死後離婚とは?メリット・デメリットや遺産相続・遺族年金への影響について解説

死後離婚とは?メリット・デメリットや遺産相続・遺族年金への影響

配偶者の死後、義理の家族との関係を断ちたいと願う人もいます。そんな時、選択肢となるのが「死後離婚」です。この記事では、死後離婚の意義やメリット・デメリット、さらには相続や家族関係への影響について詳しく解説します。

死後離婚とは

死後離婚とは、配偶者が亡くなった後に、姻族(配偶者の血族である義父母や義理の兄弟姉妹)との親族関係を終わらせる手続きです。

人によっては、義両親との折り合いが悪いなどの理由から、配偶者が亡くなった後まで義理の両親や兄弟姉妹とお付き合いしたくないと考えることもあるかもしれません。
しかし、配偶者と離婚した場合とは違い、配偶者と死別した場合は配偶者の死後も配偶者の家族との親族関係が続きます。

このようなケースで公的に親族関係を断ち切るには、死後離婚の手続きが別途必要です。
死後離婚の手続きは役所に「姻族関係終了届」を提出して行います。

この届出により親族関係が終了し、義理の家族との親族付き合いから解放されます。

ピーク越えるも横ばい続く死後離婚

「姻族関係終了届」届出件数
死後離婚の手続きを取る方は特に2010年代から増加傾向にあり、令和に入ってからも高い水準で推移しています。
死後離婚が増加している背景には、義理の親の介護への懸念や人間関係の悪化などがあると考えられます。

法務省の戸籍統計「戸籍統計年計表 種類別 届出事件数」によると、死後離婚の件数は平成14年度(2002年)~16年度(2004年)に年間1700件程度、平成24年度(2012年)~26年度(2014年)には年間2,200件程度で推移していましたが、その後増加。平成28年度(2016年)~30年度(2020年)には年間4,000件を超える届出がありました。
その後、近年は件数が減少したものの、年間約3,000件を維持しており、以前に比べると高い水準で推移していることが伺えます。

特に、上の世代では、夫と死別した妻に「嫁だから」という理由で義両親の世話や介護を負担させる風潮が根強く残ります。このような状況への反発が、死後離婚を選ぶ人の増加につながっているという見方もあります。

死後離婚のメリット

死後離婚には、残された配偶者の精神的、経済的、社会的な負担を軽減してくれるというメリットがあります。
以下、これらのメリットについて具体的に解説します。

義理の両親の介護・扶養義務がなくなる

日本の法律では、配偶者が亡くなった後もその配偶者の親や兄弟姉妹との法的な親族関係が続くため、介護や金銭的な援助を求められる可能性があります。
しかし、死後離婚を行うことで、これらの義務から解放される可能性があります。このことは、特に高齢化が進み介護による負担が重くなりがちな現代社会において、精神的な負担の軽減につながります。

義理の親との同居を解消できる

残された妻(夫)にとって、義両親との同居がストレスの原因となることは少なくありませんが、すでに義両親と同居している場合、配偶者との死別後も同居が続くことがあります。死後離婚は法的な親族関係が終了することから、同居を解消しやすくなるというメリットがあります。
これにより、残された妻(夫)は新しい生活をスタートすることが可能になります。

配偶者家族との関わりを断てる

配偶者の家族との間がうまくいっていない場合、配偶者の死後もその関係が続くことは大きな精神的負担となります。
しかし、死後離婚を利用すれば、親族関係から法的に離脱できます。仲の悪い親族と法的に縁を切ることは、心の平穏を取り戻すことに役立ちます。

墓の管理や祭祀を行う責任を免れられる

日本の場合、配偶者が亡くなった後、お墓や仏壇の管理や祭祀の責任が残された妻(夫)が行うのが一般的です。特に、日本のお墓や仏壇は家族単位で管理されることも多く、特に伝統的な慣習が根強く残っている家庭の場合、夫の一族代々の墓に妻が入るケースも珍しくありません。

さらに、夫が死んで妻が残された場合、妻が夫一族の墓の管理や法事などの負担を負うことになる可能性もあります。これらの墓の管理や祭祀の責任は残された妻にとって、精神的、経済的な負担となるおそれがあるものです。しかし、死後離婚をすれば、これらの責任から免れることができます。

夫との関係の精神的な区切りになる

夫婦関係が良好でなかった場合、死後離婚をすることで配偶者との関係に精神的な区切りをつけることができます。
法事をはじめ義実家や配偶者関係のイベントにも参加しなくてよくなるため、精神的なストレスが減るという方もいるかもしれません。

再婚時の姻族関係をシンプルにできる

死別の場合、死後離婚をしなくても再婚すること自体は可能です。
ただし、死後離婚を行わずに再婚した場合、新たな配偶者との姻族関係が生じる一方で、前の配偶者との姻族関係も継続します。これにより、法的には2つの姻族関係が存在することになります。

死後離婚をすれば、姻族関係を1つに整理することができます。
再婚後の親族関係が複雑になるのを避けたい場合、死後離婚には一定のメリットがあるといえるでしょう。

死後離婚のデメリット

メリットばかりのように見える死後離婚ですが、デメリットもあります。

死後離婚は取り消しできない

死後離婚を行うと親族関係が終了しますが、一度終了した親族関係を再び復活させることはできません。後悔しても元に戻すことは不可能ですので、死後離婚をしたいという場合は慎重な検討が不可欠といえます。

配偶者の墓参り・法要に参加しづらくなる

死後離婚を行うと、配偶者の家族との親族関係が終了するため、配偶者の墓参りや法要に参加することが社会的・心理的に困難になるリスクがあります。これは、夫婦関係がよかった人や配偶者との間に子どもがいる人にとっては大きなデメリットとなる可能性があります。
配偶者や義両親と同じ墓に入りたくないというだけであれば、わざわざ死後離婚をする必要はありません。その後の墓参りや法要のことも考えて決断することをおすすめします。

子どもと関係悪化のおそれがある

死後離婚は、配偶者の家族との関係を終了させますが、子どもにとっては祖父母やその他の親族との関係が変わるわけではありません。
しかし、死後離婚によって親族関係が終了したことが原因で、自分の親と祖父母その他の親族との関係が疎遠になります。

子どもと配偶者家族の関係が良好なものだった場合、親が死後離婚をしたことに悪い感情を抱く可能性も否定できません。
親子関係を悪化させないためにも、死後離婚を希望するのであれば事前に子どもの理解を得ることをおすすめします。

死後離婚による相続・年金・生活への影響

死後離婚はあくまでも配偶者の親族との関係を終了させる手続きであり、亡くなった配偶者との関係には変化がありません。
そのため、通常の離婚よりも生活への影響は少ない傾向があります。

配偶者の相続財産は変わらず相続できる

死後離婚をしても、相続には影響がありません。
残された妻(夫)は変わらず、「配偶者」として、亡くなった配偶者の法定相続人になります。死後離婚の手続きを行った後でも遺産を相続することが可能です。

遺族年金も影響なく受け取れる

死後離婚が遺族年金の受給資格に影響を与えることはありません。死後離婚は配偶者との関係に影響を与えるものではないからです。
遺族年金は、配偶者との婚姻関係に基づいて支給されるものであるため、死後離婚を行っても受給資格は維持されます。

死後離婚しても戸籍は変わらない

死後離婚をしても、戸籍は変わりません。戸籍上は配偶者と同じ戸籍に入り続けることになります。

死後離婚後に旧姓に戻りたい場合、姻族関係終了届とは別に復氏届を提出すれば婚姻前の姓に戻すことが可能です。

子の姓も変たいなら「子の氏の変更許可申立書」を提出し新しい戸籍を作る

ただし、復氏届を出し、自分が元の姓に戻ったとしても、子どもの姓・戸籍は亡くなった夫の姓・戸籍に入ったままです。

子どもの姓と戸籍を変更する場合は、別途家庭裁判所などでの手続き、具体的には「子の氏の変更許可申立書」を提出する必要があります。
この場合も、自分が婚姻前の戸籍=親の入る戸籍に子どもを組み入れることはできないため、自分と子どもが入る新たな戸籍を作ることになります。

子どもと義理両親の血縁関係は続く

死後離婚で断ち切ることができるのは、妻(夫)と配偶者の親族関係のみです。
子どもと亡くなった配偶者の親族(子どもにとっての祖父母やおじおばなど)との親族関係は続きます。

祭祀承継については話し合いが必要

お墓や仏壇といった祭祀財産は、通常の相続財産とは別に扱われます。

死別の場合は残された妻(夫)が祭祀承継者になるケースも多いですが、他の人を祭祀承継者にすることも可能です。
祭祀財産を妻(夫)がいったん承継した後に死後離婚をする場合は、配偶者の親族と話し合い、新たに祭祀承継者を定める必要があります。

死後離婚をしたからといって、祭祀承継者を自動的にやめられるわけではありません。

死後離婚の手続き

死後離婚の手続きは、届出人の本籍地または住所地の市町村役場に所定の書類を提出して行います。

必要書類の準備

死後離婚を行うためには、「姻族関係終了届」を提出する必要があります。この届出に必要な書類は以下の通りです。

  • 姻族関係終了届
  • 戸籍全部事項証明書(提出先が本籍地の場合は不要)
  • 届出人の印鑑
  • 本人確認書類(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)

なお、姻族関係終了届は、各市町村役場に備え付けられているほか、自治体によっては公式Webサイトからダウンロードすることも可能です。

市区町村役場に提出

準備した書類を持って、届出人の本籍地または住所地の市区町村役場に提出します。
提出時には、届出人の印鑑と本人確認書類が必要になります。提出後、姻族関係終了届が受理されると、法的に配偶者の親族との関係が終了します。

なお、提出のタイミングは、配偶者の死亡後であればいつでも可能です。

死後離婚の注意点

メリットも多い死後離婚ですが、手続きをしたことが公的な記録に残る、子どもと義両親との親族関係は切れないといった特徴から、実際に手続きをするにあたっては注意事項も存在します。

義両親・家族に死後離婚を隠し切ることはできない

死後離婚を行うと、義理の家族や親族との関係が法的に終了しますが、この事実は隠し通せるものではありません。

市区町村役場に「姻族関係終了届」を提出すると、戸籍上の記録が変更され、関係が終了したことが公的に記録されます。そのため、戸籍を見れば死後離婚をしたことはバレます。
義理の家族や親族がこの情報にアクセスする可能性がある以上、完全に死後離婚を隠し通すことは難しいでしょう。

死後離婚しても相続放棄したことにはならない

死後離婚を行っても、相続権そのものには影響しません。つまり、配偶者としての遺産相続権を保持します。

死後離婚は、配偶者の親族との法的な関係を終了させるものであり、相続権自体を放棄するものではありません。

配偶者に借金があるなどの事情で相続放棄を希望する場合は、別途相続放棄の手続を行う必要があります。

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子どもには事前の了解を取るのが好ましい

配偶者との間に子どもがいる場合、その子どもの意見や感情を尊重することが重要です。

子どもにとって、親の一方が亡くなった後の家族関係の変化は精神的なストレスになる可能性があります。祖父母やおじおばと疎遠になることで、傷つく子どももいるかもしれません。

死後離婚を希望する場合は事前に子どもと十分に話し合い、理解を得ることが望ましいといえるでしょう。

死後離婚後も、親族と顔を合わせる機会は起こり得る

死後離婚を行っても、将来的に子どものことや法事などで義理の家族や親族と顔を合わせる機会は発生しえます。

特に子どもがいる場合、子どもの成長に伴うイベントや式典などで義理の家族と接触することが避けられない場合もあります。

一度行った死後離婚は取り消せません。死後離婚を進める際には、将来的に義理の家族や親族とどのように関わっていくかを慎重に考える必要があります。

まとめ

死後離婚には、義理の親との介護や同居からの解放、配偶者家族との関わりの断絶などのメリットがある一方、取り消し不可能である、配偶者の墓参りや法要への参加が困難になるなどのデメリットもあります。
また、別途相続の問題がある場合は、死後離婚では対応できないため、相続関係の諸手続きも必要です。
そのため、死後離婚の手続きを検討する際には、専門的な知識が不可欠です。

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