遺贈と贈与・相続の違いとは?メリット・デメリットと注意点を解説

遺贈と贈与の違い

法定相続人ではなく相続権のない人に財産を渡す方法には、遺言で譲渡先を指定する「遺贈」と、没後の譲渡について当事者間で生前に契約を交わす「死因贈与」があります。どちらも本人の死亡によって効力が生じる点は同じですが、成立のしかた、放棄や撤回の可否、登記の手続き、税金の扱いがそれぞれ異なります。

この記事では、遺贈・死因贈与・相続の3つの違いを比較表で整理したうえで、それぞれのメリット・デメリット、見落とされがちな遺留分と登記の注意点、ケース別の選び方まで解説します。

遺贈・死因贈与・相続の違い【比較表】

まず遺贈・死因贈与・相続、3つの違いを一覧で確認しておきましょう。相続は法定相続人だけが対象ですが、遺贈と死因贈与は相続人以外の第三者にも財産を渡せる点が最大の違いです。

遺贈 死因贈与 相続
根拠 遺言(民法964条) 贈与者と受贈者の契約(民法554条) 法律の定め(民法887条・889条・890条)
財産を受け取れる人 誰でも(相続人・第三者・法人) 誰でも(相続人・第三者・法人) 法定相続人のみ
成立に必要なもの 方式を守った遺言書 双方の合意(口頭でも成立) 不要(死亡により当然に開始)
相手の同意 不要(一方的な意思表示) 必要 不要
受け取る側の放棄 可能(包括遺贈は3か月以内) 原則できない 可能(相続放棄は3か月以内)
与える側の撤回 遺言の書き換えでいつでも可能 原則可能(負担付きで履行済みなら不可) 該当なし
不動産登記の申請 相続人への遺贈は受遺者が単独申請可。相続人以外は遺言執行者または相続人全員との共同申請 受贈者と相続人全員(または執行者)の共同申請 相続人が単独申請可
登録免許税 相続人:0.4%
相続人以外:2%
2% 0.4%
不動産取得税 包括遺贈・相続人への遺贈:非課税
相続人以外への特定遺贈:課税
課税 非課税
かかる税金 相続税 相続税(贈与税ではない) 相続税
遺留分 侵害額請求の対象 侵害額請求の対象 —

遺贈と相続は、どちらも亡くなった人の財産を引き継ぐしくみです。相続が法律で決まった相続人へと自動的に起こるのに対し、遺贈は遺言があってはじめて発生するもので、遺言で指定された受遺者へと譲渡されます。
一方、死因贈与は財産の譲渡について贈与者・受贈者の間の契約に基づいて行われるもので、実施について生前に両者が同意していることが成立の前提になります。

なお、相続人に対して遺言で「この土地を長男に相続させる」と書いた場合は遺贈ではなく「特定財産承継遺言(特定の財産を特定の相続人に相続させる旨を指定する遺言)」として扱われ、登記や税金の面では相続と同じ扱いになります。

遺贈とは?遺言で財産や割合を指定して渡す方法

遺贈とは、遺言によって特定の相手に財産を引き継がせることを指します。財産を渡す人を遺贈者、受け取る人を受遺者と呼び、受遺者は遺言書の中で指定します。
遺贈であれば内縁の夫・妻、子どもの配偶者、再婚相手の連れ子、お世話になった知人、公益団体など、相続権のない相手にも財産を残すことが可能です。

遺贈には、大きく分けて包括遺贈と特定遺贈の2つの種類があります。

包括遺贈|与える割合を指定する

たとえば「全財産の3分の1を内縁の妻に与える」というように、引き継がせる財産の割合を指定する遺贈のことを包括遺贈といいます。遺贈者が遺言書を書いた後に財産の中身が変わった場合でも、受遺者に対して常に一定の割合を渡せることが利点です。

その反面、包括受遺者は相続人と同じ権利義務を持つ(民法990条)ため、借金やローンといったマイナスの財産も割合に応じて引き継ぐことになります。
また、遺産全体の総額によって受け取る金額が変わってくることから、他の相続人と遺産分割協議に参加しなければなりません。遺産分割協議がまとまらない場合は家庭裁判所の調停や審判に進むことになり、受け取る財産が確定するまで時間がかかります。

特定遺贈|与える財産を指定する

「○○銀行の預金を長男の妻に遺贈する」というように、遺贈者が持つ財産のうち特定の財産を指定して遺贈することを特定遺贈といいます。指定された財産だけを受け取るため、遺言書に書かれていない限り借金を引き継ぐことはなく、遺産分割協議に加わる必要もありません。また特定遺贈は遺言者の死後であれば原則としていつでも放棄することができ、受遺者の負担が少ない遺贈方法と言えます。

一方、遺言書を作成した後、遺贈の対象に指定していた財産を売却してしまった場合、遺言はその部分について撤回したものとみなされ、その特定遺贈は効力を生じません(民法1023条2項・996条)。特定遺贈をする場合、財産の状況が変わるたびに遺言書を見直す必要があります。

死因贈与とは?生前に契約して死亡時に渡す方法

死因贈与とは、贈与者が亡くなることで効力が生じる贈与契約です。財産を与える側を贈与者、受け取る側を受贈者と呼び、贈与者の生前に受贈者との間で贈与する内容について互いに同意し、契約することで成立します。

贈与という名前がついていますが、死亡をきっかけに財産が移るため、税金は贈与税ではなく相続税が課されます。

また、死因贈与に関する条文である民法554条は「その性質に反しない限り、遺贈の規定を準用する」と定めています。これは、遺贈に関する規定をそのまま当てはめることができないケース(遺言の方式の制限・遺言能力(年齢)の規定など)を除き、用途・目的の似た遺贈の規定をそのまま当てはめて使用するという意味です。

負担付死因贈与とは

負担付死因贈与とは、「生前に○○してくれたら財産を与える」というように、受贈者に義務や負担を課す形の死因贈与です。最期まで身の回りの世話をすること、同居して介護をすることなどが条件として設定されます。

贈与者が亡くなった後に財産を残すのであれば遺贈でも実現可能ですが、ただ財産を残す約束をするのではなく、受贈者に対して介護やなにかしらの貢献など条件を求めたい場合には、負担付死因贈与を契約するのが有効です。

遺贈と死因贈与の決定的な違いは「契約かどうか」

遺贈は遺贈者が一方的に行う意思表示(単独行為)なので、受遺者が受け入れたくない場合は、あとから受け取りを断ることができます。つまり、遺贈者が財産を引き継ぎたいと考えても、その意に反して遺贈が実現しないこともあります。

これに対し死因贈与は、贈与者と受贈者の合意で成立する契約です。契約を結んだ時点で受贈者はすでに受け取ることに同意しているため、贈与者の死後に受贈者の一存で放棄することはできません。

また、遺贈をするには自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言など方式を守った遺言書が必要ですが、死因贈与は契約であるため形式の制限がなく、口頭でも成立します。

遺贈のメリット・デメリット

遺贈と死因贈与は、亡くなった後の財産の行き先に本人の意思を反映できる点は共通ですが、使い勝手やリスクは異なります。まず遺贈から見ていきましょう。

メリット1:相続人以外の第三者や団体にも財産を残せる

遺贈の最大の利点は、法律上の相続人ではない相手に財産を渡せることです。相続では、財産は民法が定めた相続人(配偶者・子・親・兄弟姉妹など)にしか引き継がれません。長年連れ添った内縁の配偶者、介護をしてくれた子の配偶者、再婚相手の連れ子、相続人にあたらない孫、恩人、母校や公益団体などは、故人とどれだけ関わりが深くても、相続だけでは何も受け取れません。遺言で遺贈を指定しておけば、こうした相手にも財産を引き継げます。

メリット2:死ぬまで遺贈の内容を秘密にできる

遺贈は遺言作成時に受遺者の了承を必要としません。そのため、遺言書を誰かに読まれない限りは、遺贈の内容を本人だけの秘密にしておけます。公正証書遺言では公証人と証人2人に内容を知られますが、自筆証書遺言なら一人で書き上げられます。2020年7月からは法務局で自筆証書遺言を保管してもらえる制度が始まっています。紛失や改ざんの心配も減り、遺言書を自筆証書遺言で作成する上でも使いやすくなりました。

メリット3:受遺者は放棄できる

包括遺贈も特定遺贈も、受遺者は放棄できます。「相続税を払えそうにない」「包括遺贈で借金を負いたくない」といった場合に有効です。ただし、特定遺贈は原則としていつでも放棄できる(民法986条)のに対し、包括遺贈の放棄は「遺贈を知った時から3か月以内」に家庭裁判所へ申述しなければなりません。なお特定遺贈でも、相続人から返答を求められた場合は、その期間内に意思表示しないと承認したものとみなされます(民法987条)。

デメリット1:遺言の不備で無効になるおそれがある

遺贈には遺言が欠かせません。自筆証書遺言は費用をかけずに作れる反面、全文の自書、日付、署名押印といった要件(民法968条)を1つでも欠くと無効になります。日付が「○年○月吉日」のように日を特定できない書き方だったために無効とされた判例もあります(最判昭54.5.31)。一人で作るのが不安な方は、弁護士に相談するか、公証人が文面を作る公正証書遺言を利用するのが安全です。

デメリット2:包括遺贈は借金も引き継ぎ、特定遺贈は財産の変化に弱い

包括遺贈は、割合に応じて借金も引き継ぐうえ、他の相続人との遺産分割協議に加わる必要があります。相続人との関係が良くない内縁の配偶者や第三者にとっては、この協議自体が大きな負担になります。

特定遺贈は借金を引き継がない代わりに、遺言に書いた財産を生前に処分してしまうと何も残せません。「別荘を○○さんに遺贈する」と書いた後に別荘を売却すれば、その遺贈は消えてしまいます。

死因贈与のメリット・デメリット

相続人以外の第三者や団体に財産を渡せるという点は、遺贈と死因贈与に共通する利点です。ここでは、契約であることから生まれる死因贈与ならではの利点と注意点を見ていきます。

メリット1:遺言を書かなくても成立する

死因贈与に決まった方式はなく、極端にいえば口約束でも成立します。遺言の厳格な要件を気にせず、財産を渡す約束ができるのが利点です。ただし、口約束だけでは相続人から「そんな約束は聞いていない」と争われた際に証明できません。実務上は必ず契約書を作成し、できれば公正証書にしておくことをおすすめします。

メリット2:受け取りを断られる心配がない

死因贈与は当事者の合意で成立しているため、受贈者の側から遺贈のように放棄することはできません。「この人に受け取ってほしい」という意思がハッキリある場合、受け取りを辞退される心配がない点は遺贈より有利です。ただし、贈与者自身は生前であればいつでも撤回できます。

デメリット1:負担付死因贈与は撤回できない場合がある

通常の死因贈与は、贈与者が生きている間であれば贈与者の意思だけで撤回できます(遺言の撤回に関する民法1022条の準用)。しかし、介護などの負担を条件にした負担付死因贈与で、受贈者がすでにその負担を果たしている場合は、特段の事情がない限り撤回できません(最高裁昭和57年4月30日判決)。

デメリット2:不動産を渡すと税金と登記で不利になる

不動産を死因贈与すると、登録免許税は相手が誰であっても2%で、相続や相続人への遺贈の0.4%より高くなります。不動産取得税も課税され、税率は軽減措置により土地と住宅が3%、住宅以外の建物が4%です。相続や包括遺贈なら不動産取得税はかかりません。

さらに、死因贈与による所有権移転登記は、受贈者と相続人全員(遺言執行者にあたる「執行者」を契約で指定していればその人)との共同申請になります。相続人が協力しなければ登記が進まず、訴訟に発展することもあります。この点は次の章で詳しく解説します。

遺贈・死因贈与でも遺留分は侵害できない

遺贈や死因贈与を検討する方の多くは、「法定相続人ではない人に財産を渡したい」「特定の相続人に多く渡したい」と考えています。しかし、財産の引き継ぎにおいて遺言や契約で自由に決められる範囲には限界があります。それが遺留分です。

遺留分とは

遺留分とは、配偶者・子(およびその代襲相続人)・直系尊属に法律上保障された最低限の取り分です(民法1042条)。兄弟姉妹には遺留分がありません。原則として法定相続分の2分の1(直系尊属のみが相続人のときは3分の1)が遺留分にあたります。

遺留分を侵害するとどうなるか

たとえば、妻と子ども1人がいる人が「全財産を内縁の相手に遺贈する」と遺言を残した場合、妻と子どもはそれぞれ4分の1ずつの遺留分を持っています。妻と子どもは受遺者に対して、侵害された分に相当する金銭を請求できます(遺留分侵害額請求・民法1046条)。

遺贈も死因贈与も遺留分侵害額請求の対象です。しかも遺贈と死因贈与は、生前贈与よりも先に請求の対象になります。「遺言に書いたから」「契約書を作ったから」といって、相続人の遺留分を消すことはできません。

実際に争いになりやすいケース

  • 内縁の妻・夫に全財産を遺贈し、前妻との子どもが遺留分を請求する
  • 介護をしてくれた長男の妻に自宅を遺贈し、他の子どもが納得しない
  • 孫への遺贈が相続人である子どもの遺留分を侵害している
  • 相続人の一人だけと死因贈与契約を結び、他の相続人が「無理やり書かせた」と主張する

こうしたトラブルを避けるには、遺留分を計算したうえで遺贈の範囲を決める、遺留分に相当する金銭を別途用意しておく、遺言に付言事項として理由を書き添えるといった対策が必要です。遺留分の計算は財産の評価が絡むため、弁護士に相談しながら進めるのが確実です。

遺贈と死因贈与の登記手続きの違い

不動産を渡す場合、登記ができなければ受け取った人は所有者として売却も担保設定もできません。遺贈と死因贈与では、この登記のハードルが大きく異なります。

遺贈の登記:相続人への遺贈は単独申請が可能に

2023年4月1日から、相続人に対する遺贈については、受遺者が単独で所有権移転登記を申請できるようになりました(不動産登記法63条3項)。以前は相続人全員または遺言執行者との共同申請が必要でしたが、この改正で相続人への遺贈は「相続させる旨の遺言」とほぼ同じ扱いになっています。

相続人以外への遺贈は今も共同申請が必要です。遺言で遺言執行者を指定しておけば、執行者と受遺者の2人で申請でき、相続人の協力は不要となります。第三者に不動産を遺贈するなら、遺言執行者の指定は必須と考えてください。

死因贈与の登記:相続人全員の協力か執行者の指定が必要

死因贈与による登記は、受贈者と贈与者側(相続人全員)との共同申請が原則です。相続人の一人でも協力を拒めば登記できず、受贈者は相続人を相手に訴訟を起こして判決を得なければなりません。

この問題を避けるには、契約書の中で執行者(受贈者自身を指定することも可能)を定めておきます。執行者が指定されていれば、執行者と受贈者で登記を申請できます。

死因贈与なら仮登記で権利を守れる

死因贈与には、遺贈にはない利点があります。贈与者が生きているうちに「始期付所有権移転仮登記」をしておけるのです。仮登記をしておけば登記の順位が確保され、贈与者の死後に本登記へ移すことで、仮登記より後に登記した第三者に優先できます。遺贈は遺言者が生きている間は何の権利も発生しないため、このような保全はできません。

ただし、仮登記に贈与者の撤回を止める力はありません。生前に売却された場合は、その処分が死因贈与の撤回とみなされることもあります。

遺贈と死因贈与はどちらを選ぶべきか【ケース別】

状況 向いている方法 理由
相手に知られずに財産を残したい 遺贈 受遺者の同意が不要で、内容を秘密にできる
介護などを条件に確実に渡したい 負担付死因贈与 受贈者が負担を果たせば撤回されない
相続人以外に不動産を渡したい 遺贈+遺言執行者の指定 執行者がいれば相続人の協力なく登記できる
生前に不動産を勝手に処分される心配がある 死因贈与+仮登記 仮登記で登記の順位を確保できる(撤回は防げない)
相手が受け取るか分からない 遺贈 受遺者側で放棄を選べるため負担にならない
相続人に多めに渡したい 相続させる旨の遺言 登録免許税0.4%・不動産取得税なし・単独登記が可能

どの方法を選んでも、遺留分と税金の検討は避けられません。渡したい相手と財産が決まったら、遺言や契約書を作る前に、相続に詳しい弁護士に「この内容で相続人と争いにならないか」を確認してもらうことをおすすめします。

遺贈・死因贈与に関するよくある質問

遺贈と相続の違いは税金だけですか?

税金だけではありません。相続は法定相続人にしか発生しませんが、遺贈は遺言で誰にでも財産を渡せます。配偶者と子・親以外の人が遺贈を受けると、相続税が2割加算されます(相続税法18条)。さらに登録免許税が0.4%から2%になり、特定遺贈では不動産取得税もかかります。登記の申請方法も異なります。

死因贈与を口約束でしましたが、証明できますか?

法律上は口約束でも死因贈与は成立します。しかし贈与者が亡くなった後に相続人が否定すれば、契約があったことを受贈者が証明しなければならず、録音やメールなどの証拠がなければ極めて困難です。今からでも贈与者が存命なら、契約書を作成し、できれば公正証書にしておきましょう。

遺贈された財産に借金が含まれていたら放棄できますか?

包括遺贈であれば、遺贈を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述すれば放棄できます。特定遺贈は原則として期限なく放棄できますが、遺贈で特定の借金だけを引き受けることは通常ないため、借金が問題になるのは主に包括遺贈です。

遺贈で財産を受け取った人は遺産分割協議に参加しますか?

包括受遺者は相続人と同じ立場になるため、遺産分割協議に参加します。特定受遺者は指定された財産を受け取るだけなので参加しません。

まとめ

遺贈は遺言による一方的な意思表示で、秘密にできる反面、遺言の方式ミスで無効になるおそれがあります。死因贈与は契約なので相手が受け取りを断れない一方、不動産では税金と登記で不利になります。どちらを選んでも遺留分の壁は越えられず、登記には相続人の協力や執行者の指定が必要です。

相続人以外の人や特定の相続人に財産を残したい方は、遺言や契約書を作る前に遺産相続に強い弁護士に相談し、遺留分・税金・登記の3点を確認したうえで最適な方法を選んでください。

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