車と歩行者の交通事故。歩行者の過失割合はどのくらい?

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佐藤 學(元裁判官、元公証人、元法科大学院教授)

事故

自動車と歩行者との事故については、過失割合のほとんどが自動車側にあるとされる傾向にありますが、飛び出しなど条件によっては、歩行者側の過失割合が比較的大きく認められることもあります。

なお、以下において、道路交通法の条文に該当する場合は、括弧内に、条文のみを表記することとします。

自動車と歩行者との事故は、ほぼ100%自動車が悪い!

交通事故の過失割合で、被害者と加害者がハッキリしており、なおかつ加害者の過失割合がどうしても大きなってしまうのが、“自動車 対 歩行者”でしょう。

自動車と歩行者がぶつかった場合、自動車の方はボディが凹んだり、ウィンドガラスにヒビが入るくらいのことはあっても、通常運転者自身はほとんどダメージを受けません。それに比べて、歩行者が受けるダメージは甚大で、最悪命まで落とすこともあるわけです。このような点が考慮される結果、自動車と歩行者の交通事故の場合、基本となる過失割合も、修正すべき要素も、歩行者側に有利に働いています。

歩行者と自動車の交通事故の場合の図式

加害者 自動車
被害者 歩行者

自動車 対 歩行者の交通事故では、一般的に自動車が加害者、歩行者が被害者という図式で考えられます。実際の過失割合については、後述するように、ケースを分けて検討する必要があります。

自動車 対 歩行者で過失相殺される条件とは?

確かに、自動車と歩行者との事故の場合、通常怪我を負うのは歩行者であり、自動車の運転者には、歩行者よりも、より高度な注意義務が課せられます。したがって、車の運転者である加害者が損害賠償責任を負うのは当然とはいえ、すべての交通事故が加害者だけの過失で起きるわけではありません。

そのため、自動車 対 歩行者の事故の場合も、過失相殺される条件が設定されています。

過失相殺される主な条件

  • 歩行者が横断歩道を渡っていたか?
  • 歩行者が渡っていた時、赤信号だったか、青信号だったか?

歩行者が横断歩道を渡っていた場合の過失割合

道路交通法によれば、歩行者は、道路を横断しようとする場合は、横断歩道がある場所の付近においては、その横断歩道によって道路を横断しなければならず(12条1項)、交通整理の行われている場所では、信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等に従わなければなりません(7条)。また、道路標識等により横断そのものが禁止される道路もあります(13条2項)。

したがって、歩行者が道路を横断しているときの事故は、当該道路における規制態様により事故態様も異なることとなるので、横断歩行者の過失相殺率を基準化するに当たっても、事故態様、規制態様により区分して考えるのが妥当であるとされています。

上記のようなことから、歩行者が近道をしようとして、横断歩道ではない道路を横断しているときの事故は、被害者にも過失があるとして過失相殺が認められるわけです。

過失相殺のパーセンテージは、昼間か夜間かとか、自動車が直進していたのか、あるいは右左折の途中だったのかなどで変動します。その具体的な割合の幅は5%~20%程度です。(詳細は後述します。)

信号の色によっては、歩行者の過失は大きくなる!

次に、歩行者の過失割合が大きくなる要素として挙げられるのが、“信号の色”になります。歩行者が信号のない横断歩道を横断していたケースは、単純と言えますが、信号のある交差点では、信号の色によって過失割合は変わってきますし、歩行者の過失割合も大きくなるケースがあるわけです。

歩行者側が「青信号」だった場合

当然自動車側は「赤信号」になっています。その状態で起きた事故は完全に自動車側の過失ですので、過失割合は歩行者が0%、自動車が100%です。

歩行者側が「黄信号」だった場合

歩行者が「黄信号」で横断を開始した場合は、歩行者にも事故の責任が問われます。
一般的に、「黄信号」は“注意して進め”と勘違いしている人が多いのですが、「黄信号」は基本的に“止まれ”です。
具体的には、「黄信号」は、歩行者にとっては、「道路の横断を始めてはならず、また、道路を横断している歩行者は、すみやかに、その横断を終わるか、又は横断をやめて引き返さなければならないこと」を意味します(道路交通法施行令2条1項)。

「青信号」の状態で横断歩道に進入してしまった場合、本来なら「黄信号」に変わったときには横断を中止して戻るか、速やかに道路を渡りきらなければなりません。

ましてや、「黄信号」で横断を開始するというのは、交通ルールに違反しているのです。そのような次第で、歩行者が「黄信号」で横断を開始し、車が「赤信号」で進入して事故が起こった場合、基本となる過失割合は、歩行者が10%、自動車が90%になります。

歩行者側が「赤信号」だった場合

そして、歩行者側が「赤信号」だった場合は、明らかに事故原因の一端は歩行者にあるわけです。そうした場合、運転者の過失割合が大きくなりがちな自動車 対 歩行者の事故であっても、歩行者の信号無視で事故が発生した場合、基本となる過失割合は、歩行者が70%、自動車が30%になります。

ここで、自動車と歩行者との「横断歩道上」の事故における「過失割合」を整理してみましょう。 
基本となる過失割合は、下記の表の通りです。自動車は㋗、歩行者は㋭と表記します。

自動車と歩行者の横断歩道上事故の過失割合
信号機あり 横断歩道上 ㋭青信号(0%):㋗赤信号(100%)
㋭黄信号(10%):㋗赤信号(90%)
㋭赤信号(20%):㋗赤信号(80%)
㋭赤信号(50%):㋗黄信号(50%)
㋭赤信号(70%):㋗青信号(30%)
信号機なし 横断歩道上 ㋭(0%):㋗(100%)

横断歩道も信号もない道路を横断した場合は?

横断歩道や信号のある場所での交通事故は、上記に示したとおりですが、日本の道路は、必ずしも適切な場所に信号や横断歩道が設置されているとは限りません。郊外や住宅街の裏通りなど、信号も横断歩道もない道路など珍しくはないわけです。そうした場所で起こった自動車と歩行者の事故では、100%自動車の責任になることはありません。

歩行者も横断するときの安全確認を怠ったとされます

そのような次第で、横断歩道も信号もない道路での事故の過失割合は、歩行者が10%~30%で、自動車が70%~90%程度です。

自動車 対 歩行者 その他の状況での過失割合

交通事故が起きるのは、いろいろな状況が考えられます。歩行者が道路を横断するだけでなく、駐車場や歩行者専用の歩道など、どこでも事故が起こると言っても良いでしょう。

したがって、道路の状況ごとに過失割合は、微妙に変わってきます。

自動車と歩行者との事故における修正要素

自動車と歩行者との事故において、基本となる過失割合に、修正すべき要素は、歩行者側に加算する場合は加算要素(プラス)、減算する場合は減算要素(マイナス)として、どのような事項が考えられるか、以下で検討してみましょう。

なお、児童とは6歳以上13歳未満の者、幼児とは6歳未満の者、高齢者とはおおむね65歳以上の者、自動車の著しい過失とは、事故態様ごとに通常想定されている程度を超えるような過失、自動車の重過失とは、著しい過失よりもさらに重い、故意に比肩する重大な過失をいいます。

交通事故における歩行者の修正要素

まず、一般的な「歩行者の修正要素」は、下記の表の通りです。

歩行者の修正要素
加算要素 幹線道路における横断歩道上の事故(5%)
その他の事故(10%)
夜間(5%)
直前直後横断・佇立・後退、急な飛び出し、ふらふら歩きにおける横断歩道上の事故(5%)
その他の事故(10%)
横断禁止の規制あり(5%~10%)
路上横臥者の幹線道路における事故は、道路の幅員や交通量等の状況に応じて(10%~20%)
バックブザー等(警告)のある後退車による事故(10%)
減算要素 自動車の著しい過失(10%)・重過失(20%)
路上横臥者の住宅街・商店街における事故は、酔客の予想される飲食店街(20%)
それ以外の場所(10%~20%)

次に、歩行者と直進・右左折の自動車との横断歩道上の事故における「歩行者の修正要素」は、下記の表の通りです。

歩行者と自動車との横断歩道上の事故における歩行者の修正要素

信号機のある横断歩道上の事故の場合
加算要素 幹線道路(5%)、夜間(5%)、直前直後横断・佇立・後退(5%~10%)
減算要素 住宅街・商店街等(5%~10%)、児童・高齢者(5%~10%)、幼児・身体障害者等(5%~20%)、集団横断(5%~10%)、自動車の著しい過失(5%~10%)・重過失(10%~20%)、歩車道の区別なし(5%~10%)
信号機のない横断歩道上の事故の場合
加算要素 幹線道路(5%)、夜間(5%)、直前直後横断・佇立・後退(5%~15%)
減算要素 住宅街・商店街(5%)、児童・高齢者(5%)、幼児・身体障害者等(10%)、集団横断(5%)、自動車の著しい過失(5%)・重過失(10%)、歩車道の区別なし(5%)

過失割合まとめ

  • 歩道や横断歩道など、歩行者が優先されるエリアに自動車が進入して事故を起こした場合、自動車の過失割合がほぼ100%になる。
  • 横断歩道のない道など、「車道」とされるエリアに歩行者が進入して事故が起こった場合は、歩行者にも過失割合が発生する。
  • 歩行者が信号無視や路上で寝るなど、明らかな過失がある場合、過失割合は五分五分以上になることもある。

過失割合はあくまで基準! 納得いかないなら弁護士に相談しましょう

書籍やネットで得られる過失割合は、過去の裁判例に基づくものです。したがって事故の当事者となってしまった場合、それとよく似た裁判例の過失割合を当てはめてみるわけですが、実際の事故と場所や状況が完全に一致しているわけではありません。

上記に挙げた信号のケースにしても、もっと細かく見れば事故の直前に「青信号」から「黄信号」に変わった場合などもあるわけです。また事故の発生状況も昼間と夜間では変わってくることもあります。自分が交通事故に巻き込まれてしまったとき、保険会社の示す過失割合に納得がいかないときには、弁護士などの専門家に相談した方が良いでしょう。

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