交通事故における無過失責任とは?過失がなくても損害賠償責任を負う可能性
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自動車損害賠償保障法は、無過失責任主義
過失がないことを証明できないと、もらい事故でも損害賠償の義務を負うこともある
交通事故当事者の双方に過失がある普通の交通事故であれば、例えば70:30のような過失割合が決められ、損害賠償を行う際には過失相殺が行われます。そして一方に過失がない、いわゆる「もらい事故」の場合には過失割合が100:0となり、加害者側が被害者に全額の損害賠償をすることになります。
しかし「もらい事故」において、本来なら被害者となるべき立場の運転者が“無過失”であることを証明しなければ、賠償する義務を負うという判決がありました。
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いったいどういうことなのでしょうか?
過失責任を定める法律を改めて読んでみることから、“無過失責任”について説明します。
民法上の取り決めは、“過失責任”
損害賠償請求が可能となる原因の不法行為は、一般的には民法第709条および第710条に、以下の通り定められています。
<民法>
第五章 不法行為
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
民法では“故意または過失により”と定められている
不法行為とは、他人の権利や法律によって保護される利益を侵害し、損害を与える行為を指します。
第710条では、精神的損害についても賠償をしなければならないと定められています。そして第709条の条文にあるように、“故意または過失により”不法行為が行われた場合は、加害者が損害賠償の責任を負い、被害者に対する賠償を行う義務があるのです。つまり、“故意または過失”でなければ、賠償責任を負わなくてもよく、責任を問われることはないと解釈できます。
故意の場合に賠償責任を負うのは当然ですが、絶対になすべき注意を払っていれば、賠償責任は課せられないということです。
自動車損害賠償保障法では、“無過失責任”
一方で、交通事故による損害賠償を規定する自動車損害賠償保障法では、民法とは違う主義で賠償責任を定めています。
<自動車損害賠償保障法>
(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。
民法にある“故意または過失により”の文言がない
交通事故などの損害賠償責任を定める自動車損害賠償保障法の第3条を見ると、民法の損害賠償責任を定める民法第709条と比較して、“故意または過失により”という文言がないことが分かります。この条文の前文だけを見た場合、自動車を運転している者は、どのような場合でも損害賠償の責任を負う、と読むことが可能なのです。
これが、民法の“過失責任”に対し、自動車損害賠償保障法が“無過失責任”と言われる理由です。
損害賠償の責任を負わなくてよい条件
自動車損害賠償保障法第3条の前文だけを適用すると、すべての交通事故において自動車の運転者は損害賠償責任を負うことになり、理不尽な事故の際に不都合が起こります。まったく過失がないのに、損害賠償責任を負うとされると、十分な注意を払い安全運転をしていた運転者が報われないことになるのです。
そこで、自動車損害賠償保障法第3条の後文には、次の規定が設けられています。
<自動車損害賠償保障法>
第三条(後半部分抜粋)
ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。
この部分の主張を行い、損害賠償責任から逃れられるように、認められることが必要となります。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
自己および運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと
自分が運転していた場合、一切の過失がないことを証明すれば、損害賠償責任は課せられません。道路の速度制限や、一旦停止など、道路交通法で定められている注意義務をすべて順守していたことを証明すれば良いのです。
被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと
被害者が、交通事故に遭ってしまう可能性のある行為をしていたことを証明すれば、損害賠償責任は課せられません。
例えば歩行者が赤信号で横断歩道を渡っていたり、横断歩道以外を横断していたりしていた行為を証明すれば良いのです。しかしこの場合は、完全に責任から逃れられるということではなく、通常は過失相殺を主張して、損害賠償額の軽減を図るのが通例です。
自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったことを証明したとき
運転する自動車の車検などの法定点検をきちんと受け、整備を万全に行っていたことを証明すれば、損害賠償責任が科せられません。しかし、これも完全に責任から逃れられるものではなく、逆に車検を受けていない、整備をきちんと行っていない場合には、より責任が重くなる、と解釈するのが通例です。
以上の3点の要件を満たせば加害者側の損害賠償責任は軽くなるのですが、あくまでも軽減要件であり、事故の加害者となってしまったからには賠償責任を負うということに変わりはありません。
“無過失責任”主義の法律の適用を、若干ながら緩和するものと考えるのが妥当です。
無過失なのに、賠償責任を負ってしまうケースは?
実際にあった例で見ると、2012年4月30日に発生した交通事故における判例が波紋を呼びました。
福井県のあわら市で、男子大学生(当時19歳)の運転する乗用車と会社役員(当時44歳)が運転する乗用車が衝突し、男子大学生が運転する乗用車の助手席に座っていた男性(当時34歳)が死亡しました。男子大学生の運転する車は死亡した男性のもので、男子大学生に運転をさせていたが男子大学生が居眠り運転をしセンターラインを越えて正面衝突したものとみられます。
故意・過失がなくても損害賠償の責任を負わされる
この事故の損害賠償をめぐる裁判で、2015年4月13日に福井地方裁判所は、“居眠り運転によって突っ込まれた運転手の無過失が証明できない”として、加害者に4,000万円の賠償を負う義務があるとの判決を下したのです。
この裁判は、直進してきた対向車側にも事故の責任があるとして、遺族が対向車側を相手に損害賠償を求めた訴訟で、それが認められたことになります。
センターラインを越えてきて衝突したのですから、通常ならば直進していた対向車には何の責任もなく、いわゆるもらい事故として過失ゼロのはずなのですが、その過失がなかったことを証明できなかったがために、損害賠償の責任を負わされるものでした。
この裁判は、死亡した男性の車の任意保険が同乗者の家族限定のものであったことから、遺族への損害賠償を行う方法がなかったという特殊事情もありましたが、過失がないことを証明しなければ、もらい事故でさえも損害賠償責任を負う可能性があることを示すものでした。
ドライブレコーダーなど、でき得る限りの対応策を
交通事故の事実関係を明らかにするためドライブレコーダーを搭載することは有効な手段とされています。
無過失であることをドライブレコーダーだけで証明することは難しいのですが、立証しやすくなることは事実なので、安全運転を心がけるだけではなく、さまざまな防衛手段を講じておくことも必要でしょう。
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