通勤中の交通事故の対処法|どこまでが通勤?労災と自賠責の補償の使い分け

通勤中の交通事故でけがをした場合、補償は労災保険と相手方の保険の両方から受け取るのが基本です。治療費と休業中の収入は労災から受け取り、慰謝料や車の修理代は相手方の保険会社へ請求します。
労災を使えるのは正社員だけではなく、パートやアルバイトも対象です。
本記事では、補償の受け取り先の分け方と労災を使わないと損をするケース、どこまでが通勤と認められるか、会社への報告と労災の手続き、示談で気をつける点を解説します。
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通勤中の交通事故は労災と相手方の保険の両方から補償を受ける
通勤中の交通事故によるけがは、労災保険の通勤災害にあたり、労災から補償を受けられます。一方、慰謝料と車の修理代は労災の対象外のため、相手方の保険会社への請求はいずれにしても必要です。
そのうえで労災も使うと、相手方の保険だけで済ませるより受け取れる総額が増える場合があります。仕事を4日以上休んだ場合は休業特別支給金(収入の2割)が上乗せされ、被害者側にも過失がある場合は、過失の分だけ減る相手方からの賠償を労災が補うためです。
労災は、被害者が労働基準監督署へ請求書を出して受け取るもので、相手方の保険会社と交渉する必要はありません。
補償の項目ごとの受け取り先は次のとおりです。
| 補償の項目 | 受け取り先 | ポイント |
|---|---|---|
| 治療費 | 労災 | 労災指定の病院なら窓口での支払いがない |
| 休業中の収入 | 労災と相手方の両方 | 労災から収入の8割、相手方から休業損害のうち労災の休業給付(6割分)を除いた残り |
| 慰謝料 | 相手方の保険会社 | 労災からは支払われない |
| 車の修理代 | 相手方の保険会社 | 労災の対象外 |
治療費は労災から受け取る
労災から受け取る治療費の給付を療養給付といいます。診察・薬・手術・入院など、通勤中のけがの治療に必要な費用が対象で、症状が安定して治療を続けても改善が見込めない状態(症状固定)になるまで受け取れます。
労災指定の病院なら窓口で治療費を払わずに済む
労災病院や、労働局が指定した病院・診療所(労災保険指定医療機関)で治療を受ける場合、被害者は病院に療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)を出します。治療費は労災から病院へ直接支払われるため、被害者が窓口で立て替える必要はありません。
指定を受けていない病院では、いったん被害者が治療費を払い、後から療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5)で労働基準監督署へ請求します。
なお、通勤災害の療養給付では、通常は200円の一部負担金がかかり、休業給付から差し引かれます。相手方に賠償責任がある交通事故(第三者行為災害)の場合、この200円の一部負担金は不要です。
休業中の収入は労災と相手方の両方から受け取る
けがで仕事を休み、給料が出ない日について、被害者は労災から休業給付を受け取れます。また、事故で減った収入は休業損害として相手方にも請求できます。
労災と相手方のどちらから、いつの分を、どれだけ受け取るかの目安は次のとおりです。
労災からは収入の8割が出る
労災の休業給付は、休業4日目から、1日あたり給付基礎日額の60%が支給されます。給付基礎日額は、原則として事故の直前3か月間に支払われた賃金の総額を、3か月間の暦日数で割った1日あたりの金額です。ボーナスは計算から除きます。
休業給付とあわせて、休業特別支給金として給付基礎日額の20%も支給されます。休業給付の60%と休業特別支給金の20%を合わせた収入の8割が、労災から受け取れる額の目安です。
相手方からの賠償と合わせると収入の120%相当になる
相手方に請求できる休業損害は、事故で減った収入の全額です。ただし、労災から受け取った休業給付(給付基礎日額の60%分)は相手方の賠償と同じ損害を補うものなので、相手方の保険会社は、労災から実際に支払われた休業給付の額を休業損害から差し引いて支払います。
一方、休業特別支給金の20%は差し引かれません。最高裁判所も、特別支給金を損害賠償の額から差し引くことはできないと判断しています(最高裁判所平成8年2月23日判決・平成6年(オ)第992号)。
その結果、相手方の過失が100%の事故では、労災から収入の8割、相手方からは休業損害のうち休業給付の額を差し引いた残りを受け取り、合計はおおむね収入の120%相当になります。労災の給付基礎日額は事故前3か月の賃金を暦日数で割った額のため、実際の収入との間に差が出ることがあり、120%はあくまで目安です。
なお、相手方から先に休業損害を全額受け取った場合でも、休業特別支給金の20%は労災へ請求できます。
出典元:最高裁判所 平成8年2月23日判決(平成6年(オ)第992号)
休業の最初の3日分は相手方へ請求する
労災の休業給付は4日目から支給され、最初の3日間(待期期間)は支給されません。仕事中のけがであれば、最初の3日間は会社が労働基準法に基づいて休業補償を支払います。通勤中のけがの場合、会社にはこの3日間を補償する義務がありません。
最初の3日分の減収は、相手方への休業損害として請求しましょう。有給休暇を使って休んだ日は給料が出ているため労災の休業給付は出ませんが、相手方へは休業損害として請求できます。
休業損害の計算方法は、次の記事で詳しく解説しています。
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慰謝料は相手方の保険会社へ請求する
慰謝料は、事故によるけがの痛みや入院・通院の負担など、精神的な苦痛に対する賠償です。被害者は、相手方が加入する自賠責保険と任意保険へ慰謝料を請求します。
慰謝料の金額は、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判基準)のどれで計算するかで大きく変わり、弁護士基準で計算した額が最も高くなります。
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慰謝料は労災からは支払われない
労災保険の給付は治療費・休業・障害・遺族などの項目に限られ、慰謝料にあたる給付はありません。労災から治療費と休業の補償を受けていても、慰謝料は別に相手方へ請求する必要があります。
労災の給付と慰謝料は重ならないため、労災を使うことで慰謝料を減額されることはありません。
労災と相手方から同じ費用の二重受け取りはできない
同じ治療費や同じ日の休業を、労災と相手方の両方から重ねて受け取ることはできません。労災から治療費を受け取った場合、相手方の保険会社が被害者に支払う治療費は、労災から受け取った分だけ減ります。労災が支払った分は、国が後から相手方へ請求します。
二重に受け取れないのは、治療費や休業給付(収入の60%)のように、労災と相手方で項目が重なる部分です。労災が上乗せする休業特別支給金(収入の20%)と労災が給付しない慰謝料については両者で重なることがないため、被害者はどちらも受け取りが可能です。
通勤中の交通事故で労災を使わないと損をするケース
相手方の保険だけでも補償は受けられますが、労災を使えば、休業4日目以降は休業特別支給金(収入の2割)が上乗せされます。次の3つのケースでは、労災を使うかどうかで受け取れる額の差がさらに大きくなります。
被害者側にも過失がある場合
被害者側の過失で相手方からの賠償が減る事故では、労災を使うと、被害者が最終的に受け取れる総額が増えることがあります。相手方からの賠償は被害者側の過失の割合の分だけ減りますが(過失相殺)、労災の給付は、重大な過失がある場合を除き、被害者に過失があっても減らないためです。
たとえば過失割合が相手方8対被害者2で、損害が治療費100万円とそのほかの損害200万円の合計300万円の事故では、相手方の保険だけを使うと、受け取れる額は300万円の8割の240万円です。治療費100万円を労災から受け取った場合、相手方からはそのほかの損害200万円の8割の160万円を受け取り、合計は260万円になります。
この例で受け取る総額が増えるのは、治療費を労災から受け取るためです。相手方の保険会社が先に治療費を病院へ支払うと、労災は同じ治療費を重ねて支給しないため、治療の初めから病院に労災を使うと伝えておきましょう。
相手方が任意保険に入っていない場合
相手方が自賠責保険にしか入っていない場合、けがの補償は自賠責保険の上限である120万円までです(傷害による損害の場合)。120万円には治療費・休業損害・慰謝料などがすべて含まれます。上限を超えた分は相手方本人に請求するしかなく、相手方に支払う資力がなければ回収できません。
労災の治療費と休業の補償には、自賠責保険の120万円のような総額の上限がないため、治療や休業が長引いても労災から受け取り続けられます。慰謝料は労災から支払われないため、別途、自賠責保険などへ請求します。
治療や休業が長引きそうな場合
相手方の保険会社は、治療開始から一定の期間がたった時点で、治療費の支払いを打ち切ると伝えてくることがあります。労災の療養給付(治療費の給付)は、主治医の意見をもとに労働基準監督署が症状固定と判断するまで続くため、打ち切りを告げられた後も、被害者は労災を使って治療を続けられます。休業給付(休業中の収入の補償)も、けがの治療のために働けない状態が続く間は支給が続く点は同じです。
治療や休業が長引きそうなときは、早めに会社へ事故を報告し、労災の請求を始めましょう。
交通事故が通勤中と認められる移動
通勤とは、労働者が仕事のために、住居と職場の間などを合理的な経路と方法で移動することです。
労働者災害補償保険法7条がこのように定めており、移動の区間と、経路・方法が一般的なものかどうかで、通勤中にあたるかが判断されます。通勤中にあたるかを最終的に判断するのは、労災の請求を受けた労働基準監督署です。
住居と職場の往復が通勤の基本
通勤の中心は、自宅と職場の間の行き帰りです。電車・バス・車・バイク・自転車・徒歩のどれで移動していても通勤にあたります。
仕事がある日の移動であれば、ラッシュを避けるための早めの出勤や遅刻した日の出勤も通勤にあたります。
担当区域を回る外回りの仕事では最初と最後の訪問先が職場になる
担当区域内の複数の取引先を回り、会社に寄らず自宅と直接往復する外回りの仕事では、最初の訪問先が仕事を始める場所、最後の訪問先が仕事を終える場所になります。自宅から最初の訪問先への移動と、最後の訪問先から自宅への移動は、通勤にあたります。
職場から副業先への移動も通勤にあたる
2つ以上の会社で働く人が、1つ目の職場から2つ目の職場へ向かう移動も通勤にあたります。1つ目の職場から2つ目の職場へ向かう途中の事故では、移動先の会社の労災保険を使います。
単身赴任先と帰省先の間の移動も通勤にあたる
転勤によって単身赴任をしている人が、勤務日の当日や前日に帰省先の自宅から赴任先の住居へ戻る移動、勤務を終えた当日や翌日に赴任先の住居から帰省先の自宅へ向かう移動も、通勤にあたります。配偶者の仕事の継続や子どもの学校、家族の介護などのやむを得ない事情で家族と別居していることが条件です。
会社に届けた経路以外でも通勤にあたる
労働基準監督署は、通勤中にあたるかを、会社に届けた経路かどうかではなく、合理的な経路と方法かどうかで判断します。会社に届けた経路と違う道を通っていた場合も、合理的な経路であれば通勤災害として労災を使えます。
普段と違う道でも一般的に使われる経路なら認められる
通勤に使える経路が複数ある場合は、そのどれもが合理的な経路です。当日の渋滞や工事を避けるために遠回りした経路や、マイカー通勤で駐車場を経由する経路も、合理的な経路にあたります。共働きの家庭で、子どもを保育園に預けるために通る経路も同様です。
一方、理由もなく大きく遠回りした経路は、合理的な経路と認められない場合があります。
移動の方法も、電車・バス・マイカー・自転車・徒歩など、通勤に一般的に使われる方法であれば合理的な方法にあたります。会社に電車通勤と届けていた人が、その日だけ車で通勤していた場合も、労災の上では通勤です。
会社の送迎バスでの移動や休日の緊急呼び出しは仕事中の事故
会社が用意した送迎バスなどの専用の交通機関で出退勤する場合や、休日に緊急の用事で呼び出されて会社へ向かう場合の移動は、仕事の性質を持つ移動です。送迎バスや緊急の呼び出しでの移動中の事故は、通勤災害ではなく、業務中の事故(業務災害)として労災の対象になり、休業の最初の3日間は会社が補償します。
仕事中の交通事故で労災保険を使う場合は、次の記事で解説しています。
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参考:東京労働局 通勤災害について
参考:労働者災害補償保険法 第7条(e-Gov法令検索)
通勤途中に寄り道したときの交通事故
通勤の経路から外れること(逸脱)や、経路の途中で通勤と関係のない行為をすること(中断)をすると、その間と、その後の移動は原則として通勤にあたりません。
ただし、日用品の購入など日常生活に必要な行為のための寄り道は、元の経路に戻った後から再び通勤にあたります。寄り道の内容ごとの扱いは次のとおりです。
| 寄り道の内容 | 寄り道の間 | 元の経路に戻った後 |
|---|---|---|
| 飲み会・ジム・映画など私的な用事 | 通勤にあたらない | 通勤にあたらない |
| 日用品の購入・通院・選挙の投票など | 通勤にあたらない | 通勤にあたる |
| 経路上の店での飲み物の購入・公衆トイレの利用 | 通勤にあたる | 通勤にあたる |
飲み会やジムに寄った場合
寄った後の帰り道は通勤から外れる
仕事帰りに飲み会やジム、映画館などに寄ると、寄っている間だけでなく、その後に自宅へ帰る途中で起きた事故も通勤災害にあたりません。
寄り道の後の事故では労災を使えないため、治療には健康保険を使い、けがの補償は相手方の保険と、自分が加入している自動車保険の人身傷害保険などから受け取ります。相手のいる事故で健康保険を使うときは、加入している健康保険(協会けんぽや健康保険組合)へ第三者行為による傷病届を出すようにしてください。
交通事故の治療に健康保険を使う手続きは、次の記事で解説しています。
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日用品の購入や通院で寄った場合
経路に戻った後は再び通勤になる
仕事帰りに日用品の購入や通院のために経路を外れた場合、用事を終えて元の経路に戻った後の移動は、再び通勤になります。ただし、寄り道がやむを得ない理由で行う最小限度のものであることが条件です。経路に戻った後が再び通勤になる日常生活上の行為として、労働者災害補償保険法施行規則8条は次の5つを定めています。
- 日用品の購入やこれに準ずる行為
- 職業訓練や、職業能力の向上に役立つ学校での教育などを受ける行為
- 選挙の投票やこれに準ずる行為
- 病院や診療所で診察や治療を受ける行為
- 要介護状態にある家族の介護(継続的または反復して行うもの)
仕事帰りにスーパーで夕食の食材を買う場合は日用品の購入に、病院へ寄る場合は通院にあたります。店や病院にいる間と、経路を外れて向かっている間は、通勤から外れます。
経路上のコンビニで飲み物を買った場合
飲み物を買う程度のささいな行為は寄り道にあたらない
通勤経路上の店で飲み物を買う、経路の近くの公衆トイレを使うといったささいな行為をしている間も、通勤は続いています。飲み物を買っている最中や、その前後に起きた事故も通勤災害です。
参考:労働者災害補償保険法施行規則 第8条(e-Gov法令検索)
参考:厚生労働省 労災保険の通勤災害保護制度が変わりました
通勤中の事故と会社への報告
通勤中の事故を会社に報告せず、会社にバレないように済ませたいと考える人もいますが、労災を使うなら会社に伝わります。会社へ早めに報告しておくほうが、労災の手続きも、欠勤や有給休暇の調整も進めやすくなります。
会社への報告のルールは就業規則で決まる
通勤中の事故の報告を労働者に義務づける法律はなく、いつまでに、誰に、どのように報告するかは、会社ごとの就業規則で決まります。就業規則に事故の報告についての定めがあれば、定めに従って報告しましょう。定めがない場合も、事故の日時・場所・けがの状態を、できるだけ早く上司に報告するようにしてください。
会社は就業規則を従業員に周知しなければならないと、労働基準法106条が定めています。報告のルールがわからない場合は、職場に備え付けの就業規則や社内の掲示で確認できます。けがで仕事を休む場合は、欠勤の連絡もあわせて入れましょう。
労災を申請すると会社に伝わる
労災の請求書には会社の証明欄がある
療養給付や休業給付の請求書には、事故の日時や状況が事実であることを会社(事業主)が証明する欄があります。被害者は、通常は会社へ事故を伝えて証明を受けてから請求書を出します。
会社が証明を拒んでも労働基準監督署へ請求できる
会社が証明を拒んだ場合でも、被害者は労災を請求できます。厚生労働省も、事業主の証明が得られない場合であっても請求はできるとして、労働基準監督署への相談を案内しています。会社に証明を拒まれたら、請求書を出す前に労働基準監督署へ相談しましょう。
通勤中の事故で労災を使っても会社の保険料は上がらない
労災保険の保険料は、会社が全額を負担しています。一定の規模以上の会社では、仕事中の事故(業務災害)で支払われた給付の額に応じて保険料率が上下する仕組み(メリット制)があります。
通勤災害の給付はメリット制の計算から除かれているため、通勤中の事故で労災を使っても、会社の労災保険料は上がりません。
無断のマイカー通勤でも労災は使える
通勤災害にあたるかは、移動の経路と方法が合理的かどうかで判断され、会社の許可の有無は判断材料になりません。会社に届けずにマイカーで通勤していた場合も、マイカーは通勤に一般的に使われる方法のため、事故は通勤災害として労災の対象になります。
就業規則違反の処分は労災とは別に判断される
無断のマイカー通勤が就業規則違反にあたるかどうかは、労災が支給されるかどうかとは関係なく会社が判断し、会社がマイカー通勤を禁止または許可制にしている場合は、注意や懲戒の対象になることがあります。電車の定期代として通勤手当を受け取っていた場合は、実際の費用との差額の返還を求められることもあります。
ただし、懲戒処分は違反の内容に見合った重さでなければならず、重すぎる処分は労働契約法15条により無効です。処分を心配して事故の報告を遅らせるより、早めに報告して労災を使うほうが、治療費と休業中の収入を確実に受け取れます。
通勤中の交通事故で労災を使う手続き
通勤中の交通事故で労災を使うまでの流れは、次のとおりです。
- 事故現場で警察へ届け出て、相手方の情報を確認する
- 会社へ事故とけがを報告する
- 病院で労災を使うと伝えて治療を受ける
- 労働基準監督署へ労災の請求書を出す(相手方に賠償責任がある事故では第三者行為災害届も出す)
相手方の自賠責保険と労災のどちらから先に受け取るかは、被害者が選べます。被害者側の過失で相手方からの賠償が減る事故では、治療費を労災から受け取るほうが最終的に受け取れる総額が増えることがあるため、治療の初めから労災を使いましょう。当面の生活費がすぐに必要な場合は、自賠責保険の仮渡金(示談の前に一定額を先に受け取れる仕組み)も使えます。
労災の請求期限(時効)は、それぞれ請求できるようになった時から数えて、療養給付と休業給付が2年、障害給付と遺族給付が5年です。休業給付は休業した日ごとに期限が進むため、休業が長引く場合は1か月ごとなどに区切って請求しましょう。
事故現場での対応は通勤中でも通常の交通事故と同じ
事故現場では、けが人の救護と警察への届出を行い、相手方の氏名・連絡先・加入している保険会社・車のナンバーを確認します。
警察へ届け出ていないと交通事故証明書が発行されず、労災の第三者行為災害届(相手方に賠償責任がある事故で労働基準監督署へ出す届出)には交通事故発生届(被害者が自分で事故の状況を記入する届出)を代わりに添付することになり、事故の事実を証明しにくくなります。軽い事故に見えても、必ず警察へ届け出るようにしてください。
事故直後に行う対応は、次の記事で詳しく解説しています。
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病院には労災を使うと伝える
病院の受付では、通勤中の事故によるけがであり、労災を使うことを伝えましょう。受付では、その病院が労災保険指定医療機関かどうかもあわせて確認しましょう。指定医療機関なら療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)を病院へ出せば窓口での支払いは不要で、指定外なら治療費をいったん立て替えることになります。
通勤中のけがには健康保険を使えない
労災保険から給付を受けられるけがには、健康保険の給付は行われません(健康保険法55条)。通勤中の事故によるけがの治療には、健康保険証を使えません。
誤って健康保険証を出してしまった場合は、受診した病院に早めに伝え、労災への切り替えを相談しましょう。病院で切り替えができない場合は、健康保険が負担した医療費をいったん健康保険へ返し、領収書を添えて労働基準監督署へ療養給付を請求します。
労働基準監督署へ労災の請求書を出す
労災の請求書は、被害者が勤務する事業場(支店や営業所なら、その所在地)を管轄する労働基準監督署へ出します。請求書の様式は、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできます。
| 請求する給付 | 請求書の様式 |
|---|---|
| 治療費(労災保険指定医療機関で受診) | 療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)※病院経由で提出 |
| 治療費(指定外の病院で受診) | 療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5) |
| 休業中の収入 | 休業給付支給請求書(様式第16号の6) |
休業給付の請求書には、会社の証明のほか、働けない状態であることを示す医師の証明も必要です。
相手方に賠償責任がある事故では第三者行為災害届も出す
第三者行為災害届は、相手方に賠償責任がある事故(第三者行為災害)について、相手方の情報や事故の状況を労働基準監督署へ届け出る書類です。労働者災害補償保険法施行規則22条により、第三者行為災害で労災を使う被害者は、遅滞なく届け出なければなりません。
第三者行為災害届には、交通事故証明書と、念書(兼同意書)を添付します。交通事故証明書の発行窓口は、自動車安全運転センターです。念書は、相手方と示談や和解をする前に労働基準監督署へ連絡する、相手方に白紙委任状を渡さない、相手方から金品を受け取ったら報告する、といった点を約束する書面です。相手方とすでに示談をしている場合は、示談書の写しも添付します。
参考:厚生労働省 第三者行為災害のしおり
参考:厚生労働省 労災保険給付関係請求書等ダウンロード
通勤中の交通事故の示談は労災の給付に影響する
相手方の保険会社と示談をすると、示談の内容によっては、その後の労災の給付が止まります。示談書に署名する前に、労災の給付との関係を確認しておくことが欠かせません。
賠償請求をすべて放棄する示談をした場合
その後の労災給付は原則受けられない
示談書に、示談金のほかは一切請求しないという条項を入れて示談が成立すると、被害者は相手方への残りの賠償請求権を放棄したことになります。賠償請求権を放棄する示談が成立した後の労災の給付は、原則として行われません。
まだ治療中の段階や、後遺障害が残る可能性がある段階で示談をすると、労災から受け取れたはずの治療費や障害給付(後遺障害が残った場合に労災から支払われる給付)まで失うことになります。
相手方から先に賠償金を受け取った場合
受け取った額の分だけ労災の支給が止まる
相手方から治療費や休業損害を受け取った場合、同じ損害を補う労災の給付(治療費なら療養給付、休業損害なら休業給付)は、受け取った額に達するまで支給されません。受け取った額の分だけ労災の支給を止める仕組みを控除といい、対象になるのは災害の発生から7年以内に支給される給付です(2013年4月1日以降に発生した事故の場合)。
慰謝料は労災の給付と項目が重ならないため、相手方から慰謝料を受け取っても労災の給付はそのまま続きます。休業特別支給金(収入の2割)も控除の対象外で、相手方から休業損害を全額受け取った後でも労災への請求が可能です。
労災の給付と相手方への請求をどう組み合わせ、どの時点で示談するかによって、被害者が受け取れる総額は変わります。交通事故に強い弁護士は、労災の給付を踏まえて相手方への請求額を計算し、示談書の内容が被害者に不利になっていないかを確認してくれます。被害者本人や家族が入っている自動車保険に弁護士費用特約が付いていないか、あわせて確認してみてください。特約があれば、弁護士への相談料や依頼の費用を保険でまかなえます。
注目!
通勤中の交通事故で労災と示談の進め方に迷う方へ
当サイトを見ても疑問が解決しない、状況が異なるので判断が難しいと感じたら弁護士に相談することをおすすめします。
初回相談無料の弁護士も数多く掲載しておりますし、どの弁護士もいきなり料金が発生するということはありません。まずはお気軽にご相談ください。
通勤中に交通事故を起こした側の労災と賠償
通勤中に自分が事故を起こした場合も、自分のけがは通勤災害として労災の対象です。一方、車の修理代や相手方への賠償は労災の対象外のため、自分の自動車保険で対応します。
事故を起こした側のけがにも労災保険は使える
事故を起こした本人に過失があっても、通勤中の事故であれば労災の給付を受けられます。相手方がいる事故で自分の過失が大きい場合も、ガードレールに衝突するなどの単独事故の場合も同じです。
故意や重大な過失があると給付が制限される
わざと事故を起こした場合、労災の給付は行われません。また、交通法規に違反する危険な運転など、重大な過失で事故を起こした場合は、休業給付などの一部が支給されないことがあります。
なお、泥酔した状態で車や自転車を運転していた場合は、通勤に合理的な方法とはいえず、通勤災害そのものと認められません。
車の修理代は労災の対象外
労災が補償するのは、けがや病気など体に生じた損害です。車の修理代などの物の損害は、労災の対象外です。
被害にあった側は、車の修理代を相手方の保険会社へ請求します。事故を起こした側は、自分の車の修理に自分の車両保険を、相手の車や物の損害に自分の対物賠償保険を使います。マイカー通勤中の事故で壊れた自分の車の修理代を、会社に請求することは原則としてできません。
相手方への賠償責任を会社が負う場合がある
マイカー通勤中の事故で相手方への賠償責任を負うのは、原則として運転していた本人です。会社がマイカーを仕事にも使わせていた場合や、社用車で通勤していた場合には、会社も使用者責任(従業員が仕事で与えた損害を会社が賠償する責任)や運行供用者責任(車の運行を支配する者が負う賠償責任)を負うことがあります。
会社が賠償責任を負うケースと負わないケースは、次の記事で解説しています。
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まとめ
通勤中の交通事故でけがをした場合、治療費と休業中の収入は労災から、慰謝料と車の修理代は相手方の保険会社から受け取るのが基本です。労災を使っても交渉の手間は増えず、休業中は労災と相手方を合わせて収入の120%相当を受け取れる場合があります。被害者側の過失で相手方からの賠償が減る事故や、相手方が任意保険に入っていない事故では、労災を使うかどうかで受け取れる額の差がいっそう広がるため、労災の請求は早めに始めましょう。
通勤中にあたるかは、会社に届けた経路かどうかではなく、合理的な経路と方法かどうかで判断されます。日用品の購入や通院で寄り道をしても、元の経路に戻った後の事故は通勤災害です。労災を使えば会社に伝わりますが、通勤中の事故で会社の保険料が上がることはありません。
相手方の保険会社から示談を提案されたら、署名する前に、労災の給付との関係を確かめることが大切です。示談の内容によっては、その後の労災の給付を受けられなくなります。
通勤中の交通事故は交通事故に強い弁護士へ相談する
労災と相手方の保険のどちらから何を受け取り、どの時点で示談するかは、事故の過失割合や治療の見通しによって変わります。交通事故に強い弁護士は、労災の給付を踏まえたうえで慰謝料を弁護士基準(裁判で認められる水準)で計算して相手方へ請求し、受け取れる補償を最大にするための進め方を示してくれます。示談書に署名する前に、交通事故に強い弁護士へ相談してみてください。
交通事故に強い【おすすめ】の弁護士に相談
交通事故一人で悩まずご相談を
- 保険会社の慰謝料提示額に納得がいかない
- 交通事故を起こした相手や保険会社とのやりとりに疲れた
- 交通事故が原因のケガ治療を相談したい