自転車で歩行者とぶつかってしまった時、罰金や損害賠償はある?
免許取得の必要がなく、誰でも簡単に乗ることができる自転車ですが、道路交通法上は車両に分類され、交通事故を起こした場合の損害賠償責任は自動車と同じです。しかし、法律では、自転車保険への加入を義務付けるまでに至っておらず(条例で義務付けている自治体はあります。例えば、東京都、兵庫県など)、自転車保険に未加入であれば、死亡事故などを起こしてしまった場合、高額な賠償金の支払いを負うことになります。
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自転車事故の示談交渉は当事者同士が行うケースが多い
弁護士に相談して適正な損害賠償を得よう
自転車は、免許の取得が不要で、児童等(児童等とは、おおむね6歳未満の幼児、おおむね6歳以上13歳未満の児童を指します)から高齢者まで気軽に乗ることができます。エコ意識の高まりから自転車通勤が増えているのはもちろん、健康志向から趣味を兼ねたツーリングを楽しむ人も増えており、自転車に乗る人口は増えてきているのではないでしょうか。
そのため、交通事故の増加も心配されるところですが、自転車関連の交通事故件数は減少傾向にあります。道路の整備が進み、車道を自転車が走るということに、自動車のドライバーも慣れてきたという要因もあるかもしれません。ただ、交通事故死者数は近年減少傾向にある一方、自転車乗車中の死者数の占める割合は増加する傾向にあります。
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減らない自転車と歩行者の事故
平成22年から令和2年までの自転車と歩行者の交通事故件数の推移を見ると、自転車と歩行者の事故は、平成23年の2806件と高まりを見せた後、平成28年までは減少局面に入り2281件まで減らしたものの、平成28年から令和元年にかけては増加傾向となり、令和元年には2010年以降トップの2831件を記録しました。
そして自転車の運転者が歩行者と事故を起こし、高額な賠償請求を受ける判決も注目を集めています。
自転車事故に対する責任の重さと、慰謝料などはどれくらい支払わなければならないのか、調べてみましょう。
道路交通法上、自転車はどういう乗り物か
道路交通法上では、自転車は車両の一種です。軽車両に該当しますが、法律違反をすれば自動車と同様の責任が問われます。
自転車で事故を起こした場合に問われる責任
自転車で交通事故を起こした場合、
- 過失傷害罪(刑法209条)
- 過失致死罪(刑法210条)
- 重過失致死傷罪(刑法211条後段)
の刑事上の責任を問われます。
過失傷害罪
過失傷害罪は、過失により人を傷害することによって成立します。この場合の過失は、通常程度のもので、軽過失又は通常の過失と呼ばれます。処罰としては、30万円以下の罰金又は科料が科せられます。なお、過失傷害罪は親告罪です。
過失致死罪
過失致死罪は、過失により人を死亡させることによって成立します。結果が致死であることを除き、犯罪の成立要件は、過失傷害罪と同じです。処罰としては、50万円以下の罰金が科せられます。
重過失致死傷罪
重過失致死傷罪は、重大な過失により人を死傷させることによって成立します。重大な過失とは、注意義務違反の程度が重大なことをいいます。処罰としては、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金が科せられます。
民事上の責任
また、民事上でも、事故の被害者に対する損害賠償責任が生じ、自動車を運転していて交通事故を起こした場合と同じく、慰謝料などの支払いをしなければなりません。
行政上の責任
行政上の責任については、場合分けが必要になります。自転車運転者が、違反や事故を起こしたとしても、自転車の運転者には免許制度がないため、点数制度による行政処分の対象となるものがなく、この点においては、行政上の責任を問われることはありません。しかし、道路交通法は、点数制度によらない行政処分を規定しており、同法103条1項8号及び同法施行令38条5項2号ハでは、所轄公安委員会が、危険性帯有者に対して、30日以上6月を超えない範囲内で期間を定めて免許の効力の停止を行うことができる、としています。したがって、自転車運転者が、日常的に自動車又は原動機付自転車(以下「自動車等」といいます)を運転している場合には、麻薬、覚せい剤等を使用した者に限らず、自転車運転の行為が、自動車等の運転者としての心理的不適格、すなわち法秩序無視の心理的傾向が推認できる外形的事由があり、自転車運転の行為により惹起した事実とその危険性、損害の程度などから、免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるときは、点数制度によらない行政処分をすることができることになります。この点においては、行政上の責任を問われることになります。
危険性帯有による免許の停止は、道路交通法施行令別表第3の前歴とされないだけでなく、当該危険性帯有の事由は、点数制度による点数を付する対象としての違反行為に該当しません。
なお、危険性帯有者とは、自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがある状態をいい、その状態にある者を危険性帯有者といいます。
また、一定の危険な違反行為(信号無視、一時不停止、酒酔い運転等)をして3年以内に2回以上摘発された自転車運転者(14歳以上の悪質自転車運転者)は、公安委員会の命令を受けてから3か月以内の指定された期間内に自転車運転者講習を受講しなければなりません。公安委員会による受講命令に従わなかった場合は、5万円以下の罰金が科せられます。
自転車に乗るときのルール
道路交通法では自転車に乗るときのルールが定められていますが、運転免許がないため、普通は勉強する機会がありません。
ここで、自転車に乗る時の主なルールを紹介しましょう。
自転車は車道が原則、歩道が例外
歩道と車道の区別のあるところでは、原則として自転車は車道を通行しなければなりません。
ただし、道路標識等で通行できることとされている場合や、13歳未満の児童・幼児、70歳以上の高齢者、身体障害者が運転している場合などは、歩道を通行することができます。
車道は左側を通行
自転車が車道を通行する際には、道路の左端に寄って通行しなければなりません。右側通行をしてはなりません。
歩道は歩行者優先で、車道寄りを徐行
車道通行が危険を伴うと判断される場合は、歩道の通行が可能ですが、歩道を通行する際には歩行者を優先し、すぐに停止できる速度で進行し、歩行者の通行の妨げとなる場合は一時停止しなければなりません。
自転車運転における禁止・違反事項
その他、
- 2人乗り運転の禁止(幼児2人同乗用自転車を除く)
- 酒気帯び酔い運転の禁止
- 2台並進通んでの走行の禁止
- 夜間の無灯火運転の禁止
- 片手運転の禁止(携帯電話での通話や操作、スマートフォンの操作、傘を差さすしなど)
- 信号確認無視
- 遮断踏切での一時停止違反
- 指定場所での一時停止違反
などのルールがあり、これらにいずれも違反した場合は、懲役、罰金又はなどの過科料が科せらされます。
改正道路交通法により、危険な違反行為が定められる
改正道路交通法の施行に伴い、2015(平成27)年6月から、危険な違反行為(14項目)を繰り返した自転車の運転者に自転車運転講習の受講が命じられるようになりました。
そして、2020(令和2)年6月から、妨害運転が追加されました。
危険行為とは
信号無視、遮断踏切立入り、指定場所一時不停止、歩道通行時の通行方法違反、制動装置(ブレーキ)不良自転車運転、酒酔い運転、通行禁止違反、歩行者用道路における車両の義務違反(徐行違反)、通行区分違反、路側帯通行時の歩行者の通行妨害、交差点安全進行義務違反等、交差点優先車妨害等、環状交差点安全進行義務違反等、安全運転義務違反、妨害運転が、危険な違反行為と定められています。
自転車運転者が、これらの危険な違反行為を3年以内に2回以上繰り返した場合、上述したように、都道府県の公安委員会は、自転車運転者に対し、自転車運転者講習を受講するように命ずることができます。
自転車事故の慰謝料など損害賠償は、自動車と同じ!
自転車の事故だから、自動車ほど慰謝料の支払いは必要ないだろう、という思い込みは捨ててください!
自転車で交通事故を起こしてしまい、被害者を負傷させたり、死亡させたりしてしまった場合、自動車と同じ損害賠償責任を負うことになるのです。
たとえ子どもでも、多額の損害賠償を命じられた判決がある
自転車で起きた事故の損害賠償の事例として有名になったのは、神戸地方裁判所が、2013年7月に男子児童(小学5年生=当時11歳)が起こした事故に対して、児童の母親に約9,500万円の賠償を命じた判決です。男子児童が、午後6時50分頃、ライトを点灯してマウンテンバイクに乗り、時速20~30㎞で坂道を下っていた際、前方不注視が原因で、散歩中の女性と衝突し、女性ははね飛ばされて頭を打ち、意識不明の重体となり、植物状態になってしまったのです。
当然、男子児童には支払い能力がありませんので、親が支払わなければならないのですが、この事故では、「(母親が)十分な指導や注意をしていたとはいえず、監督義務を果たしていなかったのは明らか」として、保護者の責任を認めたものです。この判決の事例は、子どもが乗った自転車が大きな事故を起こし、自動車事故と同じ水準の損害賠償を命じられたと世間を騒がせた最初の事例となりました。
この1件だけではなく、その後も、自転車と歩行者の事故に対して、多額の損害賠償金支払いを命じる判決が相次いだため、自転車の運転者が保険に加入しておくことの大切さを知らしめることになりました。
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自転車事故の慰謝料は自動車事故と同じ
自転車事故の慰謝料は自動車事故と同じで、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料があります。
自動車事故の慰謝料を説明したページをご覧になれば分かるように、免許を持っていなくても、子どもでも、多額の慰謝料を請求されるのです。
自転車の運転者は、自賠責保険もなければ任意保険もほぼなし
自転車の交通事故における損害賠償で問題になるのは、誰でも加害者になり得るということに加えて、ほとんどの運転者が保険に加入していないということがあります。
自転車には自賠責保険がない
自転車には被害者を救済する最低限の損害賠償金を支払う自賠責保険がありませんので、すべて加害者の負担となり、損害賠償金が多額になった場合は、被害者が請求しても支払い能力がない場合があるのです。
このようなケースを避けるため、自転車の運転者に保険加入を進める動きがありますが、まだまだ普及はしていません。もちろん、自転車事故を減らすためには、自転車運転者に走行ルールの遵守を徹底させ、安全意識の向上を図ることも必要になります。
自転車事故の示談交渉は難航する
自転車事故では、自動車事故のように、保険会社の担当者同士が示談交渉を行うことは極めて少なく、加害者と被害者が直接行う話し合いは、往々にして難航します。
自転車で事故を起こしてしまったら、あるいは被害者となってしまったら、いち早く交通事故に詳しい弁護士に相談し、示談交渉を代行してもらうのが得策でしょう。
過失割合はケースバイケース
ここで、過失割合の問題に触れる前に、自転車に関する一般的なことを整理しておきます。
自転車は、軽車両に該当し、道路交通法により車両としての規制を受け、交差点における他の車両等との関係等、車両等の灯火、酒気帯び運転等の禁止等の車両に関する規定の適用により、四輪車や単車(自動二輪車、原付自転車)と同様の規制に服することになります。
しかし、自転車は、自動車や単車と異なり、並進が禁止されていること、路側帯の通行ができること、交差点を右折する際は、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、交差点の側端に沿って徐行しなければならないこと(いわゆる「二段階右折」)等が定められているほか、道路交通法63条の3ないし11において自転車の交通方法の特例が定められているなど、自転車に特有の規制がされている点に法律上の特色かあると言えます。
さらに、自転車の性質上の特色としては、
- 四輪車や単車と異なり、免許が不要で、交通法規に無知な児童等も運転すること
- 速度は、通常、四輪車や単車の速度と歩行者の速度との中間になること
- 自転車が交差点以外の場所で道路を横断する場合に発生する事故
等、自転車特有の事故の起こり方があること等が挙げられます。
自動車事故に比べてパターンの確率されていない自転車事故
自転車同士、あるいは自転車と歩行者の交通事故については、ごく一部の文献を除き、自動車の事故ほど類型化されたパターンが、確立されているとはいえません。
自転車同士に関する過失割合については、公益財団法人 日弁連交通事故相談センター東京支部編「民事交通事故訴訟 損害額算定基準 下巻(講演録編)」、自転車と歩行者との事故に関する過失割合については、東京地裁民事交通訴訟研究会編「別冊判例タイムズ38号 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂5版〕」という書籍や過去の裁判例が参考になりますが、実際には、当事者(保険会社を含みます)が事故の状況に応じて交渉する中で決めるという方が現実的です。
加害者になってしまった場合にも、被害者になってしまった場合にも、弁護士などの専門家に相談し、適切な示談交渉を進められるようにアドバイスをもらいましょう。
自転車保険の加入、安全意識の向上が望まれる
以上のように、かつては被害者としての立場が注目された自転車ですが、近年は高額な賠償を伴う重大な事故が増加してきていることから、加害者としての立場もクローズアップされることが増えてきました。
そこで、個人で気軽に加入することができる自転車保険が増え、賠償責任補償や示談代行サービス、自身の怪我の補償、ロードサービスなど、内容も充実し選択肢も増えてきています。
また、自動車保険に加入している人ならば、自転車で事故を起こしてしまった場合の補償内容を確認し、自転車に乗る機会があるならばオプションを付けることを考えても良いでしょう。
損害賠償責任を負うことを考えてみよう
兵庫県は、2015年に、全国で初めて自転車保険の加入を義務化し、大阪府、滋賀県、東京都も追随するなど、今後全国各地に自転車保険に対する意識が高まっていくことが考えられます。
神奈川県大和市では、自転車事故による被害者救済や加害者の経済的負担軽減を目的に、自転車ルールやマナーを身に着けた同市立小学校5・6年生の児童たちに、2016(平成28)年11月1日から自転車保険付き自転車運転免許証の交付を始めました。また、翌年4月1日からは同市立中学校3年生まで交付対象を拡大し、免許証を交付しています。この免許証には、自転車利用者が加害者となる事故の際に、最大1億円まで支払われる損害賠償補償が付いています。
自転車の安全運転の意識向上はもちろんですが、日常的に、あるいは健康のためや趣味で自転車に乗る人は、自分が事故を起こした場合に損害賠償責任を果たせるのかどうか、いま一度考えてみて対策を講じる時期ではないでしょうか。
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