過失相殺とは?どのような場合に過失相殺が適用されるのか解説
過失割合は交通事故の過失、責任の重さを示す比率です。この比率を用いて、損害賠償額が決められますが、その際に被害者にも過失があるとされる場合は、その分差し引かれることになります。これを「過失相殺」と呼びますが、ケースごとに適用方法が違うので注意が必要です。
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過失相殺とは、損害賠償において被害者の責任となる部分を差し引くこと
交通事故がなぜ起きてしまったのかを調べた時、必ずしも加害者だけが悪いとは限らないのではないかと考えられるケースがあります。
交通事故を好き好んで起こす人はいないと考えられ、たいていの場合は加害者の過失によって引き起こされます。
例えば自動車の運転者が、ちょっとしたわき見でブレーキやハンドル操作が遅れるとか、アクセルとブレーキを踏み間違えるといった操作ミスが過失とされます。あるいは一時停止を無視したり、赤信号になったにも関わらず無理やり交差点に進入したりするなど、交通規則の無視も過失です。
交通事故統計によると、死亡事故における事故当事者の法令違反は、漫然運転、運転操作不適、脇見運転、安全不確認といった安全運転義務違反が上位を占めています。
運転者の違反だけで事故が起こるのではない
多くの場合、以上のような過失や違反が原因で交通事故は発生し、過失や違反を犯した方が加害者になると思われがちです。しかし交通事故は自動車の運転者の過失だけで発生するわけではありません。
自動車と歩行者の事故の場合、歩行者がいきなり道路に飛び出すといった、歩行者にも事故の責任があると考えられることもあります。
また自動車同士の事故だと、双方に操作ミスやルール違反があって、どちらが加害者でどちらが被害者なのか、わからなくなるケースもあるのです。そういった場合に、事故当事者の責任の割合を示すものが「過失割合」と呼ばれるもので、この割合を適用して損害賠償金が減額されることを「過失相殺」と言います。
過失相殺とは?
まず、過失相殺の法的な根拠を見てみましょう。
交通事故の加害者は、民法709条に定められているように、被害者に与えた損失を賠償しなければなりません。
(不法行為による損害賠償)
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
交通事故によって他人に与えた損害は、事故の原因を作って損害を与えた者が弁償しなければなりません。
しかしその一方で、民法722条の2項には、次のような定めがあります。(損害賠償の方法及び過失相殺)
第722条2項 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
つまり、交通事故を含め損害賠償が発生するようなトラブルが起きた時、被害者にも過失があれば、裁判所はその点を考慮して、加害者が支払う賠償金額を決められるというものです。
被害者の過失があると認められる交通事故においては、事故の原因の一端は被害者にもあるということで、事故による損害がすべて賠償されるのではなく、被害者側の過失の程度によって減額されるのです。これが「過失相殺」です。
多くの交通事故では、「過失相殺」を裁判では決めない
以上が民法の規定で、これによると損害賠償金額や「過失相殺」を決めるのは裁判所となります。しかし実際の交通事故の損害賠償交渉で、裁判にまで持ち込まれるのは、示談や調停では決着できないほど、交渉が長期化し、紛糾した場合のみです。
発生した交通事故の損害賠償内容の決定を、すべて裁判に持ち込んでいたら、裁判所がいくつあっても足りません。
そこで大抵の交通事故の示談交渉における損害賠償額の提示は、保険会社や弁護士が行うことになり、それを当事者双方が納得するように手続きを進めることになります。
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過失と違反は違うことにも留意
条文だけを読むと、被害者側が明らかな違反をしていないと責任は問われないとも解釈しがちですが、一般的な落ち度、不注意といったものでも責任があると判断されることに留意が必要です。もし十分な注意を払っていたならば避けられていたと考えられる事故で責任を問われる場合もあるのです。
もちろん被害者に何の責任もないケースもありますが、それについては別項で説明します。
「過失相殺」の適用方法は?
最初に、「過失相殺」が適用されない損害賠償について説明しておきましょう。
すべてが「過失割合」について基づき、「過失相殺」が行われるわけではないのです。
自賠責保険は、重大な過失がない限り減額されない
交通事故の損害賠償において、自賠責保険で充当される部分については、被害者に重大な過失がない限り減額は行われません。
これは、自賠責保険が被害者保護に重点を置いている制度であるためです。
一方で、重大な過失とは、70%以上の過失を指すとされ、次のようなものが該当します。
自動車の運転者であった場合
- 一時停止違反
- 赤信号を直進し、黄信号で進んできた自動車と衝突
- 非優先道路から優先道路の交差点に進入した際に起きた事故
歩行者であった場合は、赤信号横断が重大な過失と判断されますが、道路上の歩行者保護の観点から、これ以上の過失が認められることは稀です。
以上のような重大な過失がない限り、自賠責保険の減額は行われないのが通例です。
しかしケースによれば「過失相殺」が適用される時もありますので、自賠責保険の減額が伝えられた時には、弁護士など専門家に相談するべき状況と言えるでしょう。
「過失相殺」はどのようにして適用されるのか
簡単に言えば、交通事故による損害の総額を「過失割合」に基づいて案分するものです。
当事者双方に責任があった場合、損害を公平に分担するため、被害者側の責任相当部分を損害の総額から差し引いて賠償を行います。
実際には細かい計算式が用いられますが、説明のために単純化すると、「過失割合」が80:20で、損害賠償額の合計が500万円だとしたら、500万円×(1-0.2)=400万円となり、400万円の損害賠償金が加害者から被害者に支払われることになります。
これが90:10の「過失割合」となれば、支払われる損害賠償金は450万円となるため、10%の割合の違いで金額には大きな差が出ます。
このように、「過失割合」は損害賠償額の支払いにおいて、非常に大きな影響を与えるため、不当と考えられる比率を受け入れることは避けなければいけません。
不当な「過失割合」や「過失相殺」の適用を避けるためには?
交通事故の被害者となってしまった場合、「過失割合」や「過失相殺」の適用は、受け取るべき損害賠償金額を減額する要素となります。
この要素は、交通事故の状況、交通事故発生時の環境、道路交通法に定められた優先関係の有無、事故は発生すると予想されたものか回避できたものか、などの複雑な要因が絡み合って導き出されるものです。これら一つひとつの要因を、事故ごとに検証することは大変な作業になり、非常に長い時間を要するため現実的ではありません。そのため、個別の交通事故は類型化したパターンに当てはめ、保険会社は「過失割合」を提示し、「過失相殺」を行います。
損害賠償額算定の参考となる本
損害賠償金額の算定や、「過失割合」を導き出す参考とされる本があります。
別項でも紹介していますが、それは次の3冊の本です。
- 「交通事故損害額算定基準-実務運用と解説-」(通称:青本、公益財団法人 日弁連交通事故相談センター刊)
- 「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称:赤い本、公益財団法人 日弁連交通事故相談センター東京支部刊)
- 「別冊判例タイムズ 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(判例タイムズ社刊)
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これらの本に記載されている内容は、交通事故の過去の判例を元にした、損害賠償に関する基準です。
交通事故の損害賠償については、すべてを裁判で争うのではなく、当該交通事故を過去の判例と同じようなケースに見立てて損害賠償額を決めていくのが実情です。しかし、これらの本は弁護士など実務家向けに作成されているもので、一般人が読んで理解するには非常に難しいものです。
このような本があると理解したうえで、「過失割合」や「過失相殺」については、弁護士などの専門家に相談するのが良いでしょう。
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