相続法改正~2019年、変わる相続。改正点の概要と施行時期を解説
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2019年から順次改正相続法が施行されていきます。遺言書の作成方法や保管方法、配偶者の居住権、不動産や預貯金の取扱い、遺留分の範囲などいろいろなポイントが変わります。これから遺言書を書いたり相続を迎えたりする方は、法改正内容を理解してスムーズかつ的確に相続手続きを進めていきましょう。
目次[非表示]
相続法改正が行われた理由
今回、民法が大きく改正されて相続に関する法規定が改められましたが、これは約40年ぶりの大改正です。なぜこのタイミングで相続法が改正されたのでしょうか?
40年前から変化した現在の常識・社会情勢に合わせた相続法改正
40年前と言えばまだ昭和の時代で、現代とはかなり様相が異なります。当時はまだパソコンもスマホもなくネットを使っている人もいませんでした。また女性の社会進出も進んでおらず、男女差別や格差も今より強い状況でした。
また現在の相続法には国民の常識とはかけ離れている部分があります。たとえば多くの方は、被相続人が亡くなったときに預貯金を払い戻して葬儀費用などに充てたいと思いますが、現状では被相続人の死亡とともに預貯金が凍結されて葬儀費用の支払いには使えません。
このように、現状の法律や制度は世間の常識や社会情勢に合っていないので、状況に合わせる形で今回の相続法改正が行われました。
相続法が改正されたポイント
相続法が改正されたポイントを一覧で示します。
- 自筆証書遺言の作成方法
- 自筆証書遺言の管理方法
- 配偶者居住権の新設
- 配偶者への居住用不動産贈与を特別受益の対象外に
- 遺留分請求で生前贈与の期間が限定される
- 遺留分減殺請求の方法
- 預貯金の早期払い戻し
- 特別の寄与の制度創設
- 不動産を相続した場合の対抗要件について
「施行時期」は改正内容によって異なる
上記の改正ポイントの「施行時期」は、それぞれの改正内容によって異なります。
施行時期とは、改正内容が有効になる時期です。施行時期以降に起こった相続について改正法が適用され、それ以前に起こった相続については基本的に現行民法が適用されます。
改正相続法を理解する際には、それぞれの改正内容の「施行時期」についても合わせて把握しておく必要があります。
以下でそれぞれの改正点の概要と施行時期をみていきましょう。
自筆証書遺言の作成方法
改正内容
自筆証書遺言とは、遺言者が全文を自筆で書く遺言書です。
基本的に全文を自筆で書かないといけないので、一部でもパソコンを使ったり代筆してもらったりすると無効になります。
これまでの制度では「遺産目録」の部分もすべて自筆で書く必要がありました。
遺産目録とは、遺産の内容を表にしたもので、不動産や預貯金、車や株式などの財産や負債を項目と評価額を記載して作成します。
多くの遺産がある事案では、遺産目録を手書きで作成すると大変な手間がかかります。パソコンでエクセルなどのソフトを使って作成した方が明らかに便利ですし不都合もありません。
しかし裁判例では遺産目録をパソコンで作成した自筆証書遺言を無効と判断するものがあり、問題になっていました。
そこで改正後は、自筆証書遺言の遺産目録はパソコンを使って作成しても良いことになりました。
施行時期
この改正ポイントの施行時期は2019年1月13日からなので、既に有効です。
今から自筆証書遺言を書かれる方は、遺産目録をパソコンで作成することが認められます。
ただしその場合でも他の部分は従来通り自筆で作成する必要があります。
自筆証書遺言の管理方法と検認を不要とする改正
自筆証書遺言関連の改正内容として管理方法に関するものもあります。
管理方法についての改正内容
遺言書を作成すると、死亡するまでどのように管理するかが問題です。
従来は自筆証書遺言の場合、遺言者が自分の責任で保管するしかありませんでした。
すると死亡するまでに紛失してしまったり、推定相続人に破棄されたり隠されたり変造されたりすることもあり、死後に「遺言は無効」と主張される要因になっていました。
そのリスクを避けるためには、公証役場できちんと管理してもらえる公正証書遺言を選択する必要がありました。
このような状況をみて、自筆証書遺言についても公的な機関で預かる制度が創設され、制度の施行後は法務局で自筆証書遺言を預かってもらえるようになります。
検認も不要になる
従来、遺言者の死後に自筆証書遺言が発見された場合には、家庭裁判所で「検認」を受ける必要がありました。
検認とは、遺言書の内容や状態を裁判所で確認するための手続きです。
検認を受けないで自筆証書遺言を開封した場合には過料の制裁も与えられます。
ただ新制度を利用して法務局に遺言書を預けると、法務局が適切に管理してくれるので偽造や変造のリスクはありません。
そこで自筆証書遺言であってもわざわざ家庭裁判所で検認を受ける必要がなくなり、相続人にかかる負担が軽減されます。
施行時期
自筆証書遺言の法務局での保管制度とそれにともなう検認についての改正内容が有効になるのは、2020年7月1日です。
配偶者居住権の新設
改正法によって「配偶者居住権」が新設されます。
配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が相続開始後も自宅に居住し続ける権利です。
「配偶者短期居住権」と「(一般の)配偶者居住権」の2種類があるので、それぞれご説明します。
配偶者短期居住権
配偶者短期居住権とは、被相続人が亡くなった後も配偶者が一定期間、自宅に住み続ける権利です。
従来配偶者が被相続人名義の家に住んでいた場合、相続開始と共に自宅が相続財産になるので、他の相続人が配偶者を退去させられるのではないかという問題がありました。
しかしそのようなことになると配偶者の生活が害されて不合理なので、判例では「遺産分割が済むまでは配偶者は家に住み続けることができる」という理解をされていました。
今回の法改正ではそうした配偶者の権利を明文化し、はっきりと居住権を認めました。
具体的には、以下のうち遅い方の時期まで配偶者は無償でこれまで通りの自宅に住み続けることができます。
- 相続開始後6か月間
- 遺産分割協議が済んだとき
遺産分割をしない場合には相続開始後6か月間となります。
なお配偶者居住権を行使して自宅に居住したとしても相続税課税の対象にはなりません。
(一般の)配偶者居住権
単に「配偶者居住権」という場合、一般の(長期の)配偶者居住権を意味します。
配偶者居住権は、配偶者が不動産の所有権を取得しなくても、家に住み続けられる権利です。
配偶者居住権を設定する場合、家の所有者は別の相続人となり、所有者と居住者を分けるので「賃貸借契約」と似た状況になります。
配偶者居住権を認める目的は、配偶者の老後の生活を保障するためです。
従来、被相続人の死亡後も配偶者が家に住み続けるためには、配偶者が自ら家を相続して所有者になる必要がありました。
すると家の評価額分の遺産を配偶者が相続するので、配偶者は他の遺産を相続しにくくなってしまいます。
たとえば遺産に家と預貯金がある場合に配偶者が家を取得すると、残りの預貯金はすべて子どもに与えないといけないケースなどもありました。
しかしそれでは配偶者の老後の生活に十分ではなく、困窮する可能性があります。
配偶者居住権は所有権とは異なり家に対する限定的な権利なので、評価額が大きく下がります。
そこで配偶者居住権を相続しても、配偶者の法定相続分にあまりが出て預貯金などの他の財産も相続できる可能性が高くなります。
こうして家と預貯金の両方を相続できれば配偶者は老後も安心して暮らせます。
配偶者居住権の例
たとえば遺産全体の評価額が8000万円、家が5000万円、預貯金が3000万円のケースで、配偶者と2人の子どもが相続人になっているとします。
従来の相続
この場合、法定相続分は配偶者が2分の1(4000万円分)、子どもたちがそれぞれ4分の1ずつ(2000万円分)です。
従来のように配偶者が家を相続すると配偶者は5000万円相続してしまいますから4000万円を超過してしまい、子供達に500万円ずつの代償金支払いが必要です。もちろん預貯金はもらえません。
相続法改正後
一方配偶者居住権が2500万円だとすると、配偶者居住権を取得した場合には配偶者はあと1500万円の預貯金を受け取れます。
このように、家の所有権を取得するのか配偶者居住権を取得するのかで遺産分割の結果が大きく変わり、ケースによっては配偶者居住権の方が配偶者にとって圧倒的に有利になります。
施行時期
配偶者居住権については、2019年7月1日から施行されます。
配偶者への居住用不動産贈与を特別受益の対象外に
改正内容
もう1つ、配偶者関連の改正内容があります。
改正法では婚姻期間が20年以上の夫婦の場合に居住用不動産を生前贈与した場合、「特別受益」の対象外となります。
従来、被相続人が法定相続人に対して生前贈与を行った場合「特別受益」と評価されました。
特別受益とは、相続人が被相続人から受けた特別な利益であり「生前贈与」が典型例です。
特別受益が認められると「遺産の先渡し」があったのと同じなので、受益を受けた相続人の相続分が減額されます。
その遺産相続分の計算方法を「特別受益の持ち戻し計算」と言います。
つまり今までの法制度では、配偶者が将来も家に住み続けるために自宅を贈与してもらったとき、遺産分割協議において配偶者の相続分が減らされていたのです。
しかしそれでは配偶者の生活が守られないので、今回は「婚姻期間が20年以上の夫婦」の場合、配偶者の自宅贈与を特別受益から外すことにしました。
なお20年未満の場合、特別受益の持ち戻し計算が行われます。防止するには遺言書で「持ち戻し計算の免除」が必要となります。
施行時期
夫婦間の居住用不動産生前贈与を特別受益としない規程は、2019年7月1日から施行され有効となります。
遺留分請求で生前贈与の期間が限定される
改正内容
もう1つ、生前贈与関連の改正があります。
それは遺留分請求の対象となる生前贈与の「期間」についての改正です。
従来、相続人が生前贈与を受けた場合には、どんなに古い贈与であっても遺留分減殺請求の対象となっていました。
たとえば70歳代の相続人が50年以上前に「兄は大学を出してもらった」などと言って学費を生前贈与として主張するケースなどもみられます。
ところが40年も50年も前となると現代とは貨幣価値も異なりますし証拠もはっきりしないケースが多くなります。相続人の記憶も曖昧となっているのに無駄な争いだけが繰り広げられます。
このような状況に鑑みて、改正法では法定相続人が生前贈与を受ける場合であっても遺留分減殺請求の対象期間を「相続開始前10年」に限定しました。
そこで改正法施行後は、たとえ多額の財産贈与を受けても10年が経過していたら遺留分減殺請求されません。
施行時期
生前贈与の期間限定に関する改正内容が施行されるのは2019年7月1日からです。
遺留分減殺請求の方法
改正内容
相続法改正によって「遺留分減殺請求」の方法が変わります。遺留分減殺請求とは、一定の法定相続人に認められる「遺留分」の返還を求めることです。
遺留分とは
兄弟姉妹以外の法定相続人には、遺言によっても侵害できない「遺留分」という最低限の遺産取得分が認められています。
遺言や生前贈与などによって遺留分を侵害された場合には、侵害者に対して遺産の取り戻しを求めることが可能です。
それが「遺留分減殺請求権」です。
従来は遺留分減殺請求権を行使するとき、「遺産」そのものを取り戻すという考え方だったので、たとえば不動産なら不動産、骨董品などの動産なら動産そのもの、車なら車を取り戻す結果になりました。
実際にはこうした「物」を分割できないので侵害者と請求者の「共有」になってしまっていたのです。
ところが共有など侵害者も請求者も希望せず、普通は「お金で返してほしい」と考えるでしょう。
そこで改正法では、遺留分の価額弁償(金銭にやよる賠償)を認めました。「遺留分減殺請求権」という名も改まり「遺留分侵害額請求権」となります。
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施行時期
遺留分の価額弁償についての改正内容施行時期は2019年7月1日です。
預貯金の早期払い戻し
改正内容
人が亡くなったら、その人の名義の預貯金は凍結されて出金も送金もできなくなります。
遺産分割が済むまでの間は、相続人が葬儀費用や相続税の納税資金を引き出すこともできません。
ところがそれでは被相続人のお金に頼って生活していた相続人が困ったり満足な葬儀を出せなくなったりする可能性もあります。
そのようなとき、従来は裁判所で「仮処分」という手続きを行うことにより、ようやく預貯金の一部を出金することができていました。
改正法では、相続開始後遺産分割が済むまでの間であっても相続人が預貯金の一部(法定相続分に満たない額)を出金できるように変更しています。
全額ではありませんが、出金したお金で葬儀費用を支払ったり当面の生活費に充てたりすることも可能となります。
施行時期
預貯金払い戻しに関する改正法規程の施行時期は、2019年7月1日からです。
その後に相続が起こった場合には、遺産分割が済んでいなくても金融機関で凍結された預貯金を下ろすことができるので、必要に応じて活用してみてください。
特別の寄与の制度創設
改正内容
今回の相続法改正の目玉の1つとなっているのが「特別の寄与」制度です。
これは相続人以外の親族が被相続人を介護などして特別に寄与した場合に「特別寄与料」として相続人に金銭請求できる権利です。
従来、被相続人に介護や看護を行って貢献した相続人には「寄与分」が認められて、遺産を多めに取得できる運用が行われていました。
しかし「長男の嫁」や「孫」「甥姪」などの「相続人ではない親族」には寄与分は認められず、何の見返りも受けられなかったのです。
改正法では一定の親族が被相続人を献身的に介護した場合、法定相続人ではなくとも相続人に金銭請求できるよう変更されました。
それが「特別寄与料」です。特別寄与料の金額は、基本的にはプロの介護人に依頼したときの介護費用を参考にしますが、親族であることなども考慮して一定程度減額した金額となります。
施行時期
特別の寄与の制度が施行されるのは2019年7月1日からです。
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不動産を相続した場合の対抗要件について
改正内容
遺産相続では「不動産」が残されているケースも多々あります。
不動産を相続すると所有者が移転するので基本的に所有名義を書き換えるべきです。
しかし実際には相続をしても名義変更しない方がたくさんいます。
その理由の1つとして「相続した不動産は名義変更をしなくても第三者に権利を主張できる」ことが影響しています。
つまり不動産を相続した場合、被相続人名義のまま放置していても相続人は「自分の不動産です」と主張できるので、無権利者に土地建物をとられるリスクが低かったのです。
ところが名義変更されずに放置された不動産が増えて固定資産税をきちんと払わない方が多くなったり誰が所有者かすらわからなくなったりして、混乱が生じ社会問題にもなっています。
そこで改正法では、相続した不動産であっても法定相続分を超える部分は名義変更をしないと第三者に対抗できないようになります。
たとえば法定相続分が4分の1の相続人が不動産を相続した場合、4分の3の部分については登記しないと他の人に対抗できません。
勝手に売られたり差し押さえられたりすると、その部分を人にとられてしまうかもしれないということです。
不動産を相続した場合には、早期に相続登記を行う必要性が強まります。
施行時期
不動産の相続登記に関する改正法の施行時期は2019年7月1日からです。
改正相続法の変更点・施工時期まとめ
ここまでご紹介した改正相続法の変更点・施工時期を一覧にまとめると以下の通りです。
変更内容 | 概要 | 施工時期 |
---|---|---|
自筆証書遺言の作成方法 | 自筆証書遺言のうち遺産目録のパソコン作成がOKに。 | 2019年1月13日 |
自筆証書遺言の管理方法 | 自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになり、その場合検認も不要になる | 2020年7月1日 |
配偶者居住権の新設 | 相続開始後配偶者が一定期間自宅に住めるようになる(短期配偶者居住権) 評価の低い「配偶者居住権」を相続することにより、他の相続財産を相続できるようになる |
2019年7月1日 |
配偶者への居住用不動産贈与を特別受益の対象外に | 20年以上の婚姻期間の夫婦間で自宅を生前贈与した場合、特別受益の持ち戻し計算が不要になる | 2019年7月1日 |
遺留分請求で生前贈与の期間が限定される | 法定相続人への生前贈与について、遺留分減殺請求対象が相続開始前10年間のものに限定される | 2019年7月1日 |
遺留分減殺請求の方法 | ものではなく金銭賠償が可能になる(遺留分侵害額減殺請求) | 2019年7月1日 |
預貯金の早期払い戻し | 遺産分割協議の成立前に預貯金の一部を引き出せるようになる | 2019年7月1日 |
特別の寄与の制度創設 | 法定相続人以外の一定の親族が被相続人の介護をしたときに特別寄与料を請求できる | 2019年7月1日 |
不動産を相続した場合の対抗要件について | 自分の法定相続分を超える部分については登記なくして第三者に対抗できない | 2019年7月1日 |
改正相続法を理解してスムーズに相続を
相続法が改正されると、配偶者や遺留分、不動産や預貯金などの取扱いが変わるので大きな影響が及びます。改正内容を正しく理解してスムーズに相続手続きを進めましょう。
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