死因贈与とは?遺贈との違いと死因贈与を選ぶメリット・デメリット
死因贈与とは、贈与者の死亡時にその財産を受贈者に贈与することを約束する契約を結ぶこと、および、その契約に基づいて、贈与者の没後に受贈者に対して財産移転を進めることを指す法律用語です。
死因贈与と混同しやすい法律用語として遺贈があります。遺贈とは、遺言書での指示により遺産の一部または全部を特定の人・団体などに贈ることを指す言葉です。基本的に、財産を法定相続人に引き継ぐ場合は相続となりますが、遺贈は法定相続人だけではなく、被相続人が指定した法定相続人以外の人・団体に送ることも可能です。
死因贈与と遺贈は、どちらも死亡時に贈与が成立するという点では共通していますが、それ以外には大きな違いがあります。この記事では、死因贈与と遺贈の違いや、死因贈与のメリット・デメリット、注意すべきポイントについて解説します。
死因贈与とは
死因贈与(しいんぞうよ)とは、自分の死後に特定の人に財産を渡すことを生前に約束する契約のことです。この契約は、贈与者(財産を渡す人)と受贈者(財産を受け取る人)の合意が必要で、贈与者が死亡するまで効力は発生しません。贈与者が死亡したときに、贈与者の財産の一部として受贈者に移転することになります。
このような契約は、贈与という法律行為の一種として民法に規定されています(民法第554条)。贈与者の死亡後に財産移転する死因贈与と対照的に、贈与者が生きている間に財産を渡すことは生前贈与といいます。
死因贈与は贈与税ではなく相続税の対象
なお死因贈与には「贈与」という名前がついていますが、相続税がかかります。
死因贈与と遺贈の違い
死因贈与と遺贈の違いは、主に以下のようにまとめられます。
死因贈与は双方の合意が前提
死因贈与は、贈与者と受贈者の双方が贈与の意思を持っていることが必要です。
つまり、贈与者が一方的に贈与の意思を示しても、受贈者がそれを受け入れなければ、死因贈与は成立しません。また、受贈者が贈与を受け取る意思を持っていても、贈与者がそれを承諾しなければ、死因贈与は成立しません。
一方、遺贈は、遺言者の一方的な意思で成立します。
遺言者が遺言書に遺贈の内容を記載しておけば、遺贈は有効です。(※遺贈されるのが実際に遺言者の財産である場合。)受遺者が遺贈を受け入れるかどうかは、遺贈の成立自体には影響しません。
死因贈与に書面は必須ではない
死因贈与は、書面での契約が必須ではありません。口頭での約束でも、死因贈与の当事者以外の人が契約の有効性を証明できれば、死因贈与は成立します。口約束による死因贈与は、証拠として弱く、トラブルの原因になりやすいため、おすすめはできないものの、成立させることは可能です。
一方で、遺贈は遺言書による遺言者の意思表示が必須です。
死因贈与は撤回できない場合がある
遺贈は、撤回することが可能です。遺言者は、いつでも遺言書を破棄したり、新しい遺言書を作成したりすることで、遺贈を変更したり、取り消したりすることができます。
もう一方の死因贈与についても、民法554条にて遺贈の規程を準用することになっています。
そのため、遺贈と同様、死因贈与も基本的には贈与者が死亡するまでの間(死因贈与の効力が発生する前まで)は撤回することが可能です。
ただし、負担付死因贈与の場合は例外です。
負担付死因贈与とは、贈与者が受贈者に対して何らかの負担を課すことを条件とした死因贈与のことです。
例えば、贈与者が受贈者に「家を贈与する代わりに、残った住宅ローンを払ってほしい」という負担を課した場合などが負担付死因贈与にあたります。
負担付死因贈与の場合、受贈者が負担を履行した時点で、贈与者は死因贈与を撤回できなくなります。
死因贈与は18歳以上の年齢制限あり
死因贈与は、贈与者と受贈者の双方が18歳以上であることが必要です。死因贈与は契約行為であるため、贈与者・受贈者の双方が成年年齢に達していることが前提となり、未成年者は、死因贈与をすることも、受けることもできません。
一方、遺贈は、契約行為ではないため、15歳以上であれば遺贈することが可能です。遺贈を受け取る側である受遺者に年齢は関係なく、何歳でも遺贈を受け取ることができます。
死因贈与は生前の仮登記が可能
死因贈与は、不動産や自動車などの登記が必要な財産を贈与する場合、生前に始期付所有権移転仮登記をすることができます。
始期付所有権移転仮登記とは、贈与者が死亡したときに所有権が受贈者に移転することを登記所に予告する、効力発生始期の条件をともなう仮登記のことです。始期付所有権移転仮登記をすることで、贈与者の死亡時に、受贈者の所有権を明確に確保することができます。
一方で遺贈は、遺言書に基づいて受遺者の所有権を確定するものであるため、遺言書がまだ効力を持たない生前での仮登記はできません。
死因贈与の本手続き時は相続人全員での所有権移転登記が必要
贈与者が死亡し死因贈与の効力が発生、本登記の手続きを行う際は、贈与者の相続人全員で所有権移転登記をする必要があります。相続人全員の同意が得られない場合、受贈者への所有権移転登記は進みません。
ただし、もともとの契約の中で死因贈与契約の執行者を定めておけば、執行者・受贈者だけで本登記することもできます。贈与者が同意すれば、受贈者本人を執行者とすることで、1人で本登記を進めることも可能です。
遺贈の場合、遺言執行者を定めておくことで、受贈者と遺言執行者で所有権移転登記を行うことができます。
税金は遺贈が有利
死因贈与、遺贈どちらの場合でも、土地や建物といった不動産を贈与する場合、登録免許税・不動産取得税が発生します。
税金 | 受取人種別 | 遺贈 | 死因贈与 |
---|---|---|---|
登録免許税 | 法定相続人 | 0.4% | 2.0% |
法定相続人以外 | 2.0% | ||
不動産所得税 | 法定相続人 | 非課税(0%) | 4.0% |
法定相続人以外 | 4.0% |
遺贈が法定相続人とそれ以外で税率が分かれており、法定相続人は低税率で済むようになっている一方、死因贈与は登録免許税2.0%・不動産取得税4.0%と、法定相続人である・ないに関わらず一律の税率が設定されています。
税金の面では、遺贈の方が死因贈与よりも有利と言えるでしょう。
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死因贈与のメリット
死因贈与を利用するメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
贈与を受ける権利を守りやすい
死因贈与は、贈与者と受贈者の両者間で結ぶ契約行為です。財産を与える側・受け取る側 双方の意志が確認されている前提となるため、効力が発生する贈与者死亡のタイミングで、贈与者からすると確実に財産を渡すことができる、受贈者からすると確実に財産を受け取ることができます。
贈与者側に撤回する意志がある場合、死因贈与の契約を撤回することも一定の条件を満たせば可能ですが、贈与対象が不動産の場合は始期付所有権移転仮登記を行うことで受贈者との合意なしには撤回しづらい状態にしておくこともできます。
一方で、遺贈の場合は、贈与者が遺言書で一方的に財産を提供する単独行為であるため、受贈者は受取りを拒否することが可能です。死因贈与では、契約の効力発生後の受け取り拒否は認められません。
負担付死因贈与なら遺産贈与に条件を付けられる
負担付き死因贈与であれば、贈与に対してなにかしらの条件を付けることができます。
負担付き死因贈与の場合、受贈者が条件に定められた負担を負い、履行することで死因贈与が認められます。
死因贈与に自身の介護、住宅ローンの負担引き継ぎ、事業承継などの条件をつけることで、贈与者が自ら立てた生前中~死後にかけた財産管理・生活設計のプランを成立させることができます。
もちろん遺贈においても、遺産の贈与に対して条件を設定することはできます。ただし、条件に納得できない場合、遺贈は受贈者側が拒否することも可能で、負担の履行を確約させることはできません。
口頭での約束でも契約できる
死因贈与の契約について明確なやり方についての規程はなく、極端に言うと口頭での約束でも契約できる点はメリットとも言えるでしょう。
遺贈の場合、遺言書での指示が前提となるため、書式の不備や書き漏れなどを理由に遺贈が認められないケースもありえます。
死因贈与では厳密に書面が必須ではないため、契約の存在を立証さえできれば、死因贈与が否認される事態にはならないでしょう。
とはいえ、死因贈与に関する口約束を、第三者に立証するのは決して簡単ではありません。
そのため、実際に死因贈与契約を結ぶ際は正しく契約書を準備することをおすすめします。贈与者・受贈者の両者で、公正証書で契約書を作成することで、死因贈与があった事実を証明する力は確実に高まります。
死因贈与のデメリット
死因贈与のメリットに続いて、デメリットも見ていきましょう。
書面がない場合、相続人とトラブルになりやすい
死因贈与は書面に残さなくても成立しますが、書面がないと、死因贈与の存在や内容を証明することが難しくなります。
そのため、後年、死因贈与契約の有無や内容をめぐって贈与者と受贈者の間で紛争が起きたり、他の相続人が死因贈与を認めもらえないなど、トラブルにつながる可能性が高まります。
死因贈与は、相続人の立場からすれば、自分たちが相続するはずの財産が減少することになります。そのため、「死因贈与があった」という受贈者からのあいまいな証言・主張だけで相続人に了解が取れることは通常ありません。
相続人とのトラブルを避けるためには、死因贈与に関する契約書を作成しておくことが重要です。契約書があれば、死因贈与の契約があった事実の証明となります。
なお、遺贈の場合は、死因贈与と異なり必ず遺言書によって贈与先の指定が行われます。検認などにより遺言書が無効・偽造、変造でないことさえ確認できれば、相続人からも比較的スムーズに贈与を認めてもらえるでしょう。
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贈与の内容を秘密にできない
死因贈与は、贈与者と受贈者との間で結ぶひとつの契約行為です。贈与の内容を両者が正しく把握することは、契約を締結する上での大前提となります。
贈与者の方が、なにかしらの理由から贈与する内容を秘密にしておきたい場合、死因贈与は利用に向きません。
遺言書による遺贈であれば、贈与する内容を秘密にしたまま受贈者への贈与を図ることができますが、受贈者に受取を拒否されるリスクは残ります。
負担付死因贈与は負担が履行されると撤回できない
負担付死因贈与の場合、受贈者が負担を履行した時点で、贈与者の死亡前でも死因贈与を撤回できなくなります。
もし、贈与者が死因贈与の契約を結んだことを生前中に後悔したり、受贈者と仲違いした場合でも、死因贈与は取り消しできません。
遺留分の対象として認められる
死因贈与は、遺留分の対象となります。遺留分とは、法定相続人が受け取る権利を持つ最低限の財産のことです。
もし受贈者が死因贈与で受け取った財産の金額が、相続人が本来受け取れるはずの財産分に割り込む程の多額だった場合、受贈者は死因贈与により法定相続人の遺留分を侵害した状態となります。
このように遺留分侵害が発覚した場合、受贈者は法定相続人から、彼らが本来受け取れるはずだった財産分を請求される可能性があります。(遺留分侵害額請求)
裁判所により法定相続人からの遺留分侵害額請求が正当と認められた場合、受贈者は、遺留分侵害額に相当する金銭を、法定相続人に対して支払う必要があります。
死因贈与する場合に注意すべきポイント
死因贈与をする場合には、以下のようなポイントに注意する必要があります。
贈与契約書を公正証書で作成する
死因贈与をする場合には、贈与契約書を公正証書で作成することがおすすめです。
公正証書とは、公証人が作成する法的に強い証拠力を持つ書類です。公正証書で作成した贈与契約書は、死因贈与の内容を明確にし、贈与者および受贈者の権利を適切に保護できます。
公正証書の作成には、贈与者と受贈者の双方が公証役場に出向き、公証人の立会いのもとで、贈与契約書に署名・捺印する必要があります。
公正証書の作成にかかる費用は、贈与する財産の価額によっても異なるため、詳しくはお近くの弁護士までご相談ください。
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不動産の死因贈与では執行者を指定しておく
死因贈与で受け取る財産が不動産である場合は、死因贈与の契約書で執行者を指定しておくことが重要です。
執行者を指定しておけば、不動産の登記は執行者と受贈者の2人だけで進めることができます。執行者を受贈者自身で指定して、1人で進めることも可能です。
執行者を指定しない場合、不動産の登記には贈与者の相続人全員の同意・協力が必要になります。
死因贈与には、本来法定相続人が受け取れるであろう財産が減るという側面もあり、全相続人への説明を進めるとなると登記手続きが遅くなったり、説明の過程でトラブルとなるリスクも抱えることになります。
不動産の死因贈与では、執行者を指定しておくことで、登記の手続きをスムーズに進めることができます。
遺留分に配慮した内容にする
死因贈与をする場合は、贈与者・受贈者で話し合いの上、法定相続人に認められる遺留分に十分配慮した内容にしましょう。
具体的には
- 死因贈与による贈与額を、遺産全体に対して遺留分侵害にならない範囲内の金額で抑える
- 贈与者の相続人に、死因贈与を行う理由と贈与する内容を説明し、同意を得る
などの対応が必要となるでしょう。
死因贈与は、遺留分の対象として認められるため、もし死因贈与が遺留分を侵害した場合、受贈者は法定相続人から遺留分侵害額請求を受けるおそれがあります。
死因贈与で贈る財産は、あらかじめ遺留分に配慮した金額とし、なぜ死因贈与を行うのか、なにを贈与するのか、その主旨・意図を贈与者からきちんと相続人へと伝えておくことが、贈与者の死後の相続トラブルを防ぐことにつながります。
まとめ
死因贈与は、贈与者から受贈者に対して、自分の死後に財産を渡すことを生前に約束する契約です。目的に沿った適切な内容・方法で死因贈与の準備を進めることで、通常の法定相続では実現できない、贈与者の意図や想いに合った財産の残し方が可能となります。一方で、よく考えないまま死因贈与の契約を結んでしまうと、贈与者の死後、受贈者と相続人の間でトラブルの要因となります。
相続人あるいは財産を残したい第三者や団体への死因贈与を検討する際は、相続実務に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、ご相談者の想いをふまえ、死因贈与のメリット・デメリットを分かりやすく説明し、適切な贈与契約書の作成・不動産の仮登記・本登記の手続きも見据え、多岐にわたるサポートを受けられます。
死因贈与をご検討中の方は、まずお近くの弁護士までご相談ください。
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