飛び出しによる交通事故、過失割合はどう決まる?
飛び出しによる交通事故の過失割合は、飛び出した相手の年齢や場所、信号機の有無などにも影響を受けます。基本的には、自動車のドライバー側の過失が大きな割合を占めるのがほとんどですが、明らかに歩行者が道路交通法を守っていない飛び出し事故では歩行者の過失がある程度認められるケースもあります。しかし、交通弱者である歩行者や自転車と自動車のドライバーが過失割合を争っていくことは、骨の折れる作業になります。
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飛び出し事故の過失割合に影響する要素
自動車・バイクなどで起こる交通事故の中には、歩行者の急な飛び出しが原因で事故になるケースも決して少なくありません。
基本的に歩行者が飛び出してくる可能性のある場所においては、ドライバーは周辺の状況に注意を払い、すぐに減速や停止の措置を講ずべき重い注意義務が課されていると考えられています。そのため、予期せぬ歩行者による飛び出しが原因の事故であっても、ドライバーの責任が問われることがほとんどです。
ただし、飛び出し事故が原因の事故の場合、100%必ずドライバーの責任になるわけではありません。過失割合は事故発生時の状況や態様、さまざまな要素をふまえて決定されます。
中でも、以下の5つの要件は、飛び出し事故の過失割合に大きく影響します。
- 児童等・高齢者・身体障害者の飛び出し事故
- 横断歩道上での飛び出し事故
- 信号機の有無
- 自動車の進行方向
- 自転車の飛び出し事故の過失割合
児童等・高齢者・身体障害者の飛び出し事故での過失割合
児童等とは、おおむね13歳未満の者をいい、幼児(おおむね6歳未満の者)を含む趣旨です。
特に、飛び出した相手が児童等や高齢者、身体障害者の場合は、通常よりも自動車に課される注意義務の度合いが重くなってしまう傾向があります。
なぜならば、児童等や高齢者、身体障害者は自ら事故を避ける判断能力や行動能力が低く、保護する要請が高いと考えられているためです。
事理弁識能力を欠く幼児の飛び出し事故は親の過失が問われる
不法行為による損害賠償制度は、発生した損害について加害者と被害者との間において公平に負担するものですから、被害者に過失があった場合には、その損害額の算定に当たり、被害者の過失を考慮することができます(民法722条2項)。
そして、判例は、「民法722条2項に定める被害者の過失とは単に被害者本人の過失のみでなく、ひろく被害者側の過失を包含する趣旨と解すべきではあるが、本件のように被害者本人が幼児である場合において、右にいう被害者側の過失とは、例えば被害者に対する監督者である父母ないしはその被用者である家事使用人などのように、被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいうものと解するを相当」としています(最判昭42.6.27民集21・6・1507)。
事理弁識能力を欠く幼児が、親が目を離した隙に突然飛び出して、通行していた自動車に衝突して傷害を負った場合、監督義務者である親の過失をもって過失相殺されることになります。
5~6歳児以上は事理弁識能力がある
現在の実務は、事理弁識能力の具備については、小学校入学(5~6歳)を一応の基準としています。
歩行者は、自動車の直前・直後で道路を横断してはならないから(道路交通法13条1項)、歩行者がこれに違反した場合、歩行者の過失割合を加算修正することはやむを得ないと考えられています。
そのため、5~6歳児以上が飛び出し事故の相手の場合、状況によっては、歩行者の過失割合が5〜15%程度加算されることがあるのです。
横断歩道上での飛び出し事故の過失割合
基本的には、横断歩道上では歩行者と自動車の過失割合は0:100です。しかし、横断歩道上で発生した歩行者と自動車との事故において、必ずしも自動車にすべての責任があるわけではありません。
なぜならば、事故の発生状況は個々のケースによって異なるため一概に歩行者には責任がないとは言えないためです。場合によっては被害者の過失を考慮して賠償額が減額される過失相殺となることもあります。
具体的に見てみますと、歩行者の方は、横断開始に当たり、わずかに左右の安全を確認すれば、走行してくる自動車に気付き、事故の発生を容易に避けることができます。
一方、自動車からは、歩行者の発見が必ずしも容易でなく、発見した時点では衝突を回避できないケースも存在します。
- 自動車の直前での横断
- 渋滞車列の間や駐停車車両の陰からの横断
- 夜間暗い場所における横断
- 通常、自動車が高速で走行しているような幹線道路又は交通頻繁な道路の横断
などの場合には、歩行者としても左右の安全確認義務違反に基づく若干の過失相殺がされることはやむを得ないからです。
信号機の有無が飛び出し事故の過失割合に与える影響
飛び出し事故において、信号機の有無も過失割合に影響します。
例えば、歩行者の信号が青で、自動車の信号が赤だった場合の過失割合は歩行者0:自動車100となります。
歩行者の信号が赤で、自動車の信号が青だった場合の過失割合は歩行者70:自動車30です。
この場合、事故は、基本的に信号無視をした歩行者の過失によるものだからです。
自動車の進行方向が飛び出し事故の過失割合に与える影響
自動車が直進、右左折したかなど進行方向についても過失割合に影響します。
自動車が信号機の表示する信号に従って進行した場合であっても、道路を直進するときと交差点を右左折するときとでは、歩行者が従うべき信号との関係等によって歩行者保護の要請の程度が異なるから、これを分けて考察するのが妥当とされます。
自転車の飛び出し事故の過失割合
自転車は、自動車やバイクに比べて事故に遭った際に大きな被害を受けやすい交通弱者です。しかし、自転車は、道路交通法では軽車両に該当し(同法2条1項11号)、車両(同項8号)として扱われているため、その過失割合はバイクより有利に修正されるとはいえ、歩行者と同視する程度までには修正されないとされています。
したがって、自転車の急な飛び出しが事故の原因となった場合は、自転車の過失割合は歩行者の場合より加算修正されると言えます。
ヘッドホン着用でも…自転車側に違反があると過失割合が大きくなる可能性
自転車の飛び出し事故では、自転車側が一時不停止や右側通行などの道路交通法に違反していることがあります。また、近年は、自転車を通勤・通学に使用する若者が携帯電話での通話や音楽をヘッドフォンで聴きながら飛び出してくるケースも多い状況です。自転車側が道路交通法に違反している場合は、過失割合が大きくなることもあります。
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歩行者が悪い飛び出し事故でも自動車の責任になる?
歩行者が悪くても自動車の過失割合が大きくなりやすい
自動車のドライバーが細心の注意を払っていた場合、予期できなかった飛び出し事故であっても、責任をとらなければならないのでしょうか。
残念ながら、自動車と歩行者の事故においては、自動車の過失割合がかなり大きくなる傾向にあります。
なぜならば、歩行者は、自動車に比べて、交通事故の被害を受けやすい弱い立場であると考えられているためです。
そして、交通弱者に対して自動車のドライバーなどの強者は、より重い注意義務が課されています。
そのため、歩行者が横断歩道上で自動車と衝突した場合、自動車対歩行者の過失割合は基本的に100:0となります。:
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事故の状況によっては歩行者の過失になるケースもある
交通弱者である歩行者は、飛び出し事故においても過失があるとされることは少ないですが、事故の状況は個々で異なります。
例えば、歩行者が交通ルールを守っていなかったと認められた場合は、一定の割合で過失があることになります。歩行者の交通ルール違反など、過失割合について考慮すべき特別な事情があると、過失割合が修正されることもあります。
例えば、幹線道路での事故や歩行者がふらつきながら通行していたなどの場合は、過失割合が加算される修正要素となります。もちろん、歩行者の急な飛び出しも加算要素とみなされ、状況によっては、過失割合が5~15%程度加算されるケースもあります。
歩行者と自動車の交通事故における基本の過失割合
信号機のある横断歩道上の場合
次に各類型における過失割合について表で説明します。
信号機のある横断歩道上の事故・自動車は直進
歩行者の過失割合 | 自動車の過失割合 | |
---|---|---|
歩行者が赤、自動車が赤 | 20% | 80% |
歩行者が赤、自動車が黄 | 50% | 50% |
歩行者が赤、自動車が青 | 70% | 30% |
歩行者が赤で横断開始して途中で青になる。自動車は赤 | 10% | 90% |
歩行者が黄で横断開始して途中で赤になる。自動車は青 | 30% | 70% |
信号機がある横断歩道上では、歩行者と自動車側の表示する信号によって、基本の過失割合が定められています。
歩行者が青信号で横断開始し、自動車が赤信号で進入した場合は、歩行者の過失割合は0%。
歩行者が黄信号で横断開始し、自動車が赤信号で進入した場合は、歩行者の過失割合は10%になります。
そして、歩行者の横断中の信号に変更がなければ、上記のように、歩行者が赤信号で横断開始した場合には、自動車が赤信号、黄信号、青信号で進入した順に、歩行者の過失割合が大きくなります。
また、歩行者の横断中の信号に変更があれば、上記のように、歩行者側の信号が、赤→青、黄→赤に変更した場合には、自動車が赤信号、青信号で進入した順に、歩行者の過失割合が大きくなります。
ただし、歩行者側の信号が青→赤で、自動車が赤信号で進入した場合は、歩行者の過失割合は0%です。
信号機のある横断歩道上の事故・自動車は右左折
歩行者の過失割合 | 自動車の過失割合 | |
---|---|---|
歩行者が赤、自動車が青 | 50% | 50% |
歩行者が赤、自動車が黄 | 30% | 70% |
歩行者が赤、自動車が赤 | 20% | 80% |
歩行者が赤で横断開始して途中で青になる。自動車は赤 | 10% | 90% |
信号機がある横断歩道上では、歩行者が優先され、自動車側には、横断歩道に接近する場合、横断歩行者の保護のための通行方法を講ずべき注意義務が課されています(道路交通法38条1項)。歩行者が青信号で横断開始し、自動車が青信号で進入右左折した場合は、歩行者の過失割合は0%、歩行者が黄信号で横断開始し、自動車が青信号で進入右左折した場合は、歩行者の過失割合は30%、歩行者が黄信号で横断開始し、自動車が黄信号で進入右左折した場合は、歩行者の過失割合は20%になります。
そして、歩行者の横断中の信号に変更がなければ、上記のように、歩行者が赤信号で横断開始した場合には、自動車が赤信号、黄信号、青信号で進入右左折した順に、歩行者の過失割合が大きくなります。また、歩行者の横断中の信号に変更があれば、歩行者側の信号が赤→青で、自動車が赤信号で進入右左折した場合の過失割合は上記の通りですが、歩行者側の信号が青→赤で、自動車が赤信号で進入右左折した場合は、歩行者の過失割合は0%です。
信号機のない横断歩道上の場合
横断歩道により道路を横断している歩行者は、横断歩道を通過しようとする自動車との関係では絶対的に近い保護を受けるから(道路交通法38条1項参照)、直進車であろうと右左折車であろうと、基本の過失割合に差異を設けるべきではないとされます。
したがって、基本の過失割合は、歩行者0%、自動車100%となります。
しかし、歩行者が自動車の進路に急に飛び出した場合には、歩行者の過失割合を加算修正してよいと考えられています。
信号機、横断歩道もない交差点の場合
歩行者の過失割合 | 自動車の過失割合 | |
---|---|---|
歩行者が幹線道路又は広路を横断(自動車が直進) | 20% | 80% |
歩行者が狭路を横断(自動車が直進・右左折) | 10% | 90% |
歩行者が広狭の優先関係のない道路を横断(自動車が直進・右左折) | 15% | 85% |
信号機、横断歩道もない交差点の場合、基本的には、道路交通法に規定されている自動車運転者の注意義務により(同法36条4項、38条の2参照)、交通強者である自動車の責任が大きいとされます。歩行者が、幹線道路又は広狭差のある道路における広路を横断する場合、直進車との事故では、上記の通り、歩行者の過失割合は20%になります。この場合、右左折車との事故では、歩行者の過失割合は10%になります。
そして、歩行者が、広狭差のある道路における狭路を横断する場合、直進・右左折車との事故では、上記の通り、歩行者の過失割合は10%になります。
また、歩行者が、広狭の優先関係のない道路を横断する場合、直進・右左折車との事故では、上記の通り、歩行者の過失割合は15%になります。
なお、歩行者が広狭の優先関係のない道路を横断する場合は、歩行者が幹線道路又は広路を横断(自動車が直進)する場合と歩行者が狭路を横断(自動車が直進・右左折)する場合の中間値を採用する形となります。
対向又は同一方向に進行する歩行者と自動車の事故
歩道のある道路の場合
対向又は同一方向進行歩行者 | 歩行者の過失割合 | 自動車の過失割合 |
---|---|---|
歩道上での事故 | 0% | 100% |
歩行者用道路での事故 | 0% | 100% |
車道上での事故(歩行者が車道通行を許される場合) | 10% | 90% |
歩行者が車道側端を通行していた場合の事故(歩行者が車道通行を許されない場合) | 20% | 80% |
歩行者が車道側端以外を通行していた場合の事故(歩行者が車道通行を許されない場合) | 30% | 70% |
当然ですが、歩行者が優先される歩道上・歩行者用道路での事故の場合、基本の過失割合は自動車100%とされます。
「歩行者が車道通行を許される場合」とは、歩道が工事中とか、堆積土などで事実上通行できない場合です。
歩道を通行できるのに、車道を歩いた歩行者が事故に遭った場合は、通行し歩いた位置が車道の側端か、それ以外かで、歩行者の過失割合が違ってきます。
なお、歩行者用道路の通行が許される自動車との関係では、歩行者の急な飛び出しがあった場合に限り、歩行者に5~10%加算修正されます。
歩・車道の区別のない道路の場合
対向又は同一方向進行歩行者 | 歩行者の過失割合 | 自動車の過失割合 |
---|---|---|
歩行者が右側端を通行していた場合の事故 | 0% | 100% |
歩行者が道路の中央部分を通行していた場合の事故(幅員8m以上の道路) | 20% | 80% |
上記(道路の中央部分の通行)以外の場合の事故 | 10% | 90% |
歩車道の区別のない道路とは、歩道等(歩道又は歩行者の通行に十分な幅員〔おおむね1m以上〕を有する路側帯)が設けられていない道路をいいます。
歩行者は、歩車道の区別のない道路においては、道路の右側端に寄って通行しなければならないが、一定の場合には道路の左側端に寄って通行することができます(道路交通法10条1項)。したがって、歩行者が右側端を通行していたか(上記の場合)、左側端を通行していたか(歩行者の過失割合は5%)、又はそれら以外の場所を通行していたか(上記の場合)によって、基本の過失割合を異にするものと考えられています。
歩車道の区別のない道路の場合、自動車は、歩行者の側方を通過するときは、これとの間に安全な間隔を保ち、又は徐行するなどの注意をすべきですから(道路交通法18条2項)、事故の発生は、原則として自動車の過失に基づくものと考えられ、修正要素もあまり考慮すべきでないとされています。
飛び出し事故の過失割合に納得がいかない場合は弁護士に相談を
歩行者が突然飛び出してきて交通事故になってしまった場合、運転に細心の注意を払っていたドライバーの方は過失割合について納得がいかないこともあるでしょう。
過失割合に納得がいかず相手と交渉をしていく場合、事故の適正な過失割合を知ることが大切になります。なぜならば、交通事故には類型ごとの基本の過失割合が定められており、交渉の際にも過失割合の基準を参考にするためです。
飛び出し事故の過失割合について弁護士に相談するメリット
飛び出し事故の過失割合について弁護士に相談するメリットとしては、適正な過失割合で解決を目指せることが挙げられます。当事者が直接、示談交渉をしようと試みても応じなかった相手も、弁護士が対応すると交渉に応じてくれる可能性が高くなります。また、弁護士に依頼することで適正な慰謝料やその他の賠償金額を算定することができます。飛び出し事故の慰謝料相場はどのくらいが適正なのか判断がつかない方も多いと思いますが、弁護士に依頼することで、法的な基準に合わせて交渉してもらうことができます。そして何より、過失割合の交渉を弁護士に依頼すれば、精神的な負担が軽減します。飛び出し事故の過失割合に納得がいかない場合には、気軽に弁護士に相談してみましょう。
交通事故に強い【おすすめ】の弁護士に相談
交通事故一人で悩まずご相談を
- 保険会社の慰謝料提示額に納得がいかない
- 交通事故を起こした相手や保険会社とのやりとりに疲れた
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