが「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類です。それぞれ、遺言書の文面を誰が書くか、また遺言書をどこで保管するかといった違いがあります。

「自筆証書遺言」は一人で作れる

自筆証書遺言とは、文字通り遺言者が自ら書いて作成する遺言書です。役所に足を運んだり、専門家に依頼する必要はありません。パソコンでの作成は不可で自筆が必須条件ですが、用紙や筆記用具の指定もないので遺言者が思い立った時にいつでも作成できます。

自筆証書遺言のメリット

自筆証書遺言のメリットは、何といっても時間や場所を問わず一人で手軽に作成できることです。縦書き・横書きといった決まった書式もなく、特別な費用もかかりません。自筆証書遺言の書き方を解説する本やインターネットの記事も多く存在するので、遺言者はそれらを参考にしながら自分のペースで作成できます。証人も不要なので、遺言の内容だけでなく存在自体も秘密にすることが可能です。

自筆証書遺言のデメリット

自筆証書遺言のデメリットは、たった1つの小さなミスでも遺言が無効となってしまうことです。自筆証書遺言は、作成年月日を明記する、署名押印するといった、法律で決められたルールを守らなければなりません。書き方によっては、遺族が読んだ時に財産が特定できない、内容が理解できない、という恐れもあります。さらに自宅で保管するため紛失や偽造・改ざんの可能性もゼロではないのです。

「公正証書遺言」は確実性・安全性を求める方に

公正証書遺言は、自筆証書遺言では確実性・安全性が心配だという方におすすめの方法です。遺言者が証人と一緒に公証役場に行き、遺言したい内容を公証人に口述すると、公文書として作成・保存されます。費用は財産の規模により異なりますが、相続額が5000万円の場合は証書作成に2万9000円、遺言手数料に1万1000円で合計4万円です。

公正証書遺言のメリット

公正証書遺言のメリットは、公文書作成のプロである公証人が作成するため形式上のミスが起こらないことです。遺言作成は原則として公証役場で行いますが、病院や自宅への出張も可能なので病気・障害で外出が難しい人も利用できます。作成後も、遺言書の原本は公証役場に保管されるため紛失や偽造・改ざんの心配がありません。

公正証書遺言のデメリット

公正証書遺言のデメリットは、作成に手間や費用がかかることです。証人は信頼できる相手を2人以上選び、公証役場に行く予定を合わせなければなりません。さらに遺言者は作成に先立って一度公証役場に出向き、原案の打ち合わせも必要です。費用は最低でも1万6000円はかかります。また、証人は遺言の存在や内容を知るので、内容を秘密にしておきたい人には向いていないでしょう。証人が遺言について誰かに話す可能性もゼロではありません。

普通方式(2):マイナーだけど知っておきたい遺言

普通方式の遺言は自筆証書遺言と公正証書遺言がほとんどを占めますが、「秘密証書遺言」という手段もあります。また、遺言書は作成後に内容を取り消したり、新しく一から書き直すというケースもあります。その際のトラブル回避術ついて説明します。

「秘密証書遺言」は内容を秘密にしながら存在を証明できる

秘密証書遺言とは、遺言者が自分で作成し封印した遺言書を公証人に提出するものです。遺言の内容を秘密にしながら遺言の存在を証明してもらえます。自筆証書遺言と公正証書遺言の両方の性質を兼ね備えた方法と言えそうです。

秘密証書遺言のメリット

秘密証書遺言のメリットは、「内容は死ぬまで誰にも知られたくないが、遺言の存在だけは親族に知っておいてもらいたい」という希望が叶う点です。遺言の内容をめぐって相続前から親族がもめたり、遺族が遺言の存在を知らないというトラブルを防げます。さらに、自筆証書遺言は自書しか認められませんが、秘密証書遺言はパソコン作成が認められています。遺言内容が多い方にとっては便利でしょう。

秘密証書遺言のデメリット

秘密証書遺言のデメリットは、公証人を利用するものの内容のチェックは行われないため、文面や形式のミスがあれば遺言が無効となることです。また、2人以上の証人が必要で手続きには費用がかかる点も、手軽には利用しにくいかもしれません。また、遺言書は公証役場で保管してもらえないので、紛失や偽造・改ざんされないようしっかり保管する必要があります。

遺言、こんな時はどうする?

遺言は、遺産相続をできるだけスムーズに行ってもらうために作るものです。しかし遺言の訂正方法や作り直しのやり方によっては、かえって遺族を混乱させてしまうかもしれません。遺言に関するよくある疑問について解説します。

過去に書いた遺言を取り消したいときは?

遺言は内容の変更や取り消しが可能ですが、訂正後も遺言が法的に有効な状態を保っていることが重要です。一番簡単な方法は、変更・取り消しをしたい部分を判読不能になるよう塗りつぶすことです。読めない部分は無効となります。もし遺言の内容全てを撤回したい場合は、遺言書を破棄します。ただし公正証書遺言の場合は、手元の謄本を破棄しても公証役場に原本があるので、取り消しにはなりません。

遺言者の死後、複数の遺言書が出てきたら?

遺言者が定期的に遺言書を書き直す習慣があり、古いものを破棄し忘れていた場合などは、死後に複数の遺言が見つかることもあるでしょう。遺言が複数ある場合は、原則として日付が最も新しいものが有効です。また、遺言書ごとに別々の財産について記述しており内容に重複がない場合は、全て有効となります

普通方式が利用できない時は「特別方式」

一般的に、遺言を書くとは普通方式のいずれかの方法をとるものですが、死が迫っている場合や普通遺言ができない場所にいる場合には「特別方式」の遺言があります。ただし、差し迫った状況を回避して普通方式の遺言が可能になった場合は、6か月で無効となります。

死が目前に迫った際に行う「危急時遺言(臨時遺言)」

危急時遺言は、遺言者に死が迫っている場合のみに認められる遺言で、臨時遺言とも言います。普通方式では代筆は認められていませんが、危急時遺言では遺言者が口述した内容を別の人が書き留めることが認められています。「一般危急時遺言」と「難船危急時遺言」があります。

一般危急時遺言とは

一般危急時遺言は、病気やけがで死亡の危急が迫ったときに行う遺言です。証人3人の立会いが必要で、証人のうち1人に遺言者が遺言内容を伝え(口授)、口授を受けた人が筆記します。その際に遺言不適格者が誘導することは禁止されています。そして筆記の内容が間違っていないことを他の証人が確認した後、署名・押印し、さらに20日以内に家庭裁判所で確認手続きを行います。これをしないと遺言は無効になります。

難船危急時遺言とは

難船危急時遺言は、船舶や飛行機に乗っていて死亡の危急が迫ったときに行う遺言です。証人2人の立会いが必要で、証人のうち1人に遺言内容を伝え(口授)、口授を受けた人がその内容を筆記します。もう1人の証人がその内容を確認し、それぞれ署名・押印します。
遅延なく家庭裁判所で確認手続きをすることで有効となります。

一般社会から離れた場所で行う「隔絶地遺言」

隔絶地遺言とは、遺言者が一般社会から離れた場所にいて普通方式の遺言が不可能な場合に用いられる遺言です。「一般隔絶地遺言」と「船舶隔絶地遺言」があります。

一般隔絶地遺言とは

一般隔絶地遺言は、伝染病による行政処分で交通を断たれた場所にいる人が利用できる遺言です。刑務所に服役中の囚人や、災害などの被災地にいる場合もこの方式での遺言が可能です。警察官1人と証人1人の立会いが必要です。

船舶隔絶地遺言とは

船舶隔絶地遺言は、船舶に乗っていて陸地から離れた場所で行う遺言です。飛行機の場合は船舶隔絶地遺言に該当しないので、難船危急時遺言と混同しないよう注意が必要です。船長または事務員1人と証人2人の立会いが必要です。

遺言は、普通方式だけでも3種類の方法があります。それぞれメリット・デメリットをしっかり把握して、自分のケースにもっとも役に立つ方法を選んでください。遺言の文面や形式についてミスをしたくない方は、遺産相続に強い弁護士に相談してみるのがおすすめです。

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