自動車対自動車【2】~追突など、同方向に進む自動車同士の事故における過失割合~

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佐藤 學(元裁判官、元公証人、元法科大学院教授)

追突事故

同方向に進む自動車同士の交通事故

追突した方の当事者の「過失割合」が圧倒的に大きい

「平成30年中の交通事故の発生状況」(警察庁交通局)によると、事故類型別の状況と特徴において、車両相互の事故は全体の86.1%を占めています。

またその内訳は、追突が34.7%と最も多く、出会い頭衝突が24.8%と続きます。

同方向に進む自動車同士の事故

当事者同士が同じ方向に進んでいたときに起きる事故は、上記の追突と、追越・追抜時衝突になりますが、後者はわずか1.7%ですので、ほとんどが追突事故と言って良いでしょう。また、その件数も年間15万件近くに達しており、無関心ではいられない状況です。

なぜならば、自分がいくら交通法規を守って安全運転を心がけていても、後ろから追突されたら避けようがないからです。

交差点内で右折のために停車していたら、いきなり後ろから自動車が突っ込んできたとか、高速道路やバイパスなどで渋滞が発生し最後尾についていたら、渋滞に気づくのが遅れた自動車に追突されたといった事故のパターンはよく聞く話でしょう。

このような場合、追突された方には責任はなく、すべて追突した方が悪い、「過失割合」は100:0だと言いたくなるところですが、このケースではいくつかの修正要素があり、必ずしも一方的に追突した方の責任が100とはいかない場合もあります。

同方向に進む自動車同士の事故における「過失割合」について見てみましょう。

駐停車中の自動車への追突事故における「過失割合」は?

追突事故の典型的なパターンは、道路上で駐停車していたところに、後方から走行してきた自動車が衝突するものがあります。

駐車とは、車が継続的に停止することや運転者が車から離れていてすぐに運転できない状態で停止することをいいます。人の乗り降りや、5分以内の荷物の積卸しのための停止の場合は駐車になりません。
また、停車とは、駐車に当たらない短時間の車の停止をいいます。

このように止まっていた車に後方から走行してきた自動車が衝突した場合は、駐停車していた自動車が法令違反を犯しておらず、でき得る危険回避措置を取っていた場合、「過失割合」は、基本的に(追突した方)100:0(追突された方)ということになります。

駐停車中の自動車への追突で、「過失割合」100:0にならないケースは?

それでは、駐停車中の自動車への追突事故で、「過失割合」が100:0とならないケースを見てみましょう。

例えば、駐停車中の自動車が、駐停車にかかる道路交通法違反を犯していた場合、追突された側に10~20%の範囲で加算修正され、過失割合が90:10又は80:20になることがあります。

道路交通法44条・45条に定められている駐停車禁止場所に停車していた場合

停車及び駐車を禁止する場所

44条 車両は、道路標識等により停車及び駐車が禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、法令の規定若しくは警察官の命令により、又は危険を防止するため一時停止する場合のほか、停車し、又は駐車してはならない。

一 交差点、横断歩道、自転車横断帯、踏切、軌道敷内、坂の頂上付近、勾配の急な坂又はトンネル
二 交差点の側端又は道路の曲がり角から五メートル以内の部分
三 横断歩道又は自転車横断帯の前後の側端からそれぞれ前後に五メートル以内の部分
四 安全地帯が設けられている道路の当該安全地帯の左側の部分及び当該部分の前後の側端からそれぞれ前後に十メートル以内の部分

(条文は抜粋)

駐車を禁止する場所

45条 車両は、道路標識等により駐車が禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、駐車してはならない。ただし、公安委員会の定めるところにより警察署長の許可を受けたときは、この限りでない。

(条文は抜粋)

道路交通法47条に定められている駐停車方法を守っていなかった場合

駐車又は駐車の方法

47条 車両は、人の乗降又は貨物の積卸しのため停車するときは、できる限り道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。

2 車両は、駐車するときは、道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。

3 車両は、車道の左側端に接して路側帯(当該路側帯における停車及び駐車を禁止することを表示する道路標示によって区画されたもの及び政令で定めるものを除く。)が設けられている場所において、停車し、又は駐車するときは、前二項の規定にかかわらず、政令で定めるところにより、当該路側帯に入り、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。

道路交通法52条に定められている灯火義務を怠っていた場合

車両等の灯火

52条 車両等は、夜間(日没時から日出時までの時間をいう。)、道路にあるときは、政令で定めるところにより、前照灯、車幅灯、尾灯その他の灯火をつけなければならない。政令で定める場合においては、夜間以外の時間にあっても、同様とする。

(条文は抜粋)

以上のように、道路交通法の規制を守っていない状態で駐停車していた場合(同法44条、45条)には追突された側にも10%加算され、駐停車方法が不適切な場合(同法47条)、又は非常点滅表示灯(ハザードランプ)の灯火や三角反射板の設置等の措置をとっていれば避けられたと考えられる場合(同法52条)には、追突された側にも10~20%の範囲で加算され、90:10、あるいは80:20といった「過失割合」になるケースがあります。

走行中の追突事故における「過失割合」は?

それでは、走行中の追突事故の「過失割合」はどうなるのでしょうか?
走行中であっても、基本的な「過失割合」は、(追突した方)100:0(追突された方)となります。

しかし、前方を走る自動車が理由のない急ブレーキをかけた場合には、駐停車時の事故よりも追突された方の責任がより重く問われる場合があります。

道路交通法24条に定められている急ブレーキ禁止違反を犯した場合

急ブレーキの禁止

24条 車両等の運転者は、危険を防止するためやむを得ない場合を除き、その車両等を急に停止させ、又はその速度を急激に減ずることとなるような急ブレーキをかけてはならない。

上記のように、理由のない急ブレーキは道路交通法で禁じられています。

前を走っている自動車が理由もなく急ブレーキをかけた結果、追突事故が起こってしまった場合は、追突された方にも30%の「過失割合」があるケースもあります。急ブレーキの理由が正当か、あるいは双方のドライバーに速度違反や居眠り運転などの過失があったかどうかによって、この過失割合は増減します。

しかし、走行中の追突事故の場合、前方を注視し、あるいは十分な車間距離を保っていれば回避可能だと考えられるため、急ブレーキをかけても追突した側の過失の方が大きいとみなされるケースが多いのです。

追い越しによって発生した事故の「過失割合」は?

同一方向に走っている自動車同士の事故で、追突以外でよく発生するのは追い越しに絡んだ事故です。

追い越しは、追い越す方だけではなく追い越される方も含め、双方のドライバーに速度や自動車の動きに注意を払うことが必要で、ちょっとした油断やルール違反が大きな事故につながってしまいます。

追い越しでの事故は、追い越す側の過失割合が大きい

追い越しが原因で起きた事故に関しては、基本的に追い越しをかけた方の過失割合が大きくなっています。

事故を起こした道路が追い越し禁止場所であった場合(道路交通法30条)、追い越しそのものが違反行為ですから、追い越しをかけた方の「過失割合」は、基本的に、100%(いわゆる「赤い本」)あるいは90%(別冊判例タイムズ38号)になります。

裁判例では(追い越した方)90:10(追い越された方)、(追い越した方)80:20(追い越された方)になる?

しかし、裁判による解決例を中心として基準化を試みた「別冊判例タイムズ38号」では、追い越し禁止場所における事故では、「過失割合」が(追い越した方)90:10(追い越された方)、追い越し禁止場所でない場所における事故では、「過失割合」が(追い越した方)80:20(追い越された方)になっています。

上記は、基本の過失割合となりますが、追い越される方の自動車には避譲義務というものがあり、追い越させないと事故が起こる可能性があるときに、追い越させなかった場合は避譲義務違反とされるため、追い越される方について10%の加算修正します。

追い越されるときにわざとスピードを上げて追い越させなかったケースも含まれるのですが、走行中の自動車同士の挙動を完全に証明することは難しいため、「過失割合」の決定や示談交渉においても、揉める場合が非常に多いとされています。

車線変更(進路変更)が原因で起こる事故の「過失割合」は?

片側二車線以上の道路において、進路変更が原因で起きた事故の「過失割合」は、基本的に、(進路変更車)70:30(後続直進車)となります。

進路変更車が、ウインカーも出さずにいきなり進路変更を行ったのであれば、進路変更車の「過失割合」は20%加算修正され、後続直進車が初心者・シルバーマークの自動車であれば、後続直進車の「過失割合」は10%減算修正されるケースが多いようです。

また、後続直進車も、15㎞以上の速度違反をしていたり、ゼブラゾーンを走行したりしていた場合には、10~20%の加算修正をするのが一般的です。

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