他の相続人による相続財産・遺産の使い込みは、返還してもらえる?弁護士がとれる対抗策
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遺産の使いこみとは
「うちでも、遺産の使いこみをされているかもしれない…」
「どのようなケースが遺産の使いこみに該当するの?」
まずは、遺産の使いこみとは、どのようなことなのか、理解しておきましょう。
遺産の使いこみと対象の財産
遺産の使いこみとは、被相続人(死亡した人)と同居していた相続人や財産管理していた相続人などが、被相続人の遺産を勝手に自分のものにしてしまうことです。自分のためにお金を使ってしまうこともありますし、不動産などを勝手に処分してしまうことも使いこみの1種です。
使いこみの対象資産は預貯金が多いですが、それには限りません。生命保険や不動産、株式や賃料などが使い込まれることもあります。
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遺産の使いこみの時期や期間
使い込みが起こる時期もケースによってまちまちです。特に多いのは、被相続人が年をとって判断能力が低下し、自分で適切に財産管理できなくなった後に相続人が使い込むパターンです。ただ、それより以前に相続人が勝手に不動産などの財産を処分してしまうこともありますし、同居している相続人が、被相続人に見つからないように、こっそりキャッシュカードを持ち出して勝手に預貯金を下ろしてしまうケースなどもあります。
使いこみの期間は数か月~数年に及ぶ例もあります。
遺産の使いこみの問題点
遺産が使い込まれると、どのような問題が起こるのでしょうか?
もっとも大きな問題は、そのことによって遺産が減ってしまうことです。相続が開始されると、相続人らが集まって遺産分割協議を行います。このとき、分割の対象になるのは、相続時に存在していた被相続人の財産です。もしも生前に遺産が使い込まれていたら、本来よりも相続対象の遺産が減ってしまい、相続人らが損害を受けてしまいます。
また、無権利で勝手に遺産を使い込んだ相続人だけが得をすることは、他の相続人にとっては心情的にも許せないでしょう。実際に遺産の使いこみがあると、使い込んだ相続人と使い込まれた相続人との間で、熾烈な争いが発生することがほとんどです。
遺産の使いこみの具体例
遺産の使いこみにはどのようなケースがあるのか、いくつか具体例をご紹介します。
預貯金の使いこみ
もっとも多い遺産の使いこみのパターンは、預貯金の使いこみです。たとえば、被相続人(親)と同居していた長男夫婦が、親名義の預貯金口座から毎月50万円ずつ出金して、計500万円以上のお金を自分たちのものにしてしまうケースなどがあります。
賃料の横領
被相続人が不動産賃貸をしていた場合、受け取った賃料を同居の相続人が自分のものにしてしまっているケースが多いです。現金で受け取った賃料をもらってしまうこともありますし、賃料入金口座を管理していて自分のものにしてしまうケースもあります。
生命保険の解約
生命保険の使いこみも多いです。親が加入している生命保険を勝手に解約して解約返戻金を受け取るパターンなどです。
不動産の売却
親の実印と権利証を勝手に利用して、同居の子どもが勝手に不動産を売却し、売却金を自分のものにしてしまうケースもあります。
株式取引
親が契約している証券会社の口座において、勝手に株式などの取引をしたり、換金して出金したりするパターンです。最近ではネットで株式取引をする人が増えているので、同居の親族による不正が容易になっています。
以上のように、遺産の使いこみのパターンはさまざまです。被相続人と同居している親族がいる場合には、こういった可能性もあることを知っておいた方が良いでしょう。
相続人以外の人による使いこみも
なお、ここまでは相続人による使いこみを前提に話をしてきましたが、実際には相続人以外の人による使いこみ事例もあります。たとえば、被相続人の介護に来ていた人が、勝手に被相続人名義の預貯金口座からお金を出金して自分のものにしてしまうこともありますし、成年後見人が被後見人名義のお金を横領してしまうケースもあります。
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このような場合も相続人が使いこみを働く場合も、対処方法は同じです。
遺産の使いこみをされたときの対処方法
もしも相続人が勝手に遺産を使い込んだら、どのようにして解決すれば良いのでしょうか?以下では、使いこみをされたときの対処方法をご説明します。
使い込んだ相続人に直接請求する方法
まずは、遺産の使いこみを行った相続人に対し、直接遺産の返還を求める方法があります。相手がすんなり使いこみを認めて、使い込んだお金を返還してくれたら問題は解決できます。
しかし、実際にはそう簡単にはいかないことがほとんどです。使いこみをした相続人は、他の相続人から使いこみを指摘されたとき、「使いこみなどしていない」「自分は適切に金銭管理していた」あるいは「自分は金銭管理に関わっていない」などと主張するケースが大多数です。このように、お互いの意見が合致しないので、熾烈なトラブルになり、お互いが強く憎しみ合うことも多いです。
使いこみ問題を話合いで解決しにくい理由
遺産の使いこみ問題は、相続人同士の話し合いによって解決することが非常に難しいです。
それは、以下のような理由によります。
使い込んだ側が「使い込み」を意識していない
1つには、遺産を使い込んだ側の認識の問題です。遺産の使いこみをした場合、使い込んだ本人は「さほど悪いこととは思っていない」ケースが多いです。
「同居しているのだから、このくらい使っても良いだろう」
「親の預金だから少しくらい使わせてもらってもかまわない」
「普段世話をしているんだから、このくらいもらってもまだ足りないくらいだ」
などと考えています。
そのような中、突然「使いこみ」と指摘されると本人としても心外で、一気に壁を作ってしまうのです。
親を放置していた他の相続人に腹を立てている
使いこみをする相続人は、たいてい親と同居して多少の介護などをしているものです。嫁姑問題などを抱えている家庭もあります。そのような場合、同居の相続人は他の独立している相続人に対し、「同居せず、親を放置している無責任な兄弟姉妹」ととらえていることが多いです。
そうなると、そのような相手から「遺産の使いこみ」と言われても、到底納得できません。「お前たちは何もしていないのだから、こちらはこのくらいもらっても良いだろう」と考えるのです。そこで、明らかに遺産を過大に使い込んでいても、開き直って全く返還しない例があります。
使いこみを疑う相続人の疑心暗鬼
遺産の使いこみを疑う相続人の側にも問題があるケースがあります。確かに遺産の使いこみは違法行為ですが、いったん疑い出すと切りが無く「もっと使い込んでいるのではないか」「他にも遺産があったはずではないか」と疑心暗鬼になって、相手に対し「全部開示しろ」「これでは足りない」などと言って高圧的に迫るのです。実際にはもうすべて開示していても、納得することがありません。それでは話を続けられなくなり、決裂してしまいます。
遺産分割調停では解決できない
遺産の使いこみ問題が発覚し、相手と話合いをしても解決できなかった場合には、どのように対応したら良いのでしょうか?
遺産分割調停では遺産の使いこみを解決できない
このとき、多くの方は「遺産分割調停」によって解決しようとします。一般的に、相続人同士が遺産相続問題でもめたら、家庭裁判所で「遺産分割調停」をするものと考えられているからです。
しかし、この考え方は大きな間違いです。遺産の使いこみ問題は、遺産分割によっては解決できません。遺産分割をするためには「遺産の範囲」が確定している必要があるからです。つまり、そのケースで具体的にどのような遺産があるのか、相続人全員に共通認識があることが要求されます。遺産分割は、「確定している遺産を相続人が分け合う」手続きだからです。そもそも遺産の範囲自体に争いがある状態では、遺産分割を進められません。
そこで、遺産の範囲に争いがある状態であれば、家庭裁判所も調停を受け付けてくれません。申立人が「他にも遺産がある」と主張しているならば、裁判所から「まずはその遺産内容を明らかにして下さい」と言われますし、申立人が「相手が遺産内容を開示しないんです」と言ったら「自分で調べるか、遺産の範囲を確定する裁判を起こして解決してから遺産分割調停を申し立てて下さい」と言われます。
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まずは遺産の範囲を確定しなければならない
そこで、遺産の使いこみ問題がある場合には、まずは使いこみがあったかどうか、またどのくらい使い込まれたのか、結果として遺産分割の対象になる財産はどのくらいなのか、事前に確定する必要があります。それが終わってからようやく遺産分割の話に持ち込むことができるのです。
遺産の使いこみへの法的な対抗方法とは
遺産分割調停でも解決できないのであれば、遺産の使いこみに対してはどのような対応をすれば良いのでしょうか?
このとき考えられるのは、不当利得返還請求と不法行為にもとづく損害買収請求です。以下で、それぞれについてご説明します。
不当利得返還請求
不当利得返還請求権とは、法律上の理由なく利得を得た人に対し、損失を受けた人が相手の利得を返還するように求める権利です。たとえば、相手が勝手に宝石を盗んでいった場合、相手は法律上の理由なく宝石という利息を得ています。そこで、宝石を盗まれた人は、窃盗犯に対して不当利得返還請求が可能です。
遺産の使いこみの場合にも、基本的にこれと同じです。使い込んだ相続人は、本来無権利者ですから、法律上の理由なく預貯金などの利得を得ています。そして、被相続人は使い込まれた財産の分の損失を被っています。そこで被相続人は使い込んだ相続人に対し、不当利得返還請求権にもとづいて、使いこんだ財産の返還を求めることができます。
被相続人が死亡すると、不当利得返還請求権もそれぞれの相続人に相続されるので、各相続人が使い込んだ相続人に対し、使い込んだ遺産の返還を求めることができるのです。この場合、1人1人が請求できる金額は、それぞれの法定相続分が限度となります。不当利得返還請求権は、法定相続分に従って分割相続されるからです。
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不法行為に基づく損害賠償請求
次に、不法行為にもとづく損害賠償として使い込んだ遺産を返還させる方法があります。不法行為とは、故意や過失に基づく違法行為です。これによって他者に損害を発生させた場合、不法行為者はその損害を賠償しなければなりません。
遺産の使いこみをした場合、使い込んだ相続人は使い込んだ遺産の分、被相続人に損害を与えています。そこで、被相続人は使い込んだ相続人に対し、不法行為にもとづく損害賠償として、使い込んだ遺産の返還を請求する権利を取得します。これが相続人らに法定相続分に従って相続され、相続人らはそれぞれ自分の法定相続分に従って使い込んだ相続人に財産の返還請求ができるのです。
不当利得と不法行為の違い
遺産の使いこみに対しては、不当利得返還請求と不法行為にもとづく損害賠償請求の2種類の対処方法がありますが、これらにはどのような違いがあるのでしょうか?
大きく変わるのは時効
結果としては、ほとんど同じです。請求できる内容も立証の難易度も、変わりはありません。ただし大きく異なる点が「時効」です。
不当利得返還請求権の時効は、行為時から10年間です。これに対し、不法行為にもとづく損害賠償請求権の時効は、損害発生及び加害者を知ってから3年間です。
遺産の使いこみが比較的最近のことであればどちらでもほとんど違いはありませんが、古い場合には、不当利得返還請求によって責任追及する方が有効になりやすいです。
法的な理由の選択は、神経質にならなくて良い
なお、「不当利得返還請求もしくは不法行為にもとづく損害賠償請求として」というように並列的に請求をたてることもできるので、このあたりの選択についてはあまり神経質になる必要はありません。
遺産の使いこみの証拠
遺産の使いこみを追及したい場合、使い込まれた証拠を集めることが必須です。以下では遺産の使いこみで有効な証拠をご紹介します。
- 預貯金通帳、取引履歴
- 預貯金の解約請求書類
- 生命保険の入金と解約の記録
- 生命保険の解約請求書類
- 不動産売却の記録
- 不動産の全部事項証明書
- 被相続人の当時の状態がわかるカルテや診断書等の医療記録、介護記録
他にも、ケースに応じて個別の証拠が必要となる可能性があります。具体的な必要資料については、弁護士に相談してアドバイスを求めると良いでしょう。
遺産の使いこみの調べ方
遺産の使いこみの証拠を集めるときには、使い込んだ相続人自身に開示請求することが多いのですが、それでは充分な開示を受けられないことがほとんどです。
その場合、銀行預金の残高や取引履歴、証券口座の現状や取引履歴、生命保険の解約書類など、相続人が各機関に照会すれば発行してもらえます。不動産の全部事項証明書については法務局で取得できます。
遺産の使いこみを弁護士に依頼するメリット
遺産の使いこみ問題が発覚したら、弁護士に対応を依頼すると以下のようにメリットが大きいです。
確実に遺産の使いこみを明らかにできる
自分たちで遺産の使いこみを調査しようとすると、銀行などの各機関にいちいち戸籍謄本などの必要書類を提出して、照会手続きをしなければなりません。非常に労力がかかりますし、個人情報保護などの問題があって、各機関がスムーズに回答をしてくれないことも考えられます。
弁護士であれば、「弁護士法23条照会」などの法的な手段を使うことも可能で、より正確に遺産内容や使いこみの状況を明らかにできます。また、調べた結果を「遺産目録」にまとめてくれますし、照会した結果を精査して不審点も洗い出してくれるのでわかりやすいです。弁護士に任せてしまったら、相続人らには何の手間もかかりません。
相手が真剣に対応する
遺産の使いこみの証拠を集めたら、相手との交渉が必要となりますが、相続人が自分たちで追及しても、相手が真剣に対応しないことが多いです。無視されることもあるでしょう。
弁護士に代理で交渉してもらったら、相手も放置しておけないので真剣に対応します。このことにより、遺産が返還される可能性が高くなります。
法的な方法で相手を追及できる
交渉によっては相手が遺産の返還に応じない場合には、不当利得返還請求や不法行為にもとづく損害賠償請求の「訴訟」を起こして相手の責任を追及することができます。こうした訴訟手続きは非常に専門的であり、素人には対応が困難となるので、弁護士に依頼するメリットが大きくなります。
遺産分割の手続きも任せられる
遺産の返還手続が済んで遺産の範囲が確定できたら、遺産分割の手続きをしなければなりません。しかし、遺産の使いこみがあった事案では、引き続いての遺産分割協議や調停でトラブルになる可能性が非常に高いです。
弁護士に依頼していれば、こうした遺産分割の手続きも任せられるので、安心です。
同居していた相続人によって遺産の使いこみがあった場合、相続人同士で熾烈な争いが発生する可能性が高いです。なるべくスムーズに解決するため、早めの段階で相続問題に強い弁護士に相談しましょう。
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