不当利得返還請求とは?相続における問題と対処法、時効について解説

不当利得返還請求とは?相続における問題と対処法、時効について解説

不当利得返還請求とは、不当利得によって損失を受けた側が、不当利得を得た側へ返還請求する制度です。

たとえば、相続財産の使い込み、相続財産であるはずの預金の承認なしでの引き出し、不動産が勝手に処分されたなどが疑われるケースは少なくなく、使い込みによる不当利得を返還請求するには、証拠を集め、話し合いをし、合意できなければ裁判へ進みます。
今回は相続における不当利得返還請求について、返還請求が認められる要件、またその時効や対処法について解説します。

不当利得とは

不当利得とは、正当な理由なしに他人の財産や労務などの損失によって得た利益です。つまり、法的な根拠なしに得た利益のことです。
銀行口座へ間違って振り込みをされたなどの、相手側のミスによる利益についても不当利得となります。

不当利得の代表的な例

クレジットカード・カードローンの過払い金請求

過払い金請求は、利息制限法の制限利率超過部分についての返還請求です。過払い金は貸金業者が法律上の根拠なく得た利益ですから、不当利得に該当します。

給与の過払い分

給与の過払いも不当利得です。給与を支払った側に過失がある場合でも、返還請求できます。

売買契約解除後も未返金のままの代金

代金支払い後、売買契約を解除することがあります。品物を受け取っていない場合や返品済みの場合に契約解除したにも関わらず代金が返金されなければ、その代金は不当利得となります。

不当な相続財産の使い込み

故人の財産を根拠なく使ってしまった場合も、不当利得にあたります。相続財産を勝手に使い込んでしまった場合などです。

一部の相続人による相続財産の使い込みも不当利得

相続財産は、遺産分割協議によって各相続人の相続分が確定するまでは、個人が自由に使うことはできません。そのため、他の相続人に断りなく、被相続人の預金を勝手に引き出すと不当利得とみなされることがあります。
被相続人名義のクレジットカードの使用や、不動産の処分も同様です。

不当利得返還請求とは

不当利得返還請求とは、民法で定められた、不当利得によって損失を受けた側が、不当利得を得た側へ返還請求できる権利のことです。

民法第703条<不当利得の返還義務>

法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
民法 | e-Gov法令検索より引用

相続においては、財産の使い込みなどによって不当利得を得た人に対して、他の相続人が利益の返還を求める例が代表的です。

不当利得返還請求の要件

不当利得返還請求の要件(被相続人の相続財産の使い込みを例に)

不当利得の返還請求を行うには、次の4つの要件をすべて満たしている必要があります。

受益:受益者に利益があった

受益者(利益を得た人)が他人の財産または労務によって利益を受けていることが1つ目の要件です。
相続財産の使い込みの場合は、預金などを引き出したことによって利益を受けています。

損失:他者に損失が発生した

受益者が、他人(不当利得返還請求を行う側)に損失を及ぼしていることが2つ目の要件です。
相続財産の使い込みでは、使い込みにより他の相続人の相続分が減るなどの損失を及ぼしています。

受益と損失の間に因果関係がある

受益者が得た利益と、受益者が他人に及ぼした損失との間に因果関係があることが3つ目の要件です。
受益者が相続財産の使い込みをした結果、他の相続財産が減るなどの損失がでていますから、受益と損失には因果関係があります。

法律上の原因がない

4つ目の要件は、受益者側に法律上の原因がないことです。
法律上何も権限がない一部の相続人が、他の相続人に断りなく勝手に預金を引き出すことなどです。
なお、生前贈与などの契約があり、相続財産を使うことに法律上の権利があれば、不当利得にはなりません。

不当利得返還請求権の時効

不当利得返還請求権には時効があります。消滅時効といって、一定期間が過ぎると返還請求をする権利が消滅してしまいます。

消滅時効は5年、もしくは10年

不当利得返還請求権の消滅時効は、以下のいずれか早いほうです。

  • 相続財産が使い込まれてしまってから10年(客観的起算点)
  • 使い込みをしったときから5年(主観的起算点)

使い込みに気づかないまま10年たつと時効になりますので注意しましょう。

債権の消滅時効の起算点

債権の消滅時効の起算点

国民生活センター資料より抜粋

2020年4月以前の旧民法では原則10年

2020年4月施行の民法改正前は、一般的な消滅時効は10年でした。そのため、2020年4月より前の使い込みについては、主観的起算点は適用されず、消滅時効は10年になります。

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不当利得返還請求の手続き方法

相続財産の使い込みをした人に対する不当利得返還請求をする場合、請求する側が、不当利得があったことを証明しなければなりません。
不当利得返還請求の手続き方法をみていきます。

  1. 証拠の収集
  2. 内容証明による相手方への請求
  3. 相手方との協議
  4. 交渉決裂した場合:不当利得返還請求訴訟

証拠の収集

不当利得があったことの客観的な証拠を集めます。被相続人の通帳や受益者の通帳などです。使い込みの金額や日時がわかるものが証拠になりえます。
しかし、こうした証拠の収集は一般的に難しいものですから、使い込みが疑われる場合には弁護士に早めに相談したほうがよいでしょう。開示請求など、弁護士にしかできない対応がとれるためです。

内容証明による相手方への請求

相手への請求は一般的に内容証明郵便を使用します。相手へ請求を通知した事実を証明できるからです。
また、催告すること(相手に対して一定の行為を要求すること)になるので、消滅時効が6か月の間、完成猶予されます。

民法150条 <催告による時効の完成猶予>

催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
民法 | e-Gov法令検索より引用

相手方との協議

相手方との協議が可能であれば、話し合いでの解決を目指します。不当利得の内容や金額、いくら返還する必要があるのか、返還方法、返還の時期を決めます。

合意ができたら合意書を作成します。公正証書を作成すれば、相手が約束通り返還してくれなかった場合に差し押さえなどで回収できますから、分割払いになる場合でも安心です。

合意書を作成したら、その内容に基づいて返還を受けます。

交渉決裂した場合:不当利得返還請求訴訟

話し合いで合意に至らない場合は、民事訴訟を起こせます。不当利得返還請求訴訟というものですが、実際の手続きは弁護士に相談することをお勧めします。

不当利得返還請求を行う際はまず弁護士に相談を

不当利得返還請求では、証拠集めがポイントとなります。また、協議の進め方や合意書の作成についても専門家のアドバイスがあれば当事者間での話し合いよりもスムーズに交渉がまとまるでしょう。時間のかかる訴訟を避けられる可能性もあります。

不当利得返還請求を検討する際は、早い段階で弁護士に相談するのが得策です。

相続でよくある不当利得の問題

相続は、家族の財産を受け継ぐものということから、さまざまな不当利得の問題が起こりえます。家族の財産と個人の財産を分けて考えられない相続人がいたり、相続財産から生ずる収入の扱いへの理解が足りない場合があるからです。

相続財産の使い込み

相続の不当利得で一番多いのは遺産の使い込みをされてしまうケースでしょう。相続財産は、遺産分割協議が終わって個人の持ち分が確定するまで勝手に使ってはならないものですから、不当利得返還請求の手続きを検討します。
また、使い込みは不法行為(故意または過失によって他人の権利または利益を侵害した)にあたりますので、損害賠償請求を行うこともできます。

不当利得返還請求をするか、不法行為による損害賠償請求をするかは時効や要件の違いなどから判断します。

不法行為の損害賠償請求・消滅時効は3年

不当利得返還請求の消滅時効が5年~10年なのに対し、不法行為の損害賠償請求の消滅時効は3年ですから、不当利得返還請求の消滅時効のほうが長いように見えます。

ただし、不法行為を知ったときから3年ですので、不当利得返還請求の消滅時効が残り少ない時点で使い込みが発覚した場合は損害賠償請求の期限の方が長くなります。

要件も異なりますので、詳細は弁護士に相談しながら進めるとよいでしょう。

賃料収入等の無断受領

相続財産である不動産の賃料を一部の相続人が受け取ってしまうケースもありますが、他の相続人は賃料を受領していた相続人に対し、不当利得返還請求できます。

相続財産である不動産から生じた賃料は、遺産分割が終われば、その不動産を取得した相続人のものになります。
しかし遺産分割協議が終わって遺産分割されるまでの賃料は、分割単独債権として法定相続分に応じて取得するものになります。
つまり、その不動産を取得する予定の相続人だけでなく、すべての法定相続人に受け取る権利があるのです。

相続財産の使い込みに対する対処法

相続財産の使い込みが疑われる場合は、まず本当に使い込みがあるのかを確認しましょう。
銀行口座からの出金であれば、出金の目的や使途を確認します。
意図した使い込みではない可能性もありますし、医療費など、故人のために必要な出金だったかもしれません。

相手が非協力的な場合は弁護士に相談を

相手に直接確認を求めても応じない場合や、信用できない場合は弁護士に相談します。弁護士照会制度を通じて資料の開示を求めることができますし、専門家から法的なアドバイスを受けることにより、話し合いもスムーズに進むことが期待できます。

不当利得返還請求をする場合の注意点

不当利得返還請求では、不当利得があったことを請求する側が証明しなければなりません。請求期限やその他の相続手続きの期限にも注意して進めましょう。

不当利得の証拠集めが重要

不当利得返還請求をする場合、不当利得の証拠をきちんと集められるかが重要なポイントとなります。入出金履歴などは個人で入手するのが難しいため、相手方が協力してくれない場合は弁護士に依頼しましょう。

不当利得が「善意か悪意か」で請求できる範囲が変わる

不当利得返還請求をしても不当利得のすべてが返還されるとは限りません。相手が相続財産を使い込んでしまい、手元に何もなければ、請求できない可能性もあります。
請求範囲が大きく変わることもありますので、相手が「悪意の受益者」であることを証明することはとても重要です。

善意の場合、現存利益を請求する

相手が善意の不当利得者の場合、不当利得により得た利益から、使ってしまった部分を差し引いた残りの利益に対してのみ、請求ができます。

民法第703条(抜粋)

その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
民法 | e-Gov法令検索より引用

「善意の」というのは、不当利得と知らなかったという意味です。
相続財産を自分の財産と混同してしまっていたり、遺産を処分する権限を持っていると勘違いしてしまっていたケースなどです。

悪意の場合、利息を含む全額返還を請求できる

一方、相手が悪意の受益者の場合は、不当利得全額プラス利息(法定利率)を請求できます。

「悪意の」というのは、不当利得と知っていたという意味です。

受益者が第三者に損失を与える不当利得であることを知っていて利益を得ていた場合は、利息含め全額の返還を請求することができます。

民法第704条

悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
民法 | e-Gov法令検索より引用

争いがある場合も、相続税の申告期限は忘れずに

不当利得について争いがあり、遺産分割協議が進んでいない場合も、相続税の申告期限は変わりません。相続税の申告が必要なケースでは申告期限にも注意しましょう。

相続税の申告期限は10ヶ月ですが、期限までに遺産分割が終わらない場合は未分割のまま、法定相続分で相続したと仮定した申告をします。
相続税軽減のための特例適用には「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出が必要になるなど、手続きが煩雑になりますので、詳しくは弁護士や税理士にご相談ください。

まとめ

不当利得返還請求は弁護士に相談を

相続財産の使い込みなど、相続手続きの中で不当利得が疑われる場面は少なくありません。
また、不当利得があったことを証明するための証拠集めは困難なものです。

不当利得が疑わしいものの、どのように証拠を集めて立証すればいいかわからない・親族同士の話し合いで解決しない場合は、適切な遺産分割を行うためにも弁護士へのご相談をおすすめします。

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